35話 炎天と星の攻防
ー/ー「エルシオ。やはり我々の元に戻ってこい。私の剣を受け止めるなど、どの隊の隊長でも不可能だろう。それに、結界も壊すとは」
「遠慮しておくのです」
「そうか。考えた結果がそれならば、次に貴様は、誰に剣を向けているのかを考えた方がいい 」
エルシオはミカエルと向かい合っている。お互い1歩たりとも動かない。ミカエルの後方にはウリエル。ウリエルの戦闘能力は、おそらく高くはない。今のエルシオとの一騎打ちであれば、エルシオの勝利は確実。ただ、問題はその目だ。目が合ったら終わり。私たちの負けだ。決して大げさな表現ではない。それほどまでに、ウリエルの「盲信の目」は脅威的だ。
ミカエルはエルシオの実力を知っている。決して油断はせず、手加減もしないはずだ。だからこそ、今慎重に距離を取り、エルシオの出方を伺っている。だがそれは、私たちにとって1番厄介な手だ。そもそも、魔力の残っていない私とエルシオでは、戦力差で負けている。消耗戦になれば、増援が来る可能性もある。エルシオがいくら強いといえど、私を庇いながらの戦闘には限界があるはずだ。つまり、一刻も早くここから逃げるのが最適解。
結界はエルシオが破っている。ここでゲートを使うことは可能だ。ただ、私にはもう魔力が残っていない。エルシオがゲートを使用して2人とも逃げるのが1番手っ取り早いが、その隙がない。今エルシオが剣を構えるのをやめてゲートを開く動作に移った場合、ミカエルはその隙を逃さない。ミカエルのスピードは先程確認したばかりだ。間違いなく間に合わない。それについては、対峙しているエルシオの方が理解しているはずだ。
「エフィルロ。魔力は?」
「もうないわ。少なくともミカエルをどうにかしないと、私たちは逃げられない」
「わかりました。なんとかするのです」
エルシオは覚悟を決めたのか、双剣を先程までと違う型で構えた。ミカエルもそれに気付き、同じように構える。
私には剣術はまったくと言っていいほどわからない。今2人がどんな状態で、どちらの方が優勢なのか、わかる天使にはわかるのだろうか。
「知っているとは思うけど、ウリエルの目には注意して。見たら終わりよ」
「それなのですが、さっきここに来た時咄嗟に一瞬見てしまったのです」
「え?」
ウリエルの「盲信の目」は、一瞬でも見たら魔法の効果が発動するはずだ。発動すれば、見た者をウリエルは思い通りに操作できる。エルシオが本当に目を見たのであれば、エルシオは今頃私の首を刎ねている。
私たちの会話を聞いていたのか、ウリエルは口を開いた。
「おそらく星刻ですね……ミカエル、気をつけてください。彼女は先程自身で言ったとおり、無敵なのかもしれません」
「星刻など関係ない。星刻も星剣も、私の前ではただのおもちゃだ」
ウリエルの忠告を無視して、ミカエルは地面へと右足を踏み込んだ。次に私が目視できたのは、エルシオの腹部に向かう炎天の剣。あまりにも速すぎる。炎天の剣の残像が、まるで空気が燃えているように一直線に見えており、ミカエルが通過したであろう草原は、跡形もなく焦げていた。そしてなにより、そのスピードは、さっきよりも数段早くなっている。
エルシオの反応も速かった。だが、ミカエルのスピードには及ばない。
「遅いな、もう少し楽しめると思ったが」
受け止めるために腹部へ向かわせた星剣の間を縫うように、炎に包まれた剣がエルシオの腹部へ直撃した。その瞬間、本来なら剣が通過したであろうエルシオの腹部に光が見えた。この光を私は知っている。星だ。星域で見られる、あの星々と同じ光だ。
「……本当に、どんな攻撃も当たらないようなのです」
エルシオは見たところ無傷。服にすら破れも汚れも見えない。それどころか、傷を負っているのはミカエルの方だ。星刻の効果を見て、エルシオから距離を取ったミカエルの右肩からは血が流れている。
「本気で腕を落とすつもりだったのですが、さすが団長なのです」
エルシオはそう呟きミカエルを睨んだ。ミカエルは右肩の流血に目を向けた後、燃え盛る剣を再び構えた。
「面白い。面白いぞ! 久しぶりに楽しめそうだ! 星刻だけではない。剣筋も一流だ。やはり血は裏切らんか!」
興奮するミカエルへ、ウリエルが呆れた様子で声をかける。
「ミカエル。楽しむのもいいですがほどほどに。目的はエフィルロを処理することです。無敵の天使ではない」
あの星刻がある限り、エルシオには攻撃は当たらない。無敵という言葉通り、まさに敵無しだと言いたいところではあるが、実はそうではない。
星刻には欠点がある。星刻の効果は、星刻機がある限り消えない。逆に言えば、星刻機が壊れてしまえば、効果は無くなるということだ。
エルシオは相当な手練れだ。天界騎士団第二部隊の隊長を務めていたことが、その何よりの証拠だ。そんなエルシオが不意を突いて攻撃したのにも関わらず、ミカエルには肩の傷1つしか付いていない。実力差はかなりある。
つまり、もし先ほど星刻機が狙われていれば、星刻機は壊され、エルシオの無敵の鎧は剥がれていた。星刻無しでの戦いになれば、おそらく勝機は無い。
またしても、ミカエルは地面へ足を踏み込んだ。星刻の効果はもう知られている。もし、星刻機を壊せば星刻が無くなることを知られていれば、この一撃で勝敗が決まる。
いや、もう決まっているのかもしれない。大天使が、星具である星刻機の仕様を知らないはずがない。
「ミカエル。彼女が首から下げている星刻機を狙ってください」
「狙うはずがないだろう。私は楽しみたいのだ。無敵の天使に勝つ。それが、天界騎士団団長として恥じのない勝ち方だ」
ミカエルはそう言って、またしてもエルシオに剣を振るう。エルシオの反応速度も上がっている。今度は星刻の効果ではなく、自身の双剣でミカエルの剣を受け止めた。
ぶつかり合う炎天の剣と星剣が辺りに火花を散らす。燃え盛る炎による熱風が、輝かしい星のような煌めきが、この戦いの壮絶さを物語っていた。夜だというのにこの場所だけが異常に明るく、2人の姿はその光を追うことでしか認識できない。それほどまでに速い攻防が、目の前で繰り広げられている。私が立ち入れる領域ではなかった。だがそれは、ウリエルも同じだろう。
私はウリエルの方を確認する。しかし、先程までそこにいたはずのウリエルの姿が見えない。
おかしい。気配は消えていない。
「エフィルロ! 目を!」
エルシオの声が聞こえた。目だ。目を閉じなければいけない。エルシオはそう伝えたいのだろう。
だが、時はすでに遅かった。ゲートだ。ゲートが目の前に現れている。その可能性を失念していた。
ウリエルにはスピードは無い、不意に私の視界に入るのは不可能だと思い込んでいた。結界が壊れてゲートが使えることを、私は知っていたはずなのに。
1番気をつけなければならないことを、疎かにしていた。
「こんばんは。私のエフィルロ」
気づいた時には、不適な笑みが私の目と鼻の先にあった。
ゲートから顔だけを晒したウリエルは、私と目を合わして笑っている。それは同時に、私がウリエルの「盲信の目」を見ているということだ。
心臓が、鼓動を強く打っている。私の脳が、体が、そして、全身に流れる血までもが、私のものではないような感覚に襲われた。
「余計なことを……これでは勝負がついてしまうではないか」
ミカエルの声が聞こえた。まだ、私の意識はある。
ーーーーーー大丈夫だ。まだ支配されては……
「エフィルロ、エルシオの記憶を全て消しなさい。魔力は私が分けてあげるから」
ーーーーーーあぁ、そうだ。私は、エルシオの記憶を消さなければならない。
魔力がウリエルから私に流れ込んでくる。これで、心置きなく私の魔法が使える。
エルシオの記憶を消す。存在しうる全ての記憶を。
全ては、ウリエルのために。
「遠慮しておくのです」
「そうか。考えた結果がそれならば、次に貴様は、誰に剣を向けているのかを考えた方がいい 」
エルシオはミカエルと向かい合っている。お互い1歩たりとも動かない。ミカエルの後方にはウリエル。ウリエルの戦闘能力は、おそらく高くはない。今のエルシオとの一騎打ちであれば、エルシオの勝利は確実。ただ、問題はその目だ。目が合ったら終わり。私たちの負けだ。決して大げさな表現ではない。それほどまでに、ウリエルの「盲信の目」は脅威的だ。
ミカエルはエルシオの実力を知っている。決して油断はせず、手加減もしないはずだ。だからこそ、今慎重に距離を取り、エルシオの出方を伺っている。だがそれは、私たちにとって1番厄介な手だ。そもそも、魔力の残っていない私とエルシオでは、戦力差で負けている。消耗戦になれば、増援が来る可能性もある。エルシオがいくら強いといえど、私を庇いながらの戦闘には限界があるはずだ。つまり、一刻も早くここから逃げるのが最適解。
結界はエルシオが破っている。ここでゲートを使うことは可能だ。ただ、私にはもう魔力が残っていない。エルシオがゲートを使用して2人とも逃げるのが1番手っ取り早いが、その隙がない。今エルシオが剣を構えるのをやめてゲートを開く動作に移った場合、ミカエルはその隙を逃さない。ミカエルのスピードは先程確認したばかりだ。間違いなく間に合わない。それについては、対峙しているエルシオの方が理解しているはずだ。
「エフィルロ。魔力は?」
「もうないわ。少なくともミカエルをどうにかしないと、私たちは逃げられない」
「わかりました。なんとかするのです」
エルシオは覚悟を決めたのか、双剣を先程までと違う型で構えた。ミカエルもそれに気付き、同じように構える。
私には剣術はまったくと言っていいほどわからない。今2人がどんな状態で、どちらの方が優勢なのか、わかる天使にはわかるのだろうか。
「知っているとは思うけど、ウリエルの目には注意して。見たら終わりよ」
「それなのですが、さっきここに来た時咄嗟に一瞬見てしまったのです」
「え?」
ウリエルの「盲信の目」は、一瞬でも見たら魔法の効果が発動するはずだ。発動すれば、見た者をウリエルは思い通りに操作できる。エルシオが本当に目を見たのであれば、エルシオは今頃私の首を刎ねている。
私たちの会話を聞いていたのか、ウリエルは口を開いた。
「おそらく星刻ですね……ミカエル、気をつけてください。彼女は先程自身で言ったとおり、無敵なのかもしれません」
「星刻など関係ない。星刻も星剣も、私の前ではただのおもちゃだ」
ウリエルの忠告を無視して、ミカエルは地面へと右足を踏み込んだ。次に私が目視できたのは、エルシオの腹部に向かう炎天の剣。あまりにも速すぎる。炎天の剣の残像が、まるで空気が燃えているように一直線に見えており、ミカエルが通過したであろう草原は、跡形もなく焦げていた。そしてなにより、そのスピードは、さっきよりも数段早くなっている。
エルシオの反応も速かった。だが、ミカエルのスピードには及ばない。
「遅いな、もう少し楽しめると思ったが」
受け止めるために腹部へ向かわせた星剣の間を縫うように、炎に包まれた剣がエルシオの腹部へ直撃した。その瞬間、本来なら剣が通過したであろうエルシオの腹部に光が見えた。この光を私は知っている。星だ。星域で見られる、あの星々と同じ光だ。
「……本当に、どんな攻撃も当たらないようなのです」
エルシオは見たところ無傷。服にすら破れも汚れも見えない。それどころか、傷を負っているのはミカエルの方だ。星刻の効果を見て、エルシオから距離を取ったミカエルの右肩からは血が流れている。
「本気で腕を落とすつもりだったのですが、さすが団長なのです」
エルシオはそう呟きミカエルを睨んだ。ミカエルは右肩の流血に目を向けた後、燃え盛る剣を再び構えた。
「面白い。面白いぞ! 久しぶりに楽しめそうだ! 星刻だけではない。剣筋も一流だ。やはり血は裏切らんか!」
興奮するミカエルへ、ウリエルが呆れた様子で声をかける。
「ミカエル。楽しむのもいいですがほどほどに。目的はエフィルロを処理することです。無敵の天使ではない」
あの星刻がある限り、エルシオには攻撃は当たらない。無敵という言葉通り、まさに敵無しだと言いたいところではあるが、実はそうではない。
星刻には欠点がある。星刻の効果は、星刻機がある限り消えない。逆に言えば、星刻機が壊れてしまえば、効果は無くなるということだ。
エルシオは相当な手練れだ。天界騎士団第二部隊の隊長を務めていたことが、その何よりの証拠だ。そんなエルシオが不意を突いて攻撃したのにも関わらず、ミカエルには肩の傷1つしか付いていない。実力差はかなりある。
つまり、もし先ほど星刻機が狙われていれば、星刻機は壊され、エルシオの無敵の鎧は剥がれていた。星刻無しでの戦いになれば、おそらく勝機は無い。
またしても、ミカエルは地面へ足を踏み込んだ。星刻の効果はもう知られている。もし、星刻機を壊せば星刻が無くなることを知られていれば、この一撃で勝敗が決まる。
いや、もう決まっているのかもしれない。大天使が、星具である星刻機の仕様を知らないはずがない。
「ミカエル。彼女が首から下げている星刻機を狙ってください」
「狙うはずがないだろう。私は楽しみたいのだ。無敵の天使に勝つ。それが、天界騎士団団長として恥じのない勝ち方だ」
ミカエルはそう言って、またしてもエルシオに剣を振るう。エルシオの反応速度も上がっている。今度は星刻の効果ではなく、自身の双剣でミカエルの剣を受け止めた。
ぶつかり合う炎天の剣と星剣が辺りに火花を散らす。燃え盛る炎による熱風が、輝かしい星のような煌めきが、この戦いの壮絶さを物語っていた。夜だというのにこの場所だけが異常に明るく、2人の姿はその光を追うことでしか認識できない。それほどまでに速い攻防が、目の前で繰り広げられている。私が立ち入れる領域ではなかった。だがそれは、ウリエルも同じだろう。
私はウリエルの方を確認する。しかし、先程までそこにいたはずのウリエルの姿が見えない。
おかしい。気配は消えていない。
「エフィルロ! 目を!」
エルシオの声が聞こえた。目だ。目を閉じなければいけない。エルシオはそう伝えたいのだろう。
だが、時はすでに遅かった。ゲートだ。ゲートが目の前に現れている。その可能性を失念していた。
ウリエルにはスピードは無い、不意に私の視界に入るのは不可能だと思い込んでいた。結界が壊れてゲートが使えることを、私は知っていたはずなのに。
1番気をつけなければならないことを、疎かにしていた。
「こんばんは。私のエフィルロ」
気づいた時には、不適な笑みが私の目と鼻の先にあった。
ゲートから顔だけを晒したウリエルは、私と目を合わして笑っている。それは同時に、私がウリエルの「盲信の目」を見ているということだ。
心臓が、鼓動を強く打っている。私の脳が、体が、そして、全身に流れる血までもが、私のものではないような感覚に襲われた。
「余計なことを……これでは勝負がついてしまうではないか」
ミカエルの声が聞こえた。まだ、私の意識はある。
ーーーーーー大丈夫だ。まだ支配されては……
「エフィルロ、エルシオの記憶を全て消しなさい。魔力は私が分けてあげるから」
ーーーーーーあぁ、そうだ。私は、エルシオの記憶を消さなければならない。
魔力がウリエルから私に流れ込んでくる。これで、心置きなく私の魔法が使える。
エルシオの記憶を消す。存在しうる全ての記憶を。
全ては、ウリエルのために。
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