第16話【ロックバンドとして】
ー/ー 霜夜家。リビング横の和室。
風呂上りの緋はTwitterを開き、SKYSHIPSのライブインフォを見る。明日ライブ出演があることを確認するとLINEを開き、紫音にメッセージを送った。
『明後日練習でいい?』
すると、秒で既読がつき、返事が返ってきた。
『いいぞ。どこでやんの?』
『どこがいい?』
『いつもどこで練習してんの?』
『家。ドラムは電子でも無理かな』
『じゃあスタジオかな。ちなみに最寄り駅どこ?』
『町田』
『じゃあ駅の近くのスタジオ調べて、なんか適当なところ予約とっといてくれ。時間は私がちょい遠いから6時くらいにしてもらえると助かる』
『了解、6時ね』
『ああ。予約とれたら場所送ってくれ』
『おけ』
緋は手をだらんと下げ、蒼を呼ぶ。
「蒼。明後日、学校終わりにスタジオで練習でいいでしょ?」
「ええ。なんだか本格的にバンドっぽくなってきたわね」
「だね。駅の近くで良い感じのとこにするよ」
「ええ」
蒼に寄り添われながら、緋は携帯で地図を開き駅付近の音楽スタジオを調べる。
「……」
思っていたより結構な数ヒット。正直何処でもいいかと思ったところで、適当なところの口コミを覗けば「フロントがタバコくさい」の書き込みが。
「ここは却下」
「だね」
緋も蒼もタバコ厳禁の人間のため、禁煙以外は除外の方針で進める。
「……ここは?駅から若干離れるけど、綺麗って評判だし、なんならライブハウス併設」
緋が見つけてきたのは、『町田RAIN BOW』というスタジオ併設型ライブハウス。
「この前見落としてたわね。良いところみたいじゃない?」
「うん。ここにしてみよ」
部屋数もそこそこ多いためか、難なく予約は取れた。
そして紫音にこのことを伝えた。
『町田RAIN BOWってところにした』
『了解。じゃまた明後日』
『ん』
緋はテーブルの上に携帯を置くと、「んっ」と声を漏らして背伸びをした。
「はぁ……ちょっときつ……」
胸が少し窮屈に感じて背伸びをやめ、肩を回す。
「肩揉んであげるわよ」
「あ、ありがと」
蒼は緋の後ろで膝立ちになると、緋の肩を揉み始める。
少し指の長い、ベーシストらしい手で。
「あ……っ……」
蒼に肩をぎゅっと揉まれ、思わず声が出てしまった。
「痛かった?」
「ううん。……気持ちよくて」
「ならよかった。けど、相当こってるわね」
「まあね……蒼は肩こらない?」
「まあ……私も少しは」
「じゃあ私も後で揉んであげるね」
「……ありがとう」
蒼は淡々と緋の肩を揉みしだく。
「……蒼」
緋は吐息多めの声で蒼を呼んだ。
「なに?」
「……蒼に頼ってばっかりでさ。蒼のお父さんお母さんにも申し訳ないし、アルバイトやろうと思って」
「そんなこと思わなくてもいいのに。私は貴女がそばにいてくれるだけでいいの」
肩揉みを終えた蒼はそのまま前の緋に覆い被さるように抱きつく。そして耳元で囁く。
「……キスしたい」
「……いいよ」
◇◇◇
──月曜日。
緋と蒼、そして紫音の3人はスタジオ前に集まった。
「ここか。最近来てないけど前にライブしたことあるぜ」
「そうなの?」
「ああ。フロアキャパは確か200人くらいだから、そうだな……ここを初めての会場にすんのも悪くは無いと思うぜ。なんなら今日出演日決めといてもいいかもな」
「早くない?大丈夫?」
「早くていいんだよ。出演日は1、2ヶ月以上は先になると思うし。箱の企画の空いてる枠にねじ込むのもアリっちゃありだけどな。入ろうぜ」
紫音に先導され、緋と蒼は中へ入る。
店前にはポスターを貼った看板も立っておりライブもあるみたいだったが、緋たちの目的はスタジオ練習。
店内は明るく、レンガ調や木目調の壁でオシャレな印象。壁にかけられたコルクボードには、ライブのポスターがギッシリ貼られていた。
緋は受付カウンターの方へ行き、スタッフ呼び出しのボタンを押す。すると黒髪ツインテールの少女が奥から現れた。胸ポケットには『アルバイト 咲不樹』の名札を付けている。
「スタジオ予約した終です」
「はーい。終さんですね。学割3時間。地下1階の102番のお部屋どーぞ。機材の場所を動かしたりした場合は元の位置に戻してもらえると助かりますっ」
「あ、はい」
さくっと受付は終わり、緋たちは102の番号が書かれた扉を開ける。
中はそこそこの広さ。木の色で明るく鏡も綺麗だった。
「Pearlか。OK」
紫音はドラムセットに向かっていく。
「結構広いね。もっと狭いと思ってた」
「いい感じじゃない」
緋と蒼はケースを下ろし、ギターとベースを取り出す。演奏の準備をしながら、緋は紫音に説明を始める。
「で……えっと、紫。練習やるわけなんだけど、私のオリジナル曲、今は『Skyblue』と『city night』の2曲だけなんだけど、この2曲ともドラムのスコアが無くて。なんかこう、雰囲気で指示するけど大丈夫?」
「んー、まあ任せろ。路上ライブで聴いただけだけど、そんなドラムが先陣切らなきゃいけねぇ曲じゃないんだろ」
「うん。タイミングとかは私と蒼に合わせてくれれば。私もフロントマンだし、紫が乗りやすいように合図する」
「助かる」
「それじゃ、丸投げになって悪いけど、聴いて、演って覚えて!」
「任せろ!」
紫音はスネアを叩いて気合を入れた。
「よし、それじゃぁ……『Skyblue』からやるよ。最初は静かで……えっと、途中からキックくれると嬉しい」
「おう」
──そして緋と蒼は目を合わせる。
ふたりで、同じタイミングでつま先を地面に落とす。
つま先で叩いた4カウントに続き、ギターとベース、それぞれの単音を重ねる。
静かに雨がぽつりぽつりと降り始めるような、クリーンな音。
三本指で持ったピックが、ジャズマスターの弦を正確に弾いていく。
そのワンフレーズを終え、もう1回、というところで、紫音がバスドラを踏み始める。
緋と蒼は顔を見合わせる。いいセンスだと思った。
路上ライブで見せた手拍子は伊達じゃない。
ゆっくり、ゆったり、しかし確実に乗れる。
静かなバラードでも、確かなグルーヴを産む。
そしてすぐに順応したのか、バスドラに加え左足でハイハットをベースに合わせて踏む。
「──」
確実なリズムキープが続く中、Aメロに入るとリムショットでアレンジ。
優しく鳴るジャズマスターとジャズベースの音の後ろ、追い風を吹かせるような小さなシンバルロールが響く。
SKYSHIPSの曲はどれもハードで、紫音のドラム捌きは圧倒的で驚異的だったのだが、この曲は完全に別物のバラード。しかし、紫音はこの曲の魅せ方を完全に理解しているかのように、綺麗なフレーズを重ねてくる。
1度緋と蒼が作ったリズム、それを崩れないように、寸分の狂いもなく両足を動かしている。彼女の足はもはや人力メトロノームだった。
「──」
そして静かに、けれども力強く吐かれたサビ最後の歌詞と共に、緋と蒼は1度大きく体を逸らして勢いをつける。
ここからゆったりした曲調は一転し、テンポが早くなる。
紫音は、緋のと蒼の動きでその先を読み、転調に対応してみせた。
クラッシュを叩きながら加速するフィルイン。
緋はどうなっているんだと思った。明らかに両手を使ったスネアとタムの音が変則的に鳴っていたにも関わらず、クラッシュが一定のリズムで鳴り続けていた。
いまインディーズ界で最も勢いのあるガールズバンドのドラムスは伊達じゃない。
緋は歌いながらも、鏡に映る紫音の表情を見た。
目を大きく開いて、ニヤついた、楽しそうな表情をしている。
本当にドラムが好きで、楽しくてやっている。それが、痛いくらいに伝わってきて、自分も更に楽しくなってくる。
少し走り気味に歌い、サビ前に差し込まれるフィルイン。勢いをつける連打、そこから射出されるように緋は歌声を飛ばす。暖かく柔らかいオーバードライブの響きと共に。
既にこの曲はバラードからハードなロックに変貌を遂げていた。
確かな疾走感に、熱を帯びたバンドサウンド。
ボーカル、コーラス、ギター、ベース、そしてドラム。
3人で奏でる5つの音が重なり合い、グルーヴを加速させていく。
腕だけでなく、体まで動く。
動きによって体が熱を放ち、じんわりと汗が浮かぶ。
歌にも力がこもり若干音を外すが、緋はここまで全力で歌えればどれだけ楽しいだろうという思いが先行して、ミスを気にもとめなかった。
「──I just want to feel the warmth of the Skyyyyybluuuuuuueeee~~~イァアッ!!!」
最後の歌詞を、叫ぶように歌う。
本来、こんな力強く歌う曲ではなかった。
暗闇の中で、蒼に会いたくて会いたくて、寂しくて寂しくて、なけなしの力を振り絞るようにして書いた曲。少し暗いルーツを持つ、冷たい曲だったはずのそれが、紫音が加わっただけで全力で叫ぶロックに早変わりだ。
肺が空になるまで、伸ばして、最後の最後まで絞り出して吐く。
そしてまた全力の、アウトロ。
緋と蒼、そして紫音は向き合い、互いの体の動きを見ながら、バラバラにならないように気をつけながらもぐちゃぐちゃにぶっ放す。
そしてアウトロも終わりへ差し掛かると、ギターとベースを掻き鳴らしてストップ、その間に差し込まれるドラムソロ。そしてまた掻き鳴らしてストップ。ギター&ベースと、ドラムで交互に鳴らし、そして最後は3人でゆっくりと減速しながらタイミングを合わせに行き、紫音が大きく両手を振り上げるのに合わせて緋と蒼も体を逸らせる。
──そして最後、全力を込めた一発を爆発させた。
そして追い討ちと言わんばかりに緋は叫びながらジャズマスターをめちゃくちゃに掻き鳴らす。蒼もそれに乗っかり、紫音もシンバルロールで対抗。
緋は大きく体を逸らし蒼と紫音も緋に合わせ、もう一撃最後の一発をぶちかまして、今度こそ終わった。
「Fooooッ!!最ッ高、バンド楽しっ!!ドラムいるとこんな変わるんだ!!ねぇ蒼も楽しかったよね!」
「ええ!」
緋はバグったテンションでジャズマスターを下ろすと蒼に飛びついた。
……To be continued
風呂上りの緋はTwitterを開き、SKYSHIPSのライブインフォを見る。明日ライブ出演があることを確認するとLINEを開き、紫音にメッセージを送った。
『明後日練習でいい?』
すると、秒で既読がつき、返事が返ってきた。
『いいぞ。どこでやんの?』
『どこがいい?』
『いつもどこで練習してんの?』
『家。ドラムは電子でも無理かな』
『じゃあスタジオかな。ちなみに最寄り駅どこ?』
『町田』
『じゃあ駅の近くのスタジオ調べて、なんか適当なところ予約とっといてくれ。時間は私がちょい遠いから6時くらいにしてもらえると助かる』
『了解、6時ね』
『ああ。予約とれたら場所送ってくれ』
『おけ』
緋は手をだらんと下げ、蒼を呼ぶ。
「蒼。明後日、学校終わりにスタジオで練習でいいでしょ?」
「ええ。なんだか本格的にバンドっぽくなってきたわね」
「だね。駅の近くで良い感じのとこにするよ」
「ええ」
蒼に寄り添われながら、緋は携帯で地図を開き駅付近の音楽スタジオを調べる。
「……」
思っていたより結構な数ヒット。正直何処でもいいかと思ったところで、適当なところの口コミを覗けば「フロントがタバコくさい」の書き込みが。
「ここは却下」
「だね」
緋も蒼もタバコ厳禁の人間のため、禁煙以外は除外の方針で進める。
「……ここは?駅から若干離れるけど、綺麗って評判だし、なんならライブハウス併設」
緋が見つけてきたのは、『町田RAIN BOW』というスタジオ併設型ライブハウス。
「この前見落としてたわね。良いところみたいじゃない?」
「うん。ここにしてみよ」
部屋数もそこそこ多いためか、難なく予約は取れた。
そして紫音にこのことを伝えた。
『町田RAIN BOWってところにした』
『了解。じゃまた明後日』
『ん』
緋はテーブルの上に携帯を置くと、「んっ」と声を漏らして背伸びをした。
「はぁ……ちょっときつ……」
胸が少し窮屈に感じて背伸びをやめ、肩を回す。
「肩揉んであげるわよ」
「あ、ありがと」
蒼は緋の後ろで膝立ちになると、緋の肩を揉み始める。
少し指の長い、ベーシストらしい手で。
「あ……っ……」
蒼に肩をぎゅっと揉まれ、思わず声が出てしまった。
「痛かった?」
「ううん。……気持ちよくて」
「ならよかった。けど、相当こってるわね」
「まあね……蒼は肩こらない?」
「まあ……私も少しは」
「じゃあ私も後で揉んであげるね」
「……ありがとう」
蒼は淡々と緋の肩を揉みしだく。
「……蒼」
緋は吐息多めの声で蒼を呼んだ。
「なに?」
「……蒼に頼ってばっかりでさ。蒼のお父さんお母さんにも申し訳ないし、アルバイトやろうと思って」
「そんなこと思わなくてもいいのに。私は貴女がそばにいてくれるだけでいいの」
肩揉みを終えた蒼はそのまま前の緋に覆い被さるように抱きつく。そして耳元で囁く。
「……キスしたい」
「……いいよ」
◇◇◇
──月曜日。
緋と蒼、そして紫音の3人はスタジオ前に集まった。
「ここか。最近来てないけど前にライブしたことあるぜ」
「そうなの?」
「ああ。フロアキャパは確か200人くらいだから、そうだな……ここを初めての会場にすんのも悪くは無いと思うぜ。なんなら今日出演日決めといてもいいかもな」
「早くない?大丈夫?」
「早くていいんだよ。出演日は1、2ヶ月以上は先になると思うし。箱の企画の空いてる枠にねじ込むのもアリっちゃありだけどな。入ろうぜ」
紫音に先導され、緋と蒼は中へ入る。
店前にはポスターを貼った看板も立っておりライブもあるみたいだったが、緋たちの目的はスタジオ練習。
店内は明るく、レンガ調や木目調の壁でオシャレな印象。壁にかけられたコルクボードには、ライブのポスターがギッシリ貼られていた。
緋は受付カウンターの方へ行き、スタッフ呼び出しのボタンを押す。すると黒髪ツインテールの少女が奥から現れた。胸ポケットには『アルバイト 咲不樹』の名札を付けている。
「スタジオ予約した終です」
「はーい。終さんですね。学割3時間。地下1階の102番のお部屋どーぞ。機材の場所を動かしたりした場合は元の位置に戻してもらえると助かりますっ」
「あ、はい」
さくっと受付は終わり、緋たちは102の番号が書かれた扉を開ける。
中はそこそこの広さ。木の色で明るく鏡も綺麗だった。
「Pearlか。OK」
紫音はドラムセットに向かっていく。
「結構広いね。もっと狭いと思ってた」
「いい感じじゃない」
緋と蒼はケースを下ろし、ギターとベースを取り出す。演奏の準備をしながら、緋は紫音に説明を始める。
「で……えっと、紫。練習やるわけなんだけど、私のオリジナル曲、今は『Skyblue』と『city night』の2曲だけなんだけど、この2曲ともドラムのスコアが無くて。なんかこう、雰囲気で指示するけど大丈夫?」
「んー、まあ任せろ。路上ライブで聴いただけだけど、そんなドラムが先陣切らなきゃいけねぇ曲じゃないんだろ」
「うん。タイミングとかは私と蒼に合わせてくれれば。私もフロントマンだし、紫が乗りやすいように合図する」
「助かる」
「それじゃ、丸投げになって悪いけど、聴いて、演って覚えて!」
「任せろ!」
紫音はスネアを叩いて気合を入れた。
「よし、それじゃぁ……『Skyblue』からやるよ。最初は静かで……えっと、途中からキックくれると嬉しい」
「おう」
──そして緋と蒼は目を合わせる。
ふたりで、同じタイミングでつま先を地面に落とす。
つま先で叩いた4カウントに続き、ギターとベース、それぞれの単音を重ねる。
静かに雨がぽつりぽつりと降り始めるような、クリーンな音。
三本指で持ったピックが、ジャズマスターの弦を正確に弾いていく。
そのワンフレーズを終え、もう1回、というところで、紫音がバスドラを踏み始める。
緋と蒼は顔を見合わせる。いいセンスだと思った。
路上ライブで見せた手拍子は伊達じゃない。
ゆっくり、ゆったり、しかし確実に乗れる。
静かなバラードでも、確かなグルーヴを産む。
そしてすぐに順応したのか、バスドラに加え左足でハイハットをベースに合わせて踏む。
「──」
確実なリズムキープが続く中、Aメロに入るとリムショットでアレンジ。
優しく鳴るジャズマスターとジャズベースの音の後ろ、追い風を吹かせるような小さなシンバルロールが響く。
SKYSHIPSの曲はどれもハードで、紫音のドラム捌きは圧倒的で驚異的だったのだが、この曲は完全に別物のバラード。しかし、紫音はこの曲の魅せ方を完全に理解しているかのように、綺麗なフレーズを重ねてくる。
1度緋と蒼が作ったリズム、それを崩れないように、寸分の狂いもなく両足を動かしている。彼女の足はもはや人力メトロノームだった。
「──」
そして静かに、けれども力強く吐かれたサビ最後の歌詞と共に、緋と蒼は1度大きく体を逸らして勢いをつける。
ここからゆったりした曲調は一転し、テンポが早くなる。
紫音は、緋のと蒼の動きでその先を読み、転調に対応してみせた。
クラッシュを叩きながら加速するフィルイン。
緋はどうなっているんだと思った。明らかに両手を使ったスネアとタムの音が変則的に鳴っていたにも関わらず、クラッシュが一定のリズムで鳴り続けていた。
いまインディーズ界で最も勢いのあるガールズバンドのドラムスは伊達じゃない。
緋は歌いながらも、鏡に映る紫音の表情を見た。
目を大きく開いて、ニヤついた、楽しそうな表情をしている。
本当にドラムが好きで、楽しくてやっている。それが、痛いくらいに伝わってきて、自分も更に楽しくなってくる。
少し走り気味に歌い、サビ前に差し込まれるフィルイン。勢いをつける連打、そこから射出されるように緋は歌声を飛ばす。暖かく柔らかいオーバードライブの響きと共に。
既にこの曲はバラードからハードなロックに変貌を遂げていた。
確かな疾走感に、熱を帯びたバンドサウンド。
ボーカル、コーラス、ギター、ベース、そしてドラム。
3人で奏でる5つの音が重なり合い、グルーヴを加速させていく。
腕だけでなく、体まで動く。
動きによって体が熱を放ち、じんわりと汗が浮かぶ。
歌にも力がこもり若干音を外すが、緋はここまで全力で歌えればどれだけ楽しいだろうという思いが先行して、ミスを気にもとめなかった。
「──I just want to feel the warmth of the Skyyyyybluuuuuuueeee~~~イァアッ!!!」
最後の歌詞を、叫ぶように歌う。
本来、こんな力強く歌う曲ではなかった。
暗闇の中で、蒼に会いたくて会いたくて、寂しくて寂しくて、なけなしの力を振り絞るようにして書いた曲。少し暗いルーツを持つ、冷たい曲だったはずのそれが、紫音が加わっただけで全力で叫ぶロックに早変わりだ。
肺が空になるまで、伸ばして、最後の最後まで絞り出して吐く。
そしてまた全力の、アウトロ。
緋と蒼、そして紫音は向き合い、互いの体の動きを見ながら、バラバラにならないように気をつけながらもぐちゃぐちゃにぶっ放す。
そしてアウトロも終わりへ差し掛かると、ギターとベースを掻き鳴らしてストップ、その間に差し込まれるドラムソロ。そしてまた掻き鳴らしてストップ。ギター&ベースと、ドラムで交互に鳴らし、そして最後は3人でゆっくりと減速しながらタイミングを合わせに行き、紫音が大きく両手を振り上げるのに合わせて緋と蒼も体を逸らせる。
──そして最後、全力を込めた一発を爆発させた。
そして追い討ちと言わんばかりに緋は叫びながらジャズマスターをめちゃくちゃに掻き鳴らす。蒼もそれに乗っかり、紫音もシンバルロールで対抗。
緋は大きく体を逸らし蒼と紫音も緋に合わせ、もう一撃最後の一発をぶちかまして、今度こそ終わった。
「Fooooッ!!最ッ高、バンド楽しっ!!ドラムいるとこんな変わるんだ!!ねぇ蒼も楽しかったよね!」
「ええ!」
緋はバグったテンションでジャズマスターを下ろすと蒼に飛びついた。
……To be continued
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