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第186話 リハーサル中 奔走と緊張

ー/ー



 時間になり、俺たちのリハーサルが始まった。
 予定通り金子と木崎先輩は音響卓へ、津田先輩は照明室へ行き樫田が客席の真ん中に陣取る。
 俺たち役者も動き出す。

「轟先輩、センターに立ちながらタイムキーパ―お願いします」

「ほいさ! 了解!」

「大槻、山路は上手(かみて)の方へ。椎名と田島は下手(しもて)の方頼む」

 予定通りの指示を出していく。
 みんなは「はい」と短く返事をして大道具を搬入(はんにゅう)していく。
 始めの大道具の場所をバミる(置く位置を決めて印をつける作業)までは、時間との戦いだ。

「増倉と池本はバミリの指示があったらすぐ動いてくれ。夏村、一人足りているから予定通り客席後ろへ頼む……樫田! どうだ!?」

「大槻! それはもう少し奥で! 裏通れるか!? 山路! そこの導線の確認を頼む! 椎名! それはあと半歩上手へズラしてくれ! そうそこ! 田島はその場所でオーケーだ! バミってくれ!」

「ギリ通れない! これ狭いぞ!」

「こっちは問題ないー! ここでバミるよー! 増倉か池本来て―!」

「これでいいのかしら樫田!」

「私上手行くから! 池本は下手の方お願い!」

「は、はい!」

「じゃあ大槻はほんの少しだけ押していいぞ! そこでどうだ!? 山路! 了解だ! 椎名そっちはそれでいい! そこもバミってくれ! 杉野! 三場のあそこの立ち位置に立ってくれ!」

「ああ!」

 俺は急いで立ち位置へと向かう。
 演出家が客席から見て舞台の全体像を決めていく。そしてそれと同時進行で音響照明も動いている。

「一瞬暗転しまーす!」

「了解です! みんな一回動くな!」 

 樫田の声に反応するように俺たちは一瞬止まり、そしてホール全体が暗くなる。
 次の瞬間には明るくなり、みんな動き出す。

「樫田! これなら通れる!」

「池本! ここもお願い!」

「大槻! ならそこで! しっかり(しず)置いてくれ!」

「は、はい!」

「大槻―! 鎮持ってきたよ―!」

「助かる!」

「樫田! 上手はバミリ終わった!」

「了解! 下手の方はどうだ!? 杉野! そこの位置で待っててくれ! 増倉! 悪いが杉野のところもバミってくれ!」

「分かった!」

「樫田! 下手もバミリ終わったわ!」

「了解だ! 杉野!」

「一年生は声出ししてくれ! 二年生はまず導線を確認してくれ! 蓄光(ちっこう)が必要そうな場所は最小限で貼ってくれ!」

『はい!』
 
 会話が交差しながらも、順調に俺たちは搬入の作業が終わった。
 そして次の段階へと移る。

「あー! 夏村先輩! 声届いてますか!?」

「問題ない! 聞こえている!」

 二年生は当然として、田島もすぐに行動する。
 問題は――。

「あ、えっと…………あーー!」

 池本が少し場に呑まれて……いや、はっきりと悪く言うなら『置物』になっていることだ。
 この慌ただしい状況だからこそ、棒立ちの人ほど目立ってしまう。
 俺は客席後ろの夏村の方を見る。
 目が合うと、首を横に振られた。どうやら池本の声は届いていないらしい。

「バミったよ樫田!」

「杉野! 動いて良いぞ!」

 俺は樫田の一言で急ぎ池本に近づく。
 その間にも、指示出しを忘れない。

「二年生は声出しと五場の立ち位置になってくれ!」

「樫田―! ゼラの色はこれでいいか!?」

「津田先輩! もう少しアンバー系の、三十番代で良さげなのあります!?」

「了解!」

「……樫田! 説明終わったからここからは音流すよ!」

「はい! どうぞ!」

 照明と音響はどんどん次の段階に進んでいく。
 このままでは役者だけが出遅れる。全体のスケジュールに影響が出る。
 俺は手が届く範囲まで池本に近づいた。向こうもこっちに気づき、声を出すのを止めて不安げな表情で俺を見てきた。

「杉野先輩……」

「池本。五場、やろっか」

「え……?」

 突然の提案に驚く池本。俺は気にせずに他の役者に視線を送る。
 田島含めてみんなは状況を理解しているのだろう。俺と目が合うと小さく頷く。
 俺は今にも泣きそうな池本に笑いかける。

「大丈夫だ。広さに惑わされるな。ここは教室と変わらない。いつも通りに楽しもう」

 そう言って、俺は池本の肩に手を置いた。
 池本は何も言わずに、俺を見てきた。
 そして触れた瞬間は震えていた肩が、徐々にその怯えをなくしていった。

「……はい、分かりました」

「よし。役者は五場の通す! 樫田!」

「ああ聞いてた! 構わん! 音と光は気にするな!」

 演出家に確認を取ると、俺たちはすぐに舞台で演技を始める。
 言ってしまえば、これはルーティンのようなものだ。いつもの行動をすることで思考の雑念を消してパフォーマンスを安定させる。
 緊張をほぐすというよりは、練習したことをすることで、無意識化で自然と次の行動が出来るようになるだけ。
 でも、今はそれでいい。とにかく動けること、声が出ること、セリフが言えることが大切だった。

 通しが終わると池本は少し呼吸が乱れていた。
 場に呑まれたこと、そして緊張とプレッシャーが彼女に多大な疲労感を与えたのだろう。
 俺はまず夏村の方を向く。満足そうな顔で頷かれた。声はしっかりと届いていたようだ。
 次に増倉へと視線を送ると、俺の意図を察したのだろう。こちらに近づいてきた。

「池本。一回水飲もっか」

「え、でも……」

「いいから、来て」

 本人は疲れに気づいていないのだろう。半ば強引に増倉が連れていく。
 俺はそれを確認すると、すぐに樫田に話しかける。

「樫田!」

「分かっている! 照明は大丈夫だ! 音響は!?」

「こっちも大丈夫っす!」

「よし! こっからはキッカケの確認と気になるところを通すぞ!」

『はい!』

「まず一場から――」

 そこからは緊張感を絶やさすに、俺たちは本番に向けて確認を行い続けた。



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みんなのリアクション



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 時間になり、俺たちのリハーサルが始まった。
 予定通り金子と木崎先輩は音響卓へ、津田先輩は照明室へ行き樫田が客席の真ん中に陣取る。
 俺たち役者も動き出す。
「轟先輩、センターに立ちながらタイムキーパ―お願いします」
「ほいさ! 了解!」
「大槻、山路は上手《かみて》の方へ。椎名と田島は下手《しもて》の方頼む」
 予定通りの指示を出していく。
 みんなは「はい」と短く返事をして大道具を搬入《はんにゅう》していく。
 始めの大道具の場所をバミる(置く位置を決めて印をつける作業)までは、時間との戦いだ。
「増倉と池本はバミリの指示があったらすぐ動いてくれ。夏村、一人足りているから予定通り客席後ろへ頼む……樫田! どうだ!?」
「大槻! それはもう少し奥で! 裏通れるか!? 山路! そこの導線の確認を頼む! 椎名! それはあと半歩上手へズラしてくれ! そうそこ! 田島はその場所でオーケーだ! バミってくれ!」
「ギリ通れない! これ狭いぞ!」
「こっちは問題ないー! ここでバミるよー! 増倉か池本来て―!」
「これでいいのかしら樫田!」
「私上手行くから! 池本は下手の方お願い!」
「は、はい!」
「じゃあ大槻はほんの少しだけ押していいぞ! そこでどうだ!? 山路! 了解だ! 椎名そっちはそれでいい! そこもバミってくれ! 杉野! 三場のあそこの立ち位置に立ってくれ!」
「ああ!」
 俺は急いで立ち位置へと向かう。
 演出家が客席から見て舞台の全体像を決めていく。そしてそれと同時進行で音響照明も動いている。
「一瞬暗転しまーす!」
「了解です! みんな一回動くな!」 
 樫田の声に反応するように俺たちは一瞬止まり、そしてホール全体が暗くなる。
 次の瞬間には明るくなり、みんな動き出す。
「樫田! これなら通れる!」
「池本! ここもお願い!」
「大槻! ならそこで! しっかり鎮《しず》置いてくれ!」
「は、はい!」
「大槻―! 鎮持ってきたよ―!」
「助かる!」
「樫田! 上手はバミリ終わった!」
「了解! 下手の方はどうだ!? 杉野! そこの位置で待っててくれ! 増倉! 悪いが杉野のところもバミってくれ!」
「分かった!」
「樫田! 下手もバミリ終わったわ!」
「了解だ! 杉野!」
「一年生は声出ししてくれ! 二年生はまず導線を確認してくれ! 蓄光《ちっこう》が必要そうな場所は最小限で貼ってくれ!」
『はい!』
 会話が交差しながらも、順調に俺たちは搬入の作業が終わった。
 そして次の段階へと移る。
「あー! 夏村先輩! 声届いてますか!?」
「問題ない! 聞こえている!」
 二年生は当然として、田島もすぐに行動する。
 問題は――。
「あ、えっと…………あーー!」
 池本が少し場に呑まれて……いや、はっきりと悪く言うなら『置物』になっていることだ。
 この慌ただしい状況だからこそ、棒立ちの人ほど目立ってしまう。
 俺は客席後ろの夏村の方を見る。
 目が合うと、首を横に振られた。どうやら池本の声は届いていないらしい。
「バミったよ樫田!」
「杉野! 動いて良いぞ!」
 俺は樫田の一言で急ぎ池本に近づく。
 その間にも、指示出しを忘れない。
「二年生は声出しと五場の立ち位置になってくれ!」
「樫田―! ゼラの色はこれでいいか!?」
「津田先輩! もう少しアンバー系の、三十番代で良さげなのあります!?」
「了解!」
「……樫田! 説明終わったからここからは音流すよ!」
「はい! どうぞ!」
 照明と音響はどんどん次の段階に進んでいく。
 このままでは役者だけが出遅れる。全体のスケジュールに影響が出る。
 俺は手が届く範囲まで池本に近づいた。向こうもこっちに気づき、声を出すのを止めて不安げな表情で俺を見てきた。
「杉野先輩……」
「池本。五場、やろっか」
「え……?」
 突然の提案に驚く池本。俺は気にせずに他の役者に視線を送る。
 田島含めてみんなは状況を理解しているのだろう。俺と目が合うと小さく頷く。
 俺は今にも泣きそうな池本に笑いかける。
「大丈夫だ。広さに惑わされるな。ここは教室と変わらない。いつも通りに楽しもう」
 そう言って、俺は池本の肩に手を置いた。
 池本は何も言わずに、俺を見てきた。
 そして触れた瞬間は震えていた肩が、徐々にその怯えをなくしていった。
「……はい、分かりました」
「よし。役者は五場の通す! 樫田!」
「ああ聞いてた! 構わん! 音と光は気にするな!」
 演出家に確認を取ると、俺たちはすぐに舞台で演技を始める。
 言ってしまえば、これはルーティンのようなものだ。いつもの行動をすることで思考の雑念を消してパフォーマンスを安定させる。
 緊張をほぐすというよりは、練習したことをすることで、無意識化で自然と次の行動が出来るようになるだけ。
 でも、今はそれでいい。とにかく動けること、声が出ること、セリフが言えることが大切だった。
 通しが終わると池本は少し呼吸が乱れていた。
 場に呑まれたこと、そして緊張とプレッシャーが彼女に多大な疲労感を与えたのだろう。
 俺はまず夏村の方を向く。満足そうな顔で頷かれた。声はしっかりと届いていたようだ。
 次に増倉へと視線を送ると、俺の意図を察したのだろう。こちらに近づいてきた。
「池本。一回水飲もっか」
「え、でも……」
「いいから、来て」
 本人は疲れに気づいていないのだろう。半ば強引に増倉が連れていく。
 俺はそれを確認すると、すぐに樫田に話しかける。
「樫田!」
「分かっている! 照明は大丈夫だ! 音響は!?」
「こっちも大丈夫っす!」
「よし! こっからはキッカケの確認と気になるところを通すぞ!」
『はい!』
「まず一場から――」
 そこからは緊張感を絶やさすに、俺たちは本番に向けて確認を行い続けた。