freeze-sun.06:伝説の硬度、そして夏の終わり
ー/ー青白い太陽光が収束し、テラス中央に「それ」が鎮座していた。
「できた……できたのです!見るがいいのです、これが太陽の恵みを限界まで圧縮し、エントロピーを逆転させた究極の結晶――『絶対零度・金剛不壊プリン』なのです!」
咲姫が掲げたのは、もはやプリンとは思えない、眩い光を放つ多面体だった。
それはカップの形を保ったまま、周囲の空間を物理的に歪ませている。一歩近づけば眼球が凍りつき、一歩退けばあまりの美しさに魂が凍てつく。そんな「概念の特異点」がそこにあった。
「……お嬢様、それはもう、食べ物ではなく『兵器』の範疇に属している気がします。……というか、私の剣(これ)より硬そうなんですが」
足が凍りついたままの騎士が、震える声で指摘する。試しに彼が手近な小石をそのプリンに向かって投げると、小石はプリンに触れた瞬間、火花――ならぬ「極寒の火花」を散らして粉々に砕け散った。プリン側には、傷一つついていない。
「まあ、素晴らしいですわお嬢様。これほどの硬度があれば、学園の防護結界の核としても十分に機能いたしますね。サヤ、この感動を忘れないよう、後ほど記録宝珠に収めておきますわ」
サヤは猛烈な吹雪の中でも、乱れ一つない笑顔で拍手を送る。彼女だけが、この異常事態を「日常の微笑ましい一幕」として処理していた。
「ギャニャー!硬いとかどうでもいいから、早く一口食べさせてくれにゃー!脳みそまでキンキンに冷やして、この熱帯地獄(日陰)の記憶を消したいんだにゃー!」
台車の上で氷漬けのまま運ばれてきた猫二が、必死に口をパクパクさせる。
咲姫は「にゃうにゃ!」と頷き、サヤから受け取った「オリハルコン製特製スプーン」を構えた。
「行くのです、究極の一口!概念破壊(コンセプト・デストラクション)食レポなのです!」
カィィィィィィン!!
静寂を切り裂くような高音が学園中に響き渡った。
咲姫が力一杯スプーンを突き立てた瞬間、プリンから溢れ出したのは、濃厚なカラメルの香りと……「物理的な衝撃波」だった。
テラスを覆っていた絶対零度の冷気が一気に反転し、温かな――いや、むしろ少し涼しい程度の、心地よい夏の風となって学園全体に広がっていく。
「……あ、あれ?温かい?」
新人が、へし折れた計測器を呆然と見つめた。
「マイナス八十度から……一気にプラス二十五度まで上昇。……信じられない、プリンの硬度が臨界点を超えて崩壊し、蓄積された冷却エネルギーが『癒やしの波動』に変換された……?」
「おいしい……。おいしいのです……!」
咲姫の瞳から、一粒の涙がこぼれ、それは瞬間に小さな氷の粒となって足元で跳ねた。
口の中に入ったのは、暴力的な冷たさではなく、夏の昼下がりの微睡みのような、優しくとろけるような甘さ。
「太陽さんは、本当はとっても優しかったのです。ただ、あまりにも情熱的すぎて、みんなを凍らせちゃっただけなのです」
夕暮れ時。
太陽が地平線に沈み始め、光が黄金色に変わる頃。
ヘリオス・テラスには、ようやくダウンジャケットを脱ぎ捨てた一行の姿があった。
「……ふぅ。ようやく『普通の夏』に戻りましたね、お嬢様」
騎士が兜を脱ぎ、額の汗を拭う。
「普通なんて面白くないと言いましたが、たまにはこういう穏やかな夕暮れも悪くないですよ」
「にゃうにゃ。騎士もたまには良いことを言うのです。……でも、次はもっと面白い夏を考えるのです!次は『暑ければ暑いほど、重力が軽くなる夏』なんてどうなのです?」
「……勘弁してください、時給がいくらあっても足りません」
新人が力なく笑い、22NkQの給料袋を握りしめる。その横で、猫二は「次は酒樽が空を飛ぶ夏にしてくれにゃ……」と寝言を言っていた。
「まあ、次のお話も楽しみですわね。お嬢様、皆様、お疲れ様でございました。冷えた麦茶(常温)が入っておりますわよ」
サヤが差し出したのは、氷一つ入っていない、ごく普通の麦茶だった。
それが、今の彼らには何よりも贅沢なご馳走に見えた。
「クラフトアルケミスト」
溶けないアイスと、凍る太陽。
それは、少女が作り上げた、ほんの一時の、最高にクールな夢の跡。
「できた……できたのです!見るがいいのです、これが太陽の恵みを限界まで圧縮し、エントロピーを逆転させた究極の結晶――『絶対零度・金剛不壊プリン』なのです!」
咲姫が掲げたのは、もはやプリンとは思えない、眩い光を放つ多面体だった。
それはカップの形を保ったまま、周囲の空間を物理的に歪ませている。一歩近づけば眼球が凍りつき、一歩退けばあまりの美しさに魂が凍てつく。そんな「概念の特異点」がそこにあった。
「……お嬢様、それはもう、食べ物ではなく『兵器』の範疇に属している気がします。……というか、私の剣(これ)より硬そうなんですが」
足が凍りついたままの騎士が、震える声で指摘する。試しに彼が手近な小石をそのプリンに向かって投げると、小石はプリンに触れた瞬間、火花――ならぬ「極寒の火花」を散らして粉々に砕け散った。プリン側には、傷一つついていない。
「まあ、素晴らしいですわお嬢様。これほどの硬度があれば、学園の防護結界の核としても十分に機能いたしますね。サヤ、この感動を忘れないよう、後ほど記録宝珠に収めておきますわ」
サヤは猛烈な吹雪の中でも、乱れ一つない笑顔で拍手を送る。彼女だけが、この異常事態を「日常の微笑ましい一幕」として処理していた。
「ギャニャー!硬いとかどうでもいいから、早く一口食べさせてくれにゃー!脳みそまでキンキンに冷やして、この熱帯地獄(日陰)の記憶を消したいんだにゃー!」
台車の上で氷漬けのまま運ばれてきた猫二が、必死に口をパクパクさせる。
咲姫は「にゃうにゃ!」と頷き、サヤから受け取った「オリハルコン製特製スプーン」を構えた。
「行くのです、究極の一口!概念破壊(コンセプト・デストラクション)食レポなのです!」
カィィィィィィン!!
静寂を切り裂くような高音が学園中に響き渡った。
咲姫が力一杯スプーンを突き立てた瞬間、プリンから溢れ出したのは、濃厚なカラメルの香りと……「物理的な衝撃波」だった。
テラスを覆っていた絶対零度の冷気が一気に反転し、温かな――いや、むしろ少し涼しい程度の、心地よい夏の風となって学園全体に広がっていく。
「……あ、あれ?温かい?」
新人が、へし折れた計測器を呆然と見つめた。
「マイナス八十度から……一気にプラス二十五度まで上昇。……信じられない、プリンの硬度が臨界点を超えて崩壊し、蓄積された冷却エネルギーが『癒やしの波動』に変換された……?」
「おいしい……。おいしいのです……!」
咲姫の瞳から、一粒の涙がこぼれ、それは瞬間に小さな氷の粒となって足元で跳ねた。
口の中に入ったのは、暴力的な冷たさではなく、夏の昼下がりの微睡みのような、優しくとろけるような甘さ。
「太陽さんは、本当はとっても優しかったのです。ただ、あまりにも情熱的すぎて、みんなを凍らせちゃっただけなのです」
夕暮れ時。
太陽が地平線に沈み始め、光が黄金色に変わる頃。
ヘリオス・テラスには、ようやくダウンジャケットを脱ぎ捨てた一行の姿があった。
「……ふぅ。ようやく『普通の夏』に戻りましたね、お嬢様」
騎士が兜を脱ぎ、額の汗を拭う。
「普通なんて面白くないと言いましたが、たまにはこういう穏やかな夕暮れも悪くないですよ」
「にゃうにゃ。騎士もたまには良いことを言うのです。……でも、次はもっと面白い夏を考えるのです!次は『暑ければ暑いほど、重力が軽くなる夏』なんてどうなのです?」
「……勘弁してください、時給がいくらあっても足りません」
新人が力なく笑い、22NkQの給料袋を握りしめる。その横で、猫二は「次は酒樽が空を飛ぶ夏にしてくれにゃ……」と寝言を言っていた。
「まあ、次のお話も楽しみですわね。お嬢様、皆様、お疲れ様でございました。冷えた麦茶(常温)が入っておりますわよ」
サヤが差し出したのは、氷一つ入っていない、ごく普通の麦茶だった。
それが、今の彼らには何よりも贅沢なご馳走に見えた。
「クラフトアルケミスト」
溶けないアイスと、凍る太陽。
それは、少女が作り上げた、ほんの一時の、最高にクールな夢の跡。
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