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26話 第2フェーズ突入

ー/ー




 話に一段落つき、目を開いたジィが俺たちの分までお茶を出してくれた。一見怖そうに見えるが、案外優しいのかもしれない。フィロの過去を見てそう思った。いや、優しい天使は出会い頭に剣を突き刺してはこないかもしれない。


 そんなジィは眠たいのか、また目を瞑っている。俺たちは無言で温かいお茶を啜っていた。ランタンの明かりは、未だ継続的に揺れている。ここにきてからどのくらい時間が経ったのだろうか。とても長いようで、あっという間だった気もする。不思議な気分だ。
 
「真実を知ったら、もうちょっとギクシャクするかと思ったけど、とんだ思い違いだったみたいね」


 お茶を飲み干したフィロが、無言の時間に終わりを告げた。
 猫舌の俺はまだ少ししか飲めていない。天使舌でもあるのだろうか、エルシオの湯呑みも空だ。


「私たちはもう大人なのです。衝撃的ではありましたが、取り乱すほどでは無いのです」


「一応俺、まだ高校生なんだけどな」


「生まれてから17年でしょ? もう大人みたいなもんよ」


 目を瞑っているのを良いことに、フィロはジィの分のお茶を飲んでいる。
 後で怒られるだろうと思ったが、フィロとジィの間には古くからの顔馴染み感が漂っている。フィロに対して怒ることはないのかもしれない。


「エフィルロはなぜ、今になってこの真実を話そうと思ったのですか? ジィに先に口止めをしておけば、話す必要はなかったのです。私が大人になったからですか?」


 確かにそうだ。ギクシャクすると予想していたのであれば、話さないという選択肢もあったはずだ。
 話すことで得られるメリットは特に無いように思える。


「良いきっかけだったからね。大人になったって言うのもそうだけど、それよりも、天界はもう私たちの仕事をしていないって、知っておいた方が良いと思ったの」


 「なぜですか?」そう言ってエルシオは首を傾げる。


「実はあの日、シルエトと話したの。その時、天界が私たちの存在に気づいていると言ってた。それで、私たちのことを探しているから、もう時間の問題だって。だから、心配ないとは思うけど、一応真実を知っておいた方が、何かあったときに対応しやすいかなって」


 あの日。俺がシルエトに会った日だろう。あの後すぐにエルシオと星域に行ったため、その間にフィロもシルエトに会っていたのだろうか。


「そうですか……。まぁ、この仕事を他の天使がまったくしていないのであれば、今までよりも一層気が引き締まるのです。楓くんだけでなく、私たちも他の天使に見つかるのはまずいのです」


 それもそうだ。もし王や四大天使、天界騎士団がフィロやエルシオを探しているのであれば、俺たちも真実を知っておいた方が何かと融通が効くだろう。
 俺がシルエトと出会った時も、何を話してよくて、何を話してはいけないかがわからなかった。今回色々な話を聞けたことで、大体の天界の状況は掴めた。話を聞いた後ほど、あの時シルエトが俺たちを見逃したのがよくわからないが。さらにフィロとも会っている。あいつは天界騎士団のはずだ。
 もしかしたら、シルエトも真実を知って、フィロやエルシオと同じ気持ちになっているのかもしれない。
 人間に幸せを与えたい天使も、少なからずこの天界にはいるはずだ。


「なぁ、一個聞きたいんだけど」


 俺はフィロとエルシオの目を交互に見る。どこかまったりとした雰囲気のため、真面目な質問はしにくいが、気になってしまった。
 人間に幸せを与えたい天使が一定数いるのであれば、誰かが王や四大天使に喧嘩を売っていても良いはずだ。


「フィロとエルシオが天界の新しいルールを変えることを諦めるほど、王や四大天使は強いのか?」


 少し空気がピリついた。それほどまでに、天使の強さには差があるのだろうか。


「私は、天界騎士団だったので、団長のミカエルには会ったことがあるのです。天界騎士団などと名乗って集団で動かなくても、ミカエル1人で十分なのではと思うほど強いのです。私では相手にならないと思うのです」


「他の大天使も同じようなものよ。ただ、ラファエルだけは頭が1つ抜けてるかもね、私もあまり知らないけれど、下手したら、王であるバセラフィルよりも手強いと言われてるわ。王でさえも、彼の扱いには気を遣ってる」


 ミカエル、ウリエル、ガブリエルに関しては、フィロが見せてくれた記憶で大体の能力は理解できている。王についてもだ。ただ、ラファエルに関しては情報が無かった。話を聞く限り、相当な強さなのだろう。
 四大天使。ミカエル1人でエルシオでも怖気付くほどだ。確かに、そんな天使たちに刃向かうのは無謀なのかもしれない。


「話し合うってのはどうなんだ?」


「もちろん、私だって考えたわ。人間に幸せを与える本来の天界に戻してほしい。その気持ちは、エルシオも同じだとは思う。せめて、半分ことかね」


「それができそうであれば、私は真実を知った直後にゲートを開いているのです」


「無理なのよ。バセラフィルは絶対に話し合いには応じないわ」


 フィロとエルシオの反応を見るに、ただ話し合いに応じないだけでなく、何か、根本的な理由があるように思えた。応じないではなく、応じられない、と言うような。


「おそらく、王や四大天使は幸せの粉を常に使用できる環境にあるのです。つまり、粉がもたらせる可能な限りの幸せが与えられている。そして、彼らは人間に粉をかける必要はないと本気で思っているのです。人間には粉は使わず、天使たちに使う。それが彼らの願いなのです」


 何やら難しい話をされているようだが、なんとなくは理解できた。幸せの粉は、かけられた者を幸せにする。人間にしろ天使にしろ、使い方や効果は同じ。その者が思う幸せを、もたらしてくれる。


「そう言うこと。つまり、私たちがどれだけ話し合いを持ち込んでも、結局人間に粉をかけない方向に話は進んでいく。それが、王や四大天使の幸せだから」


「なら、良いこと思いついたぞ。こっちも粉を使えば……」


「無駄ね。人数もさながら、粉の量に圧倒的な差がある。覆ることはないわ」


 盲点だった。フィロが持っている粉には限界がある。残りは少ない。粉持ちの天使を大勢配下に置いている王に、粉の打ち合いで勝てるとは思えない。
 幸せの粉の力は十分知っている。その力を自由に使えるのであれば、勝てる勝負もきっと勝てなくなる。


「そうか……なら、このまま……俺たちだけで仕事を……いや、粉が無くなったらどうするんだ? もう残り少ないんだろ?」


 今の天界を変えるとか、幸せの粉が少ないから王に立ち向かえないとか、そんなことよりも、フィロの目的を果たすには、俺のポイント獲得が必須だ。
 幸せの粉が無くなったら、俺がポイントを貯める手段も無くなる。


「そー! だから、粉を回収しようかと思うの!」


「回収って……」
「どうやってですか?」


 俺たちの反応を見ながら、フィロは立ち上がった。そして、片手を振り上げ俺たちの視線を集める。
 指が2本立っている。じゃんけんでいえばチョキ、平和といえばピースだ。


「私たちは、ここから第2フェーズに突入するわ!!」


 フィロは高々と大声でそう言い放った。
 声に反応し、結局寝ていたのか起きていたのか不明であるジィが、重そうな瞼を開き、目の前の空になった湯呑みを視界に捉えた。


「……老人を労わらんか」



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次のエピソードへ進む 27話 こんがらがっちゃ


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 話に一段落つき、目を開いたジィが俺たちの分までお茶を出してくれた。一見怖そうに見えるが、案外優しいのかもしれない。フィロの過去を見てそう思った。いや、優しい天使は出会い頭に剣を突き刺してはこないかもしれない。
 そんなジィは眠たいのか、また目を瞑っている。俺たちは無言で温かいお茶を啜っていた。ランタンの明かりは、未だ継続的に揺れている。ここにきてからどのくらい時間が経ったのだろうか。とても長いようで、あっという間だった気もする。不思議な気分だ。
「真実を知ったら、もうちょっとギクシャクするかと思ったけど、とんだ思い違いだったみたいね」
 お茶を飲み干したフィロが、無言の時間に終わりを告げた。
 猫舌の俺はまだ少ししか飲めていない。天使舌でもあるのだろうか、エルシオの湯呑みも空だ。
「私たちはもう大人なのです。衝撃的ではありましたが、取り乱すほどでは無いのです」
「一応俺、まだ高校生なんだけどな」
「生まれてから17年でしょ? もう大人みたいなもんよ」
 目を瞑っているのを良いことに、フィロはジィの分のお茶を飲んでいる。
 後で怒られるだろうと思ったが、フィロとジィの間には古くからの顔馴染み感が漂っている。フィロに対して怒ることはないのかもしれない。
「エフィルロはなぜ、今になってこの真実を話そうと思ったのですか? ジィに先に口止めをしておけば、話す必要はなかったのです。私が大人になったからですか?」
 確かにそうだ。ギクシャクすると予想していたのであれば、話さないという選択肢もあったはずだ。
 話すことで得られるメリットは特に無いように思える。
「良いきっかけだったからね。大人になったって言うのもそうだけど、それよりも、天界はもう私たちの仕事をしていないって、知っておいた方が良いと思ったの」
 「なぜですか?」そう言ってエルシオは首を傾げる。
「実はあの日、シルエトと話したの。その時、天界が私たちの存在に気づいていると言ってた。それで、私たちのことを探しているから、もう時間の問題だって。だから、心配ないとは思うけど、一応真実を知っておいた方が、何かあったときに対応しやすいかなって」
 あの日。俺がシルエトに会った日だろう。あの後すぐにエルシオと星域に行ったため、その間にフィロもシルエトに会っていたのだろうか。
「そうですか……。まぁ、この仕事を他の天使がまったくしていないのであれば、今までよりも一層気が引き締まるのです。楓くんだけでなく、私たちも他の天使に見つかるのはまずいのです」
 それもそうだ。もし王や四大天使、天界騎士団がフィロやエルシオを探しているのであれば、俺たちも真実を知っておいた方が何かと融通が効くだろう。
 俺がシルエトと出会った時も、何を話してよくて、何を話してはいけないかがわからなかった。今回色々な話を聞けたことで、大体の天界の状況は掴めた。話を聞いた後ほど、あの時シルエトが俺たちを見逃したのがよくわからないが。さらにフィロとも会っている。あいつは天界騎士団のはずだ。
 もしかしたら、シルエトも真実を知って、フィロやエルシオと同じ気持ちになっているのかもしれない。
 人間に幸せを与えたい天使も、少なからずこの天界にはいるはずだ。
「なぁ、一個聞きたいんだけど」
 俺はフィロとエルシオの目を交互に見る。どこかまったりとした雰囲気のため、真面目な質問はしにくいが、気になってしまった。
 人間に幸せを与えたい天使が一定数いるのであれば、誰かが王や四大天使に喧嘩を売っていても良いはずだ。
「フィロとエルシオが天界の新しいルールを変えることを諦めるほど、王や四大天使は強いのか?」
 少し空気がピリついた。それほどまでに、天使の強さには差があるのだろうか。
「私は、天界騎士団だったので、団長のミカエルには会ったことがあるのです。天界騎士団などと名乗って集団で動かなくても、ミカエル1人で十分なのではと思うほど強いのです。私では相手にならないと思うのです」
「他の大天使も同じようなものよ。ただ、ラファエルだけは頭が1つ抜けてるかもね、私もあまり知らないけれど、下手したら、王であるバセラフィルよりも手強いと言われてるわ。王でさえも、彼の扱いには気を遣ってる」
 ミカエル、ウリエル、ガブリエルに関しては、フィロが見せてくれた記憶で大体の能力は理解できている。王についてもだ。ただ、ラファエルに関しては情報が無かった。話を聞く限り、相当な強さなのだろう。
 四大天使。ミカエル1人でエルシオでも怖気付くほどだ。確かに、そんな天使たちに刃向かうのは無謀なのかもしれない。
「話し合うってのはどうなんだ?」
「もちろん、私だって考えたわ。人間に幸せを与える本来の天界に戻してほしい。その気持ちは、エルシオも同じだとは思う。せめて、半分ことかね」
「それができそうであれば、私は真実を知った直後にゲートを開いているのです」
「無理なのよ。バセラフィルは絶対に話し合いには応じないわ」
 フィロとエルシオの反応を見るに、ただ話し合いに応じないだけでなく、何か、根本的な理由があるように思えた。応じないではなく、応じられない、と言うような。
「おそらく、王や四大天使は幸せの粉を常に使用できる環境にあるのです。つまり、粉がもたらせる可能な限りの幸せが与えられている。そして、彼らは人間に粉をかける必要はないと本気で思っているのです。人間には粉は使わず、天使たちに使う。それが彼らの願いなのです」
 何やら難しい話をされているようだが、なんとなくは理解できた。幸せの粉は、かけられた者を幸せにする。人間にしろ天使にしろ、使い方や効果は同じ。その者が思う幸せを、もたらしてくれる。
「そう言うこと。つまり、私たちがどれだけ話し合いを持ち込んでも、結局人間に粉をかけない方向に話は進んでいく。それが、王や四大天使の幸せだから」
「なら、良いこと思いついたぞ。こっちも粉を使えば……」
「無駄ね。人数もさながら、粉の量に圧倒的な差がある。覆ることはないわ」
 盲点だった。フィロが持っている粉には限界がある。残りは少ない。粉持ちの天使を大勢配下に置いている王に、粉の打ち合いで勝てるとは思えない。
 幸せの粉の力は十分知っている。その力を自由に使えるのであれば、勝てる勝負もきっと勝てなくなる。
「そうか……なら、このまま……俺たちだけで仕事を……いや、粉が無くなったらどうするんだ? もう残り少ないんだろ?」
 今の天界を変えるとか、幸せの粉が少ないから王に立ち向かえないとか、そんなことよりも、フィロの目的を果たすには、俺のポイント獲得が必須だ。
 幸せの粉が無くなったら、俺がポイントを貯める手段も無くなる。
「そー! だから、粉を回収しようかと思うの!」
「回収って……」
「どうやってですか?」
 俺たちの反応を見ながら、フィロは立ち上がった。そして、片手を振り上げ俺たちの視線を集める。
 指が2本立っている。じゃんけんでいえばチョキ、平和といえばピースだ。
「私たちは、ここから第2フェーズに突入するわ!!」
 フィロは高々と大声でそう言い放った。
 声に反応し、結局寝ていたのか起きていたのか不明であるジィが、重そうな瞼を開き、目の前の空になった湯呑みを視界に捉えた。
「……老人を労わらんか」