第十話 連合会議
ー/ー 某日 アランドゥ邸宅
フォントル・アランドゥは書斎で葉巻を咥え、報告を待っていた。
連合領内に多くの密偵を送りレオを捜索していたフォントルは中々見つからない現状に焦りを覚えていた。
「失礼します。密偵の一人がレオ・オルディアの居場所を突き止めたとご報告が」
従者が吉報をもたらす。フォントルは「呼べ」と静かに言い、優雅に葉巻を咥えていた。
密偵が部屋に入り、フォントルの前で跪き報告する。
「ご報告いたします。
レオ・オルディア、ただいまアーネント・ローズロックの庇護下でジョン•ブラウンと名乗り生活を行っている模様です」
やはり隠していたか。
フォントルは特に驚いた素振りを見せずゆっくりと密偵の方を向く。
「それで証拠はあるのだろうな?」
密偵は懐から巻物を取り出して広げる。
次第に画像が浮かび上がり、そこにはルークと共に領民と触れ合うレオの姿があった。
フォントルはほくそ笑む。
この証拠があればアーネントを審議にかけられる。
フォントルは連合会議を開く準備をしろと従者に命じ、密偵から受けとった巻物をまじまじと見ながら密偵を労う。
「よくぞ王子を見つけた。
貴様の妹も当分は生かしておいてやろう。
王子の首を取った暁には、お主は妹共々晴れて自由の身だ。
それまでは敵の懐で引き続き情報を集めよ。
よいな? エストリヤよ」
「......承知いたしました」
アーネントは一人書斎で悩んでいた。
フォントルより届いた連合会議招集の手紙、会議の内容は大方レオの事だろう。
(連合会議は余程の事が無ければ開かん。
比較的連合が安定しているこのタイミングで招集するとは......。
もはや隠し通せぬか......)
フォントルは用意周到な男だ。
連合会議を開くという事はそれだけ証拠が揃っているという事に他ならない。
アーネントに出来る事は会議の場で少しでも味方を増やす事だった。
連合会議当日 アランドゥ邸
豪華絢爛な装飾が屋敷の至る所に付けられ、フォントルの財力と権威を象徴するような作りとなっていた。
「これはこれはアーネント殿、しばらく見ぬ間に随分と老け込みましたなぁ?」
色黒の中年の男がアーネントに話しかける。
「久しいなザンガス殿、貴殿は変わらず壮健なようで何よりだ」
ザンガス・クレイノラ、領主の一人でありフォントルに最も近しい武闘派の男だ。
フォントルの配下と言ってもいいほど緊密な仲である。
今回の会議では間違いなくフォントルに味方するだろう。
「連合会議も最後に開かれたのは10年前、今回はいかなる議題で開催されるのでしょうな?」
薄ら笑いを浮かべながらザンガスはアーネントに問いかける。
その態度を見て、アーネントは今日の会議がレオの所在についてであり、自分が審議にかけられるということを確信した。
「はて? ザンガス殿のように儂はフォントル殿と親しくないのでな。今日の議題など儂には預かり知らぬこと......それとも、ザンガス殿は何かご存知なのですかな?」
隠す気があるのか無いのか露骨な態度で首を振る。
舐めた態度に腹を立てたアーネントだが、気取られぬよう挨拶も程々に待合室に向かう。
「久しいなエーゴン」
待合室ではエーゴンが一人茶菓子を堪能して待っていた。
アーネントの声に気付くと手招きをして隣に座るよう促す。
「互いに多忙だからなぁ。こうしてまたお前の顔が見れて嬉しいぞアーネントよ。
先日はルーク君に随分と世話になった。
彼のように有能な後継者を持ったお前が心底羨ましいぞ。
あぁそれと、ジョン君だったかな? 彼もよく働いてくれた。領地に戻ったら二人に礼を言っておいてくれ」
エーゴンは穏やかな口調でアーネントに話しかける。
どうやら会議の内容を聞かされているのはフォントルに近しい人間だけのようだ。
続々と領主達が集まり、フォントルを除く9人の領主が待合室に集まると、従者により会議室まで案内されフォントルが挨拶を行う。
「各々方、お集まりいただき大変嬉しく思う。
長々挨拶する仲とも思えぬでな、早速本題に移ろう。
今回議題に挙げるのはオルディア王朝最後の血脈、レオ・オルディアの処遇についてである。
つい先日、レオ・オルディアの所在を我が手の者が掴んだのだ」
領主達の間に驚きの声が上がる。
だが、フォントルがそれを制した。
「皆の動揺はよく分かる。オルディアの者がまさかいるとは誰も思わなかっただろう。
だがこの地におる......ローズロック殿の領地でな!」
フォントルが巻物を広げ、空間に領民と触れ合うレオの姿が浮かび上がる。
その光景にアーネントは戦慄し、周りはどよめく。
「ジョン君......? ジョン君ではないか!
フォントル殿! これは何かの間違いだろう!?」
「ふむ、エーゴン殿は知らずにアーネントに協力していた訳か......。
やり手の商人にしては些か人を信じすぎるきらいがありますな」
エーゴンは説明を求めるような顔でアーネントの方を向く。
アーネントは何も答えられず俯いていた。
「知っての通り、オルドーレ閣下はオルディア王家の根絶がお望みだ。
我々は閣下の庇護下で生きている以上従わねばならん。
匿ったのがアーネント殿一人と言えど責めを負うのは我々全員だ。
なぜ匿ったのか......納得のいく説明をお願いできますかな?」
アーネントは何も答えない。
下手に話せばボロが出る、このまま黙り続け時を無駄にする事が今出来る最上の策だった。
「ふむ、黙秘を貫くと。
まぁ良いでしょう。では、アーネント殿から弁明が無かった為、このまま皆の総意を問いたい。
レオ•オルディア......この者の処遇をいかにすべきかね?」
「断固処刑すべし!」
「今すぐ捕らえ見せしめよ!」
「オルディアの子を捕らえるのだ!」
多くの領主がレオの処刑を望んでいる。
誰も味方する者はいないのか......アーネントがそう思っていた時、エーゴンが手を挙げる。
「皆々落ち着かれよ。
確かにオルドーレ閣下のご意向はオルディア王家の根絶だ。
だが私は彼をこの目で見て話した! 彼は危険な人物ではないのだ!
商人が信じる男なのだよ! ここはどうだろうか?
彼に怪しい者が近づかないように監視して、我々で首輪をかけるというのは。
閣下が警戒しているのは反乱だ。なら、その反乱の芽を潰せばよいではないか!」
「その反乱の芽こそが、レオ・オルディアなのだよエーゴン殿」
エーゴンの必死の説得はフォントルによって打ち砕かれる。
最早誰もレオを生かす気など無かった。
「では、皆の意見は決まったな!
我々は連合会議において、レオ・オルディアを......」
「待った!!」
アーネントはフォントルの言葉を遮る。
「このアーネント・ローズロック、ご恩を忘れて保身に走る真似はせん。
王子の身柄が欲しくば、正々堂々奪いにくれば良かろう!」
「アーネント殿......それは連合を脱退するという意思表示で良いのかな?」
「無論だ!」
アーネントとフォントルは火花散るほど鋭い剣幕で睨み合う。
そしてアーネントの固い決意にエーゴンは心を掴まれる。
「ならば私も連合を抜けさせてもらおう!
己の利益の為に、未来への投資を怠る組織など先が見えておる!」
「愚か者共が......では今日の会議はこれにて閉会だ。アーネント殿、エーゴン殿、長年連合の為に尽力していただき感謝する......次は戦場で相見えようぞ」
こうして連合会議は閉会した。
アーネントとエーゴンは帰宅後、今回の出来事をそれぞれ話した。
ルークとレオはとうとうこの日が来たかと覚悟を決める。
アリアは驚きながらも父の考えを尊重し、ルークと共にレオを支えると誓う。
エストリヤは親子の会話を遠くから黙って見ていた。
翌日、ローズロック邸応接室
ルーク、レオ、アリア、エストリヤ、アーネント、エーゴンの6人は今後の事を話し合っていた。
「父上、こうなった以上俺も腹をくくります。
ですが、正直な事を申せばこの戦いは分が悪すぎます。
ローズロック、オスワルドの兵を合わせても500程度......対する連合は3千の大軍です。
どれだけ策を練っても、これだけの兵力差は覆せません」
「では、傭兵を雇うのは如何でしょう?
オスワルドの財と人脈を使えば合わせて2千程度になるのではありませんか?」
「いや、それでも足りない。
向こうの大将はフォントルだ。相手も必ず傭兵を雇ってくる。
こちらが2千集められるのなら相手は少なく見積もっても5千は集めるだろう。
どちらにせよ、かなり厳しい戦いを強いられるのは間違いない」
ルークとアリアはどうすれば戦力差を埋められるか議論していた。
レオは大将として考えが出揃うのを待ち、他の3人はただ沈黙していた。
「父上、あなたが始めた戦なのですから父上も案を出してくださいよ。
こういう事に一番明るいのは父上のはずですよ?」
「ルーク様の仰る通りです! お父様も何か言ってください!
商人というのはあらゆるリスクに備えるものだと常々言ってたじゃないですか!」
ルーク達の訴えに二人は面食らう。
申し訳無さそうな顔をしながら沈黙の訳を話す。
「実は今、各地に散った仲間に声をかけていてな......そろそろ来る頃合いゆえ少し気が逸れていたのだ」
「私は〜ほら、こういう事は不得手で......まぁその〜兵站やら人員の手配はやっておこう、そうと決まれば急がねばな! では、私は一足先に失礼するぞ!
アリアはルーク君と一緒にいなさい! では!」
再び沈黙するアーネントと、そそくさと逃げ出したエーゴン。
頼りない親に二人はため息を漏らし、改めて対抗策を出しあう。
その時、屋敷の前で複数の馬の蹄の音が聞こえてきた。
「来たか......! 最強の軍勢が......!」
アーネントが立ち上がり叫ぶ、どうやら声をかけた仲間が来たようだ。
全員で外に出向き、様子を窺う。
一人の若い騎士が馬から降り、颯爽と駆けつけレオの前で跪く。
「殿下! 我々はこの日を10年待ち続けました!
銀狼騎士団50騎...殿下の御為、喜んで先駆けの刃となりましょう!」
溌剌とした声の青年に礼は驚きの目で見る。
「お前まさか......ブレイブか!?」
「お久しゅう御座いますレオ殿下。
幼き日に近習としてお仕えして以来、この身はお側を離れようと心は常に殿下と共にありました。
再びお仕え出来る今日という日を、僕は一生忘れません!」
二人は旧知の仲のようで親しげに話を進める。
アーネントはブレイブにここに呼んだ経緯と詳しい事情を説明する。
話を聞いたブレイブはわなわなと震えだし地面を殴りだした。
「何という事だ......! かつてオルディア王家に守られていた大恩を忘れ、逆賊に尻尾を振るとは許し難き大罪!!
殿下、僕に命令を。即刻彼奴らの首を刎ね、殿下の御前に並べてみせましょう!」
このままでは話が変な方向に行きかねないと感じたルークは慌てて割って入る。
「まぁまぁブレイブさん落ち着いて! 気持ちはありがたいけど、もっと軍備を整えてからじゃないと動きたくても動けないよ!」
「む? 君は誰だ? 君はどうやら殿下に忠誠を誓っているようでは無さそうだが......忠無き者が王の側に侍るなど言語道断だ! 殿下、この者は何者なのですか?」
(あまりにも暑苦しい......俺の話を聞く気が無いな!?)
レオは面倒臭い男だと言いたげな顔で説明する。
「こいつは俺の軍師であり、後々右腕となる男だ。
今後、戦場ではこいつの指示に従ってもらうからあまり邪険にするなよ?」
ブレイブは敬礼し、ルークにこれからよろしくと挨拶した。
最強と謳われる銀狼騎士団50名、それを束ねるブレイブ•キリアが仲間に加わった。
そして3日後
ローズロック邸の前に3千の兵が集まっている。
レオは台に登り、総大将として演説を行う。
「皆の者、よくぞ集まってくれた!
我が名はレオ•オルディア! オルディア王の嫡子であり、この大陸の正統な主である!
敵はフォントル•アランドゥ率いる連合軍だ! 数では圧倒にこちらが不利だが、ここに集った者達は一人一人が一騎当千の豪傑と信じている!
この戦に勝った暁には、フォントルの全ての財を皆に分け与えると約束しよう!
この戦いは大陸の明日を決める重要な初戦でたり、その功績は子々孫々まで語り継がれる!
皆、死力を尽くして戦え! 狙うはフォントルの首ただ一つだ!」
3千のけたたましい咆哮が山河に響き渡る。
新生オルディア軍の戦いが幕を開けようとしていた。
――アランドゥ邸前
フォントルの檄文により領主達が集まり、その数は1万に達していた。
その集団の中にエストリヤがいる。
エストリヤは兵をかきわけて屋敷へと向かう。
(王子様は倍の兵力だと睨んでたけど、この様子じゃそれ以上だね。
正直言って、王子様の今回の挙兵は完全に失敗だったかな。
王子様は何もかも急ごしらえ、対してフォントルは根回しが済んでる。
はっきり言ってこんなんじゃ勝てるわけないよね)
番兵に理由を伝え屋敷に通される。
エストリヤはフォントルに会うとオルディア軍の陣容を伝えた。
「報告します。
オルディア軍その数3千、主だった将はアーネント•ローズロック、ブレイブ•キリア、エーゴン•オスワルドの3名。
フォントル様の術中に見事嵌まり、軍備は充分ではありません」
「ブレイブ•キリア……? ふむ、キリア一族という事は銀狼騎士団の若当主か。
少々厄介だが、一気に潰せぬ石でも無いわ。
ふん、アーネントめ。若造に縋るとは余程切羽詰まっているようだな。
あれは武勇こそあれ大局を見る力は無い、古き恩に拘り先を見通せぬ愚か者よ。
それに担ぎ上げられた王子もたかが知れる」
フォントルは引き続き情報を集めるよう指示しエストニアを下がらせた。
「さて、こちらも諸将を集めて軍議を開くか。
敵の支度が間に合う前に叩けば少ない被害で済む」
――ローズロック邸応接室
「......と、敵は考えるだろう。だから俺達はその裏をかく。
一度に兵を動かさず、少数ずつ軍備を整えて出陣しする。
オスワルド大市場から川を上ってアランドゥ邸前のガウト高原で合流する
それで良いな?レオ」
「構わん、いつまでに終わる?」
「それは――」
――アランドゥ邸会議室
「皆の者、敵は急な会戦で戦支度が間に合っていない。短く見積もっても3日は掛かる想定だ。
我らは大方の備えが整っている故、最後の支度を済ませ全軍で攻め込むぞ!」
ザンガスが手を挙げフォントルに問う。
「で?その最後の支度はいつ整う予定ですかな?」
「「明日だ」」
フォントル・アランドゥは書斎で葉巻を咥え、報告を待っていた。
連合領内に多くの密偵を送りレオを捜索していたフォントルは中々見つからない現状に焦りを覚えていた。
「失礼します。密偵の一人がレオ・オルディアの居場所を突き止めたとご報告が」
従者が吉報をもたらす。フォントルは「呼べ」と静かに言い、優雅に葉巻を咥えていた。
密偵が部屋に入り、フォントルの前で跪き報告する。
「ご報告いたします。
レオ・オルディア、ただいまアーネント・ローズロックの庇護下でジョン•ブラウンと名乗り生活を行っている模様です」
やはり隠していたか。
フォントルは特に驚いた素振りを見せずゆっくりと密偵の方を向く。
「それで証拠はあるのだろうな?」
密偵は懐から巻物を取り出して広げる。
次第に画像が浮かび上がり、そこにはルークと共に領民と触れ合うレオの姿があった。
フォントルはほくそ笑む。
この証拠があればアーネントを審議にかけられる。
フォントルは連合会議を開く準備をしろと従者に命じ、密偵から受けとった巻物をまじまじと見ながら密偵を労う。
「よくぞ王子を見つけた。
貴様の妹も当分は生かしておいてやろう。
王子の首を取った暁には、お主は妹共々晴れて自由の身だ。
それまでは敵の懐で引き続き情報を集めよ。
よいな? エストリヤよ」
「......承知いたしました」
アーネントは一人書斎で悩んでいた。
フォントルより届いた連合会議招集の手紙、会議の内容は大方レオの事だろう。
(連合会議は余程の事が無ければ開かん。
比較的連合が安定しているこのタイミングで招集するとは......。
もはや隠し通せぬか......)
フォントルは用意周到な男だ。
連合会議を開くという事はそれだけ証拠が揃っているという事に他ならない。
アーネントに出来る事は会議の場で少しでも味方を増やす事だった。
連合会議当日 アランドゥ邸
豪華絢爛な装飾が屋敷の至る所に付けられ、フォントルの財力と権威を象徴するような作りとなっていた。
「これはこれはアーネント殿、しばらく見ぬ間に随分と老け込みましたなぁ?」
色黒の中年の男がアーネントに話しかける。
「久しいなザンガス殿、貴殿は変わらず壮健なようで何よりだ」
ザンガス・クレイノラ、領主の一人でありフォントルに最も近しい武闘派の男だ。
フォントルの配下と言ってもいいほど緊密な仲である。
今回の会議では間違いなくフォントルに味方するだろう。
「連合会議も最後に開かれたのは10年前、今回はいかなる議題で開催されるのでしょうな?」
薄ら笑いを浮かべながらザンガスはアーネントに問いかける。
その態度を見て、アーネントは今日の会議がレオの所在についてであり、自分が審議にかけられるということを確信した。
「はて? ザンガス殿のように儂はフォントル殿と親しくないのでな。今日の議題など儂には預かり知らぬこと......それとも、ザンガス殿は何かご存知なのですかな?」
隠す気があるのか無いのか露骨な態度で首を振る。
舐めた態度に腹を立てたアーネントだが、気取られぬよう挨拶も程々に待合室に向かう。
「久しいなエーゴン」
待合室ではエーゴンが一人茶菓子を堪能して待っていた。
アーネントの声に気付くと手招きをして隣に座るよう促す。
「互いに多忙だからなぁ。こうしてまたお前の顔が見れて嬉しいぞアーネントよ。
先日はルーク君に随分と世話になった。
彼のように有能な後継者を持ったお前が心底羨ましいぞ。
あぁそれと、ジョン君だったかな? 彼もよく働いてくれた。領地に戻ったら二人に礼を言っておいてくれ」
エーゴンは穏やかな口調でアーネントに話しかける。
どうやら会議の内容を聞かされているのはフォントルに近しい人間だけのようだ。
続々と領主達が集まり、フォントルを除く9人の領主が待合室に集まると、従者により会議室まで案内されフォントルが挨拶を行う。
「各々方、お集まりいただき大変嬉しく思う。
長々挨拶する仲とも思えぬでな、早速本題に移ろう。
今回議題に挙げるのはオルディア王朝最後の血脈、レオ・オルディアの処遇についてである。
つい先日、レオ・オルディアの所在を我が手の者が掴んだのだ」
領主達の間に驚きの声が上がる。
だが、フォントルがそれを制した。
「皆の動揺はよく分かる。オルディアの者がまさかいるとは誰も思わなかっただろう。
だがこの地におる......ローズロック殿の領地でな!」
フォントルが巻物を広げ、空間に領民と触れ合うレオの姿が浮かび上がる。
その光景にアーネントは戦慄し、周りはどよめく。
「ジョン君......? ジョン君ではないか!
フォントル殿! これは何かの間違いだろう!?」
「ふむ、エーゴン殿は知らずにアーネントに協力していた訳か......。
やり手の商人にしては些か人を信じすぎるきらいがありますな」
エーゴンは説明を求めるような顔でアーネントの方を向く。
アーネントは何も答えられず俯いていた。
「知っての通り、オルドーレ閣下はオルディア王家の根絶がお望みだ。
我々は閣下の庇護下で生きている以上従わねばならん。
匿ったのがアーネント殿一人と言えど責めを負うのは我々全員だ。
なぜ匿ったのか......納得のいく説明をお願いできますかな?」
アーネントは何も答えない。
下手に話せばボロが出る、このまま黙り続け時を無駄にする事が今出来る最上の策だった。
「ふむ、黙秘を貫くと。
まぁ良いでしょう。では、アーネント殿から弁明が無かった為、このまま皆の総意を問いたい。
レオ•オルディア......この者の処遇をいかにすべきかね?」
「断固処刑すべし!」
「今すぐ捕らえ見せしめよ!」
「オルディアの子を捕らえるのだ!」
多くの領主がレオの処刑を望んでいる。
誰も味方する者はいないのか......アーネントがそう思っていた時、エーゴンが手を挙げる。
「皆々落ち着かれよ。
確かにオルドーレ閣下のご意向はオルディア王家の根絶だ。
だが私は彼をこの目で見て話した! 彼は危険な人物ではないのだ!
商人が信じる男なのだよ! ここはどうだろうか?
彼に怪しい者が近づかないように監視して、我々で首輪をかけるというのは。
閣下が警戒しているのは反乱だ。なら、その反乱の芽を潰せばよいではないか!」
「その反乱の芽こそが、レオ・オルディアなのだよエーゴン殿」
エーゴンの必死の説得はフォントルによって打ち砕かれる。
最早誰もレオを生かす気など無かった。
「では、皆の意見は決まったな!
我々は連合会議において、レオ・オルディアを......」
「待った!!」
アーネントはフォントルの言葉を遮る。
「このアーネント・ローズロック、ご恩を忘れて保身に走る真似はせん。
王子の身柄が欲しくば、正々堂々奪いにくれば良かろう!」
「アーネント殿......それは連合を脱退するという意思表示で良いのかな?」
「無論だ!」
アーネントとフォントルは火花散るほど鋭い剣幕で睨み合う。
そしてアーネントの固い決意にエーゴンは心を掴まれる。
「ならば私も連合を抜けさせてもらおう!
己の利益の為に、未来への投資を怠る組織など先が見えておる!」
「愚か者共が......では今日の会議はこれにて閉会だ。アーネント殿、エーゴン殿、長年連合の為に尽力していただき感謝する......次は戦場で相見えようぞ」
こうして連合会議は閉会した。
アーネントとエーゴンは帰宅後、今回の出来事をそれぞれ話した。
ルークとレオはとうとうこの日が来たかと覚悟を決める。
アリアは驚きながらも父の考えを尊重し、ルークと共にレオを支えると誓う。
エストリヤは親子の会話を遠くから黙って見ていた。
翌日、ローズロック邸応接室
ルーク、レオ、アリア、エストリヤ、アーネント、エーゴンの6人は今後の事を話し合っていた。
「父上、こうなった以上俺も腹をくくります。
ですが、正直な事を申せばこの戦いは分が悪すぎます。
ローズロック、オスワルドの兵を合わせても500程度......対する連合は3千の大軍です。
どれだけ策を練っても、これだけの兵力差は覆せません」
「では、傭兵を雇うのは如何でしょう?
オスワルドの財と人脈を使えば合わせて2千程度になるのではありませんか?」
「いや、それでも足りない。
向こうの大将はフォントルだ。相手も必ず傭兵を雇ってくる。
こちらが2千集められるのなら相手は少なく見積もっても5千は集めるだろう。
どちらにせよ、かなり厳しい戦いを強いられるのは間違いない」
ルークとアリアはどうすれば戦力差を埋められるか議論していた。
レオは大将として考えが出揃うのを待ち、他の3人はただ沈黙していた。
「父上、あなたが始めた戦なのですから父上も案を出してくださいよ。
こういう事に一番明るいのは父上のはずですよ?」
「ルーク様の仰る通りです! お父様も何か言ってください!
商人というのはあらゆるリスクに備えるものだと常々言ってたじゃないですか!」
ルーク達の訴えに二人は面食らう。
申し訳無さそうな顔をしながら沈黙の訳を話す。
「実は今、各地に散った仲間に声をかけていてな......そろそろ来る頃合いゆえ少し気が逸れていたのだ」
「私は〜ほら、こういう事は不得手で......まぁその〜兵站やら人員の手配はやっておこう、そうと決まれば急がねばな! では、私は一足先に失礼するぞ!
アリアはルーク君と一緒にいなさい! では!」
再び沈黙するアーネントと、そそくさと逃げ出したエーゴン。
頼りない親に二人はため息を漏らし、改めて対抗策を出しあう。
その時、屋敷の前で複数の馬の蹄の音が聞こえてきた。
「来たか......! 最強の軍勢が......!」
アーネントが立ち上がり叫ぶ、どうやら声をかけた仲間が来たようだ。
全員で外に出向き、様子を窺う。
一人の若い騎士が馬から降り、颯爽と駆けつけレオの前で跪く。
「殿下! 我々はこの日を10年待ち続けました!
銀狼騎士団50騎...殿下の御為、喜んで先駆けの刃となりましょう!」
溌剌とした声の青年に礼は驚きの目で見る。
「お前まさか......ブレイブか!?」
「お久しゅう御座いますレオ殿下。
幼き日に近習としてお仕えして以来、この身はお側を離れようと心は常に殿下と共にありました。
再びお仕え出来る今日という日を、僕は一生忘れません!」
二人は旧知の仲のようで親しげに話を進める。
アーネントはブレイブにここに呼んだ経緯と詳しい事情を説明する。
話を聞いたブレイブはわなわなと震えだし地面を殴りだした。
「何という事だ......! かつてオルディア王家に守られていた大恩を忘れ、逆賊に尻尾を振るとは許し難き大罪!!
殿下、僕に命令を。即刻彼奴らの首を刎ね、殿下の御前に並べてみせましょう!」
このままでは話が変な方向に行きかねないと感じたルークは慌てて割って入る。
「まぁまぁブレイブさん落ち着いて! 気持ちはありがたいけど、もっと軍備を整えてからじゃないと動きたくても動けないよ!」
「む? 君は誰だ? 君はどうやら殿下に忠誠を誓っているようでは無さそうだが......忠無き者が王の側に侍るなど言語道断だ! 殿下、この者は何者なのですか?」
(あまりにも暑苦しい......俺の話を聞く気が無いな!?)
レオは面倒臭い男だと言いたげな顔で説明する。
「こいつは俺の軍師であり、後々右腕となる男だ。
今後、戦場ではこいつの指示に従ってもらうからあまり邪険にするなよ?」
ブレイブは敬礼し、ルークにこれからよろしくと挨拶した。
最強と謳われる銀狼騎士団50名、それを束ねるブレイブ•キリアが仲間に加わった。
そして3日後
ローズロック邸の前に3千の兵が集まっている。
レオは台に登り、総大将として演説を行う。
「皆の者、よくぞ集まってくれた!
我が名はレオ•オルディア! オルディア王の嫡子であり、この大陸の正統な主である!
敵はフォントル•アランドゥ率いる連合軍だ! 数では圧倒にこちらが不利だが、ここに集った者達は一人一人が一騎当千の豪傑と信じている!
この戦に勝った暁には、フォントルの全ての財を皆に分け与えると約束しよう!
この戦いは大陸の明日を決める重要な初戦でたり、その功績は子々孫々まで語り継がれる!
皆、死力を尽くして戦え! 狙うはフォントルの首ただ一つだ!」
3千のけたたましい咆哮が山河に響き渡る。
新生オルディア軍の戦いが幕を開けようとしていた。
――アランドゥ邸前
フォントルの檄文により領主達が集まり、その数は1万に達していた。
その集団の中にエストリヤがいる。
エストリヤは兵をかきわけて屋敷へと向かう。
(王子様は倍の兵力だと睨んでたけど、この様子じゃそれ以上だね。
正直言って、王子様の今回の挙兵は完全に失敗だったかな。
王子様は何もかも急ごしらえ、対してフォントルは根回しが済んでる。
はっきり言ってこんなんじゃ勝てるわけないよね)
番兵に理由を伝え屋敷に通される。
エストリヤはフォントルに会うとオルディア軍の陣容を伝えた。
「報告します。
オルディア軍その数3千、主だった将はアーネント•ローズロック、ブレイブ•キリア、エーゴン•オスワルドの3名。
フォントル様の術中に見事嵌まり、軍備は充分ではありません」
「ブレイブ•キリア……? ふむ、キリア一族という事は銀狼騎士団の若当主か。
少々厄介だが、一気に潰せぬ石でも無いわ。
ふん、アーネントめ。若造に縋るとは余程切羽詰まっているようだな。
あれは武勇こそあれ大局を見る力は無い、古き恩に拘り先を見通せぬ愚か者よ。
それに担ぎ上げられた王子もたかが知れる」
フォントルは引き続き情報を集めるよう指示しエストニアを下がらせた。
「さて、こちらも諸将を集めて軍議を開くか。
敵の支度が間に合う前に叩けば少ない被害で済む」
――ローズロック邸応接室
「......と、敵は考えるだろう。だから俺達はその裏をかく。
一度に兵を動かさず、少数ずつ軍備を整えて出陣しする。
オスワルド大市場から川を上ってアランドゥ邸前のガウト高原で合流する
それで良いな?レオ」
「構わん、いつまでに終わる?」
「それは――」
――アランドゥ邸会議室
「皆の者、敵は急な会戦で戦支度が間に合っていない。短く見積もっても3日は掛かる想定だ。
我らは大方の備えが整っている故、最後の支度を済ませ全軍で攻め込むぞ!」
ザンガスが手を挙げフォントルに問う。
「で?その最後の支度はいつ整う予定ですかな?」
「「明日だ」」
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
作者の他の作品
この作者の他作品はありません。
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。