第7話 千葉レディースクリニック
ー/ークリニックへの電話
美代子は小さく、何度も頷きながら涙を拭った。「ありがとう、先生……本当に……」
美咲は優しく微笑み、立ち上がって美代子の肩に手を置いた。「今日はもう帰りなさい。親御さんに心配かけたらあかんよ。明日以降、ゆっくり話そう。私がちゃんと道筋つけるから」
美代子はカバンを握りしめ、涙目で何度か頭を下げて準備室を出ていった。ドアが閉まる音が響き、部屋に静寂が戻る。
美咲はすぐに机に戻り、美代子が置いていったくしゃくしゃのA4用紙を広げた。「千葉レディースクリニック」の文字が目に入る。リストの中でも、性感染症専門でプライバシーに配慮していると書かれていた。
(#P活船橋の調査は……後回しや。まずは美代子さんの治療を確実にせんば。他の生徒のことまで手が回らん今は、目の前の子を救うのが先や)
美咲は深呼吸し、スマホを取り出した。職員室の電話では記録が残る可能性がある。個人スマホからかける方が安全だ。リストに書かれた電話番号を入力し、呼び出し音が鳴るのを待つ。
数コール後、穏やかな女性の声が応答した。「はい、千葉レディースクリニックでございます」
美咲は一瞬言葉に詰まり、声を低くして切り出した。「突然すみません。教師をしている者なんですが……知り合いの女子高生が、性感染症に感染した疑いがありまして。梅毒の可能性が高いそうです。匿名で検査と治療を受けられるでしょうか? 親バレや学校バレが怖くて、保険証を使いたくないと言ってるんですけど……」
受付の女性は少し間を置いて、丁寧に答えた。「はい、ご相談ありがとうございます。当院ではプライバシーを最優先にしておりますので、初診時は仮名や番号で対応可能です。自費診療も承っております。ただ、そのようなお話でしたら、詳しい内容を当クリニックの医師に直接説明していただけますか? 電話を回しますね」
少し待つと、電話が繋がり、落ち着いた女性の声が聞こえた。「はい、曽根崎です。ご相談の件、伺いました」
女性医師――美咲はそれだけで、少し安心した。声のトーンが穏やかで、信頼できそうだった。
美咲は改めて説明した。「私は高校の生物教師で、患者は私の教え子なんです。保健所で梅毒の陽性が出たそうで、親や学校に知られたくないと……。匿名で治療を受けられるか、費用や報告義務のことなど、詳しく知りたくて」
曽根崎医師は静かに聞き終え、優しく応じた。「わかりました。込み入ったお話になりそうですね。梅毒のような五類感染症の場合、診断確定後は感染症法に基づく保健所への報告義務があり、実名・住所などの確認をお願いすることになります。ただ、報告は統計目的で、個人情報が公表されることは一切ありません。ご安心ください。当院ではプライバシーを厳守し、早期治療であれば抗生物質で完治可能です。自費診療で初回2万円前後、以降1万円程度が目安です。未成年の方も保護者同伴なしで対応します」
完全な匿名での治療は出来ないのか……だが、『報告は統計目的で、個人情報が公表されることはありません』は美代子には言っておかないと、また心配するだろうと美咲は思った。しかし、知るのはクリニックのスタッフ、医師と保健所の担当部署のみなのに美咲は胸を撫で下ろした。法的な報告の部分は美代子に伝える時、丁寧に説明せねば。
「ありがとうございます。では、予約をお願いしたいんですが……」
曽根崎医師は少し間を置いて、こちらの事情を気遣うように提案した。「明日、ご予定は? その患者さんと一緒に来院できますか? 高校生でしたら平日だから、放課後になるわね? だったら、午後六時半とかでどうかしら? クリニックの営業時間の後だから、来院者もいないし、好都合だと思うけど?」
美咲は驚きと感謝で、思わず声を上ずらせた。「そりゃ助かるばい!」今まで標準語で話していた美咲から、長崎弁がポロッと出てしまった。
「あら! 長崎弁じゃない! 同じ九州よ、私はお隣の熊本ばい」電話の向こうで、曽根崎医師がくすくすと笑った。熊本弁の柔らかい響きに、美咲も思わず笑みがこぼれた。シリアスな電話が、ふと温かい空気に変わる。
「お隣さんかい?うれしか!じゃあ、明日よろしくばい!」
電話を切り、美咲は椅子に深く腰を下ろした。カブトガニの模型が、夕陽に照らされて静かに光っている。
(これで、美代子さんは治療を受けられる。まずは一歩や)
しかし、胸の奥の不安は消えない。美代子が言った「佐藤美穂」の名前。そして、#P活船橋の呟き。学校内で広がっているかもしれないこの輪――。
美咲はスマホを握りしめ、静かに呟いた。「……次は、美穂さんと話さんば」
夕陽が完全に沈み、生物準備室は薄暗くなった。美咲はカブトガニの模型を手に取り、祈るように見つめた。
強く、生きなきゃね。
翌日
翌日の放課後、生物準備室。
美咲は時計をチラチラ見ながら、美代子を待っていた。約束の時間通り、ドアが控えめにノックされ、美代子が顔を覗かせる。制服姿の彼女は、昨日の涙が嘘のように落ち着いているようだったが、目元が少し腫れているのがわかった。
「先生……本当に、病院に一緒に来てくれるんですか?」
「当たり前ばい。約束したろ? 行こう」美咲はカバンを肩にかけ、優しく微笑んだ。
二人は学校を抜け出し、船橋駅から電車に乗り込んだ。夕方のラッシュ時を少し外れた車内は、座席が空いていて、二人は並んで座った。
美代子は窓の外を眺めながら、膝の上で手を握りしめていた。「先生……やっぱり怖いです。報告義務って、結局実名で保健所に知られるんですよね? それに費用も……自費で2万円って、初回だけでもキツイです。親にバレたら……」
美咲は美代子の手をそっと握った。「心配せんでもいいよ。報告は統計のためだけ。名前が公表されたり、学校に連絡がいったりは絶対ないって、先生が聞いたよ。費用も、分割とか相談に乗ってくれるって。先生が一緒にいるから、大丈夫」
「治療……痛いんですか? 注射とか……」美代子は小さく頷いたが、声は震えていた。
「早期なら、抗生物質で治るって。痛いのは最初だけかもよ。カブトガニみたいに、殻を固くして耐えようぜ」
美代子は少しだけ笑みを浮かべたが、すぐに不安げに目を伏せた。電車が千葉駅に近づくにつれ、車内の空気が重くなる。
午後六時半少し前、二人はクリニックの前に到着した。小さなビルの一室で、看板の灯りが控えめに光っている。営業時間は終わっているはずなのに、ドアに鍵はかかっていなかった。
美咲がチャイムを鳴らすと、すぐにドアが開き、白衣姿の女性が現れた。ショートヘアの穏やかな顔立ち、名札に「曽根崎マリア」とある。
「いらっしゃい。崎山先生と、患者さんね? どうぞ入って」
クリニック内は静まり返り、受付も看護師も誰もいない。マリアは気を利かせて、他のスタッフを早めに帰したようだった。
マリアは二人を診察室に案内し、椅子を勧めた。「さあ、座りんしゃい。崎山先生も一緒に。私も?って顔しとるけど、生物の先生として事情知っとるでしょ? 立ち会いんさいよ。患者さんも、心細かと思うばい」
美咲は少し驚きながらも頷き、美代子の隣に座った。マリアの熊本弁の柔らかい響きに、昨日の電話の温かさを思い出す。
(この先生なら……大丈夫かも)
診察室の空気が、静かに動き始めた。
美代子は椅子に座ったまま、肩を縮こまらせて俯いていた。マリアは優しく声をかけ、問診から始めた。「まずは落ち着いてね。いつ頃から症状が出た? 発疹とか、だるさとか、何か気づいたことある?」
美代子は怯えた様子で言葉を詰まらせ、ほとんど答えられなかった。美咲はそっと美代子の手を握り、代わりに口を開いた。「保健所で陽性が出た梅毒の可能性が高いそうです。心当たりは……パパ活で、相手の男性から感染したんじゃないかと。本人は親や学校に知られたくなくて、すごく怖がってるんです。グループでやってる話とかは……今は伏せておきます。まずはこの子の治療を」
マリアは頷き、穏やかにメモを取った。「わかりました。パパ活ね……最近、若い子で増えてるわ。まずはしっかり診せてもらうね」
マリアはテキパキと動き、美代子に自覚症状の詳細を聞き、身体検査を進めた。血圧測定、発疹の確認、感染部位の視診、そして採血。保健所と同じような過程を、プライベートな空間で丁寧にこなしていった。
「梅毒の検査はもちろん、他の五類性感染症――クラミジア、淋菌、ヘルペス、コンジローマも一緒に調べるわね。念のため、HIVや他のものも追加で。早期なら全部治る病気ばい」
美代子は怯えながらも、美咲の手を握ったまま従った。採血の針が刺さる瞬間、彼女の体がビクッと震えた。
検査結果は迅速キットと外部ラボで、数十分後に判明した。
マリアは結果用紙を手に、静かに告げた。「梅毒は陽性ね。第1期の早期段階みたい。幸い、他の五類やHIVは全部陰性。梅毒だけばい」
「……他の病気、ないんですか?」美代子は目を丸くし、涙がポロポロとこぼれた。
「うん、ないよ。梅毒は抗生物質で完治するから、今日から治療始めよう。注射と飲み薬で、1〜2週間で症状が治まるはず。定期的に通って、完治確認するばい」
美咲は胸を撫で下ろし、美代子の肩を抱いた。「よかった……本当に」
幸いにして、と言うかなんというか、梅毒だけだった。他の感染症がなかったのは救いだが、この病気の深刻さを、美代子はまだ実感しきれていないようだった。
「しかし、伊達さん、今からきっついことを言わなければならないわ」とマリア。
「『きっついこと』?」と美咲と美代子は首をかしげて、目を見合わせた。
「お小言よ。私は医師だから、患者のプライバシーを尊重します。だから、あなたを匿名で治療する。でもね、伊達さんには、この病気の怖さもよくわかって欲しいし、伊達さんのしたことの社会的な影響も理解してほしいの。『きっついこと』を言うわね」
美代子は小さく、何度も頷きながら涙を拭った。「ありがとう、先生……本当に……」
美咲は優しく微笑み、立ち上がって美代子の肩に手を置いた。「今日はもう帰りなさい。親御さんに心配かけたらあかんよ。明日以降、ゆっくり話そう。私がちゃんと道筋つけるから」
美代子はカバンを握りしめ、涙目で何度か頭を下げて準備室を出ていった。ドアが閉まる音が響き、部屋に静寂が戻る。
美咲はすぐに机に戻り、美代子が置いていったくしゃくしゃのA4用紙を広げた。「千葉レディースクリニック」の文字が目に入る。リストの中でも、性感染症専門でプライバシーに配慮していると書かれていた。
(#P活船橋の調査は……後回しや。まずは美代子さんの治療を確実にせんば。他の生徒のことまで手が回らん今は、目の前の子を救うのが先や)
美咲は深呼吸し、スマホを取り出した。職員室の電話では記録が残る可能性がある。個人スマホからかける方が安全だ。リストに書かれた電話番号を入力し、呼び出し音が鳴るのを待つ。
数コール後、穏やかな女性の声が応答した。「はい、千葉レディースクリニックでございます」
美咲は一瞬言葉に詰まり、声を低くして切り出した。「突然すみません。教師をしている者なんですが……知り合いの女子高生が、性感染症に感染した疑いがありまして。梅毒の可能性が高いそうです。匿名で検査と治療を受けられるでしょうか? 親バレや学校バレが怖くて、保険証を使いたくないと言ってるんですけど……」
受付の女性は少し間を置いて、丁寧に答えた。「はい、ご相談ありがとうございます。当院ではプライバシーを最優先にしておりますので、初診時は仮名や番号で対応可能です。自費診療も承っております。ただ、そのようなお話でしたら、詳しい内容を当クリニックの医師に直接説明していただけますか? 電話を回しますね」
少し待つと、電話が繋がり、落ち着いた女性の声が聞こえた。「はい、曽根崎です。ご相談の件、伺いました」
女性医師――美咲はそれだけで、少し安心した。声のトーンが穏やかで、信頼できそうだった。
美咲は改めて説明した。「私は高校の生物教師で、患者は私の教え子なんです。保健所で梅毒の陽性が出たそうで、親や学校に知られたくないと……。匿名で治療を受けられるか、費用や報告義務のことなど、詳しく知りたくて」
曽根崎医師は静かに聞き終え、優しく応じた。「わかりました。込み入ったお話になりそうですね。梅毒のような五類感染症の場合、診断確定後は感染症法に基づく保健所への報告義務があり、実名・住所などの確認をお願いすることになります。ただ、報告は統計目的で、個人情報が公表されることは一切ありません。ご安心ください。当院ではプライバシーを厳守し、早期治療であれば抗生物質で完治可能です。自費診療で初回2万円前後、以降1万円程度が目安です。未成年の方も保護者同伴なしで対応します」
完全な匿名での治療は出来ないのか……だが、『報告は統計目的で、個人情報が公表されることはありません』は美代子には言っておかないと、また心配するだろうと美咲は思った。しかし、知るのはクリニックのスタッフ、医師と保健所の担当部署のみなのに美咲は胸を撫で下ろした。法的な報告の部分は美代子に伝える時、丁寧に説明せねば。
「ありがとうございます。では、予約をお願いしたいんですが……」
曽根崎医師は少し間を置いて、こちらの事情を気遣うように提案した。「明日、ご予定は? その患者さんと一緒に来院できますか? 高校生でしたら平日だから、放課後になるわね? だったら、午後六時半とかでどうかしら? クリニックの営業時間の後だから、来院者もいないし、好都合だと思うけど?」
美咲は驚きと感謝で、思わず声を上ずらせた。「そりゃ助かるばい!」今まで標準語で話していた美咲から、長崎弁がポロッと出てしまった。
「あら! 長崎弁じゃない! 同じ九州よ、私はお隣の熊本ばい」電話の向こうで、曽根崎医師がくすくすと笑った。熊本弁の柔らかい響きに、美咲も思わず笑みがこぼれた。シリアスな電話が、ふと温かい空気に変わる。
「お隣さんかい?うれしか!じゃあ、明日よろしくばい!」
電話を切り、美咲は椅子に深く腰を下ろした。カブトガニの模型が、夕陽に照らされて静かに光っている。
(これで、美代子さんは治療を受けられる。まずは一歩や)
しかし、胸の奥の不安は消えない。美代子が言った「佐藤美穂」の名前。そして、#P活船橋の呟き。学校内で広がっているかもしれないこの輪――。
美咲はスマホを握りしめ、静かに呟いた。「……次は、美穂さんと話さんば」
夕陽が完全に沈み、生物準備室は薄暗くなった。美咲はカブトガニの模型を手に取り、祈るように見つめた。
強く、生きなきゃね。
翌日
翌日の放課後、生物準備室。
美咲は時計をチラチラ見ながら、美代子を待っていた。約束の時間通り、ドアが控えめにノックされ、美代子が顔を覗かせる。制服姿の彼女は、昨日の涙が嘘のように落ち着いているようだったが、目元が少し腫れているのがわかった。
「先生……本当に、病院に一緒に来てくれるんですか?」
「当たり前ばい。約束したろ? 行こう」美咲はカバンを肩にかけ、優しく微笑んだ。
二人は学校を抜け出し、船橋駅から電車に乗り込んだ。夕方のラッシュ時を少し外れた車内は、座席が空いていて、二人は並んで座った。
美代子は窓の外を眺めながら、膝の上で手を握りしめていた。「先生……やっぱり怖いです。報告義務って、結局実名で保健所に知られるんですよね? それに費用も……自費で2万円って、初回だけでもキツイです。親にバレたら……」
美咲は美代子の手をそっと握った。「心配せんでもいいよ。報告は統計のためだけ。名前が公表されたり、学校に連絡がいったりは絶対ないって、先生が聞いたよ。費用も、分割とか相談に乗ってくれるって。先生が一緒にいるから、大丈夫」
「治療……痛いんですか? 注射とか……」美代子は小さく頷いたが、声は震えていた。
「早期なら、抗生物質で治るって。痛いのは最初だけかもよ。カブトガニみたいに、殻を固くして耐えようぜ」
美代子は少しだけ笑みを浮かべたが、すぐに不安げに目を伏せた。電車が千葉駅に近づくにつれ、車内の空気が重くなる。
午後六時半少し前、二人はクリニックの前に到着した。小さなビルの一室で、看板の灯りが控えめに光っている。営業時間は終わっているはずなのに、ドアに鍵はかかっていなかった。
美咲がチャイムを鳴らすと、すぐにドアが開き、白衣姿の女性が現れた。ショートヘアの穏やかな顔立ち、名札に「曽根崎マリア」とある。
「いらっしゃい。崎山先生と、患者さんね? どうぞ入って」
クリニック内は静まり返り、受付も看護師も誰もいない。マリアは気を利かせて、他のスタッフを早めに帰したようだった。
マリアは二人を診察室に案内し、椅子を勧めた。「さあ、座りんしゃい。崎山先生も一緒に。私も?って顔しとるけど、生物の先生として事情知っとるでしょ? 立ち会いんさいよ。患者さんも、心細かと思うばい」
美咲は少し驚きながらも頷き、美代子の隣に座った。マリアの熊本弁の柔らかい響きに、昨日の電話の温かさを思い出す。
(この先生なら……大丈夫かも)
診察室の空気が、静かに動き始めた。
美代子は椅子に座ったまま、肩を縮こまらせて俯いていた。マリアは優しく声をかけ、問診から始めた。「まずは落ち着いてね。いつ頃から症状が出た? 発疹とか、だるさとか、何か気づいたことある?」
美代子は怯えた様子で言葉を詰まらせ、ほとんど答えられなかった。美咲はそっと美代子の手を握り、代わりに口を開いた。「保健所で陽性が出た梅毒の可能性が高いそうです。心当たりは……パパ活で、相手の男性から感染したんじゃないかと。本人は親や学校に知られたくなくて、すごく怖がってるんです。グループでやってる話とかは……今は伏せておきます。まずはこの子の治療を」
マリアは頷き、穏やかにメモを取った。「わかりました。パパ活ね……最近、若い子で増えてるわ。まずはしっかり診せてもらうね」
マリアはテキパキと動き、美代子に自覚症状の詳細を聞き、身体検査を進めた。血圧測定、発疹の確認、感染部位の視診、そして採血。保健所と同じような過程を、プライベートな空間で丁寧にこなしていった。
「梅毒の検査はもちろん、他の五類性感染症――クラミジア、淋菌、ヘルペス、コンジローマも一緒に調べるわね。念のため、HIVや他のものも追加で。早期なら全部治る病気ばい」
美代子は怯えながらも、美咲の手を握ったまま従った。採血の針が刺さる瞬間、彼女の体がビクッと震えた。
検査結果は迅速キットと外部ラボで、数十分後に判明した。
マリアは結果用紙を手に、静かに告げた。「梅毒は陽性ね。第1期の早期段階みたい。幸い、他の五類やHIVは全部陰性。梅毒だけばい」
「……他の病気、ないんですか?」美代子は目を丸くし、涙がポロポロとこぼれた。
「うん、ないよ。梅毒は抗生物質で完治するから、今日から治療始めよう。注射と飲み薬で、1〜2週間で症状が治まるはず。定期的に通って、完治確認するばい」
美咲は胸を撫で下ろし、美代子の肩を抱いた。「よかった……本当に」
幸いにして、と言うかなんというか、梅毒だけだった。他の感染症がなかったのは救いだが、この病気の深刻さを、美代子はまだ実感しきれていないようだった。
「しかし、伊達さん、今からきっついことを言わなければならないわ」とマリア。
「『きっついこと』?」と美咲と美代子は首をかしげて、目を見合わせた。
「お小言よ。私は医師だから、患者のプライバシーを尊重します。だから、あなたを匿名で治療する。でもね、伊達さんには、この病気の怖さもよくわかって欲しいし、伊達さんのしたことの社会的な影響も理解してほしいの。『きっついこと』を言うわね」
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