留守番の神になった理由~カムイユカㇻに乗せて~
ー/ー……――
わたしは生まれた時からずっと山奥の施設の中で育ち、山から出たことはありませんでした。
わたしは生まれた時からずっと山奥の施設の中で育ち、山から出たことはありませんでした。
父や母はおりません。かわりに先生と呼ばれる大人の男の人。
先生の子供である、わたしより少し年上のお兄さん。
それから、わたしと同じ年の太陽の神という女の子。
その三人と一緒に暮らしておりました。
そのころ、私たちの国・守吏里は、まだ大和という国の一部でした。
大和はお隣の大きな国、ルーシャと戦争をしていましたので、勝つための武器が必要でした。
「むかしむかし、この国の大地ができた頃。この地には火や道具の使い方を人間に教えてくれる、オキクㇽミという神様がいたんだよ」
先生は、わたしたちによくそんなおとぎ話を聞かせてくださいました。
「そのオキクㇽミが神の国へ帰ることになった時、彼は束ねたヨモギを人の形にした、“留守番の神様”を作って置いて行った。五つの心臓を持つその神様は、普通の神様の五人分の強さだったと言われているんだ」
先生がおっしゃることには、わたしたちは、留守番の神様と同じようなものなのだそうです。
先生が人間の設計図を作り変える研究をし、その結果生み出された生き物なのです。
素手で岩を砕いたり、屋根ほどの高さまで跳んだり。
わたしたちにとってはあたりまえのことですが、ふつうの人にはできないのだそうです。
たしかに、時々外から人が来てわたしたちに色々なことを教えてくださいますが、わたしたちと同じようにできる人はいません。
「君たちこそ、この国を守る秘密兵器なんだよ。大きくなったら戦場に出て、たくさん敵国の兵士を倒しておくれ」
大人になったわたしたちは、先生の言いつけを守りました。
幼い頃から受けてきた訓練の成果を、戦いの場で発揮しました。
相手が戦車や銃で立ち向かってきても、わたしたちに傷をつけることはできません。
多くの敵兵と戦い、命を奪いました。
つらいことではありましたが、お兄さんやペケㇾチュㇷ゚と励まし合い、なんとか役目を果たしていました。
ある日のことです。戦場に出たお兄さんが、突然いなくなってしまいました。
いつもは夜になると帰ってきていたのに、何日たっても戻らなかったのです。
先生が言うには、戦の中で命を落としてしまったのだろうと。
優しかったお兄さんがいなくなり、わたしとペケㇾチュㇷ゚はたいそう悲しみました。
だけど、先生は私たちを力強く諭されました。
お兄さんの分までお国を守らなければならないと。
そうしてわたしたちは、ますます奮い立ったのです。
――……
「……今日はここまでにしておきましょうか」
そこで霞おばちゃんはユカㇻをやめた。語っている最中は荘厳さすら感じさせたのに、終わった途端、「幼馴染の母ちゃん」に戻った。その人懐っこい笑顔は、朝陽や疾風とよく似ている。
狩った動物の魂をカムイモシㇼへ送り返す宴の際は、こうしてユカㇻを一番盛り上がるところでやめるのが習わしだ。そうすると、続きを聞きたくなったカムイが、また肉や毛皮の土産を持って人間の世界へ戻ってきてくれるという。
だけど、この話を昔から何度も聞いてきた俺たちはその続きをよく知っている。
クンネチュㇷ゚とペケㇾチュㇷ゚がその後、どうなったのかを。
無論、身内だけでしか語られない、門外不出の物語だ。
「……そうじゃ。今回のお前たちの仕事を帳面につけておかねばのう」
照平爺さんが、思い出したように懐から古びたノートを取り出した。
その中に書かれているのは、無数の「正」の字。俺たちが人を救う仕事をするたび、その件数を爺さんが記録しているのだ。今回は俺と疾風、朝陽のページにそれぞれ一本ずつ線が足された。
爺さんは母親――クンネチュㇷ゚から受け継いだそのノートを肌身離さず持ち歩き、俺たちに中身を見せようとはしない。
よほど大事なのだろう。
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