23話 四大天使
ー/ー「それで、この通知は何?」
私はバセラフィルにアイボーンの画面を向ける。
先ほど届いた通知だ。あまりにも常軌を逸した文章がバセラフィルの目に映っているはずだ。
「おい、無礼だぞ。言葉使いに気をつけろ。次は無い」
まるで燃えているような赤い瞳で私を捉え、ミカエルは私に警告する。
「おー、怖い怖い。流石騎士団長だね。でも気をつけてよ、彼女、下手したら僕らより強いよ。そうでしょ?」
ガブリエルはそう言って、私に同意を求めた。
「そこに居る王様に聞けば良いじゃない。だから私を優遇してるんじゃないの?」
私はバセラフィルを睨む。それに応えるように、バセラフィルは笑みを浮かべた。
「強いかどうかはわからんが、エフィルロに喧嘩は売らん方が良いな。こいつがその気になれば、ここに居る全員が赤ん坊になるぞ。そのために作った法律があるくらいだ」
バセラフィルのその一言は、この場の天使たちを黙らせるには十分すぎる脅し文句だった。戯言に聞こえるそれも、王の発言であれば信じるに値する。
それに、王の発言はほぼ事実だ。魔力の消費が激しいため、全員とはいかないが、少なくとも2人は赤ん坊に戻せる。正しくは、体はそのままで、記憶だけが生まれた直後に戻る。
「それで、通知のことだったか。その文章のとおりだ。これからは人間に幸せの粉は使わない。我々天使は、我々のために粉を使う」
「そんな事が許されると? 人間へ幸せを与えるのは私たちの義務、あなたは、この天界のルールを捻じ曲げることになる」
「構わんよ。義務? 誰が決めた? 神か? そんな迷信を信じるのは今日でおしまいだ。今までがどうかなど関係ない。我々に与えられた物を、我々のために使用することの何が問題だと言うのだ。幸せの粉は天使の物だ。人間などと言う愚かな生物に与える必要はない。生まれ変わる必要もない。生まれ変わる際に粉が必要になる。粉の無駄使いだ。全員地獄に送れば良い」
あまりの暴論に言葉が出ない。そんなことが許されるはずがない。人間に幸せを与える。当たり前のことだ。それが天使の役目だ。「粉持ち」として、私は人間に幸せを与えなければならない。亡くなった人間を、来世へ導かなければいけない。それが義務。それをせず、幸せの粉を私用することなど、許されていいはずがない。
ーーーーーー誰に……? 一体、誰が許さない?
「粉持ちは天界で管理する。もちろん、幸せの粉もな。これからは、我々天使が幸せに生きようじゃないか! 我々が幸せに生きることを、天界の誰が批判すると言うのかね」
「そんなことはできないわ。私たち粉持ちは、義務を背負っている。少なくとも、私たち粉持ちは批判する」
「ほう、粉持ちは批判する……か。ウリエル、見せてやれ」
バセラフィルはウリエルに何かを指示した。ウリエルは半ばめんどくさそうに立ち上がると、手に持った水晶を掲げた。
その直後、私の目の前に映像が映し出される。そこは牢屋のような空間で、中には何人かの天使がいた。これではまるで、監禁だ。
見慣れた天使も何人かそこにいる。私を慕ってくれていた粉持ちの天使だ。
「……何のつもり? 冗談にしては趣味が悪い」
「残念だが冗談ではない。批判などされておらんぞ? なぁウリエル」
バセラフィルは私の動揺を悟ったのか、嘲るような笑みを見せた。
「はい。私の目を見れば、批判などできません」
ウリエルの目には、強力な魔法が宿っている。「盲従の目」と呼ばれているその目を見た者は、ウリエルの支配下に置かれる。つまり、操り人形だ。目を見た者の意思は関係ない。たとえ「粉持ち」でも、その魔法には逆らえない。その無敵とも言える目を持つからこそ、ウリエルは王直属の四大天使に選ばれている。
「ふざけないで。批判をしていないんじゃない。従うしかないだけよ。それに、その目は死神に使うもののはずでしょ? 同族に使うなんて……堕ちたわね」
ウリエルは私の方を見ている。目を合わせてはいけない。合わせたら、すぐに私も牢屋行きだ。
「堕ちた……か。堕ちているのはどちらかねエフィルロ。私たちは人間に十分尽くしてきたではないか。それなのに……愚かな人間は、地獄に落とされた逆恨みで私たちを襲う。私たちは、人間に正しい処分を下しているまでだ。それなのに、なぜ我々が危害を受けなければならない。そんな愚かな人間に尽くしている方が、よっぽど堕天使に近いとは思わないかね?」
ウリエルの言っていることが間違っているとは言い切れない。地獄に落ちた人間は、死神となり天使を襲う。だが、それでも、地獄に落ちる人間は悪い人間だけだ。良い人間もいる。決して愚かな人間だけではない。良い人間も地獄に落として良い理由にはならない。
それに、地獄に落とせるのはポイントがマイナスの人間だけだ。バセラフィルの理想は叶わない。
「地獄に落ちるのはポイントがマイナスの人間だけ……か。まぁ、普通ならそうだが、ここにガブリエルがいるではないか」
バセラフィルは私の心を見透かす。相手の考えていることが手に取るようにわかる。これはバセラフィルの魔法の1つだ。これがある以上、下手なことは考えられない。
名前を出されたガブリエルは、話したくてうずうずしていたのか、意気揚々と話し始めた。
「そう! 知ってるだろエフィルロ、この場にいる天使なら、人間のポイントを増やすことは出来ないが、減らすことは容易い。ただ0までだ。マイナスにすることは出来ない」
ガブリエルの言う通りだ。それは知っている。
ただ、ガブリエルの場合は違う。それも知っている。
「でも! 俺は違う! 俺は特殊なケースの対処係として、ポイントをマイナスにできる!」
職権濫用だ。
例えば、包丁で人間を刺し、逃げた犯人が居たとする。その場合、本来その犯人が地獄に落ちる。ただもし、その包丁での刺し傷が致命傷ではなく、その後助けを求め向かった先で、刺された人間が落下死した場合はその限りではない。その犯人は人間を殺したとは判断されず、面接でポイントがマイナスにならない。
そんなケースで登場するのがガブリエルだ。一瞬で、好きなだけポイントをマイナスに出来る。神から与えられる、「零堕断罪」の魔法だ。
「揃いも揃って、神から授かった魔法を穢すのね。でも、その理想の世界は破綻するわよ。地獄に落ちる人間が増えれば増えるほど、死神も増えるわ」
「それについては問題ない。我々天界騎士団は勢力を強化している。死神の殲滅など容易い」
ミカエルがそう答える。繋がった。エルシオが天界騎士団に早い段階で誘われたのも、おそらくこれが理由だ。
「はぁ……大体わかったわ。私がここに乗り込んで来るのもお見通しだったってわけね」
「その通りだエフィルロ。お前を牢に閉じ込めていないのは他でもない、我々と共に新たな天界を創る仲間に入れるためだ。お前ほどの魔法があれば役に立つ機会も多かろう」
バセラフィルは私を四大天使に引き入れようとしている。五大天使にでもするつもりだろうか。
ーーーーーー馬鹿馬鹿しい。
「そうか……残念だ」
お断りの返事は必要無いみたいだ。
ただ、この状況はまずい。四大天使とバセラフィルを相手に渡り合えるほど、私の魔法は万能ではない。行動不能に出来て2人。それ以上は難しい。
「そう、詰んでいるんだよエフィルロ。1人でも赤子にしてみろ。お前は愚か、あの小娘たちの首も刎ねるぞ」
小娘。アレシアとエルシオのことだろう。バセラフィルは2人のことも知っている。
この状況でできる最低限のこと。考えろ。全員を欺き、この状況を変える一手。
「わかったわ……私を仲間に入れて」
「愚かな娘だ……お前たち、エフィルロを殺せ。生きていられるのも面倒だ」
私の思考はバセラフィルには丸見えだ、嘘などお見通し。
ミカエルはバセラフィルの発言と同時に、炎を纏った大剣を私に振り翳した。
「残念だ。天界の才がまた1人消える」
私の首元に、その大きな刃は食い込んだ。私は死を覚悟し目を瞑る。
「潔いな。流石だ、実力の差を理解している」
抵抗するつもりはない。
私の身を炎が包み、灼熱に焼かれる。
私は死んだ。首と胴が離れただけでなく、ミカエルの炎に焼かれたのだ。生き延びる術はない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それが、私の作り出した記憶。
あの時、ゲートを開く余力を残しつつ5人同時にかけられる魔法は精々、それぞれ5分ほどの記憶改竄だ。私は、彼らに存在しない記憶を植え付けた。
私はあの場所で、ミカエルの炎天の剣により殺された。そして、死体はその炎で燃え尽きた。私に出来るのはここまでだ。死んだことにして、逃げるしかなかった。
私には、今のバセラフィルを止める手立ても実力も無かった。
私はバセラフィルにアイボーンの画面を向ける。
先ほど届いた通知だ。あまりにも常軌を逸した文章がバセラフィルの目に映っているはずだ。
「おい、無礼だぞ。言葉使いに気をつけろ。次は無い」
まるで燃えているような赤い瞳で私を捉え、ミカエルは私に警告する。
「おー、怖い怖い。流石騎士団長だね。でも気をつけてよ、彼女、下手したら僕らより強いよ。そうでしょ?」
ガブリエルはそう言って、私に同意を求めた。
「そこに居る王様に聞けば良いじゃない。だから私を優遇してるんじゃないの?」
私はバセラフィルを睨む。それに応えるように、バセラフィルは笑みを浮かべた。
「強いかどうかはわからんが、エフィルロに喧嘩は売らん方が良いな。こいつがその気になれば、ここに居る全員が赤ん坊になるぞ。そのために作った法律があるくらいだ」
バセラフィルのその一言は、この場の天使たちを黙らせるには十分すぎる脅し文句だった。戯言に聞こえるそれも、王の発言であれば信じるに値する。
それに、王の発言はほぼ事実だ。魔力の消費が激しいため、全員とはいかないが、少なくとも2人は赤ん坊に戻せる。正しくは、体はそのままで、記憶だけが生まれた直後に戻る。
「それで、通知のことだったか。その文章のとおりだ。これからは人間に幸せの粉は使わない。我々天使は、我々のために粉を使う」
「そんな事が許されると? 人間へ幸せを与えるのは私たちの義務、あなたは、この天界のルールを捻じ曲げることになる」
「構わんよ。義務? 誰が決めた? 神か? そんな迷信を信じるのは今日でおしまいだ。今までがどうかなど関係ない。我々に与えられた物を、我々のために使用することの何が問題だと言うのだ。幸せの粉は天使の物だ。人間などと言う愚かな生物に与える必要はない。生まれ変わる必要もない。生まれ変わる際に粉が必要になる。粉の無駄使いだ。全員地獄に送れば良い」
あまりの暴論に言葉が出ない。そんなことが許されるはずがない。人間に幸せを与える。当たり前のことだ。それが天使の役目だ。「粉持ち」として、私は人間に幸せを与えなければならない。亡くなった人間を、来世へ導かなければいけない。それが義務。それをせず、幸せの粉を私用することなど、許されていいはずがない。
ーーーーーー誰に……? 一体、誰が許さない?
「粉持ちは天界で管理する。もちろん、幸せの粉もな。これからは、我々天使が幸せに生きようじゃないか! 我々が幸せに生きることを、天界の誰が批判すると言うのかね」
「そんなことはできないわ。私たち粉持ちは、義務を背負っている。少なくとも、私たち粉持ちは批判する」
「ほう、粉持ちは批判する……か。ウリエル、見せてやれ」
バセラフィルはウリエルに何かを指示した。ウリエルは半ばめんどくさそうに立ち上がると、手に持った水晶を掲げた。
その直後、私の目の前に映像が映し出される。そこは牢屋のような空間で、中には何人かの天使がいた。これではまるで、監禁だ。
見慣れた天使も何人かそこにいる。私を慕ってくれていた粉持ちの天使だ。
「……何のつもり? 冗談にしては趣味が悪い」
「残念だが冗談ではない。批判などされておらんぞ? なぁウリエル」
バセラフィルは私の動揺を悟ったのか、嘲るような笑みを見せた。
「はい。私の目を見れば、批判などできません」
ウリエルの目には、強力な魔法が宿っている。「盲従の目」と呼ばれているその目を見た者は、ウリエルの支配下に置かれる。つまり、操り人形だ。目を見た者の意思は関係ない。たとえ「粉持ち」でも、その魔法には逆らえない。その無敵とも言える目を持つからこそ、ウリエルは王直属の四大天使に選ばれている。
「ふざけないで。批判をしていないんじゃない。従うしかないだけよ。それに、その目は死神に使うもののはずでしょ? 同族に使うなんて……堕ちたわね」
ウリエルは私の方を見ている。目を合わせてはいけない。合わせたら、すぐに私も牢屋行きだ。
「堕ちた……か。堕ちているのはどちらかねエフィルロ。私たちは人間に十分尽くしてきたではないか。それなのに……愚かな人間は、地獄に落とされた逆恨みで私たちを襲う。私たちは、人間に正しい処分を下しているまでだ。それなのに、なぜ我々が危害を受けなければならない。そんな愚かな人間に尽くしている方が、よっぽど堕天使に近いとは思わないかね?」
ウリエルの言っていることが間違っているとは言い切れない。地獄に落ちた人間は、死神となり天使を襲う。だが、それでも、地獄に落ちる人間は悪い人間だけだ。良い人間もいる。決して愚かな人間だけではない。良い人間も地獄に落として良い理由にはならない。
それに、地獄に落とせるのはポイントがマイナスの人間だけだ。バセラフィルの理想は叶わない。
「地獄に落ちるのはポイントがマイナスの人間だけ……か。まぁ、普通ならそうだが、ここにガブリエルがいるではないか」
バセラフィルは私の心を見透かす。相手の考えていることが手に取るようにわかる。これはバセラフィルの魔法の1つだ。これがある以上、下手なことは考えられない。
名前を出されたガブリエルは、話したくてうずうずしていたのか、意気揚々と話し始めた。
「そう! 知ってるだろエフィルロ、この場にいる天使なら、人間のポイントを増やすことは出来ないが、減らすことは容易い。ただ0までだ。マイナスにすることは出来ない」
ガブリエルの言う通りだ。それは知っている。
ただ、ガブリエルの場合は違う。それも知っている。
「でも! 俺は違う! 俺は特殊なケースの対処係として、ポイントをマイナスにできる!」
職権濫用だ。
例えば、包丁で人間を刺し、逃げた犯人が居たとする。その場合、本来その犯人が地獄に落ちる。ただもし、その包丁での刺し傷が致命傷ではなく、その後助けを求め向かった先で、刺された人間が落下死した場合はその限りではない。その犯人は人間を殺したとは判断されず、面接でポイントがマイナスにならない。
そんなケースで登場するのがガブリエルだ。一瞬で、好きなだけポイントをマイナスに出来る。神から与えられる、「零堕断罪」の魔法だ。
「揃いも揃って、神から授かった魔法を穢すのね。でも、その理想の世界は破綻するわよ。地獄に落ちる人間が増えれば増えるほど、死神も増えるわ」
「それについては問題ない。我々天界騎士団は勢力を強化している。死神の殲滅など容易い」
ミカエルがそう答える。繋がった。エルシオが天界騎士団に早い段階で誘われたのも、おそらくこれが理由だ。
「はぁ……大体わかったわ。私がここに乗り込んで来るのもお見通しだったってわけね」
「その通りだエフィルロ。お前を牢に閉じ込めていないのは他でもない、我々と共に新たな天界を創る仲間に入れるためだ。お前ほどの魔法があれば役に立つ機会も多かろう」
バセラフィルは私を四大天使に引き入れようとしている。五大天使にでもするつもりだろうか。
ーーーーーー馬鹿馬鹿しい。
「そうか……残念だ」
お断りの返事は必要無いみたいだ。
ただ、この状況はまずい。四大天使とバセラフィルを相手に渡り合えるほど、私の魔法は万能ではない。行動不能に出来て2人。それ以上は難しい。
「そう、詰んでいるんだよエフィルロ。1人でも赤子にしてみろ。お前は愚か、あの小娘たちの首も刎ねるぞ」
小娘。アレシアとエルシオのことだろう。バセラフィルは2人のことも知っている。
この状況でできる最低限のこと。考えろ。全員を欺き、この状況を変える一手。
「わかったわ……私を仲間に入れて」
「愚かな娘だ……お前たち、エフィルロを殺せ。生きていられるのも面倒だ」
私の思考はバセラフィルには丸見えだ、嘘などお見通し。
ミカエルはバセラフィルの発言と同時に、炎を纏った大剣を私に振り翳した。
「残念だ。天界の才がまた1人消える」
私の首元に、その大きな刃は食い込んだ。私は死を覚悟し目を瞑る。
「潔いな。流石だ、実力の差を理解している」
抵抗するつもりはない。
私の身を炎が包み、灼熱に焼かれる。
私は死んだ。首と胴が離れただけでなく、ミカエルの炎に焼かれたのだ。生き延びる術はない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それが、私の作り出した記憶。
あの時、ゲートを開く余力を残しつつ5人同時にかけられる魔法は精々、それぞれ5分ほどの記憶改竄だ。私は、彼らに存在しない記憶を植え付けた。
私はあの場所で、ミカエルの炎天の剣により殺された。そして、死体はその炎で燃え尽きた。私に出来るのはここまでだ。死んだことにして、逃げるしかなかった。
私には、今のバセラフィルを止める手立ても実力も無かった。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
作者の他の作品
この作者の他作品はありません。
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。