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【2】①

ー/ー



「え? お前、金澤さんと付き合ってんの? いやマジ!?」
「なんだよ、それ。どういう意味だっての」
 夏休みに入って、……つまり二人が付き合いだして半月が経った頃だった。
 やはり約束してこの街で会い、「暑いからどっか入ろう」と話しつつ店に向かう途中で偶然に出会ったクラスメイトの男子の驚き顔。
「え〜。だってさ、嘉納(かのう)さんにィ」
「おい! 雨宮(あめみや)、お前──!」
 嘉納、……清佳がいったい何だというのか。
 よくわからないことで揉めているらしい二人を、一歩離れて眺めながら実佑里は考えを巡らせた。
 実は少し変だとは思っていたのだ。
 何故なら駿と清佳は、特別仲良くなどなかったと実佑里は認識していたからだ。
 、清佳はどうして駿が実佑里を呼んでいることを知ったというのだろう。
『小柳くんて──』
 ふいに友人の声が頭に過った。どうして今……。いや、今だから、か。
「行こう、実佑里!」
 雨宮を振り払ったらしい彼が、ぼんやりとしていた実佑里の腕を引いた。
 けれど実佑里は、その日に何を話したのかもよく覚えていない。結局はハンバーガーだけ食べてそのまま解散したのだった。
 実佑里が上の空だったため、駿が「夏バテか?」と気遣ってくれていたのはもちろん忘れてはいない。

 家に帰るなり、実佑里はクラスで一番仲の良い友人にメッセージを送った。
 中学から今もずっと一緒の奈緒(なお)に。
《奈緒、話ちゃんと聞きたい。彼と清佳の。》
 駿と付き合うことになって、彼女にだけは打ち明けていた。
 夏休みに入ってしまい、他の友人とは会う機会もなかった。
 当たり障りのないメッセージ交換程度ならともかく、電話をしたり一緒に遊んだりしてプライベートに関わる話をするのは奈緒くらいのものだ。
 あの、話。
《小柳くんに告白されちゃった〜(*'▽') 付き合うことにしたの〜。》
 初めてできた恋人が嬉しくてその日のうちに浮かれたメッセージを送った実佑里に、奈緒はすぐに電話を掛けて来た。
『実佑里、あの。小柳くんて、えっと、清佳……』
 いやに歯切れの悪い友人の口調に、頭に疑問符が躍った。
 清佳が好きだという相手は確か他校の、しかも上級生ではなかったか。
 あれほど美人で性格も良く、完璧に見えるような子でも片想いなどするのか、と衝撃を受けたのを覚えている。
「なに? 小柳くんが何なの? 清佳がどうかした!?」
 問い返した実佑里に、彼女は口籠った。
『あ、……私の気のせい、かも。なんか余計なこと言っちゃってごめん』
「……? そう?」
 焦ったように謝る彼女に、実佑里はそれ以上何も訊かなかった。とにかく舞い上がっていて、たいして気にもならなかったのだ。
 ──ううん、きっと違う。気にしないふりしたんだ。だから今もずっと、心のどっかに引っかかってた。
《今から会える? 直接の方がいいと思う。》
 手に持ったままだったスマートフォンが震え、ディスプレイに奈緒の返信が浮かぶ。
 何度かメッセージを交わし、二人は互いの家から近いファストフード店に向かうことにした。

「あの、こんなこと言っていいのかわかんなくて……。でも実佑里には黙ってちゃダメなんじゃないか、って」
 落ち合った馴染みの店で、昼食は済ませていたこともありドリンクだけ買って席につく。
 言いにくそうに前置きする奈緒に、実佑里は「教えて」と改めて頼んだ。
「あの日、……終業式の日、よね? 実佑里が小柳くんに告白されたのって」
「うん」
 慎重に、何か探るように切り出す彼女に、自然身構えてしまう。
「私、さあ。ホームルームのあと、とりあえず部室行ったんだけど教室戻ったのよ。忘れ物ないか気になっちゃって」
 終業式後のホームルーム。
 いよいよ夏休み、ということでみな浮足立っていて、終わるなり蜘蛛の子を散らすかのように教室内は見る間に人口密度が下がった。
 実佑里も気が(はや)っていたため、駿が残っていたかどうかなどまったく記憶にない。
 教室を出た後、一応部室に顔を出したのは夏休み中の予定を確認するためだった。
 所属する美術部は厳しいとは対極で、普段の活動も週一度のみ。
 休み中は自由参加だと言い渡されてはいたものの、一年生が真に受けていいものか判断できずにいた。
 部室に居合わせた上級生は「ホントに自由なの。去年、私もお(けい)と二人で一回だけ来たけど誰もいなかったもん。まあクーラー効いてるから、涼みにだけ来てもいいよ〜」と笑ってくれて、さすがに安心できた。
 では帰ろうか、と靴を履き替える手前で清佳に声を掛けられたのだった。
 時間が合えば一緒に登下校していた奈緒は、部活のミーティングで残ると知っていたから最初から一人で帰るつもりでいた。


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「え? お前、金澤さんと付き合ってんの? いやマジ!?」
「なんだよ、それ。どういう意味だっての」
 夏休みに入って、……つまり二人が付き合いだして半月が経った頃だった。
 やはり約束してこの街で会い、「暑いからどっか入ろう」と話しつつ店に向かう途中で偶然に出会ったクラスメイトの男子の驚き顔。
「え〜。だってさ、|嘉納《かのう》さんにィ」
「おい! |雨宮《あめみや》、お前──!」
 嘉納、……清佳がいったい何だというのか。
 よくわからないことで揉めているらしい二人を、一歩離れて眺めながら実佑里は考えを巡らせた。
 実は少し変だとは思っていたのだ。
 何故なら駿と清佳は、特別仲良くなどなかったと実佑里は認識していたからだ。
 《《あのとき》》、清佳はどうして駿が実佑里を呼んでいることを知ったというのだろう。
『小柳くんて──』
 ふいに友人の声が頭に過った。どうして今……。いや、今だから、か。
「行こう、実佑里!」
 雨宮を振り払ったらしい彼が、ぼんやりとしていた実佑里の腕を引いた。
 けれど実佑里は、その日に何を話したのかもよく覚えていない。結局はハンバーガーだけ食べてそのまま解散したのだった。
 実佑里が上の空だったため、駿が「夏バテか?」と気遣ってくれていたのはもちろん忘れてはいない。
 家に帰るなり、実佑里はクラスで一番仲の良い友人にメッセージを送った。
 中学から今もずっと一緒の|奈緒《なお》に。
《奈緒、《《あの》》話ちゃんと聞きたい。彼と清佳の。》
 駿と付き合うことになって、彼女にだけは打ち明けていた。
 夏休みに入ってしまい、他の友人とは会う機会もなかった。
 当たり障りのないメッセージ交換程度ならともかく、電話をしたり一緒に遊んだりしてプライベートに関わる話をするのは奈緒くらいのものだ。
 あの、話。
《小柳くんに告白されちゃった〜(*'▽') 付き合うことにしたの〜。》
 初めてできた恋人が嬉しくてその日のうちに浮かれたメッセージを送った実佑里に、奈緒はすぐに電話を掛けて来た。
『実佑里、あの。小柳くんて、えっと、清佳……』
 いやに歯切れの悪い友人の口調に、頭に疑問符が躍った。
 清佳が好きだという相手は確か他校の、しかも上級生ではなかったか。
 あれほど美人で性格も良く、完璧に見えるような子でも片想いなどするのか、と衝撃を受けたのを覚えている。
「なに? 小柳くんが何なの? 清佳がどうかした!?」
 問い返した実佑里に、彼女は口籠った。
『あ、……私の気のせい、かも。なんか余計なこと言っちゃってごめん』
「……? そう?」
 焦ったように謝る彼女に、実佑里はそれ以上何も訊かなかった。とにかく舞い上がっていて、たいして気にもならなかったのだ。
 ──ううん、きっと違う。気にしないふりしたんだ。だから今もずっと、心のどっかに引っかかってた。
《今から会える? 直接の方がいいと思う。》
 手に持ったままだったスマートフォンが震え、ディスプレイに奈緒の返信が浮かぶ。
 何度かメッセージを交わし、二人は互いの家から近いファストフード店に向かうことにした。
「あの、こんなこと言っていいのかわかんなくて……。でも実佑里には黙ってちゃダメなんじゃないか、って」
 落ち合った馴染みの店で、昼食は済ませていたこともありドリンクだけ買って席につく。
 言いにくそうに前置きする奈緒に、実佑里は「教えて」と改めて頼んだ。
「あの日、……終業式の日、よね? 実佑里が小柳くんに告白されたのって」
「うん」
 慎重に、何か探るように切り出す彼女に、自然身構えてしまう。
「私、さあ。ホームルームのあと、とりあえず部室行ったんだけど教室戻ったのよ。忘れ物ないか気になっちゃって」
 終業式後のホームルーム。
 いよいよ夏休み、ということでみな浮足立っていて、終わるなり蜘蛛の子を散らすかのように教室内は見る間に人口密度が下がった。
 実佑里も気が|逸《はや》っていたため、駿が残っていたかどうかなどまったく記憶にない。
 教室を出た後、一応部室に顔を出したのは夏休み中の予定を確認するためだった。
 所属する美術部は厳しいとは対極で、普段の活動も週一度のみ。
 休み中は自由参加だと言い渡されてはいたものの、一年生が真に受けていいものか判断できずにいた。
 部室に居合わせた上級生は「ホントに自由なの。去年、私もお|圭《けい》と二人で一回だけ来たけど誰もいなかったもん。まあクーラー効いてるから、涼みにだけ来てもいいよ〜」と笑ってくれて、さすがに安心できた。
 では帰ろうか、と靴を履き替える手前で清佳に声を掛けられたのだった。
 時間が合えば一緒に登下校していた奈緒は、部活のミーティングで残ると知っていたから最初から一人で帰るつもりでいた。