第17話【ライブの予定】
ー/ー SKYSHIPSの紫音をサポートドラムとしてメンバーに迎えた緋と蒼は、3時間のスタジオ練習を終え退出。そして緋は上がったテンションのままに、アルバイトの黒髪ツインテール少女に聞いた。
「あの、ライブに出たいんですけど……初めてでも、出れそうなブッキングとか、ありますか?」
「おっ、ライブ出演ですか!?確認するのでちょっと待っててくださいね……」
アルバイトの少女はカウンター横のパソコンを操作。マウスホイールがガラガラ言う音が聞こえる。
「……そうですね……来月は割と空き枠ありますよ。初ライブということなので……1ヶ月半ほど先になりますけど22日なんてどうでしょう。平日、木曜日なんですけど、同じ高校生のバンドも出演するので、対バン相手が怖いってことはないと思いますよ」
「……はい。じゃあ、22日にします」
「はい。じゃあここ入れますね。バンド名と連絡先教えてください」
少女が紙を差し出し、緋はそこにバンド名と携帯の番号を書く。
「<Chandelier>……いい名前ですね」
「あ、ありがとうございます」
緋は頭を下げた。
「……で、お金の話になるんですけど、チケット1枚2500円、ノルマ10枚で25000円になるんですが、今払えそうですか?別にライブの日でもいいんですけど」
「そしたら……私と蒼で1万出してしお……紫はサポートだし5000円で──」
「──いや、緋。私が出すよ」
「え?」
紫音が緋を押しのけ、財布から1万円札を3枚出してトレーに置く。
「ありがとうございます、確かに。こちらお釣りの5000円です」
「おう」
紫音は5000円札を受け取り財布にしまう。
「え、あ……いいの?」
「いいって。この前私らのライブ来てくれた礼みたいなもんかな。歳下に払わせんのもアレだしな」
「……なんかこう、ありがとう」
「いいって。先輩からのエールみたいなもんだよ」
そう言って紫音は笑った。
「……ところで、なんですけど」
アルバイトの少女は、緋の左隣にいる紫音を見て聞いた。
「はい」
「──SKYSHIPSの紫音さんですよね?」
「え」
しばらくの沈黙。
「……ち、ちちち違う!!私は曇紫音……じゃなくて紫!決してSKYSHIPSの曇紫音などではなくてな!?」
「人違いだったらそんな反応はしませんよ、どう見ても曇紫音さん本人じゃないですか」
紫音は取り乱したが、アルバイトの少女は淡々とツッコんだ。
「先月くらいのワーサイでも少しお話させていただいた『さくな』です。心当たりありませんか?」
「ああ、あの地雷系の!」
「私のこと覚えてるってことはやっぱりSKYSHIPSの紫音さんじゃないですか」
「……あ、はいそうですSKYSHIPSの紫音です……」
「認めちゃったよ……」
緋と蒼は1歩引いたところから、紫音とアルバイトの子『さくな』のやりとりを眺めていた。
「他にもバンドやってたんですね、知りませんでした」
「いや、これはサポートだから別にバンドメンバーってわけじゃなくてな?」
「そうですか。大変ですね、SKYSHIPSのライブやって勉強もして、他のバンドのサポートまで……」
「あ、ああ……大変だけどガンバッテル……」
「なんか今カタコトだったよね」
「ひとつ嘘が混じってたわね」
「……えっと、さくな。とりあえずアレだ。私が<Chandelier>でサポートやってることは誰にも言わないでくれないか?」
「え、うーん、まあ言いませんけど。でも、あんまりそのままだとインディーズ界隈好きな人には普通にバレると思いますよ。変装とかしたらどうですか?」
「あー、なるほど?確かにそりゃいいな、考えとくわ」
「……はぁ。よし、すみません、お話を長々と。ライブ出演はOKなので、大丈夫です。それで、当日までに、こちらのPAシートを書いてきてほしいです」
さくなは緋に用紙を渡す。
「メンバーの立ち位置とか、セトリとかです。これを当日に忘れず書いて持ってきてくださいね。それで、リハーサルのために、5時までに来て頂けると嬉しいです」
「はい。分かりました」
「活動頑張って下さいね!」
「はい!ありがとうございます!」
そうして、緋たちは店から出る。
「……当たり前だけど暗いね」
「もう9時だからそりゃぁな。お前ら、気をつけて帰れよ」
「うん。紫音もね」
「おう」
「あ、あと、明日路上ライブやるけど来れそう?」
「おう、いいぜ」
「ありがと。それじゃまた明日」
「ああ、また明日な」
紫音は駅がある南の方へ。緋と蒼は北の方へと歩いていった。
◇◇◇
────
Live info
<Chandelier>ライブ初出演決定!
6月22日(木)
町田RAIN BOW
チケット取り置きはDMまで!
────
「……っと」
深夜、緋は告知ツイートをして、携帯をテーブルに置いた。
霜夜家の和室。緋の右隣には蒼がいる、いつもの光景。
「……6月22日……か」
そう呟き、真横に倒れると、ちょうどそこにいた蒼の膝上に頭が乗った。
「6月22日って、緋の誕生日よね」
「……うん。そう。よく覚えてるね」
「そりゃあ覚えるわよ。この世界で一番尊い存在がこの世に誕生した記念日だもの」
「……ありがとう。蒼だけだよ、そんなふうに言ってくれるの」
緋は目を閉じた。
柔らかく温かい蒼の太ももに身を預けて。
「せっかく膝まくらしてるし、耳かきでもする?」
「……じゃあ……おねがい」
「ふふっ、分かったわ」
蒼は体を逸らして棚へ手を伸ばし耳かき棒が何種類か入れられている文房具立てを取り、続けてテーブルの上の箱ティッシュから1枚抜き取る。
「……じゃあ、左耳から」
蒼はそっと緋の左耳を隠している横髪を邪魔にならないように耳に掛け、耳の中を見る。
「痛かったら言うのよ」
「……ん」
竹の耳かき棒を、そっと緋の耳へ入れる。
「……」
蒼は少し目を細め、慎重に耳の中を掻いていく。
「……痛くない?」
「……ぅん。……痛いないよ……」
「ならよかったわ」
耳かき棒を抜く。耳垢は多少はあるがあまり多くもなく綺麗な方だった。
「……ねぇ緋」
「ん……?」
蒼は綿棒に持ち替えてそれで耳かきを続けながら緋に話しかける。
「言いたくなかったら言わなくていいんだけど、緋の両親って、どんな人なの?」
「……両親……か……そうだなぁ……なんていうか、私をなんとも思っていないというか。……普通、娘が家出とかしたら、心配して、探してくれると思うんだよ。……だけど現に、今だってそう。この家に来てもう5ヶ月経つけど、何もしてくれてない。いないならいないで別にいいんだよ。いたらいたで、最低限の面倒みるだけで、それ以上は何もしてくれない。……私が虐められた時だって、私が学校行きたくないって言っても、学校は行けって言って、何もしてくれなかった」
「……そう」
「……だけど……何もくれなかった訳じゃなかった。……9歳の誕生日に……ジャズマスター買ってくれたの覚えてる」
「……貴女を愛していなかったってわけではないと思うわ」
「……だといいんだけどね……」
「……よし。次、右耳。反対向いて」
「うん」
緋は反対側を向く。目の前が蒼の服で覆われ、目を瞑ってまた蒼に全てを預ける。
「……」
そして、静かな時間が過ぎていった。
「……緋。終わったわよ」
蒼が呼びかけても、緋は返事をしなかった。
「……寝ちゃった?」
返事はない。ただ、小さな呼吸音と共に小さく体が動いているのみ。
「……」
蒼はそっと緋の頭を撫でる。ふわりと柔らかい髪。触り心地が良くてついつい撫ですぎてしまう。
緋が膝まくらで眠っているその姿があまりにも可愛らしいのでそのままにしておきたい気持ちもあるが、緋のことも考え、蒼は1度起こす選択をする。
「……緋。ベッドで寝ないと風邪ひくわよ。歯磨きして部屋行きましょ」
「……ぅ……ん」
緋は薄目を開けると蒼に抱きつき、よじ登るように起き上がった。
ぎゅっと抱き合った状態になる。
「眠たいわよね」
「……うん」
「もう少し頑張って」
「……うん」
なんて言いながらも、立ち上がるまでに3分かかった。
……To be continued
「あの、ライブに出たいんですけど……初めてでも、出れそうなブッキングとか、ありますか?」
「おっ、ライブ出演ですか!?確認するのでちょっと待っててくださいね……」
アルバイトの少女はカウンター横のパソコンを操作。マウスホイールがガラガラ言う音が聞こえる。
「……そうですね……来月は割と空き枠ありますよ。初ライブということなので……1ヶ月半ほど先になりますけど22日なんてどうでしょう。平日、木曜日なんですけど、同じ高校生のバンドも出演するので、対バン相手が怖いってことはないと思いますよ」
「……はい。じゃあ、22日にします」
「はい。じゃあここ入れますね。バンド名と連絡先教えてください」
少女が紙を差し出し、緋はそこにバンド名と携帯の番号を書く。
「<Chandelier>……いい名前ですね」
「あ、ありがとうございます」
緋は頭を下げた。
「……で、お金の話になるんですけど、チケット1枚2500円、ノルマ10枚で25000円になるんですが、今払えそうですか?別にライブの日でもいいんですけど」
「そしたら……私と蒼で1万出してしお……紫はサポートだし5000円で──」
「──いや、緋。私が出すよ」
「え?」
紫音が緋を押しのけ、財布から1万円札を3枚出してトレーに置く。
「ありがとうございます、確かに。こちらお釣りの5000円です」
「おう」
紫音は5000円札を受け取り財布にしまう。
「え、あ……いいの?」
「いいって。この前私らのライブ来てくれた礼みたいなもんかな。歳下に払わせんのもアレだしな」
「……なんかこう、ありがとう」
「いいって。先輩からのエールみたいなもんだよ」
そう言って紫音は笑った。
「……ところで、なんですけど」
アルバイトの少女は、緋の左隣にいる紫音を見て聞いた。
「はい」
「──SKYSHIPSの紫音さんですよね?」
「え」
しばらくの沈黙。
「……ち、ちちち違う!!私は曇紫音……じゃなくて紫!決してSKYSHIPSの曇紫音などではなくてな!?」
「人違いだったらそんな反応はしませんよ、どう見ても曇紫音さん本人じゃないですか」
紫音は取り乱したが、アルバイトの少女は淡々とツッコんだ。
「先月くらいのワーサイでも少しお話させていただいた『さくな』です。心当たりありませんか?」
「ああ、あの地雷系の!」
「私のこと覚えてるってことはやっぱりSKYSHIPSの紫音さんじゃないですか」
「……あ、はいそうですSKYSHIPSの紫音です……」
「認めちゃったよ……」
緋と蒼は1歩引いたところから、紫音とアルバイトの子『さくな』のやりとりを眺めていた。
「他にもバンドやってたんですね、知りませんでした」
「いや、これはサポートだから別にバンドメンバーってわけじゃなくてな?」
「そうですか。大変ですね、SKYSHIPSのライブやって勉強もして、他のバンドのサポートまで……」
「あ、ああ……大変だけどガンバッテル……」
「なんか今カタコトだったよね」
「ひとつ嘘が混じってたわね」
「……えっと、さくな。とりあえずアレだ。私が<Chandelier>でサポートやってることは誰にも言わないでくれないか?」
「え、うーん、まあ言いませんけど。でも、あんまりそのままだとインディーズ界隈好きな人には普通にバレると思いますよ。変装とかしたらどうですか?」
「あー、なるほど?確かにそりゃいいな、考えとくわ」
「……はぁ。よし、すみません、お話を長々と。ライブ出演はOKなので、大丈夫です。それで、当日までに、こちらのPAシートを書いてきてほしいです」
さくなは緋に用紙を渡す。
「メンバーの立ち位置とか、セトリとかです。これを当日に忘れず書いて持ってきてくださいね。それで、リハーサルのために、5時までに来て頂けると嬉しいです」
「はい。分かりました」
「活動頑張って下さいね!」
「はい!ありがとうございます!」
そうして、緋たちは店から出る。
「……当たり前だけど暗いね」
「もう9時だからそりゃぁな。お前ら、気をつけて帰れよ」
「うん。紫音もね」
「おう」
「あ、あと、明日路上ライブやるけど来れそう?」
「おう、いいぜ」
「ありがと。それじゃまた明日」
「ああ、また明日な」
紫音は駅がある南の方へ。緋と蒼は北の方へと歩いていった。
◇◇◇
────
Live info
<Chandelier>ライブ初出演決定!
6月22日(木)
町田RAIN BOW
チケット取り置きはDMまで!
────
「……っと」
深夜、緋は告知ツイートをして、携帯をテーブルに置いた。
霜夜家の和室。緋の右隣には蒼がいる、いつもの光景。
「……6月22日……か」
そう呟き、真横に倒れると、ちょうどそこにいた蒼の膝上に頭が乗った。
「6月22日って、緋の誕生日よね」
「……うん。そう。よく覚えてるね」
「そりゃあ覚えるわよ。この世界で一番尊い存在がこの世に誕生した記念日だもの」
「……ありがとう。蒼だけだよ、そんなふうに言ってくれるの」
緋は目を閉じた。
柔らかく温かい蒼の太ももに身を預けて。
「せっかく膝まくらしてるし、耳かきでもする?」
「……じゃあ……おねがい」
「ふふっ、分かったわ」
蒼は体を逸らして棚へ手を伸ばし耳かき棒が何種類か入れられている文房具立てを取り、続けてテーブルの上の箱ティッシュから1枚抜き取る。
「……じゃあ、左耳から」
蒼はそっと緋の左耳を隠している横髪を邪魔にならないように耳に掛け、耳の中を見る。
「痛かったら言うのよ」
「……ん」
竹の耳かき棒を、そっと緋の耳へ入れる。
「……」
蒼は少し目を細め、慎重に耳の中を掻いていく。
「……痛くない?」
「……ぅん。……痛いないよ……」
「ならよかったわ」
耳かき棒を抜く。耳垢は多少はあるがあまり多くもなく綺麗な方だった。
「……ねぇ緋」
「ん……?」
蒼は綿棒に持ち替えてそれで耳かきを続けながら緋に話しかける。
「言いたくなかったら言わなくていいんだけど、緋の両親って、どんな人なの?」
「……両親……か……そうだなぁ……なんていうか、私をなんとも思っていないというか。……普通、娘が家出とかしたら、心配して、探してくれると思うんだよ。……だけど現に、今だってそう。この家に来てもう5ヶ月経つけど、何もしてくれてない。いないならいないで別にいいんだよ。いたらいたで、最低限の面倒みるだけで、それ以上は何もしてくれない。……私が虐められた時だって、私が学校行きたくないって言っても、学校は行けって言って、何もしてくれなかった」
「……そう」
「……だけど……何もくれなかった訳じゃなかった。……9歳の誕生日に……ジャズマスター買ってくれたの覚えてる」
「……貴女を愛していなかったってわけではないと思うわ」
「……だといいんだけどね……」
「……よし。次、右耳。反対向いて」
「うん」
緋は反対側を向く。目の前が蒼の服で覆われ、目を瞑ってまた蒼に全てを預ける。
「……」
そして、静かな時間が過ぎていった。
「……緋。終わったわよ」
蒼が呼びかけても、緋は返事をしなかった。
「……寝ちゃった?」
返事はない。ただ、小さな呼吸音と共に小さく体が動いているのみ。
「……」
蒼はそっと緋の頭を撫でる。ふわりと柔らかい髪。触り心地が良くてついつい撫ですぎてしまう。
緋が膝まくらで眠っているその姿があまりにも可愛らしいのでそのままにしておきたい気持ちもあるが、緋のことも考え、蒼は1度起こす選択をする。
「……緋。ベッドで寝ないと風邪ひくわよ。歯磨きして部屋行きましょ」
「……ぅ……ん」
緋は薄目を開けると蒼に抱きつき、よじ登るように起き上がった。
ぎゅっと抱き合った状態になる。
「眠たいわよね」
「……うん」
「もう少し頑張って」
「……うん」
なんて言いながらも、立ち上がるまでに3分かかった。
……To be continued
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