ep157 三日前の約束

ー/ー



 あの戦いから三日後の午後。
 まだ陽が赤くなる前。

「夜には戻る」

 それだけ言って、例の場所に向かった。
 用件は誰にも伝えなかった。これに関してはみんなを巻き込むべきでないと考えたからだ。

「罠なのか何なのか。罠だとしてもなぜこういう方法を取るのか。とにかく、行ってみないとわからないな。虎穴に入らずんば虎児を得ず……か」

 そもそもマーリスという男の立ち位置もよくわからない。キラースと組んで造反したのなら〔フリーダム〕とも敵対する存在のはずだが、それにしたってどうも違和感がある。
 真実がどうであれこちら側としては危険な存在であり敵であることは変わらないが……。

「あの岩場か」

 あれこれと考えをめぐらせているうちに、約束の場所に着いた。ちょうど空が茜色になり始めていた。

「吉と出るか凶と出るか……」

 しばらくして……。
 岩場の影からガサッと物音が聞こえる。
 
「やあやあ。本当に来てくれたね〜」

 例のドレッドヘアーの男が現れた。
 相変わらず不可解にヘラヘラとしている。

「狂戦士殿との同盟はどうだい? うまくいきそうかい?」

「……それはお前に関係あるのか?」

「ヘッドフィールドは戦後、経済的に困窮しちゃったみたいだよねぇ。それで仕方なくボスがフリーダムの幹部になることで、経済的援助を受けたってわけだ」

「それが何の関係がある?」

「そのせいで狂戦士殿は少女の拉致っていうやりたくもない仕事をやらされた上で、魔剣使いのキミと戦ったってわけだ。フリーダムの幹部となって援助も受けた以上は立場上、断れないしね」

 マーリスの語る一連の事情は事実だ。二日前の宴会の後にジェイズからも聞いていた。
 ヘッドフィールドはギャングの集団。戦後、世界が平和になってからはギャングのようなカタギじゃない連中は食いぶちがなくなる。そこへフリーダムがやって来て援助をほのめかし、ヘッドフィールドごと傘下に入れようと画策する。しかしジェイズは部下たちがヤツらの傘下に入ることを嫌い、自らが幹部となってフリーダムに協力することで援助も取り付け話をまとめた。

「それは知っているが」

「キミは狂戦士殿と組んでフリーダムを潰すんでしょ? だったらキミの存在はもう自由な一個人ではない。大きなうねりの当事者に加わってしまったんだよ」

「それがどうした」

「その意味をよくわかっているのかな〜と思ってしっかり確認したかったんだよ」

 マーリスは俺がどこまで理解して行動しているかを確かめているようだ。
 何様なんだコイツは?
 正直、癇に障る。こんなヤツに言われるまでもないと「〔グラディウス〕」俺は剣を顕現させた。

「……なるほど。ちゃんと覚悟はあるようだね〜」

「そろそろ本題に入れ」

「魔導書と、魔剣使いのことかい?」

「それ以外にあるのか」

「わかったわかった。じゃあ教えてあげる前にこれを受け取ってくれよ」

 マーリスが上方を指さした。見上げると、空の向こうから鳥獣型の魔物の群れがゆっくりと迫ってきているのが目に映る。

「結局はこれか」

 あまりにも安易だ。こんなことをするためにわざわざこんな形で俺を呼び出したのか?
 浅薄すぎるにもほどがある。

「お前はこんか程度のヤツなのか!」

「ぼくからのとっておきのプレゼントだよ。ありがたく受け取ってね〜ハナシはそれからサ!」

 マーリスは岩場の影に消えていった。とっつかまえてブチのめしてやりたいところだが、どうせ追ったところで無駄だ。

「あんな男になにかを期待した俺がバカだったな」

 気持ちを切り替え、剣を構えて魔物を待ち受けた。ところが、ここで予期せぬことが起きる。

「魔物が、来ない??」

 なんと、魔物の群れはそのまま上空を通り過ぎていってしまった。

「どういうことだ??」

 意味がわからない。結局マーリスはなにがしたかったんだ?
 まさか俺を呼び出した隙にシヒロたちを襲うつもりか?
 だが街にはジェイズやカレンがいる。戦力は充分だ。

「まったくもって意味がわからない…….」

 構えを解いて立ち尽くした。
 その時だった。
 突然、看過し難いなにかを感じた。
 
「なんだこの感じは……」

 近づいて来ている。魔物以外の何かだ。ジェイズとも違う、とてつもない大きな何かが……。

「そこにいるお前は何者だ」

 誰かの声がした。
 知らない声。
 敵か?

「!」

 振り向くと、見たことのない男がこちらに向かって近づいてきていた。
 剣士か?
 冒険者というには高貴というか……貴族の剣士か何かだろうか。

「あんたは誰だ?」

「人に名を尋ねる時はまず自らが名乗るのが礼儀だろう」

 男は立ち止まって言った。

「……それはそうだな。俺はクロー・ラキアード」

「クロー……か。銀髪の魔剣使いと同じ名だな? 銀髪の剣士よ」

「……あんたは?」

「私の妹を上手くたぶらかしたみたいだな」

「いきなりなんの話だ?」

「妹の名はカレン・ホールズワース」

「!!」

「私はアレス・ホールズワース。世間では勇者と呼ばれている」

 勇者だって!?
 どういうことだ!
 マーリスと勇者が繋がっているのか!?
 わけがわからない!
 いや、それよりも何よりも……今この場をどうする!?

「お前が魔剣使いクローか」
 勇者アレスは剣を抜いた。
「魔剣使いは国際平和維持軍の捕縛対象だ。それ以上でも以下でもない」

 有無を言わせぬ雰囲気。やるしかないみたいだな。
 
『おい!』

 あれ? どうしたんだ?

『おい! ヤバいんだ!』

 なんで返事がない!

『おい! どうしたんだよ! 返事してくれよ!』

 くそっ。どうしてか謎の声の反応がない。そういえばマーリスの言葉にも反応がなかったよな。一体どうしたんだ?

「覚悟はできたか? 魔剣使い」

 勇者が静かに言った。
 こうなったら、俺ひとりでやるしかないか!

「わかった」

特殊技能(スペシャリティ)無慈悲なる一撃(ノークォーター)〕」

 いきなりだった。勇者が何かを発動した。転瞬、周囲一帯上下左右がまばゆい光のカーテンに覆われた。
 とても神秘的で荘厳な光景。

「これは!?」

 疑問を抱いた時にはもう遅かった。
 ズパァァァァッ!!
 考える暇もなかった。刹那の間に、俺の身体は斜めに斬り抜かれていた。
 技を発動するどころか、一歩も動けなかった。

「うっ……」

 これが、勇者……。



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 あの戦いから三日後の午後。
 まだ陽が赤くなる前。
「夜には戻る」
 それだけ言って、例の場所に向かった。
 用件は誰にも伝えなかった。これに関してはみんなを巻き込むべきでないと考えたからだ。
「罠なのか何なのか。罠だとしてもなぜこういう方法を取るのか。とにかく、行ってみないとわからないな。虎穴に入らずんば虎児を得ず……か」
 そもそもマーリスという男の立ち位置もよくわからない。キラースと組んで造反したのなら〔フリーダム〕とも敵対する存在のはずだが、それにしたってどうも違和感がある。
 真実がどうであれこちら側としては危険な存在であり敵であることは変わらないが……。
「あの岩場か」
 あれこれと考えをめぐらせているうちに、約束の場所に着いた。ちょうど空が茜色になり始めていた。
「吉と出るか凶と出るか……」
 しばらくして……。
 岩場の影からガサッと物音が聞こえる。
「やあやあ。本当に来てくれたね〜」
 例のドレッドヘアーの男が現れた。
 相変わらず不可解にヘラヘラとしている。
「狂戦士殿との同盟はどうだい? うまくいきそうかい?」
「……それはお前に関係あるのか?」
「ヘッドフィールドは戦後、経済的に困窮しちゃったみたいだよねぇ。それで仕方なくボスがフリーダムの幹部になることで、経済的援助を受けたってわけだ」
「それが何の関係がある?」
「そのせいで狂戦士殿は少女の拉致っていうやりたくもない仕事をやらされた上で、魔剣使いのキミと戦ったってわけだ。フリーダムの幹部となって援助も受けた以上は立場上、断れないしね」
 マーリスの語る一連の事情は事実だ。二日前の宴会の後にジェイズからも聞いていた。
 ヘッドフィールドはギャングの集団。戦後、世界が平和になってからはギャングのようなカタギじゃない連中は食いぶちがなくなる。そこへフリーダムがやって来て援助をほのめかし、ヘッドフィールドごと傘下に入れようと画策する。しかしジェイズは部下たちがヤツらの傘下に入ることを嫌い、自らが幹部となってフリーダムに協力することで援助も取り付け話をまとめた。
「それは知っているが」
「キミは狂戦士殿と組んでフリーダムを潰すんでしょ? だったらキミの存在はもう自由な一個人ではない。大きなうねりの当事者に加わってしまったんだよ」
「それがどうした」
「その意味をよくわかっているのかな〜と思ってしっかり確認したかったんだよ」
 マーリスは俺がどこまで理解して行動しているかを確かめているようだ。
 何様なんだコイツは?
 正直、癇に障る。こんなヤツに言われるまでもないと「〔グラディウス〕」俺は剣を顕現させた。
「……なるほど。ちゃんと覚悟はあるようだね〜」
「そろそろ本題に入れ」
「魔導書と、魔剣使いのことかい?」
「それ以外にあるのか」
「わかったわかった。じゃあ教えてあげる前にこれを受け取ってくれよ」
 マーリスが上方を指さした。見上げると、空の向こうから鳥獣型の魔物の群れがゆっくりと迫ってきているのが目に映る。
「結局はこれか」
 あまりにも安易だ。こんなことをするためにわざわざこんな形で俺を呼び出したのか?
 浅薄すぎるにもほどがある。
「お前はこんか程度のヤツなのか!」
「ぼくからのとっておきのプレゼントだよ。ありがたく受け取ってね〜ハナシはそれからサ!」
 マーリスは岩場の影に消えていった。とっつかまえてブチのめしてやりたいところだが、どうせ追ったところで無駄だ。
「あんな男になにかを期待した俺がバカだったな」
 気持ちを切り替え、剣を構えて魔物を待ち受けた。ところが、ここで予期せぬことが起きる。
「魔物が、来ない??」
 なんと、魔物の群れはそのまま上空を通り過ぎていってしまった。
「どういうことだ??」
 意味がわからない。結局マーリスはなにがしたかったんだ?
 まさか俺を呼び出した隙にシヒロたちを襲うつもりか?
 だが街にはジェイズやカレンがいる。戦力は充分だ。
「まったくもって意味がわからない…….」
 構えを解いて立ち尽くした。
 その時だった。
 突然、看過し難いなにかを感じた。
「なんだこの感じは……」
 近づいて来ている。魔物以外の何かだ。ジェイズとも違う、とてつもない大きな何かが……。
「そこにいるお前は何者だ」
 誰かの声がした。
 知らない声。
 敵か?
「!」
 振り向くと、見たことのない男がこちらに向かって近づいてきていた。
 剣士か?
 冒険者というには高貴というか……貴族の剣士か何かだろうか。
「あんたは誰だ?」
「人に名を尋ねる時はまず自らが名乗るのが礼儀だろう」
 男は立ち止まって言った。
「……それはそうだな。俺はクロー・ラキアード」
「クロー……か。銀髪の魔剣使いと同じ名だな? 銀髪の剣士よ」
「……あんたは?」
「私の妹を上手くたぶらかしたみたいだな」
「いきなりなんの話だ?」
「妹の名はカレン・ホールズワース」
「!!」
「私はアレス・ホールズワース。世間では勇者と呼ばれている」
 勇者だって!?
 どういうことだ!
 マーリスと勇者が繋がっているのか!?
 わけがわからない!
 いや、それよりも何よりも……今この場をどうする!?
「お前が魔剣使いクローか」
 勇者アレスは剣を抜いた。
「魔剣使いは国際平和維持軍の捕縛対象だ。それ以上でも以下でもない」
 有無を言わせぬ雰囲気。やるしかないみたいだな。
『おい!』
 あれ? どうしたんだ?
『おい! ヤバいんだ!』
 なんで返事がない!
『おい! どうしたんだよ! 返事してくれよ!』
 くそっ。どうしてか謎の声の反応がない。そういえばマーリスの言葉にも反応がなかったよな。一体どうしたんだ?
「覚悟はできたか? 魔剣使い」
 勇者が静かに言った。
 こうなったら、俺ひとりでやるしかないか!
「わかった」
「|特殊技能《スペシャリティ》〔|無慈悲なる一撃《ノークォーター》〕」
 いきなりだった。勇者が何かを発動した。転瞬、周囲一帯上下左右がまばゆい光のカーテンに覆われた。
 とても神秘的で荘厳な光景。
「これは!?」
 疑問を抱いた時にはもう遅かった。
 ズパァァァァッ!!
 考える暇もなかった。刹那の間に、俺の身体は斜めに斬り抜かれていた。
 技を発動するどころか、一歩も動けなかった。
「うっ……」
 これが、勇者……。