第2話 超能力活性薬

ー/ー



「その薬、誰からもらったの!? 」

紅羽は声を荒げて、結衣に迫る。

「あっ......ネットで知り合った友達からもらって......」

紅羽の頭に「」という言葉が強く残る。あの言葉を聞いたとき、背筋が凍った。昨日の夜見たウィンドの姿が脳裏をよぎる。

「その友達とは絶対縁を切って!」

紅羽は思った。あの組織が絡んでるかもしれない。結斗にもあの組織の手が届いてしまうかもしれない。もう二度とのように誰かを失いたくない―

「どうしたんですか先輩......さっきから急に怒りだして......」

その言葉で、紅羽ははっとした。結斗の手が震えていた。

「ごめんなさい、怖がらせたいわけじゃなかったんだけど」

「とりあえず、その薬は二度と使わない、その薬を渡してきた友達とは縁を切る。この二つでしょ?紅羽が伝えたかったことは」

澄玲は落ち着いた声で話をまとめた。

「うん、その通り。今回の件は黙っておいてあげるから」

「......いいんですか?」

「あなたは寝てたからわからないだろうけど、あの後お母さんとちょっと話したんだよ。今回のことは誰にも話さないようにしようって」

しばらく沈黙が続いたのち、紅羽が続けた。

「知ってる?超能力を使った犯罪は厳罰だって。能力を暴発させて、親に電気で攻撃しかけたなんてバレたら、中学生でも実刑は避けられないよ」

「はい......」

「私たちは味方だから、困ったことがあったら何でも相談してね」

紅羽はにこやかに笑った。

「ありがとうございます!」

結斗はもう一度、紅羽に頭を下げた。しかし、その行動の意味は変わっていた。

「いいってことよ」

澄玲も微笑みながら紅羽に近づいて、ひそひそ声で話す。

「紅羽、少し二人で話したいの」

「うん、私もそう思ってたところ」

澄玲は結斗のほうを向いて、はっきりとした声で話す。

「それじゃあ、結衣君。私たちは帰るね」

「学校でまた会おうね!」

二人は公園から離れて、道路を歩きながら話し出す。

「ねえ澄玲、あれってやっぱり......」

能力者なんてあいつ以外聞いたことないわよ」

「あの薬を作ったのってまさか......」

「いやまだ決めつけるには早いよ、単なる誇張や比喩表現の可能性もあるし」

「そうだよね。でも、今まで影も形もつかめなかったにつながる可能性が1%でもあるなら、この薬の流通元を掴む価値はあるんじゃない?」

「近づけるかな?に」

「わからないけど、仮にが関係がしていなかったとしても、結斗をあんな目に遭わせたものを、私は許せないよ」

紅羽の目に浮かんだ真っすぐな怒りに、澄玲は思わず息をのんだ。

「......紅羽」

「でも結斗を巻き込むわけにはいかない。結斗に薬を渡したやつに問い詰めたら結斗に危害が及ぶかも......どうしよう」

「作戦があるの」


―数日後の昼

日野紅羽は私服で街中を歩いていた。Tシャツと短パン、帽子をかぶった、かなりラフな格好だ。

紅羽の通う潮波中等は、新設された都立の中高一貫校として有名だ。青のブレザーの制服には校章が刻まれている。制服を着たら一目で生徒だとわかってしまう。学校に迷惑をかけるわけにはいかない。

紅羽はスマホを確認しながら、指定された裏路地に入る。薬の売人とはSNSで連絡を取り、ここで落ち合うと決めていた。ここは昼間でも薄暗く、湿っていて、人通りはない。紅羽はスマホを握り、SNSのダイレクトメッセージを確認しながら、足音に耳を立てた。

しばらくすると、青年の男が、周囲に目を配りながら、裏路地に入ってきた。20代くらいに見えるが、やけに痩せている。シャベルというらしい。もっとも、SNSでのハンドルネームだが。

「こんにちは。君が薬を買いたいって人かな」

「はい。手短に済ませましょう」

シャベルはバッグを開けて、薬を取り出す。あの時、結斗の家で紅羽が見たのと同じ、白い錠剤だった。

「代金は......」

シャベルが言い終わる前に、紅羽は薬を持つシャベルの右腕を掴んだ。

「この薬、誰からもらったの」

「おいおい、何の真似だ」

「この薬を作ったやつの元に、私を連れてけ」

紅羽は、シャベルの右腕を握る手を、もっと力強く握りしめた。紅羽の手のひらが、じわじわと高温になっていく。

「まさか......おとり捜査官か?」

「そんなんじゃないけど、私はこの薬が許せないの」

紅羽は、シャベルの目を鋭く見つめていた。



の地下基地

地下深く、殺風景な基地。コンクリートで囲まれ、電球で照らされた、その基地の一室で、声が響いた。

「ウィンド、この男は......」

「はい。ボスのお望み通り、連れてきましたよ」

ウィンドと呼ばれる人物と、彼がボスと呼ぶ存在。二人の前には、意識を失ったある男が、コンクリートの柱に縛り付けられていた。

「どうします。こいつ。殺してしまいましょうか?」

「いや、待て。こいつにはまだ利用価値がある」

「利用価値......ですか?」

「お前がこの前取り逃がしたあの紅羽とかいうやつ、どうやら我らの薬について嗅ぎまわってるそうじゃないか」

ウィンドは慌てて頭を下げる。

「あの件は......申し訳ございません」

「まあよい。私たちは今忙しいのだ。紅羽とかいうやつの相手をしてる場合ではない」

は男の頭に優しく手を当てる。

「だから、こいつを使うのだ」





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「その薬、誰からもらったの!? 」
紅羽は声を荒げて、結衣に迫る。
「あっ......ネットで知り合った友達からもらって......」
紅羽の頭に「《《空を飛べる》》」という言葉が強く残る。あの言葉を聞いたとき、背筋が凍った。昨日の夜見たウィンドの姿が脳裏をよぎる。
「その友達とは絶対縁を切って!」
紅羽は思った。あの組織が絡んでるかもしれない。結斗にもあの組織の手が届いてしまうかもしれない。もう二度と《《あの時》》のように誰かを失いたくない―
「どうしたんですか先輩......さっきから急に怒りだして......」
その言葉で、紅羽ははっとした。結斗の手が震えていた。
「ごめんなさい、怖がらせたいわけじゃなかったんだけど」
「とりあえず、その薬は二度と使わない、その薬を渡してきた友達とは縁を切る。この二つでしょ?紅羽が伝えたかったことは」
澄玲は落ち着いた声で話をまとめた。
「うん、その通り。今回の件は黙っておいてあげるから」
「......いいんですか?」
「あなたは寝てたからわからないだろうけど、あの後お母さんとちょっと話したんだよ。今回のことは誰にも話さないようにしようって」
しばらく沈黙が続いたのち、紅羽が続けた。
「知ってる?超能力を使った犯罪は厳罰だって。能力を暴発させて、親に電気で攻撃しかけたなんてバレたら、中学生でも実刑は避けられないよ」
「はい......」
「私たちは味方だから、困ったことがあったら何でも相談してね」
紅羽はにこやかに笑った。
「ありがとうございます!」
結斗はもう一度、紅羽に頭を下げた。しかし、その行動の意味は変わっていた。
「いいってことよ」
澄玲も微笑みながら紅羽に近づいて、ひそひそ声で話す。
「紅羽、少し二人で話したいの」
「うん、私もそう思ってたところ」
澄玲は結斗のほうを向いて、はっきりとした声で話す。
「それじゃあ、結衣君。私たちは帰るね」
「学校でまた会おうね!」
二人は公園から離れて、道路を歩きながら話し出す。
「ねえ澄玲、あれってやっぱり......」
「《《空を飛べる》》能力者なんてあいつ以外聞いたことないわよ」
「あの薬を作ったのってまさか......」
「いやまだ決めつけるには早いよ、単なる誇張や比喩表現の可能性もあるし」
「そうだよね。でも、今まで影も形もつかめなかった《《あの組織》》につながる可能性が1%でもあるなら、この薬の流通元を掴む価値はあるんじゃない?」
「近づけるかな?《《あの組織》》に」
「わからないけど、仮に《《あの組織》》が関係がしていなかったとしても、結斗をあんな目に遭わせたものを、私は許せないよ」
紅羽の目に浮かんだ真っすぐな怒りに、澄玲は思わず息をのんだ。
「......紅羽」
「でも結斗を巻き込むわけにはいかない。結斗に薬を渡したやつに問い詰めたら結斗に危害が及ぶかも......どうしよう」
「作戦があるの」
―数日後の昼
日野紅羽は私服で街中を歩いていた。Tシャツと短パン、帽子をかぶった、かなりラフな格好だ。
紅羽の通う潮波中等は、新設された都立の中高一貫校として有名だ。青のブレザーの制服には校章が刻まれている。制服を着たら一目で生徒だとわかってしまう。学校に迷惑をかけるわけにはいかない。
紅羽はスマホを確認しながら、指定された裏路地に入る。薬の売人とはSNSで連絡を取り、ここで落ち合うと決めていた。ここは昼間でも薄暗く、湿っていて、人通りはない。紅羽はスマホを握り、SNSのダイレクトメッセージを確認しながら、足音に耳を立てた。
しばらくすると、青年の男が、周囲に目を配りながら、裏路地に入ってきた。20代くらいに見えるが、やけに痩せている。シャベルというらしい。もっとも、SNSでのハンドルネームだが。
「こんにちは。君が薬を買いたいって人かな」
「はい。手短に済ませましょう」
シャベルはバッグを開けて、薬を取り出す。あの時、結斗の家で紅羽が見たのと同じ、白い錠剤だった。
「代金は......」
シャベルが言い終わる前に、紅羽は薬を持つシャベルの右腕を掴んだ。
「この薬、誰からもらったの」
「おいおい、何の真似だ」
「この薬を作ったやつの元に、私を連れてけ」
紅羽は、シャベルの右腕を握る手を、もっと力強く握りしめた。紅羽の手のひらが、じわじわと高温になっていく。
「まさか......おとり捜査官か?」
「そんなんじゃないけど、私はこの薬が許せないの」
紅羽は、シャベルの目を鋭く見つめていた。
―《《ある組織》》の地下基地
地下深く、殺風景な基地。コンクリートで囲まれ、電球で照らされた、その基地の一室で、声が響いた。
「ウィンド、この男は......」
「はい。ボスのお望み通り、連れてきましたよ」
ウィンドと呼ばれる人物と、彼がボスと呼ぶ存在。二人の前には、意識を失ったある男が、コンクリートの柱に縛り付けられていた。
「どうします。こいつ。殺してしまいましょうか?」
「いや、待て。こいつにはまだ利用価値がある」
「利用価値......ですか?」
「お前がこの前取り逃がしたあの紅羽とかいうやつ、どうやら我らの薬について嗅ぎまわってるそうじゃないか」
ウィンドは慌てて頭を下げる。
「あの件は......申し訳ございません」
「まあよい。私たちは今忙しいのだ。紅羽とかいうやつの相手をしてる場合ではない」
《《ボス》》は男の頭に優しく手を当てる。
「だから、こいつを使うのだ」