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25話 最上級の幸せ

ー/ー




「じゃあ次、俺の番。まず、なんで全員が地獄送りって状況で、俺は面接されたんだ?」


「たまたまよ。私は人間を幸せにしたいし、地獄にも送りたくない。だから、手の届く範囲の人間は救いたいの。たとえこぼれ落ちてしまっても、手一杯にね」


 同じようなことを、フィロは夢の中でも言っていた。
 たまたま選ばれた俺が、たまたま0ポイントでめんどくさいことになってしまったと言うことだろうか。


「じゃあ次、私の質問なのです。この真実は、今は誰がどこまで知っているのですか? 当時から状況は変わっているはずなのです」


「それについてはわしが答えようか」


 仲間はずれにされていたジィが、ここぞとばかりに口を挟む。


「人間に粉を使わんくなってから、しばらくはそのことを上層部しか知らなかった。じゃが最近は、加えて天界騎士団全員が知っておる」


「なるほど、なら、シルエトも知っていたわけですか……」


「そもそも死神を殲滅する団体じゃ。そもそも人間への好感度は低い。だから王は天界騎士団に公開した。もちろん、特に反感は買わなかったようじゃな。そのせいで、自分たちの仕事が増えると言うのに、目先の幸福に目が眩んでおる」


「それで、天界は幸せになっているのですか?」


「あぁ。幸福度は上がっておる。皆幸せそうじゃ。貧富の差も無くなってきておる。人間に与えられていた幸せが、全て天使に与えられておるんじゃ。当たり前と言えば当たり前のことじゃな」


「私からも良いかしら」


 ジィが答え終わると、フィロが挙手した。今フィロに質問権があることに違和感を抱くが、その水色の瞳がこちらを向いているのを見て思わず身構える。まさか、ここで俺に質問が来るとは思わなかった。


「なんで俺に? って顔をしてるけど、ここにいる全員が気になっていることだと思うわよ」


「え、なんだ、俺なんか変なこと言ったか?」


 フィロは大袈裟にため息を吐き、少し呆れたような素振りを見せる。


「いいえ、言ってないわ。でも、言ってなさすぎる」


 俺はフィロの言葉の意図がわからず、返事の代わりに目を細めた。


「人間がみんな地獄送りで、幸せの粉はもう人間にかけられていないのよ? それを知ったら、普通もうちょっとあるでしょ。なんかこう「なんでだよ!」とか、「ふざけるなー!」とか無いわけ? こちらとしては、大人しくしてくれている方がスムーズに話が進んでいいけれど、それでもちょっと大人しすぎるわ」


 フィロはわかりやすくジェスチャーを入れながら話した。言いたいことはわかる。俺も人間だ。人間が不憫な扱いをされているのだ。怒りや恨みの1つあってもいいのかもしれない。
 だが俺は、感情的にはなれなかった。


「言いたいことはわかるけど……簡単だよ、多分実感が無いんだ。そもそも、俺は生きていた頃、死後の世界なんて無いと思ってた。そりゃあ憧れはあったけど、でも、信じてはなかった。だから、天界に来て、ローズベルクで暮らし始めて、幸せの粉を使って仕事をして、死神なんてもんも出てきて、それで今度は、天界の真実まで知っちまったわけだけど、そもそも、幸せの粉が人間の物ってことも、地獄の存在すら実感できてないんだと思うんだ。だから、あんまり感情的にはなれてない」


 これは本音だ。だが、もしも母さんが死んだ時に、地獄行きが確定していると考えると、少し嫌な気持ちにもなる。それでも、文句は出てこなかった。それはなぜか、答えは、俺が今感情的にならないもう1つの理由にある。


「あと、俺はフィロの記憶で、天使も人間っぽいなって思った。自分たちの利益のために、他の生き物を犠牲にするなんて、俺たち人間もよくやってることだと思うんだ。しかも、天界は幸福度が上がってるんだろ? いいことじゃないか。もちろん、その代わりに人間が不幸になってるのは、悲しいことだと思うけど」


「そうなのです。人間が不幸になって良い理由にはならないのです。楓くんは、俯瞰的に物事を見過ぎなのです」


 俺の隣でエルシオは、どこか切ない表情を浮かべている。それはフィロも同じだ。わかってる。俺は昔から、ずっとそうだった。


「わかってるよ。俺は冷たい人間かもしれない。でも、フィロやエルシオは、俺たち人間を幸せにしたいって思ってくれてる。自分の危険を冒してまで、俺たちに幸せを与えてくれてる。そんな天使がいるだけで……なんかめっちゃ嬉しいんだよ。ものすごく、ありがたいことに思えるんだ」


「おかしな人ね。でも……ありがとう。楓みたいに思ってくれる人間がいるってだけで、この仕事を続けてて良かったって思えるわ」


 フィロは、ここに来てから初めて笑顔を見せた。
 そうだ。俺たちに硬い話は似合わない。
 フィロの笑顔で、その空間に漂っていた緊張感がなくなった気がした。もしかしたら、人間である俺に気を遣ってくれていたのかもしれない。
 
 俺にはあと1つ、絶対に聞いておかなければならないことがある。
 優しい天使たち。その一言では片付けられない優しさを、俺は受け取っている。その優しさについてだ。


「俺の最後の質問だ。幸せの粉には限りがある。今は王の元で管理されているからだ。もう残りも少ないはずだ。そしてその粉を使って、フィロたちは陰ながら人間の面接をしたり、人間に粉をかけたりしていた。それは、フィロは人間に対しての仕事を全うするために、わざわざローズベルクまでつくって、今の天界の考えと反したことをしているからだ。だから、バレたらまずい。それでも、最近はバレるリスクの低い面接はせず、リスクの高い人間界での仕事をしている。俺のポイントを貯めるために、だ。」


 俺は自分の頭の中を整理するため、今までの話を順序立てて言葉に出す。それを聞いて、フィロは答え合わせをしてくれているかのように頷く。
 俺が1番知りたかったこと。それは、フィロが実は凄い天使だったことでも、今の天界の政策のことでもない。


「そこでだ。なんで、俺のためにここまでしてくれてるんだ。エルシオやジィも、同じようなことを言ってた。俺と言うただの1人の人間のために、貴重な粉を俺に持たせたり、バレるリスクを背負ってまで、どうしてそこまでしてくれるんだ」


 エルシオもジィも、俺の質問に共感しているのか、真っ直ぐにフィロを見て答えを待っている。
 初めからずっと、フィロは惜しまなく俺に時間や労力を割いてきた。だからこそ、幸せの粉がそんなにも大切な物だと言うことや、この仕事をしていること自体にリスクがあることに気づきもしなかった。そのおかげで、俺は今まで伸び伸びと天界にいることができたのかもしれないが。
 でもなぜ、フィロは俺に気を遣って本当のことを隠してまで、ポイントを貯めさせてくれているのだろうか。
 俺はそれが知りたかった。
 
「ずっと言ってるじゃない。私は、目の前の人間を幸せにしたい。その人間がどんな状況でも、生まれ変わらせてあげたいの。地獄に行く必要のない人間を、地獄に行かせるのは嫌なのよ。だから、私は目の前の楓を幸せにしたいの。人間を幸せにするために、王に刃向かってるのよ? 楓1人幸せにできないようじゃ、なんのためにコハクリアを離れたのかわからない」


「それにしても……俺は、フィロやエルシオに与えられすぎてる」


「そうよ。私は全力で楓を生まれ変わらせようとしてる。エルシオは納得できないかもしれないけどね」


 フィロは横目にエルシオを見やる。エルシオの顔を見るに、確かに納得はしていなさそうだ。


「たしかに、納得はしていないのです。王に刃向かったのだから、楓くんに執着せず、今まで通り面接を行う方がいいと私は思ってしまうのです……いや、今のは別に、楓くんを見放しても良いと言うわけでは……」


「気使わなくていい。思ったこと全部言ってくれ。俺がそんな言葉程度で傷つくなら、今までのお前の言葉のナイフで死んでるよ」


 エルシオはクスッと笑みを溢した。俺が気にしていないことに安堵したのか、今までの辛辣な言葉を思い出して吹き出したのか、真相は謎だ。


「でも……エフィルロが優しいのは知っているのです。お金が無い私たちを拾ってくれたのも、アレシアがいなくなって、自暴自棄になった私を救ってくれたのもエフィルロなのです。だから……楓くんを幸せにしたいという気持ちだけで、ここまでするのも理解はできる。私は、エフィルロについていくと決めているのです。エフィルロのために、剣を振るうのです。エフィルロの願いが、楓くんを人間として生まれ変わらせることなら、私も全力で協力するのです」


「俺もだ。それがエフィルロの願いなら、約束通り、絶対に人間に生まれ変わってやる。この先どんな壁にぶち当たってもな」


 フィロは俺たちの言葉を聞いて、嬉しそうに優しい笑顔で頷いた。
 ジィは目を瞑っている。眠っていると思っていたが、少し頬が緩んでいるように見える。


「ありがとな、俺のためにこんなにも尽くしてくれて」


「いいの。これが私の幸せ。楓が人間に生まれ変わってくれることが、今の私の最上級の幸せなの!」


 最上級。それが本心なのかはわからない。それでも、フィロは満面の笑みで俺を見つめる。まるで、ずっと願っていた夢が叶ったかのような、そんな表情だった。



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「じゃあ次、俺の番。まず、なんで全員が地獄送りって状況で、俺は面接されたんだ?」
「たまたまよ。私は人間を幸せにしたいし、地獄にも送りたくない。だから、手の届く範囲の人間は救いたいの。たとえこぼれ落ちてしまっても、手一杯にね」
 同じようなことを、フィロは夢の中でも言っていた。
 たまたま選ばれた俺が、たまたま0ポイントでめんどくさいことになってしまったと言うことだろうか。
「じゃあ次、私の質問なのです。この真実は、今は誰がどこまで知っているのですか? 当時から状況は変わっているはずなのです」
「それについてはわしが答えようか」
 仲間はずれにされていたジィが、ここぞとばかりに口を挟む。
「人間に粉を使わんくなってから、しばらくはそのことを上層部しか知らなかった。じゃが最近は、加えて天界騎士団全員が知っておる」
「なるほど、なら、シルエトも知っていたわけですか……」
「そもそも死神を殲滅する団体じゃ。そもそも人間への好感度は低い。だから王は天界騎士団に公開した。もちろん、特に反感は買わなかったようじゃな。そのせいで、自分たちの仕事が増えると言うのに、目先の幸福に目が眩んでおる」
「それで、天界は幸せになっているのですか?」
「あぁ。幸福度は上がっておる。皆幸せそうじゃ。貧富の差も無くなってきておる。人間に与えられていた幸せが、全て天使に与えられておるんじゃ。当たり前と言えば当たり前のことじゃな」
「私からも良いかしら」
 ジィが答え終わると、フィロが挙手した。今フィロに質問権があることに違和感を抱くが、その水色の瞳がこちらを向いているのを見て思わず身構える。まさか、ここで俺に質問が来るとは思わなかった。
「なんで俺に? って顔をしてるけど、ここにいる全員が気になっていることだと思うわよ」
「え、なんだ、俺なんか変なこと言ったか?」
 フィロは大袈裟にため息を吐き、少し呆れたような素振りを見せる。
「いいえ、言ってないわ。でも、言ってなさすぎる」
 俺はフィロの言葉の意図がわからず、返事の代わりに目を細めた。
「人間がみんな地獄送りで、幸せの粉はもう人間にかけられていないのよ? それを知ったら、普通もうちょっとあるでしょ。なんかこう「なんでだよ!」とか、「ふざけるなー!」とか無いわけ? こちらとしては、大人しくしてくれている方がスムーズに話が進んでいいけれど、それでもちょっと大人しすぎるわ」
 フィロはわかりやすくジェスチャーを入れながら話した。言いたいことはわかる。俺も人間だ。人間が不憫な扱いをされているのだ。怒りや恨みの1つあってもいいのかもしれない。
 だが俺は、感情的にはなれなかった。
「言いたいことはわかるけど……簡単だよ、多分実感が無いんだ。そもそも、俺は生きていた頃、死後の世界なんて無いと思ってた。そりゃあ憧れはあったけど、でも、信じてはなかった。だから、天界に来て、ローズベルクで暮らし始めて、幸せの粉を使って仕事をして、死神なんてもんも出てきて、それで今度は、天界の真実まで知っちまったわけだけど、そもそも、幸せの粉が人間の物ってことも、地獄の存在すら実感できてないんだと思うんだ。だから、あんまり感情的にはなれてない」
 これは本音だ。だが、もしも母さんが死んだ時に、地獄行きが確定していると考えると、少し嫌な気持ちにもなる。それでも、文句は出てこなかった。それはなぜか、答えは、俺が今感情的にならないもう1つの理由にある。
「あと、俺はフィロの記憶で、天使も人間っぽいなって思った。自分たちの利益のために、他の生き物を犠牲にするなんて、俺たち人間もよくやってることだと思うんだ。しかも、天界は幸福度が上がってるんだろ? いいことじゃないか。もちろん、その代わりに人間が不幸になってるのは、悲しいことだと思うけど」
「そうなのです。人間が不幸になって良い理由にはならないのです。楓くんは、俯瞰的に物事を見過ぎなのです」
 俺の隣でエルシオは、どこか切ない表情を浮かべている。それはフィロも同じだ。わかってる。俺は昔から、ずっとそうだった。
「わかってるよ。俺は冷たい人間かもしれない。でも、フィロやエルシオは、俺たち人間を幸せにしたいって思ってくれてる。自分の危険を冒してまで、俺たちに幸せを与えてくれてる。そんな天使がいるだけで……なんかめっちゃ嬉しいんだよ。ものすごく、ありがたいことに思えるんだ」
「おかしな人ね。でも……ありがとう。楓みたいに思ってくれる人間がいるってだけで、この仕事を続けてて良かったって思えるわ」
 フィロは、ここに来てから初めて笑顔を見せた。
 そうだ。俺たちに硬い話は似合わない。
 フィロの笑顔で、その空間に漂っていた緊張感がなくなった気がした。もしかしたら、人間である俺に気を遣ってくれていたのかもしれない。
 俺にはあと1つ、絶対に聞いておかなければならないことがある。
 優しい天使たち。その一言では片付けられない優しさを、俺は受け取っている。その優しさについてだ。
「俺の最後の質問だ。幸せの粉には限りがある。今は王の元で管理されているからだ。もう残りも少ないはずだ。そしてその粉を使って、フィロたちは陰ながら人間の面接をしたり、人間に粉をかけたりしていた。それは、フィロは人間に対しての仕事を全うするために、わざわざローズベルクまでつくって、今の天界の考えと反したことをしているからだ。だから、バレたらまずい。それでも、最近はバレるリスクの低い面接はせず、リスクの高い人間界での仕事をしている。俺のポイントを貯めるために、だ。」
 俺は自分の頭の中を整理するため、今までの話を順序立てて言葉に出す。それを聞いて、フィロは答え合わせをしてくれているかのように頷く。
 俺が1番知りたかったこと。それは、フィロが実は凄い天使だったことでも、今の天界の政策のことでもない。
「そこでだ。なんで、俺のためにここまでしてくれてるんだ。エルシオやジィも、同じようなことを言ってた。俺と言うただの1人の人間のために、貴重な粉を俺に持たせたり、バレるリスクを背負ってまで、どうしてそこまでしてくれるんだ」
 エルシオもジィも、俺の質問に共感しているのか、真っ直ぐにフィロを見て答えを待っている。
 初めからずっと、フィロは惜しまなく俺に時間や労力を割いてきた。だからこそ、幸せの粉がそんなにも大切な物だと言うことや、この仕事をしていること自体にリスクがあることに気づきもしなかった。そのおかげで、俺は今まで伸び伸びと天界にいることができたのかもしれないが。
 でもなぜ、フィロは俺に気を遣って本当のことを隠してまで、ポイントを貯めさせてくれているのだろうか。
 俺はそれが知りたかった。
「ずっと言ってるじゃない。私は、目の前の人間を幸せにしたい。その人間がどんな状況でも、生まれ変わらせてあげたいの。地獄に行く必要のない人間を、地獄に行かせるのは嫌なのよ。だから、私は目の前の楓を幸せにしたいの。人間を幸せにするために、王に刃向かってるのよ? 楓1人幸せにできないようじゃ、なんのためにコハクリアを離れたのかわからない」
「それにしても……俺は、フィロやエルシオに与えられすぎてる」
「そうよ。私は全力で楓を生まれ変わらせようとしてる。エルシオは納得できないかもしれないけどね」
 フィロは横目にエルシオを見やる。エルシオの顔を見るに、確かに納得はしていなさそうだ。
「たしかに、納得はしていないのです。王に刃向かったのだから、楓くんに執着せず、今まで通り面接を行う方がいいと私は思ってしまうのです……いや、今のは別に、楓くんを見放しても良いと言うわけでは……」
「気使わなくていい。思ったこと全部言ってくれ。俺がそんな言葉程度で傷つくなら、今までのお前の言葉のナイフで死んでるよ」
 エルシオはクスッと笑みを溢した。俺が気にしていないことに安堵したのか、今までの辛辣な言葉を思い出して吹き出したのか、真相は謎だ。
「でも……エフィルロが優しいのは知っているのです。お金が無い私たちを拾ってくれたのも、アレシアがいなくなって、自暴自棄になった私を救ってくれたのもエフィルロなのです。だから……楓くんを幸せにしたいという気持ちだけで、ここまでするのも理解はできる。私は、エフィルロについていくと決めているのです。エフィルロのために、剣を振るうのです。エフィルロの願いが、楓くんを人間として生まれ変わらせることなら、私も全力で協力するのです」
「俺もだ。それがエフィルロの願いなら、約束通り、絶対に人間に生まれ変わってやる。この先どんな壁にぶち当たってもな」
 フィロは俺たちの言葉を聞いて、嬉しそうに優しい笑顔で頷いた。
 ジィは目を瞑っている。眠っていると思っていたが、少し頬が緩んでいるように見える。
「ありがとな、俺のためにこんなにも尽くしてくれて」
「いいの。これが私の幸せ。楓が人間に生まれ変わってくれることが、今の私の最上級の幸せなの!」
 最上級。それが本心なのかはわからない。それでも、フィロは満面の笑みで俺を見つめる。まるで、ずっと願っていた夢が叶ったかのような、そんな表情だった。