29話 ミッションスタート
ー/ー「この人を知ってるのか?」
「うん。知っているよ。ずっと前からね」
シルエトの顔は決して明るくはない。その表情から溢れ出る哀愁は、彼女にそれなりの想いがあることを意味していた。何かしらの繋がりがある。それも、深い繋がりが。
「ずっと前って、いつからなのですか? 天界騎士団が人間と関わる機会なんて、そう無いはずなのです」
「まぁついてきてよ。この子の居場所ならよく知ってるんだ」
シルエトは俺たちを先導し、ある病室の前で立ち止まった。たしかに、アイボーンの目印はここを指している。
閉まっていた扉が開き、中から看護師さんが出てきた。入れ違いになるように、俺たちは病室の中へ入る。
中にはベッドが1つ。そして、そこに横たわる女性が1人。瞼を閉じている、眠っているのだろうか。
ーーーーーーこの人が……今回のターゲットか……
彼女を見た瞬間、綺麗だと思った。純粋にそう思ったのだ。シルエトと同じで、とても整った顔立ちをしている。 「やあ」と挨拶したシルエトに反応し、彼女の表情が明るくなる。まるで、俺たちを歓迎しているかのように。それよりも、その反応はおかしい。俺たちの声は人間には聞こえていないはずだ。それなのに、彼女はシルエトの挨拶に反応を示した。
「あら? 泣き虫なシルエトじゃない」
「ははっ、それも内緒にしといてくれよ。友達もいるんだから。友達のかえちゃんと、先輩のエルシオさんだよ」
「ほかにもいらっしゃるのね、今まで誰かを連れてくることなんてなかったから、お友達はいないんだと思ってた」
「失礼だなぁ。僕にだって友達くらいいるさ」
あまりにも平然と会話が繰り広げられているため、俺たちがこの世の者ではないことを忘れてしまいそうになる。
今回のターゲットである「秋月 星奈」は、当たり前のようにシルエトと会話をしている。病室で横になっているのだから、幽霊というわけでもないだろう。そして、仕事の対象であるため、きっと天使でもない。
彼女はずっと瞼を閉じたままで、俺たちを見ようとしない。俺とエルシオがいることも、シルエトの紹介があるまで気づかなかった。
この異例の事態に、隣のエルシオですら驚いている。状況が理解できていない俺とエルシオは、ただ彼らの会話を聞いているしかなかった。
「セナ。彼らにセナのことを話してもいいかな」
「もちろん。本当は面と向かって挨拶をしたいんですけど…ごめんなさい。私ね、目が見えないの」
目が見えない。それで瞼は閉じたままなのだろう。そしてそれが、ここで入院している理由なのだろうか。
「あ、謝る必要はないのです! こちらこそ、急にお邪魔してごめんなさいなのです」
「可愛い声ね、きっとお顔も可愛いに違いない」
エルシオはその言葉を聞き顔を赤くして、あからさまに照れている。
「じゃあ、一旦外すよ。2人と少し話をしてくる」
「はーい、じゃあ、待ってるね?」
笑顔で手を振るセナさんを背に俺たちは、ちょうど戻ってきたさっきの看護師さんと入れ替わるようにして病室を後にした。
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「まぁこういうことだよ。彼女は病気で目が見えない。だからかはわからないけど、彼女は僕たち天使を……あとかえちゃんもだね、本来人間が感じれれないものを感じられるみたいなんだ」
第六感。なんて言葉を聞いたことがある。超能力者や霊媒師のような、特殊な能力を持つ人間。彼女もその1人ということだろうか。
それに、耳が聞こえなくなれば視力や空間把握能力が、目が見えなくなれば聴力や嗅覚が、普通よりも発達するなんて話も聞いたことがある。もしかしたら、その類なのかもしれない。
「今まで何度も会ったことがあるのですか? 仲がよさそうに見えたのです」
「そう。僕がまだ天界騎士団の見習いの時、粉持ちの仕事を手伝ったことがあるんだ。人間界に、幸せの粉をかけにくる仕事だね。今のかえちゃんやエルシオさんと同じだよ。その時に、たまたまセナに出会った」
セナさんのことを話すときのシルエトは、とても幸せそうな顔をしている。まるで、特別な想いを持っているような、そんな顔だ。
「綺麗でしょ? 彼女は僕の……初恋の相手なんだ」
なんの恥ずかしげもなく、シルエトはそう告白した。こういう話に慣れていないのか、エルシオはまた顔を赤くする。赤面するエルシオを見て、シルエトは苦笑した。
そしてシルエトは語り始めた。セナさんとの出会いや、病気のこと。そして、初恋について。
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楓とエルシオに仕事の連絡をした私は、こっちの仕事を済ませるためにコハクリアへ来ていた。
「当てがある」なんて調子のいいことを言ったはいいものの、正直、自信は無かった。それでも、私は幸せの粉を調達しなければならない。
粉が無くなれば、楓のポイントを貯める術が無くなる。正確には、私はそれ以外にポイントを貯める方法を知らない。
ーーーーーー久しぶりね……また来ることになるなんて。
周りの天使に気づかれないよう、気配を限りなく消し、フードを深く被り、顔が見えないように歩いた。
いつもと同じだ。コハクリアに用がある時はこうして私だとバレないように行動している。
だが、今回はただ街を歩くわけではない。好きな漫画を買いに来た天使ではないのだ。
「幸せの粉」を、奪いに来た天使だ。
私が向かわなければいけないのは「粉持ち」を監禁している場所だ。そこに行けば、幸せの粉はあるはず。そして、その場所の見当もついている。
私の勘では、彼女であれば今も粉を隠し持っているはずだ。つまり、彼女をローズベルクに連れていくことができればミッションクリア。
いや、彼女さえ、ローズベルクに送ることができれば問題はない。
ーーーーーーじゃあ……ミッションスタートね。
「うん。知っているよ。ずっと前からね」
シルエトの顔は決して明るくはない。その表情から溢れ出る哀愁は、彼女にそれなりの想いがあることを意味していた。何かしらの繋がりがある。それも、深い繋がりが。
「ずっと前って、いつからなのですか? 天界騎士団が人間と関わる機会なんて、そう無いはずなのです」
「まぁついてきてよ。この子の居場所ならよく知ってるんだ」
シルエトは俺たちを先導し、ある病室の前で立ち止まった。たしかに、アイボーンの目印はここを指している。
閉まっていた扉が開き、中から看護師さんが出てきた。入れ違いになるように、俺たちは病室の中へ入る。
中にはベッドが1つ。そして、そこに横たわる女性が1人。瞼を閉じている、眠っているのだろうか。
ーーーーーーこの人が……今回のターゲットか……
彼女を見た瞬間、綺麗だと思った。純粋にそう思ったのだ。シルエトと同じで、とても整った顔立ちをしている。 「やあ」と挨拶したシルエトに反応し、彼女の表情が明るくなる。まるで、俺たちを歓迎しているかのように。それよりも、その反応はおかしい。俺たちの声は人間には聞こえていないはずだ。それなのに、彼女はシルエトの挨拶に反応を示した。
「あら? 泣き虫なシルエトじゃない」
「ははっ、それも内緒にしといてくれよ。友達もいるんだから。友達のかえちゃんと、先輩のエルシオさんだよ」
「ほかにもいらっしゃるのね、今まで誰かを連れてくることなんてなかったから、お友達はいないんだと思ってた」
「失礼だなぁ。僕にだって友達くらいいるさ」
あまりにも平然と会話が繰り広げられているため、俺たちがこの世の者ではないことを忘れてしまいそうになる。
今回のターゲットである「秋月 星奈」は、当たり前のようにシルエトと会話をしている。病室で横になっているのだから、幽霊というわけでもないだろう。そして、仕事の対象であるため、きっと天使でもない。
彼女はずっと瞼を閉じたままで、俺たちを見ようとしない。俺とエルシオがいることも、シルエトの紹介があるまで気づかなかった。
この異例の事態に、隣のエルシオですら驚いている。状況が理解できていない俺とエルシオは、ただ彼らの会話を聞いているしかなかった。
「セナ。彼らにセナのことを話してもいいかな」
「もちろん。本当は面と向かって挨拶をしたいんですけど…ごめんなさい。私ね、目が見えないの」
目が見えない。それで瞼は閉じたままなのだろう。そしてそれが、ここで入院している理由なのだろうか。
「あ、謝る必要はないのです! こちらこそ、急にお邪魔してごめんなさいなのです」
「可愛い声ね、きっとお顔も可愛いに違いない」
エルシオはその言葉を聞き顔を赤くして、あからさまに照れている。
「じゃあ、一旦外すよ。2人と少し話をしてくる」
「はーい、じゃあ、待ってるね?」
笑顔で手を振るセナさんを背に俺たちは、ちょうど戻ってきたさっきの看護師さんと入れ替わるようにして病室を後にした。
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「まぁこういうことだよ。彼女は病気で目が見えない。だからかはわからないけど、彼女は僕たち天使を……あとかえちゃんもだね、本来人間が感じれれないものを感じられるみたいなんだ」
第六感。なんて言葉を聞いたことがある。超能力者や霊媒師のような、特殊な能力を持つ人間。彼女もその1人ということだろうか。
それに、耳が聞こえなくなれば視力や空間把握能力が、目が見えなくなれば聴力や嗅覚が、普通よりも発達するなんて話も聞いたことがある。もしかしたら、その類なのかもしれない。
「今まで何度も会ったことがあるのですか? 仲がよさそうに見えたのです」
「そう。僕がまだ天界騎士団の見習いの時、粉持ちの仕事を手伝ったことがあるんだ。人間界に、幸せの粉をかけにくる仕事だね。今のかえちゃんやエルシオさんと同じだよ。その時に、たまたまセナに出会った」
セナさんのことを話すときのシルエトは、とても幸せそうな顔をしている。まるで、特別な想いを持っているような、そんな顔だ。
「綺麗でしょ? 彼女は僕の……初恋の相手なんだ」
なんの恥ずかしげもなく、シルエトはそう告白した。こういう話に慣れていないのか、エルシオはまた顔を赤くする。赤面するエルシオを見て、シルエトは苦笑した。
そしてシルエトは語り始めた。セナさんとの出会いや、病気のこと。そして、初恋について。
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楓とエルシオに仕事の連絡をした私は、こっちの仕事を済ませるためにコハクリアへ来ていた。
「当てがある」なんて調子のいいことを言ったはいいものの、正直、自信は無かった。それでも、私は幸せの粉を調達しなければならない。
粉が無くなれば、楓のポイントを貯める術が無くなる。正確には、私はそれ以外にポイントを貯める方法を知らない。
ーーーーーー久しぶりね……また来ることになるなんて。
周りの天使に気づかれないよう、気配を限りなく消し、フードを深く被り、顔が見えないように歩いた。
いつもと同じだ。コハクリアに用がある時はこうして私だとバレないように行動している。
だが、今回はただ街を歩くわけではない。好きな漫画を買いに来た天使ではないのだ。
「幸せの粉」を、奪いに来た天使だ。
私が向かわなければいけないのは「粉持ち」を監禁している場所だ。そこに行けば、幸せの粉はあるはず。そして、その場所の見当もついている。
私の勘では、彼女であれば今も粉を隠し持っているはずだ。つまり、彼女をローズベルクに連れていくことができればミッションクリア。
いや、彼女さえ、ローズベルクに送ることができれば問題はない。
ーーーーーーじゃあ……ミッションスタートね。
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