39話 紫色の勾玉
ー/ー「はい! みんなに紹介します。こちら、ルルちゃんで〜す!」
ローズベルクへ戻ってきた俺たちへ、フィロは声高々にそう言った。橙色の髪色をした少女に向けて両手を掲げ、手のひらをヒラヒラと小刻みに動かしている。
「はい! ルルフィアで〜す! 皆さんのことは、エフィルロから記憶をもらって知っていま〜す! 粉持ちで〜す!よろしくお願いしま〜す!」
ルルフィアと名乗った少女は、フィロの絶妙に似ていない声真似を披露しながら、元気よく自己紹介をした。
「粉持ち」ということは、この少女が「幸せの粉」を持っているということだろう。てっきり、粉の入った壺を回収してくるものだと思っていた。まさか、天使ごと連れてくるとは。
「なら、俺たちの自己紹介は要らないってことか?」
「うん! 人間のかえでくんと、イケメンのシルエトさん! あと……えっと……ですですの方!」
不覚にも笑ってしまった。大丈夫だ。それで伝わっている。
「エフィルロ、こいつをぶっ飛ばす許可が欲しいのです」
エルシオはいつの間にか双剣を手にしている。こいつ本気だ。目がマジだ。
「仕方ないじゃん! ルル記憶力ないもん! ですですだってホントのことじゃん!」
「エルシオさん! いっつも星剣だすの早いですって! ルルちゃんも落ち着いて!」
睨み合う少女2人の間で、シルエトは仲裁に入っている。なんだか賑やかになったこの部屋は、初めてここにきた時の印象とはガラッと変わった。
「ルル、他に私の記憶で覚えてることは?」
エルシオに両頬を掴まれているルルフィアへ、フィロは質問を投げかける。フィロのどこか真剣な表情に、喧嘩中の2人は動きを止めた。シルエトは胸に手を当て、ため息を吐いている。
「ほぼえてにゃいでしゅ。ルルアンポンだから、にゃまえくりゃいしか……」
「にゃまえしゅら覚えてないのでしゅ!! アンポンじゃにゃい、ドアンポンなにょでしゅ!!」
頬を引っ張り合っている2人には気にもせず、フィロは「そう……」と安心したような素振りを見せた。何か知られてはいけない記憶でもあったのだろうか。いやそれよりも、あの2人の喧嘩を止めなくてもいいのだろうか。エルシオが双剣を納めただけましではあるが。
「だかりゃ! 2人とも落ち着いてくだしゃい!」
なんでお前までそうなってるんだ。どういう状況なんだ。
俺とフィロは、子供の喧嘩を見ている親のような雰囲気で、傍観者として知らぬふりをしている。
いや、フィロは本当に知らなそうだ。目の前の激しめな喧嘩を、まるで雲の動きでも観察しているかのように見つめている。
「そういえば」と、フィロは俺の方へと体を向けた。
「私、ウリエルの魔法を受けて、完全にコントロールされていたんだけど、私の肩に楓が触れた瞬間、それが解けたの。楓、何かした?」
「いや、してないし、できないな」
人間の俺に、そんな芸当が可能なはずがない。俺は、姿を消す魔法をフィロにもかけるために触れただけだ。それに、あのときは必死で、あまり細かいことは覚えていない。
「それに関しては、おそらくその首飾りが原因ですよ」
いつの間にか頬地獄から抜け出したシルエトは、俺の首元を指差してそう言った。
「何それ、いつから持ってたの?」
「これは、ジィからもらったんだ」
「かえちゃん、ちゃんとジィに会ったんだね!」
「おう」と空返事をシルエトに返し、俺は服の下に入れていた首飾りを引っ張り出した。あの時同様、紫色をした勾玉だ。なんの変哲も無い。
「変な石ね。初めて見るわ。なんだか……怖い」
「僕も昔、星域のじっちゃんに見せてもらったときにそう思いました」
怖い。そうフィロは言ったが、俺はそうは思わなかった。
確かに毒々しい色をしているが、そこまで暗い紫でもないし、何より勾玉だ。ただの魔除けの品だと思っていた。
「じっちゃんも、それが何かわからないって言ってた。星域で拾ったって。初めは星具だと思ったんだけど……」
「ちょっとストップ! そういえばそれが気になってたんだよ。星具とか星剣ってなんなんだ?」
「そうだね、星剣や、星刻機はかえちゃんも知ってるよね? どちらも、エルシオさんが所持している物だ」
俺は無言で頷く。説明をしてもいいのか迷っているシルエトを見て、エフィルロは声には出さず「どうぞ」といったジェスチャーでシルエトを促した。
「他にも色々あるとは言われてるけど、僕もあんまり知らない。まあ、それらを星具って言うんだ。星って付いてたら大体星具だよ。星具は幸せの粉と同様、神様からの贈り物と言われてる。どこからともなく、この世界に現れるとんでもない道具だよ」
「星って付いてたら大体星具」は言い過ぎな気もするが、「とんでもない道具」というのは妥当な表現だろう。星刻の効果も、星剣の強さも俺は知っている。
「で、さっきの話の続きだけど、僕の魔法は所持品や魔法も消せる。でも、魔法を使っている本人である僕は、僕以外の消えている全てを視認できるんだ。つまり、エフィルロさんが消える瞬間も、僕は2人の姿を肉眼で確認できていた。その首飾りもね」
シルエトは俺が手に持っている勾玉を見つめる。
「エフィルロさんの肩にかえちゃんが触れた瞬間、その石が光ったんだ。あの場では僕しか見えていなかっただろうけど、たしかに光っていた。紫色の光が、一瞬その場を包んだんだ」
「つまり、その光が私にかかっていたウリエルの魔法を解いたってこと?」
「……多分。それ以外に考えられないんですよ。そもそもあの魔法はかけられたら最後。解けるのはウリエル本人だけのはずです」
「じゃあこれ、星具ってやつなのか?」
シルエトは首を横に振る。
「僕もそう思ったんだ。でも、その首飾りからは全く魔力を感じない。星具は天使の道具だから、魔力の反応がするし、魔力がないと使えない。そして何より、その首飾りは人間用なんだ。じっちゃんはそれを拾った時、すぐにそう感じたらしい。これは人間のものだって。だから星具ではない。それもあって、じっちゃんは人間であるかえちゃんにそれを渡したんだと思う」
「私の星剣と同じですね。初めてこの星剣を見た時、呼ばれている気がしたのです。その首飾りが人間用であるように、この星剣は私用なのです」
いつの間にか俺の横には、頬を腫らしたエルシオがいた。ルルフィアは座り込んで頬を手で押さえている。勝者はエルシオのようだ。新人が虐められているようで、なんだか心が痛い。
「そう! エルシオさんが言ったとおり、おそらくそれは人間専用の道具で、その点は星具に似ているんだ。星具は持つものを選ぶ。星剣がエルシオさんを選んだように、その首飾りはかえちゃんを選んでいた。かえちゃん以外には、この世界に長い時間滞在する人間はいないからね」
「まぁ、この世界で人間用の道具があるとすれば、今は楓以外には使えない。楓専用って言っても過言じゃないわね。星具じゃないにしろ、魔法を解けるっていうのはかなり使い勝手がある道具よ」
フィロがそう言い切った時、両頬を押さえながらトボトボと近づいてきたルルフィアが、俺たちの会話に参加した。
「人間用は死神用でもあるのでは?」
一瞬、時間が止まったような静けさがこの場を支配した。
自分の発言で沈黙が生まれていることに気づいていないルルフィアは、俺たちと同じ表情で固まっている。なぜだ。なぜ同じ顔ができるのだ。
それにしても、ルルフィアの発言は盲点だった。この場にいる誰もが、その可能性に気づいていなかった。人間=死神という考えを忘れていた。
もしも、天使の魔法の効果を消せるこの道具が、死神も使えるとしたら、この道具は天使にとってかなりの弊害になる。
「まぁなんにせよ、それのおかげで助かったってことかしらね。楓がそれを持っていてくれてよかった」
フィロは、静寂から俺たちを解放した。
「よかった」というのは、フィロがウリエルの魔法から解放されたことに対してなのか、それとも、この勾玉を死神が拾わなくてよかったということなのか。
どちらにせよ、俺はあることに気づいていた。この勾玉を見た天使たちは、怖いという印象や、石という表現をしている。誰も、勾玉とは言わなかった。「初めて見た」とフィロは言っていた。
こんなにも特徴的な形をしているのだ。日本人にこの形を見せれば、石ではなく勾玉と言うだろう。
たまたまこの形の石を天使が天界で作成したのか、はたまた、人間界で勾玉を見た天使がこの首飾りを作ったのか。もしくは、死神がこの道具を作ったのか。
この勾玉が人間用。すなわち死神用で、天使の魔法を消すために作られた道具なのだとすれば、選択肢は絞られる。
「……そろそろね。私、セナちゃんを迎えに行ってくるわ。早く行かないと、ガブリエルのところに飛ばされる」
俺が頭の中で考えを巡らせていた時、フィロはそう言ってゲートを開いた。
「ルル、少しだけ粉を分けてくれる? 面接に使いたいの」
「了解! その壺に入れるよ!」
ルルフィアの腕に抱かれるように、綺麗な壺が現れた。フィロの壺よりも綺麗で、刻まれている模様もどこか違う気がする。そしてその壺から、ルルフィアは少しだけ粉をフィロの壺へ移し替えた。
「幸せの粉」の大切さは知っている。粉を渡すということは、それほどフィロを信用しているということだろう。そう思うと同時に、フィロも俺を信用してくれていたのだと、安堵と喜びが混ざった気持ちが心を満たした。
「じゃあ、私たちはここで待っているです。ドアンポンの子守が必要なので」
やっと終わったと思っていたが、今度はエルシオ発端か。
「子守りなんて必要ない! ですシオの方こそ、ルルが面倒見てあげないとでしょ?」
「はあ〜!? 私はエルシオなのです! いつになったら覚えるのですか!? ドアンポンを超えて、ドドアンポンなのです」
だめだ。こいつら相性が悪すぎる。いや、喧嘩するほど仲がいいとはこういうことなのだろうか。
「シルエト、星域で待ってて。すぐに連れてくから。見れるわよ。人間界とは比べ物にならない、とびっきりのがね」
フィロはシルエトに声をかけた。2人の喧嘩など、視界にも入っていない。
再び喧嘩の仲裁に入ろうとしていたシルエトは、フィロの言葉を聞いて笑みを見せた。
「ありがとうございます。待ってます」
「こいつらのことは俺に任せろ。シルエト、わかってるな?」
なんのことか理解していなさそうなシルエトに、俺は耳打ちする。
「それは……わかった。頑張るよ」
俺はシルエトの背中を軽く叩く。
そして、深呼吸をした。俺はこれから、戦争の渦中に自ら飛び込む。
俺の頬が腫れ上がったのは、その数十秒後だ。
ローズベルクへ戻ってきた俺たちへ、フィロは声高々にそう言った。橙色の髪色をした少女に向けて両手を掲げ、手のひらをヒラヒラと小刻みに動かしている。
「はい! ルルフィアで〜す! 皆さんのことは、エフィルロから記憶をもらって知っていま〜す! 粉持ちで〜す!よろしくお願いしま〜す!」
ルルフィアと名乗った少女は、フィロの絶妙に似ていない声真似を披露しながら、元気よく自己紹介をした。
「粉持ち」ということは、この少女が「幸せの粉」を持っているということだろう。てっきり、粉の入った壺を回収してくるものだと思っていた。まさか、天使ごと連れてくるとは。
「なら、俺たちの自己紹介は要らないってことか?」
「うん! 人間のかえでくんと、イケメンのシルエトさん! あと……えっと……ですですの方!」
不覚にも笑ってしまった。大丈夫だ。それで伝わっている。
「エフィルロ、こいつをぶっ飛ばす許可が欲しいのです」
エルシオはいつの間にか双剣を手にしている。こいつ本気だ。目がマジだ。
「仕方ないじゃん! ルル記憶力ないもん! ですですだってホントのことじゃん!」
「エルシオさん! いっつも星剣だすの早いですって! ルルちゃんも落ち着いて!」
睨み合う少女2人の間で、シルエトは仲裁に入っている。なんだか賑やかになったこの部屋は、初めてここにきた時の印象とはガラッと変わった。
「ルル、他に私の記憶で覚えてることは?」
エルシオに両頬を掴まれているルルフィアへ、フィロは質問を投げかける。フィロのどこか真剣な表情に、喧嘩中の2人は動きを止めた。シルエトは胸に手を当て、ため息を吐いている。
「ほぼえてにゃいでしゅ。ルルアンポンだから、にゃまえくりゃいしか……」
「にゃまえしゅら覚えてないのでしゅ!! アンポンじゃにゃい、ドアンポンなにょでしゅ!!」
頬を引っ張り合っている2人には気にもせず、フィロは「そう……」と安心したような素振りを見せた。何か知られてはいけない記憶でもあったのだろうか。いやそれよりも、あの2人の喧嘩を止めなくてもいいのだろうか。エルシオが双剣を納めただけましではあるが。
「だかりゃ! 2人とも落ち着いてくだしゃい!」
なんでお前までそうなってるんだ。どういう状況なんだ。
俺とフィロは、子供の喧嘩を見ている親のような雰囲気で、傍観者として知らぬふりをしている。
いや、フィロは本当に知らなそうだ。目の前の激しめな喧嘩を、まるで雲の動きでも観察しているかのように見つめている。
「そういえば」と、フィロは俺の方へと体を向けた。
「私、ウリエルの魔法を受けて、完全にコントロールされていたんだけど、私の肩に楓が触れた瞬間、それが解けたの。楓、何かした?」
「いや、してないし、できないな」
人間の俺に、そんな芸当が可能なはずがない。俺は、姿を消す魔法をフィロにもかけるために触れただけだ。それに、あのときは必死で、あまり細かいことは覚えていない。
「それに関しては、おそらくその首飾りが原因ですよ」
いつの間にか頬地獄から抜け出したシルエトは、俺の首元を指差してそう言った。
「何それ、いつから持ってたの?」
「これは、ジィからもらったんだ」
「かえちゃん、ちゃんとジィに会ったんだね!」
「おう」と空返事をシルエトに返し、俺は服の下に入れていた首飾りを引っ張り出した。あの時同様、紫色をした勾玉だ。なんの変哲も無い。
「変な石ね。初めて見るわ。なんだか……怖い」
「僕も昔、星域のじっちゃんに見せてもらったときにそう思いました」
怖い。そうフィロは言ったが、俺はそうは思わなかった。
確かに毒々しい色をしているが、そこまで暗い紫でもないし、何より勾玉だ。ただの魔除けの品だと思っていた。
「じっちゃんも、それが何かわからないって言ってた。星域で拾ったって。初めは星具だと思ったんだけど……」
「ちょっとストップ! そういえばそれが気になってたんだよ。星具とか星剣ってなんなんだ?」
「そうだね、星剣や、星刻機はかえちゃんも知ってるよね? どちらも、エルシオさんが所持している物だ」
俺は無言で頷く。説明をしてもいいのか迷っているシルエトを見て、エフィルロは声には出さず「どうぞ」といったジェスチャーでシルエトを促した。
「他にも色々あるとは言われてるけど、僕もあんまり知らない。まあ、それらを星具って言うんだ。星って付いてたら大体星具だよ。星具は幸せの粉と同様、神様からの贈り物と言われてる。どこからともなく、この世界に現れるとんでもない道具だよ」
「星って付いてたら大体星具」は言い過ぎな気もするが、「とんでもない道具」というのは妥当な表現だろう。星刻の効果も、星剣の強さも俺は知っている。
「で、さっきの話の続きだけど、僕の魔法は所持品や魔法も消せる。でも、魔法を使っている本人である僕は、僕以外の消えている全てを視認できるんだ。つまり、エフィルロさんが消える瞬間も、僕は2人の姿を肉眼で確認できていた。その首飾りもね」
シルエトは俺が手に持っている勾玉を見つめる。
「エフィルロさんの肩にかえちゃんが触れた瞬間、その石が光ったんだ。あの場では僕しか見えていなかっただろうけど、たしかに光っていた。紫色の光が、一瞬その場を包んだんだ」
「つまり、その光が私にかかっていたウリエルの魔法を解いたってこと?」
「……多分。それ以外に考えられないんですよ。そもそもあの魔法はかけられたら最後。解けるのはウリエル本人だけのはずです」
「じゃあこれ、星具ってやつなのか?」
シルエトは首を横に振る。
「僕もそう思ったんだ。でも、その首飾りからは全く魔力を感じない。星具は天使の道具だから、魔力の反応がするし、魔力がないと使えない。そして何より、その首飾りは人間用なんだ。じっちゃんはそれを拾った時、すぐにそう感じたらしい。これは人間のものだって。だから星具ではない。それもあって、じっちゃんは人間であるかえちゃんにそれを渡したんだと思う」
「私の星剣と同じですね。初めてこの星剣を見た時、呼ばれている気がしたのです。その首飾りが人間用であるように、この星剣は私用なのです」
いつの間にか俺の横には、頬を腫らしたエルシオがいた。ルルフィアは座り込んで頬を手で押さえている。勝者はエルシオのようだ。新人が虐められているようで、なんだか心が痛い。
「そう! エルシオさんが言ったとおり、おそらくそれは人間専用の道具で、その点は星具に似ているんだ。星具は持つものを選ぶ。星剣がエルシオさんを選んだように、その首飾りはかえちゃんを選んでいた。かえちゃん以外には、この世界に長い時間滞在する人間はいないからね」
「まぁ、この世界で人間用の道具があるとすれば、今は楓以外には使えない。楓専用って言っても過言じゃないわね。星具じゃないにしろ、魔法を解けるっていうのはかなり使い勝手がある道具よ」
フィロがそう言い切った時、両頬を押さえながらトボトボと近づいてきたルルフィアが、俺たちの会話に参加した。
「人間用は死神用でもあるのでは?」
一瞬、時間が止まったような静けさがこの場を支配した。
自分の発言で沈黙が生まれていることに気づいていないルルフィアは、俺たちと同じ表情で固まっている。なぜだ。なぜ同じ顔ができるのだ。
それにしても、ルルフィアの発言は盲点だった。この場にいる誰もが、その可能性に気づいていなかった。人間=死神という考えを忘れていた。
もしも、天使の魔法の効果を消せるこの道具が、死神も使えるとしたら、この道具は天使にとってかなりの弊害になる。
「まぁなんにせよ、それのおかげで助かったってことかしらね。楓がそれを持っていてくれてよかった」
フィロは、静寂から俺たちを解放した。
「よかった」というのは、フィロがウリエルの魔法から解放されたことに対してなのか、それとも、この勾玉を死神が拾わなくてよかったということなのか。
どちらにせよ、俺はあることに気づいていた。この勾玉を見た天使たちは、怖いという印象や、石という表現をしている。誰も、勾玉とは言わなかった。「初めて見た」とフィロは言っていた。
こんなにも特徴的な形をしているのだ。日本人にこの形を見せれば、石ではなく勾玉と言うだろう。
たまたまこの形の石を天使が天界で作成したのか、はたまた、人間界で勾玉を見た天使がこの首飾りを作ったのか。もしくは、死神がこの道具を作ったのか。
この勾玉が人間用。すなわち死神用で、天使の魔法を消すために作られた道具なのだとすれば、選択肢は絞られる。
「……そろそろね。私、セナちゃんを迎えに行ってくるわ。早く行かないと、ガブリエルのところに飛ばされる」
俺が頭の中で考えを巡らせていた時、フィロはそう言ってゲートを開いた。
「ルル、少しだけ粉を分けてくれる? 面接に使いたいの」
「了解! その壺に入れるよ!」
ルルフィアの腕に抱かれるように、綺麗な壺が現れた。フィロの壺よりも綺麗で、刻まれている模様もどこか違う気がする。そしてその壺から、ルルフィアは少しだけ粉をフィロの壺へ移し替えた。
「幸せの粉」の大切さは知っている。粉を渡すということは、それほどフィロを信用しているということだろう。そう思うと同時に、フィロも俺を信用してくれていたのだと、安堵と喜びが混ざった気持ちが心を満たした。
「じゃあ、私たちはここで待っているです。ドアンポンの子守が必要なので」
やっと終わったと思っていたが、今度はエルシオ発端か。
「子守りなんて必要ない! ですシオの方こそ、ルルが面倒見てあげないとでしょ?」
「はあ〜!? 私はエルシオなのです! いつになったら覚えるのですか!? ドアンポンを超えて、ドドアンポンなのです」
だめだ。こいつら相性が悪すぎる。いや、喧嘩するほど仲がいいとはこういうことなのだろうか。
「シルエト、星域で待ってて。すぐに連れてくから。見れるわよ。人間界とは比べ物にならない、とびっきりのがね」
フィロはシルエトに声をかけた。2人の喧嘩など、視界にも入っていない。
再び喧嘩の仲裁に入ろうとしていたシルエトは、フィロの言葉を聞いて笑みを見せた。
「ありがとうございます。待ってます」
「こいつらのことは俺に任せろ。シルエト、わかってるな?」
なんのことか理解していなさそうなシルエトに、俺は耳打ちする。
「それは……わかった。頑張るよ」
俺はシルエトの背中を軽く叩く。
そして、深呼吸をした。俺はこれから、戦争の渦中に自ら飛び込む。
俺の頬が腫れ上がったのは、その数十秒後だ。
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