第零章:縋る少女
ー/ー 暗闇が広がっている。
何も見えない。
焦燥が駆け巡り、心も身体も急かされる。
走り続ける。
転ばないよう、懸命に。
前へ進む。
何があろうと、がむしゃらに。
呼吸が乱れ、耳鳴りが響く。
焼けた空気が鼻腔を刺し、視界が滲む。
けれど。
この苦痛こそ、未だ足掻いている証だった。
忘れたいと思った。
忘れるわけがなかった。
なぜ必死なのかは思い出せない。
思い出してはいけない気がした。
君への想いだけが輪郭を保っている。
忘れてしまえば、私という存在は消滅へ向かう。
君を探している。
君に会いたい。
君に、もう一度。
呼ぶたびに遠ざかる名は私を磔る。
全てを焦がして、離さない。
眼前に眩い光が射した。
この暗闇で、唯一の救い。
私を堕落させる希望。
瞳に焼きつく赤光。
それは、黒の淵から刺し込む月の眼差し。
それは、夢の中に沈んだ太陽の残滓。
だから手を伸ばした。
触れられると、疑わずに。
だから手を伸ばした。
過ちだと知りながら、それでも。
指先が裂けるほど伸ばしきった、その彼方。
確かに。
君に届いた。
そう、信じた瞬間。
世界は綻びた。
凍てつく静謐は、安息の城にて眠る。
水底に潜む牙は、樹根となり大地を抉る。
蒼き焔は、果てなき河の揺らぎを灯す。
縋るしか出来ない私は、天穹を見上げた。
月と太陽が交錯する、蝕みの刻。
君を掴んだ掌は、閉ざされたまま在り続けている。
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