第6話 広がる輪
ー/ー旧音楽室
放課後の船橋KM高校、三年生の教室棟の端にある旧音楽室。埃っぽいピアノが主のように鎮座し、夕方のオレンジ色の光がカーテンの隙間から差し込んでいる。いつものように、美穂が鍵を開けて先に入り、残りの4人が順番に滑り込んだ。
今日は美代子がいない。「バイトだってさ」と彩花が軽く言ったが、誰も深く追及しなかった。最近、美代子は少し元気がなくて、LINEの返事も遅い。みんな、それぞれの予定で忙しいだけだと思っていた。
美穂はドアの近くに立ち、みんなの顔を見回した。眼鏡の奥の瞳はいつも通り穏やかだが、胸の奥に小さな違和感が残っている。最近、身体がだるくて、時折熱っぽい。でも、期末試験のストレスだろう。気のせいだ。そう自分に言い聞かせて、何も言わなかった。
高橋彩花が床に座り込み、長身の脚を大胆に投げ出してため息をついた。「あ~、今日マジでヤバいわ。なんか……下の方が、めっちゃかゆくて、ヒリヒリするの。昨日から腫れてきて、小さい水ぶくれみたいなのができて、触ったら激痛で……。しかも熱が38度超えてて、太ももの付け根のリンパとか、腫れてる感じ?」
部屋が一瞬、静まり返った。
梨乃が黒髪ボブを耳にかける仕草で、静かに目を細めた。「え……それ、ヤバくない?」優奈がポニーテールを揺らして身を乗り出す。「彩花、大丈夫? 病院行ったほうがいいんじゃない?」
葵はピアノの椅子に腰掛け、長い脚を組んだままスマホを弄っていたが、顔を上げてクールな目で彩花を見た。「症状、詳しく言ってみて。水ぶくれと潰瘍? 発熱とリンパ腫れも?」
彩花は頰を赤らめながらも、ギャル特有のノリで笑い飛ばそうとした。「マジで恥ずかしいんだけど……最近のパパと、ちょっと激しくしすぎたかなって。ケンさん以外の人とも会っててさ、その人が結構強引で……」
美穂は黙って聞いていた。胸の違和感が、ふと思い出される。でも、違う。これはただの疲れだ。
梨乃が壁に寄りかかり、妖艶な目元を少し心配げに細めた。「で、避妊はどうしたの? コンドームつけてた?」彩花は一瞬、目を逸らして小さく首を振った。「……つけてなかった。オーラルも結構ガッツリやっちゃって、私も相手も。気持ちよかったし、追加チップもらえたからさ……」
優奈が息を呑んだ。「え、オーラルで?」優奈の目がますます輝き、身を乗り出して彩花を追及した。「え、待って待って!オーラルって、どんな感じで?詳しく教えてよ!私も気になってきたし、参考にしたいじゃん!」
彩花は顔を真っ赤にして手を振った。「そんなこと言えっかよ!マジで恥ずいって!」
でも優奈は引かない。ポニーテールを揺らしながら、さらに食い下がる。「いいじゃん、みんな仲間なんだし!どうやったの?相手のあれ、口でガッツリ?それとも舐められたり?私、経験少ないから知りたいんだって!」
梨乃と葵も興味津々で視線を向け、美穂は黙って聞いている。彩花は観念したようにため息をつき、ギャルっぽく肩をすくめて話し始めた。
「もう、しょうがないな……。あのさ、ホテル入ってすぐキスから始まって、ディープキスで舌絡めまくって。で、相手が『フ◯ラして』って言うから、跪いて咥えて、喉奥まで入れて……結構時間かけてやったよ。相手も興奮して、私のあそこをク◯ニしてきたし。で、本番は正常位からバックに変わって、生でガンガン突かれて……。最後は中で出されちゃった。あれも飲んじゃったよ、シレッと」
彩花は最後に悪戯っぽく笑ったが、部屋の空気はさらに重くなった。優奈が目を丸くして聞いた。「それで、避妊しないでやったのよね?子供ができたらどうすんのさ?」
彩花は平気な顔で手を振った。「低用量ピル飲んでるから、心配ねえよ。毎月ちゃんと飲んでるし」
優奈は自分の下腹に手を当てて、急に不安げになった。彼女も生でやったことがあって、ピルなんて飲んでいない。妊娠の可能性が頭をよぎり、顔が青ざめる。「え……、低用量ピルって、どうやったら手に入るの?」
彩花はくすくす笑いながら答えた。「そんなの、生理が重くって……って産婦人科に行けば処方してくれるっしょ。簡単だよ」
葵が冷静に口を開いた。「彩花のやったのってさ、粘膜接触だよ。口でやったりやられたりしたら、性病が感染する可能性あるんだぜ。ヘルペスとか、口から性器にうつるし、逆も」
梨乃がため息をつき、静かに笑った。「彩花はバカだな。パパ活なんて、マグロでいいんだよ。コンドームつけさせて、粘膜接触しなけりゃ感染リスクが少ないのに。私、いつもそうしてるもん」
優奈の顔が、みるみる真っ青になった。彼女は日焼けした頰を両手で押さえ、ポニーテールを強く握りしめた。「……私も、二回くらい……避妊具なしで、オーラルガッツリやっちゃったことある……。相手が『生がいい』って言ってきて、ノリで……」
部屋の空気が、重くなった。梨乃と葵は互いに顔を見合わせ、葵はクールな表情のまま肩をすくめた。「私はいつもコンドーム必須。金額交渉で粘膜接触なしに徹してるから、大丈夫だと思うけど……」
梨乃も頷く。「私も。リスク高いのはわかってるし……」
美穂は黙ってスマホを取り出し、四人に気づかれないように画面を隠した。指が自然に検索バーに移動し、「五類 性感染症」と打ち込む。
画面に表示されたリスト、梅毒、性器クラミジア、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、淋菌感染症。
さらにスクロールして、女性の初期症状を読み進める。
・梅毒:ほぼ無症状。
・性器クラミジア:ほぼ無症状。
・尖圭コンジローマ:ほぼ無症状。
・淋菌感染症:多くが無症状または軽症状。
・性器ヘルペス:初感染時は症状が強く、自覚しやすい(痛みが顕著)。
美穂の指が止まった。ケンさんとは、いつもコンドームなしだった。ディープキス、オーラル、本番――すべて生で。何度も、何度も。彩花と同じく低用量ピルを服用しているから、妊娠は心配していなかったし……、ケンさんは商売女とやらないし……大丈夫と美穂は思っていた……だけど……
身体のだるさ、時折の熱っぽさ。あれは……?
美穂はスマホを握りしめ、画面を消した。まだ、誰にも言えない。
部屋の中では、彩花が弱々しく笑っていた。「マジで病院行かなきゃかな……。でも、バレたら終わりだよ。親にも、学校にも……」
優奈が震える声で呟いた。「私も……なんか、最近おりもの変かも……。でも、気のせいだと思ってた……」
梨乃と葵は不安げに顔を見合わせ、美穂はただ、静かに微笑みを保っていた。
旧音楽室の外では、夕陽が沈み始めていた。秘密の輪は、静かに、しかし確実に広がり始めていた。
放課後の船橋KM高校、三年生の教室棟の端にある旧音楽室。埃っぽいピアノが主のように鎮座し、夕方のオレンジ色の光がカーテンの隙間から差し込んでいる。いつものように、美穂が鍵を開けて先に入り、残りの4人が順番に滑り込んだ。
今日は美代子がいない。「バイトだってさ」と彩花が軽く言ったが、誰も深く追及しなかった。最近、美代子は少し元気がなくて、LINEの返事も遅い。みんな、それぞれの予定で忙しいだけだと思っていた。
美穂はドアの近くに立ち、みんなの顔を見回した。眼鏡の奥の瞳はいつも通り穏やかだが、胸の奥に小さな違和感が残っている。最近、身体がだるくて、時折熱っぽい。でも、期末試験のストレスだろう。気のせいだ。そう自分に言い聞かせて、何も言わなかった。
高橋彩花が床に座り込み、長身の脚を大胆に投げ出してため息をついた。「あ~、今日マジでヤバいわ。なんか……下の方が、めっちゃかゆくて、ヒリヒリするの。昨日から腫れてきて、小さい水ぶくれみたいなのができて、触ったら激痛で……。しかも熱が38度超えてて、太ももの付け根のリンパとか、腫れてる感じ?」
部屋が一瞬、静まり返った。
梨乃が黒髪ボブを耳にかける仕草で、静かに目を細めた。「え……それ、ヤバくない?」優奈がポニーテールを揺らして身を乗り出す。「彩花、大丈夫? 病院行ったほうがいいんじゃない?」
葵はピアノの椅子に腰掛け、長い脚を組んだままスマホを弄っていたが、顔を上げてクールな目で彩花を見た。「症状、詳しく言ってみて。水ぶくれと潰瘍? 発熱とリンパ腫れも?」
彩花は頰を赤らめながらも、ギャル特有のノリで笑い飛ばそうとした。「マジで恥ずかしいんだけど……最近のパパと、ちょっと激しくしすぎたかなって。ケンさん以外の人とも会っててさ、その人が結構強引で……」
美穂は黙って聞いていた。胸の違和感が、ふと思い出される。でも、違う。これはただの疲れだ。
梨乃が壁に寄りかかり、妖艶な目元を少し心配げに細めた。「で、避妊はどうしたの? コンドームつけてた?」彩花は一瞬、目を逸らして小さく首を振った。「……つけてなかった。オーラルも結構ガッツリやっちゃって、私も相手も。気持ちよかったし、追加チップもらえたからさ……」
優奈が息を呑んだ。「え、オーラルで?」優奈の目がますます輝き、身を乗り出して彩花を追及した。「え、待って待って!オーラルって、どんな感じで?詳しく教えてよ!私も気になってきたし、参考にしたいじゃん!」
彩花は顔を真っ赤にして手を振った。「そんなこと言えっかよ!マジで恥ずいって!」
でも優奈は引かない。ポニーテールを揺らしながら、さらに食い下がる。「いいじゃん、みんな仲間なんだし!どうやったの?相手のあれ、口でガッツリ?それとも舐められたり?私、経験少ないから知りたいんだって!」
梨乃と葵も興味津々で視線を向け、美穂は黙って聞いている。彩花は観念したようにため息をつき、ギャルっぽく肩をすくめて話し始めた。
「もう、しょうがないな……。あのさ、ホテル入ってすぐキスから始まって、ディープキスで舌絡めまくって。で、相手が『フ◯ラして』って言うから、跪いて咥えて、喉奥まで入れて……結構時間かけてやったよ。相手も興奮して、私のあそこをク◯ニしてきたし。で、本番は正常位からバックに変わって、生でガンガン突かれて……。最後は中で出されちゃった。あれも飲んじゃったよ、シレッと」
彩花は最後に悪戯っぽく笑ったが、部屋の空気はさらに重くなった。優奈が目を丸くして聞いた。「それで、避妊しないでやったのよね?子供ができたらどうすんのさ?」
彩花は平気な顔で手を振った。「低用量ピル飲んでるから、心配ねえよ。毎月ちゃんと飲んでるし」
優奈は自分の下腹に手を当てて、急に不安げになった。彼女も生でやったことがあって、ピルなんて飲んでいない。妊娠の可能性が頭をよぎり、顔が青ざめる。「え……、低用量ピルって、どうやったら手に入るの?」
彩花はくすくす笑いながら答えた。「そんなの、生理が重くって……って産婦人科に行けば処方してくれるっしょ。簡単だよ」
葵が冷静に口を開いた。「彩花のやったのってさ、粘膜接触だよ。口でやったりやられたりしたら、性病が感染する可能性あるんだぜ。ヘルペスとか、口から性器にうつるし、逆も」
梨乃がため息をつき、静かに笑った。「彩花はバカだな。パパ活なんて、マグロでいいんだよ。コンドームつけさせて、粘膜接触しなけりゃ感染リスクが少ないのに。私、いつもそうしてるもん」
優奈の顔が、みるみる真っ青になった。彼女は日焼けした頰を両手で押さえ、ポニーテールを強く握りしめた。「……私も、二回くらい……避妊具なしで、オーラルガッツリやっちゃったことある……。相手が『生がいい』って言ってきて、ノリで……」
部屋の空気が、重くなった。梨乃と葵は互いに顔を見合わせ、葵はクールな表情のまま肩をすくめた。「私はいつもコンドーム必須。金額交渉で粘膜接触なしに徹してるから、大丈夫だと思うけど……」
梨乃も頷く。「私も。リスク高いのはわかってるし……」
美穂は黙ってスマホを取り出し、四人に気づかれないように画面を隠した。指が自然に検索バーに移動し、「五類 性感染症」と打ち込む。
画面に表示されたリスト、梅毒、性器クラミジア、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、淋菌感染症。
さらにスクロールして、女性の初期症状を読み進める。
・梅毒:ほぼ無症状。
・性器クラミジア:ほぼ無症状。
・尖圭コンジローマ:ほぼ無症状。
・淋菌感染症:多くが無症状または軽症状。
・性器ヘルペス:初感染時は症状が強く、自覚しやすい(痛みが顕著)。
美穂の指が止まった。ケンさんとは、いつもコンドームなしだった。ディープキス、オーラル、本番――すべて生で。何度も、何度も。彩花と同じく低用量ピルを服用しているから、妊娠は心配していなかったし……、ケンさんは商売女とやらないし……大丈夫と美穂は思っていた……だけど……
身体のだるさ、時折の熱っぽさ。あれは……?
美穂はスマホを握りしめ、画面を消した。まだ、誰にも言えない。
部屋の中では、彩花が弱々しく笑っていた。「マジで病院行かなきゃかな……。でも、バレたら終わりだよ。親にも、学校にも……」
優奈が震える声で呟いた。「私も……なんか、最近おりもの変かも……。でも、気のせいだと思ってた……」
梨乃と葵は不安げに顔を見合わせ、美穂はただ、静かに微笑みを保っていた。
旧音楽室の外では、夕陽が沈み始めていた。秘密の輪は、静かに、しかし確実に広がり始めていた。
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