表示設定
表示設定
目次 目次




第零章:縋る少女

ー/ー



 暗闇が広がっている。 
何も見えない。 
 
焦燥が駆け巡り、心も身体も急かされる。 
 
 
 走り続ける。 
転ばないよう、懸命に。 
 
前へ進む。 
何があろうと、がむしゃらに。 
 
 
 呼吸が乱れ、耳鳴りが響く。 
焼けた空気が鼻腔を刺し、視界が滲む。 
 
けれど。 
この苦痛こそ、未だ足掻いている証だった。 
 
 
 忘れたいと思った。 
 
忘れるわけがなかった。 
 
 
 なぜ必死なのかは思い出せない。 
思い出してはいけない気がした。 
 
君への想いだけが輪郭を保っている。 
忘れてしまえば、私という存在は消滅へ向かう。 
 
 
 君を探している。 
君に会いたい。 
君に、もう一度。 
 
呼ぶたびに遠ざかる名は私を磔る。 
全てを焦がして、離さない。 
 眼前に眩い光が射した。 
この暗闇で、唯一の救い。 
 
私を堕落させる希望。 
瞳に焼きつく赤光。 
 
 
 それは、黒の淵から刺し込む月の眼差し。 
 
それは、夢の中に沈んだ太陽の残滓。 
 
 
 だから手を伸ばした。 
触れられると、疑わずに。 
 
だから手を伸ばした。 
過ちだと知りながら、それでも。 
 
 
 指先が裂けるほど伸ばしきった、その彼方。 
確かに。 
君に届いた。 
そう、信じた瞬間。 
 
世界は綻びた。 
凍てつく静謐は、安息の城にて眠る。 
水底に潜む牙は、樹根となり大地を抉る。 
蒼き焔は、果てなき河の揺らぎを灯す。 
 
 
 縋るしか出来ない私は、天穹を見上げた。 
月と太陽が交錯する、蝕みの刻。 
 
君を掴んだ掌は、閉ざされたまま在り続けている。 


スタンプを贈って作者を応援しよう!



みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 暗闇が広がっている。 
何も見えない。 
焦燥が駆け巡り、心も身体も急かされる。 
 走り続ける。 
転ばないよう、懸命に。 
前へ進む。 
何があろうと、がむしゃらに。 
 呼吸が乱れ、耳鳴りが響く。 
焼けた空気が鼻腔を刺し、視界が滲む。 
けれど。 
この苦痛こそ、未だ足掻いている証だった。 
 忘れたいと思った。 
忘れるわけがなかった。 
 なぜ必死なのかは思い出せない。 
思い出してはいけない気がした。 
君への想いだけが輪郭を保っている。 
忘れてしまえば、私という存在は消滅へ向かう。 
 君を探している。 
君に会いたい。 
君に、もう一度。 
呼ぶたびに遠ざかる名は私を磔る。 
全てを焦がして、離さない。 
 眼前に眩い光が射した。 
この暗闇で、唯一の救い。 
私を堕落させる希望。 
瞳に焼きつく赤光。 
 それは、黒の淵から刺し込む月の眼差し。 
それは、夢の中に沈んだ太陽の残滓。 
 だから手を伸ばした。 
触れられると、疑わずに。 
だから手を伸ばした。 
過ちだと知りながら、それでも。 
 指先が裂けるほど伸ばしきった、その彼方。 
確かに。 
君に届いた。 
そう、信じた瞬間。 
世界は綻びた。 
凍てつく静謐は、安息の城にて眠る。 
水底に潜む牙は、樹根となり大地を抉る。 
蒼き焔は、果てなき河の揺らぎを灯す。 
 縋るしか出来ない私は、天穹を見上げた。 
月と太陽が交錯する、蝕みの刻。 
君を掴んだ掌は、閉ざされたまま在り続けている。