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増えていく殺人鬼、誰が為に何を殺す?

ー/ー



 目を覚ますと、再び九月三十日の七時。また同じ生活が始まった。だが、一度ダメだった以上、学校生活を楽しむほどの余裕も無い。
 一度目は不意打ちを喰らったため、トンカチでは迎撃できなかった。それどころか、犯人もトンカチを持っていた。いや、あのトンカチは恐らく、俺が持ち出した物だろう。サブバッグのチャックを大きく開けていたから、盗られた可能性も十二分にある。武器を持てばいいというものでもない。
 授業中、休み時間、ずっと策を練る。友達との会話など、応答はするものの、上の空で返事した。

「どうしたの? なんか元気ない?」
 昼休み、弁当を食べている途中で恵に話しかけられる。彼女は、心配そうに俺を見つめる。
「大丈夫だって! 元気元気!」
「ふーん……」
 疲れからか、オーバーにリアクションしてしまった。そのせいで、彼女からはかえって訝しまれそうだ。

 放課後まで考えた末、俺は自力での反撃ではなく、帰り道そのものを変える方法を思いついた。夜道を歩いているところで殺されてしまうのなら、恵が自分の家に泊まるように仕向ければいいのでは?

「急に何? なんで勇生の家に?」
 帰り際、恵に伝えたところ首を傾げられた。
「なんでもいいだろ、訳ありなんだ! 頼む!」
 俺が必死に懇願すると、恵は折れたのか、スマホをいじり始めた。
「うちの両親がOK出したらいいけど、ダメだったら諦めて」
 俺は頷くしかなかった。恵はしばらくスマホ越しで話をし、通話を切ってポケットへとしまう。
「七時までには帰るようにって」
「七時!? それじゃあダメだ!」
「なんでよ?」
 疑問を投げかけられて、俺は困った。殺されるからなんて言っても、絶対に信じてもらえない。
「じゃあ真っ直ぐ帰ろう。お互い家は遠いわけだし」
「はあ? 今日は勇生が一緒に帰ろうって言い出したんじゃん」
「いいから! 今日はそうするぞ!」

 その日、お互いに真っ直ぐ家に帰ったはずだった。三時に学校を出たので、日が傾く前に恵は家に着いている計算だ。しかし、結果は変わらなかった。彼女はまた殺された。家の近くの路地で、切り付けられたことによる大量出血。買い物を任された道中だったようだ。

 俺は再び「Regretion」を訪れ、タイムリープした。時間が戻ることで、お金は毎回復活する。家で自分の通帳を盗み出し、口座から引き落とす。代金は問題なく払えた。






 三度目、俺は恵にずっと家にいるよう頼んだ。
「なんでよ? なんか勇生、変だよ?」
「訳ありなんだ! 頼む、この通り!」
 土下座までしたが、今度は恵も聞かなかった。
「他人を束縛しようとする人、嫌い。勇生がそんな人とは思わなかった」
 恵は立ち去ろうとする。俺は彼女にしがみつくも、あっさり振り払われてしまった。その後色々語り掛けたが、彼女は無視して行ってしまった。

 彼女が見えなくなった後、俺は一人で帰った。逆にチャンスだと思った。すぐに家に帰って服を軽くし、再度家を出た。そして、彼女が普段通っているであろう道を全速力で走り、彼女の家までたどり着いた。そして、彼女が出てくるのを待った。

 日が暮れる直前に、彼女は買い物に出た。徒歩五分ほどのスーパーへ入り、野菜などをたくさん買っていた。店を出る頃には、辺りは真っ暗になっていた。恐らく、二度目同様の行動だ。俺は彼女を見逃さないよう、しかし気付かれないよう、こっそり跡をつけた。

 前に香子と出会った地点を通りかかった時、フードを被った人物が現れた。一度目同様、恵は腰を抜かす。しかし、あの時とは決定的に違うことがある。それは、俺が自由に動けること。ナイフを取り出そうとした瞬間、俺はフードに飛び込み、抑え込んだ。思いの外簡単にできてしまった。フードが深すぎて顔は一切見えなかったが、マウントポジションを取り、ひたすら頭を殴った。やがて男は動かなくなった。
「大丈夫か、恵?」
 そう言って声をかけるも、彼女はまだ怯えたままだった。
「勇生……なの?」
「そうだ、俺だ! もうお前を殺そうとする奴はいない!」
 安心と喜びで、声が大きくなる。一方、恵はまだ怯えている。
「じゃあ、その人、誰……?」
 恵が恐る恐る指をさす。なぜだ? 君を襲った犯人はもう気絶した。君を脅かす者はいない。なのになぜ、そんな反応を? 俺は戸惑いつつ、倒れた男のフードを剥がすと、そこには何も無かった。ただの空気。あるべきものは何も無い、空洞。顔が無い人間?
「きゃあぁぁぁっ!?」
 それを見た恵が怯え、走り出す。止めようと思ったが、あっという間に姿が見えなくなってしまった。その場で立ち尽くしていると、不意に肩を叩かれた。振り返ると、そこにいたのは黒いフードを深く被った人物。俺が殴った男は足元で倒れたまま。犯人は、二人いた? それとも、一人目はダミー? 混乱している隙に急接近され、首を絞め上げられた。

 気が付くと、また病院のベッド上だった。恵は、またしても大量出血で死んでいた。現場近くには、犯人のものと思しき黒いフリースとズボンが残っていたものの、詳細は何もわかっていない。犯人は一人じゃない。そう確信した俺は、退院後すぐに「Regretion」へと向かった。





 再び目を覚ます。九月三十日の七時。もうなりふり構っていられなくない。俺は学校を行くフリをして無断欠席、その足でホームセンターに行った。そして、できるだけ刃渡りの長いナイフを買った。刺し違えてでも犯人を殺すと決めた。というか、すぐに殺して動かないと、二人は防げない。そして、できるだけ目立たない服装で恵の跡をつける。こちらから一人目には不意打ちを仕掛け、二人目を迎撃する。それしかない。

 その後は三度目のリープと同じ動きを取り、同じ展開を迎えた。夜道の中、一人目のフードが恵へと歩みを進める。その後ろから素早く近づき、俺はそいつの首元を切った。ナイフの感触が確かにあり、一人目は血を流しながらその場に倒れた。そして、恵が腰を抜かしている間に、二人目を探す。隠れられそうな場所は、ブロック塀の隙間しかない。隙間の手前で止まり、拾った小石を投げ入れる。カツンと音がした直後、二人目がナイフを振りながら飛び出してきた。振り切ったところへ飛びつき、馬乗りになった。そのままフードを剥ぐと、やはり空洞。剥がしたと同時に、二人目の動きが止まった。
「きゃあっ!?」
 しかし、恵の悲鳴は止まない。三人目だ。同じ服装の人物。想定はしていた。俺は全速力で駆け出し、勢いのままそいつをナイフで一突きする。そいつは血を流しながら倒れた。そのフードの中は、やはり空洞。俺は立ち上がり、しばらく辺りを見回す。しかし、何かが現れる気配は無い。

 今度こそ、やった!

 そう喜びを感じたのも束の間、恵はまた悲鳴を挙げる。
「恵、大丈夫だ! もう、お前を殺す奴はいない!」
 俺がそう言っても、彼女は叫び、駆け足で去っていった。なぜだ? なぜ、逃げていくんだ? 訳もわからず、けれどどうしようもない状況に、体中の力が抜けていく。なんとか歩いて家に帰ると、そのまま自室のベッドへ飛び込んだ。家族から何か言われた気もするが、気にせず寝た。ようやく守れたんだという安心感から、すぐに寝付けたと思う。

 翌日、ワクワクしながら学校に行く。周りの人間は特に変わった様子は無かった。ただ、朝礼の時間になった時、俺の希望は木っ端微塵に打ち砕かれた。
 先生から恵が死んだということを聞いた。自宅近くで何者かに首を切られたという。

 また、守れなかった。俺は再び「Regretion」へと向かった。




 俺は、もう一度、さらにもう一度と、タイムリープを繰り返した。犯人と思しき人物を撃退していった。タイムリープをしていく度に、その人物の人数がどんどん増えていく。五人、六人、七人……それ以上はもう数えていないが、全員殺している。頭の無い殺人鬼を、何度も、何度も。しかし、どれだけやっても恵は俺から逃げていき、翌日になると死の知らせが入ってくる。俺はどうすればいいかわからず、でもやめることもできず、ただただナイフでフードを刺し続けた。



 どれくらい経ってからか。俺が「Regretion」へと着いた後、スーツの男から言葉をかけられた。
「お客様、もう人間の顔をしてないですね。何をしにここへ来ました?」
 いつもと違う反応に固まるが、内容を理解した俺は呆れた。
「なにって、犯人を止めるんだ。じゃないと恵が死んでしまう。最初に言ったじゃないか」
 そこまで伝えた時、俺は思い出した。目の前にいる彼らは、最初に会った時の彼らではない。俺と違い、記憶は無いのだ。だから、俺が言ったことなど覚えていなくて当然だ。しかし、彼らはそんなことには反応せず、妙な顔色のまま考え込んでいた。
「次のリープの前に、少し話をさせてくれ。あんたのことを聞きたい」
 急に砕けた口調になった白Tシャツ。彼に誘導されるまま、俺はソファに腰掛けた。

「なるほど。何度やっても犯人が大量に出てきて、その恵ちゃんが殺されちゃうわけね」
 俺がこれまでの経緯を話すと、しばらく眉間にしわを寄せていた彼の顔がほぐれ、ニヤリと笑った。

「あんた、霊魂って信じているか?」
 唐突な質問に、驚き、なんとか答えを考える。
「本気で信じてはない、と思う」
「そうか。だが結論から言うと、存在はする。この三次元世界にではないけどね」
 三次元世界? 突然出てきた変な言葉に、俺は先の展開が少し読めた。
「俺のタイムリープは、厳密には次元、世界の移動だ。時間の流れが少しずつズレている複数の世界、並行世界が、同時に存在し再生されている。タイムリープはその世界の間を、意識だけが移動するのさ」
 俺が必死に考えて理解しようとしているというのに、白Tシャツは気にせず説明を続ける。
「俺のやっていることは二つ。あんたの意識を動かすことと、それぞれの世界の出入り口を開けることだ。すると、開いた出入り口から三次元世界、俺達の認識する物体の世界へと、入ろうとする奴がいるんだ。わかるか?」
 彼はこちらを、ニヤニヤしながら見つめてくる。
「それが、霊魂?」
「その通り!」
 急に彼は指パッチンをし、立ち上がった。
「奴らは物体を持てず、三次元世界から爪弾きにされ、世界の間を漂っている。奴らの一部は、生みの親が三次元世界なのさ。だから戻りたい欲がある。だが、一つ一つの霊魂では力が足りずに入り込めない。だからこそ、複数の霊魂が一つの集合体となって、三次元世界に干渉しようとする。干渉後に力が残っていると、霊魂が肉体、物体へと還元される。一人の人間として実体化するってこともあり得るのさ」
 盛り上がる彼に対し、俺はまだピンと来なかった。
「俺の能力はその世界の出入口を開ける。つまり、タイムリープをしている間、霊魂は三次元世界に入ってきやすい状況なんだ。そして、同じ時間帯でのリープを繰り返すと、奴らもいつ出入り口が開きやすいか気付いて、入ろうとする奴が増える。これがどういうことか、わかるかな?」
「俺がタイムリープを繰り返したせいで、顔の無い犯人が増えていた?」
「そういうことだ」
 理解半分で答えたら当たった。それなら最初からそう言って欲しかった。そんなことを考えていると、彼の顔つきが急に引き締まる。
「今は犯人としての姿を再現しているが、恐らく親となる人間と同じ姿になり、やがて時間移動中のあんたの体を乗っ取るだろう」
「俺の体を、乗っ取る!?」
 初めて聞くことに、思わず声を上げてしまった。だが思い返すと、タイムリープに対してリスクがあると忠告されていた。そのリスクが、このことだったのだろう。
「この期間でリープを繰り返すなら、二十回が限度だ。それ以上はあんたが死ぬ危険度がグッと上がる。当然だが、一度でも死ねばやり直しはできない。今の回数は?」
 記憶をたどり、リープした回数を数える。十六、十七、十八……。
「…………十九回」
 渋々そう答える。
「あんた、机に手を出してくれ」
 彼の指示通りに右手を差し出すと、彼は俺の手を両手でガッシリ掴んだ。その手は大きく、温かい。なんだか、その感覚でホッとした。
「次が最後だ。それでも、やるかい?」
 俺は、彼の手を握り返す。そして緩やかにその手を解き、膝の上に戻した。
「ありがとう。でも……」
 バッグから札束を取り出し、机に置く。
「二十万を出します。これが最後の依頼です」
 俺の返事に、彼はどこか物寂しそうに眉を曲げたが、すぐに手をパチンと鳴らした。
「OK! 金さえもらえれば、何でも請け負うさ。お客様のお望みのままに」


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 一度目は不意打ちを喰らったため、トンカチでは迎撃できなかった。それどころか、犯人もトンカチを持っていた。いや、あのトンカチは恐らく、俺が持ち出した物だろう。サブバッグのチャックを大きく開けていたから、盗られた可能性も十二分にある。武器を持てばいいというものでもない。
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「どうしたの? なんか元気ない?」
 昼休み、弁当を食べている途中で恵に話しかけられる。彼女は、心配そうに俺を見つめる。
「大丈夫だって! 元気元気!」
「ふーん……」
 疲れからか、オーバーにリアクションしてしまった。そのせいで、彼女からはかえって訝しまれそうだ。
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「急に何? なんで勇生の家に?」
 帰り際、恵に伝えたところ首を傾げられた。
「なんでもいいだろ、訳ありなんだ! 頼む!」
 俺が必死に懇願すると、恵は折れたのか、スマホをいじり始めた。
「うちの両親がOK出したらいいけど、ダメだったら諦めて」
 俺は頷くしかなかった。恵はしばらくスマホ越しで話をし、通話を切ってポケットへとしまう。
「七時までには帰るようにって」
「七時!? それじゃあダメだ!」
「なんでよ?」
 疑問を投げかけられて、俺は困った。殺されるからなんて言っても、絶対に信じてもらえない。
「じゃあ真っ直ぐ帰ろう。お互い家は遠いわけだし」
「はあ? 今日は勇生が一緒に帰ろうって言い出したんじゃん」
「いいから! 今日はそうするぞ!」
 その日、お互いに真っ直ぐ家に帰ったはずだった。三時に学校を出たので、日が傾く前に恵は家に着いている計算だ。しかし、結果は変わらなかった。彼女はまた殺された。家の近くの路地で、切り付けられたことによる大量出血。買い物を任された道中だったようだ。
 俺は再び「Regretion」を訪れ、タイムリープした。時間が戻ることで、お金は毎回復活する。家で自分の通帳を盗み出し、口座から引き落とす。代金は問題なく払えた。
 三度目、俺は恵にずっと家にいるよう頼んだ。
「なんでよ? なんか勇生、変だよ?」
「訳ありなんだ! 頼む、この通り!」
 土下座までしたが、今度は恵も聞かなかった。
「他人を束縛しようとする人、嫌い。勇生がそんな人とは思わなかった」
 恵は立ち去ろうとする。俺は彼女にしがみつくも、あっさり振り払われてしまった。その後色々語り掛けたが、彼女は無視して行ってしまった。
 彼女が見えなくなった後、俺は一人で帰った。逆にチャンスだと思った。すぐに家に帰って服を軽くし、再度家を出た。そして、彼女が普段通っているであろう道を全速力で走り、彼女の家までたどり着いた。そして、彼女が出てくるのを待った。
 日が暮れる直前に、彼女は買い物に出た。徒歩五分ほどのスーパーへ入り、野菜などをたくさん買っていた。店を出る頃には、辺りは真っ暗になっていた。恐らく、二度目同様の行動だ。俺は彼女を見逃さないよう、しかし気付かれないよう、こっそり跡をつけた。
 前に香子と出会った地点を通りかかった時、フードを被った人物が現れた。一度目同様、恵は腰を抜かす。しかし、あの時とは決定的に違うことがある。それは、俺が自由に動けること。ナイフを取り出そうとした瞬間、俺はフードに飛び込み、抑え込んだ。思いの外簡単にできてしまった。フードが深すぎて顔は一切見えなかったが、マウントポジションを取り、ひたすら頭を殴った。やがて男は動かなくなった。
「大丈夫か、恵?」
 そう言って声をかけるも、彼女はまだ怯えたままだった。
「勇生……なの?」
「そうだ、俺だ! もうお前を殺そうとする奴はいない!」
 安心と喜びで、声が大きくなる。一方、恵はまだ怯えている。
「じゃあ、その人、誰……?」
 恵が恐る恐る指をさす。なぜだ? 君を襲った犯人はもう気絶した。君を脅かす者はいない。なのになぜ、そんな反応を? 俺は戸惑いつつ、倒れた男のフードを剥がすと、そこには何も無かった。ただの空気。あるべきものは何も無い、空洞。顔が無い人間?
「きゃあぁぁぁっ!?」
 それを見た恵が怯え、走り出す。止めようと思ったが、あっという間に姿が見えなくなってしまった。その場で立ち尽くしていると、不意に肩を叩かれた。振り返ると、そこにいたのは黒いフードを深く被った人物。俺が殴った男は足元で倒れたまま。犯人は、二人いた? それとも、一人目はダミー? 混乱している隙に急接近され、首を絞め上げられた。
 気が付くと、また病院のベッド上だった。恵は、またしても大量出血で死んでいた。現場近くには、犯人のものと思しき黒いフリースとズボンが残っていたものの、詳細は何もわかっていない。犯人は一人じゃない。そう確信した俺は、退院後すぐに「Regretion」へと向かった。
 再び目を覚ます。九月三十日の七時。もうなりふり構っていられなくない。俺は学校を行くフリをして無断欠席、その足でホームセンターに行った。そして、できるだけ刃渡りの長いナイフを買った。刺し違えてでも犯人を殺すと決めた。というか、すぐに殺して動かないと、二人は防げない。そして、できるだけ目立たない服装で恵の跡をつける。こちらから一人目には不意打ちを仕掛け、二人目を迎撃する。それしかない。
 その後は三度目のリープと同じ動きを取り、同じ展開を迎えた。夜道の中、一人目のフードが恵へと歩みを進める。その後ろから素早く近づき、俺はそいつの首元を切った。ナイフの感触が確かにあり、一人目は血を流しながらその場に倒れた。そして、恵が腰を抜かしている間に、二人目を探す。隠れられそうな場所は、ブロック塀の隙間しかない。隙間の手前で止まり、拾った小石を投げ入れる。カツンと音がした直後、二人目がナイフを振りながら飛び出してきた。振り切ったところへ飛びつき、馬乗りになった。そのままフードを剥ぐと、やはり空洞。剥がしたと同時に、二人目の動きが止まった。
「きゃあっ!?」
 しかし、恵の悲鳴は止まない。三人目だ。同じ服装の人物。想定はしていた。俺は全速力で駆け出し、勢いのままそいつをナイフで一突きする。そいつは血を流しながら倒れた。そのフードの中は、やはり空洞。俺は立ち上がり、しばらく辺りを見回す。しかし、何かが現れる気配は無い。
 今度こそ、やった!
 そう喜びを感じたのも束の間、恵はまた悲鳴を挙げる。
「恵、大丈夫だ! もう、お前を殺す奴はいない!」
 俺がそう言っても、彼女は叫び、駆け足で去っていった。なぜだ? なぜ、逃げていくんだ? 訳もわからず、けれどどうしようもない状況に、体中の力が抜けていく。なんとか歩いて家に帰ると、そのまま自室のベッドへ飛び込んだ。家族から何か言われた気もするが、気にせず寝た。ようやく守れたんだという安心感から、すぐに寝付けたと思う。
 翌日、ワクワクしながら学校に行く。周りの人間は特に変わった様子は無かった。ただ、朝礼の時間になった時、俺の希望は木っ端微塵に打ち砕かれた。
 先生から恵が死んだということを聞いた。自宅近くで何者かに首を切られたという。
 また、守れなかった。俺は再び「Regretion」へと向かった。
 俺は、もう一度、さらにもう一度と、タイムリープを繰り返した。犯人と思しき人物を撃退していった。タイムリープをしていく度に、その人物の人数がどんどん増えていく。五人、六人、七人……それ以上はもう数えていないが、全員殺している。頭の無い殺人鬼を、何度も、何度も。しかし、どれだけやっても恵は俺から逃げていき、翌日になると死の知らせが入ってくる。俺はどうすればいいかわからず、でもやめることもできず、ただただナイフでフードを刺し続けた。
 どれくらい経ってからか。俺が「Regretion」へと着いた後、スーツの男から言葉をかけられた。
「お客様、もう人間の顔をしてないですね。何をしにここへ来ました?」
 いつもと違う反応に固まるが、内容を理解した俺は呆れた。
「なにって、犯人を止めるんだ。じゃないと恵が死んでしまう。最初に言ったじゃないか」
 そこまで伝えた時、俺は思い出した。目の前にいる彼らは、最初に会った時の彼らではない。俺と違い、記憶は無いのだ。だから、俺が言ったことなど覚えていなくて当然だ。しかし、彼らはそんなことには反応せず、妙な顔色のまま考え込んでいた。
「次のリープの前に、少し話をさせてくれ。あんたのことを聞きたい」
 急に砕けた口調になった白Tシャツ。彼に誘導されるまま、俺はソファに腰掛けた。
「なるほど。何度やっても犯人が大量に出てきて、その恵ちゃんが殺されちゃうわけね」
 俺がこれまでの経緯を話すと、しばらく眉間にしわを寄せていた彼の顔がほぐれ、ニヤリと笑った。
「あんた、霊魂って信じているか?」
 唐突な質問に、驚き、なんとか答えを考える。
「本気で信じてはない、と思う」
「そうか。だが結論から言うと、存在はする。この三次元世界にではないけどね」
 三次元世界? 突然出てきた変な言葉に、俺は先の展開が少し読めた。
「俺のタイムリープは、厳密には次元、世界の移動だ。時間の流れが少しずつズレている複数の世界、並行世界が、同時に存在し再生されている。タイムリープはその世界の間を、意識だけが移動するのさ」
 俺が必死に考えて理解しようとしているというのに、白Tシャツは気にせず説明を続ける。
「俺のやっていることは二つ。あんたの意識を動かすことと、それぞれの世界の出入り口を開けることだ。すると、開いた出入り口から三次元世界、俺達の認識する物体の世界へと、入ろうとする奴がいるんだ。わかるか?」
 彼はこちらを、ニヤニヤしながら見つめてくる。
「それが、霊魂?」
「その通り!」
 急に彼は指パッチンをし、立ち上がった。
「奴らは物体を持てず、三次元世界から爪弾きにされ、世界の間を漂っている。奴らの一部は、生みの親が三次元世界なのさ。だから戻りたい欲がある。だが、一つ一つの霊魂では力が足りずに入り込めない。だからこそ、複数の霊魂が一つの集合体となって、三次元世界に干渉しようとする。干渉後に力が残っていると、霊魂が肉体、物体へと還元される。一人の人間として実体化するってこともあり得るのさ」
 盛り上がる彼に対し、俺はまだピンと来なかった。
「俺の能力はその世界の出入口を開ける。つまり、タイムリープをしている間、霊魂は三次元世界に入ってきやすい状況なんだ。そして、同じ時間帯でのリープを繰り返すと、奴らもいつ出入り口が開きやすいか気付いて、入ろうとする奴が増える。これがどういうことか、わかるかな?」
「俺がタイムリープを繰り返したせいで、顔の無い犯人が増えていた?」
「そういうことだ」
 理解半分で答えたら当たった。それなら最初からそう言って欲しかった。そんなことを考えていると、彼の顔つきが急に引き締まる。
「今は犯人としての姿を再現しているが、恐らく親となる人間と同じ姿になり、やがて時間移動中のあんたの体を乗っ取るだろう」
「俺の体を、乗っ取る!?」
 初めて聞くことに、思わず声を上げてしまった。だが思い返すと、タイムリープに対してリスクがあると忠告されていた。そのリスクが、このことだったのだろう。
「この期間でリープを繰り返すなら、二十回が限度だ。それ以上はあんたが死ぬ危険度がグッと上がる。当然だが、一度でも死ねばやり直しはできない。今の回数は?」
 記憶をたどり、リープした回数を数える。十六、十七、十八……。
「…………十九回」
 渋々そう答える。
「あんた、机に手を出してくれ」
 彼の指示通りに右手を差し出すと、彼は俺の手を両手でガッシリ掴んだ。その手は大きく、温かい。なんだか、その感覚でホッとした。
「次が最後だ。それでも、やるかい?」
 俺は、彼の手を握り返す。そして緩やかにその手を解き、膝の上に戻した。
「ありがとう。でも……」
 バッグから札束を取り出し、机に置く。
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