第1話 火vs風―超能力者の戦い

ー/ー



海から陸―風の向きが普通と逆だ。日野紅羽は足を止めた。が来る。

紅羽は周囲を見渡す。高いビルが立ち並んでいるが、夜だからなのか、人影一つ見えない。

空気の圧力が弾のようになって、紅羽の右足に直撃する。

「くっ」

鋭い痛みが右足に走る。紅羽は右ひざをつく。

「どこにいるの、ウィンド」

「教えるわけないだろう」

風を操るその能力者を、紅羽はウィンドと呼んでいる。風を操るということは、空気を操るということ、すなわち音も操れるということだ。ウィンドのは紅羽の耳に届くが、音では場所がわからない。

二発目の空気の弾が飛んでくる。紅羽はその場から動いて避けようとしたが、左足にかすれた。

「ぐっ」

紅羽は足を踏ん張って、何とか立ち続けた。だが、攻撃の方向からウィンドの位置が分かった。紅羽は右手のビルの屋上に目線を向ける。あそこだ。あのビルの屋上に見える、黒い人影。うっすらとしか見えないが、あのシルエット、風の超能力を使う攻撃、間違いない―

「ウィンド!」

紅羽は、自分の体の生体電気を整える。強い生体電気は、技術次第で様々な影響を外界に与える。例えば―

紅羽は右手を広げて、火の玉を作る。ボールを投げるような感覚で右腕を振りかぶって、人影のほうに投げた。

赤く光る火の玉は、周囲の空気を焼き尽くしながら、ウィンドのほうに向かって直進する。しかし、ウィンドは周囲に強風を吹かせて自分の体を持ち上げ、空を舞って火の玉をよけた。ウィンドは空を飛んで、紅羽の前に着地した。

はよくもやってくれたな、今日こそはお前を捕らえる」

「はぁ!?あなた達が私を巻き込んできたんでしょ!? 」

紅羽は手に火をためて、ウィンドの方に投げつける。

ウィンドが払うように手を動かすと、空気が同じように動き、火の玉の軌道をそらした。ウィンドは手を振り下ろすと、紅羽の周りに下降気流が発生して、紅羽は地面に叩きつけられる。

(まずい......)

四つん這いになった紅羽の額には、汗が垂れる。紅羽は周辺に火をまき散らして、空気を膨張させる。下降気流は上昇気流に変わり、紅羽の体は解放される。

(やっぱり逃げるしか......)

紅羽はウィンドとは逆側に走りだした。ウィンドは手をピストルのようにして、指先で空気を圧縮させる。

ウィンドはピストルを撃つ真似をするように手を跳ね上げる。空気の弾が一気に放たれ、紅羽の背中に追いついた。

―陽炎―

空気の弾が紅羽の右横腹に届いたように見えたその時、紅羽の姿が揺れた。弾が通り過ぎた後の紅羽の姿は、絵の具に歪んでいた。紅羽は周囲の空気を温めることにより、陽炎のように周囲の光を屈折させていたのだ。

紅羽の体は見えていた場所より左にずれていて、弾をよけた。紅羽は左手の狭い路地に入る。

「待て!」

ウィンドは空を飛んで、紅羽を追いかける。先ほど広げた距離もすぐに詰められた。

(普通にやっても逃げ切れないよね。なら!)

―紅い焔壁―

紅羽とウィンドの間に、紅く輝く炎の壁が沸き上がった。とても直視できないほどにまぶしい。ウィンドは思わず目を閉じて空中で止まってしまった。その隙に、紅羽は路地から抜けて大通りに出た。夜間とはいえ、人や車の往来は多少あった。

(あった!ここだ)

紅羽は大通りの交差点に出て、目の前にあった地下横断歩道に入った。階段を全速力でかけ下がり、一番下まで下りきる。

紅羽は外につながる出入口をじっと見つめる。あの技で撒けたなら、追ってこないだろう。仮に撒けてなかったとしても、この地下通路のような狭い場所では紅羽の能力のほうが有利だ。

しばらく見つめても、ウィンドの姿は出てこなかった。

紅羽の体から力が抜ける。制服のブレザーやスカートが汚れることもいとわず、壁に肩をつけて地面に座りこんだ。紅羽は深く息を吐く。

(この下校路までにばれてるの?そろそろマジでやばいかも。いや、逃げてばっかりじゃ......)

―翌朝

日野紅羽は登校中だった。青い空の下、紅羽は住宅街の中を歩いていた。彼女の隣で一緒に歩いているのは、別の中学校に進んだ、小学校のときからの友達である橋本澄玲だ。

「それは大変だったね。怪我してない?」

澄玲は紅羽の手を見つめる。

「うん」

紅羽はそう答えたが、澄玲には、紅羽の歩くの速さがいつもより少し遅いように感じた。澄玲もそのペースに合わせて、いつもよりゆっくり歩く。

「ごめん、澄玲。せっかくにつながるチャンスだったのに......」

紅羽は目線を下に向ける。

「逃げれただけでも十分だよ。大体レベルの風系の超能力者なんて、あいつ以外聞いたこともないよ、分が悪すぎるでしょ」

澄玲がその言葉を言い終えた時、ゴロゴロと、雷のような音が鳴り響いた。

「何、この音......今、雷なんて見えなかったよね」

紅羽は空を見上げながらそう言った。

「まさか、超能力!?」

雷のような音は、まだ鳴り続けている。

「この街中でこれだけ出力してたらただじゃすまないよ。ちょっと行ってみよう」

紅羽は足の痛みを我慢して、音のする方に走り出した。澄玲も走り出す。

その音の正体に、紅羽は唖然として立ち止まってしまった。

「どうしたの、ってなにこれ!?」

そこにいた人物を、紅羽は知っていた。紅羽と同じ青色のブレザーの制服を着た、後輩の男子。

「結斗君!」

彼の右腕の周りには、フライパンや包丁など、鉄製の日用品が、磁力で張り付いてる。

結斗の体から漏れ出すように、上空へ雷が走った。彼の隣には、中年の女性が立っていた。

「結斗、落ち着いて!どうしちゃったの」

その女性の声がまるで届いていないかのようで、結斗はまったく口を開かない。

「ちょっとそこのお母さん、何があったんですか」

澄玲が女性に話しかける。

「あなた達、結斗のお友達?突然息子が暴れだして......」

「危ない!」

澄玲が叫んだその瞬間、結斗から放たれた雷が母のほうへと向かう。澄玲はすかさず雷の軌道をそらす。

「澄玲、お母さんのことはお願い。ここは私が!」

澄玲は小さくうなずく。この場にほかに人が通りかかったら、結斗が誰かを傷つけてしまうかもしれない。

(抑えつけて止めないと......息を止めて集中力を奪えば超能力は使えないはず!)

紅羽は結斗に向かって走り出す。あの雷にあたったらひとたまりもないが、雷を見てからではよけられない。ならば―

―活火激発―
紅羽は背後の空気を火で温め膨張させ、その反動で一気に前方に進み、結斗に急接近した。

「ちょっとごめんね!」

紅羽は手で結斗の口を塞いで、結斗との体に覆いかぶさって、抱き着くようにして地面へ押し倒した。

「紅羽!そんなに近づいたら電気が......」

結斗は口をふさがれて、息ができなくなる。結斗の呼吸が乱れた。結斗の右腕に張り付いていた、フライパンや包丁は、磁力を失い一気に剥がれ落ちた。雷も出てこなくなった。

「やっと落ち着いてくれたかな?」

紅羽は結斗の口から手をどかすと、息を荒くしてそう尋ねた。

「先輩...?」

結斗の声は、寝起きの人のようにぼんやりとしていた。


―同日、放課後

学校から帰った紅羽と澄玲、そして結斗は、公園で落ち合っていた。

「ほんとにごめんなさい。先輩達に迷惑をかけてしまって......」

結斗は頭を深く下げた。

「私は別にいいわ。でも紅羽にはちゃんと感謝しなさいよ」

「いいってば澄玲。でも結斗、あれはどういうことなの?暴れるように超能力を使って、意識もなさそうだったし。あなたが磁力系の超能力が多少使えるのは知ってるけど、あんな雷出してるの見たことないよ」

「先輩、実は......」

結斗とは少し口ごもったあと、改めて話し出した。

「実は僕は、今日の朝変な薬を飲んでしまったんですよ。超能力活性薬って言うやつで」

「超能力活性薬?」

「はい、どうやらその薬は脳に何らかの刺激を与えることで、超能力の出力を強化できる薬らしいです。でも今思えば脱法ドラッグみたいなものですね」

澄玲が口をはさむ。

「超能力は出力だけ強ければいいってもんじゃないでしょ。生体電気のコントロールの技術が追い付かないとダメよ」

「その通りですね。おまけにその薬は副作用で脳がかなりもうろうとして、強い超能力に慣れてないと意識が保てないみたいで......」

「なるほど。それでああなっちゃったわけだね。どうしてそんなの飲んだの?」

「幼い頃から、超能力が少し使えるのが自慢だったんです。でも、中学校に入ってから、先輩みたいに、もっとすごい力が普通に使える人が周りにいて......。だから自分がわからなくなってしまって」

聞いてる紅羽も少し胸が痛くなった。同じように超能力がアイデンティティだった彼女もまた、ウィンド相手に逃げるしかできなかったのだ。

「薬一つ飲むだけで、車を磁力で持ち上げられただの、空を飛べるようになっただの都合のいい言葉につられて買ってしまって」

「ちょっと待って、今なんて言った!?」

とかいう都合のいい言葉につられてしまって、買ってしまったって話ですか?」

「紅羽、もしかしてこれって......」

紅羽と澄玲は、心当たりがあった。ほどの域まで達した風系の超能力者に。


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海から陸―風の向きが普通と逆だ。日野紅羽は足を止めた。《《あいつ》》が来る。
紅羽は周囲を見渡す。高いビルが立ち並んでいるが、夜だからなのか、人影一つ見えない。
空気の圧力が弾のようになって、紅羽の右足に直撃する。
「くっ」
鋭い痛みが右足に走る。紅羽は右ひざをつく。
「どこにいるの、ウィンド」
「教えるわけないだろう」
風を操るその能力者を、紅羽はウィンドと呼んでいる。風を操るということは、空気を操るということ、すなわち音も操れるということだ。ウィンドの《《声》》は紅羽の耳に届くが、音では場所がわからない。
二発目の空気の弾が飛んでくる。紅羽はその場から動いて避けようとしたが、左足にかすれた。
「ぐっ」
紅羽は足を踏ん張って、何とか立ち続けた。だが、攻撃の方向からウィンドの位置が分かった。紅羽は右手のビルの屋上に目線を向ける。あそこだ。あのビルの屋上に見える、黒い人影。うっすらとしか見えないが、あのシルエット、風の超能力を使う攻撃、間違いない―
「ウィンド!」
紅羽は、自分の体の生体電気を整える。強い生体電気は、技術次第で様々な影響を外界に与える。例えば―
紅羽は右手を広げて、火の玉を作る。ボールを投げるような感覚で右腕を振りかぶって、人影のほうに投げた。
赤く光る火の玉は、周囲の空気を焼き尽くしながら、ウィンドのほうに向かって直進する。しかし、ウィンドは周囲に強風を吹かせて自分の体を持ち上げ、空を舞って火の玉をよけた。ウィンドは空を飛んで、紅羽の前に着地した。
「《《あの時》》はよくもやってくれたな、今日こそはお前を捕らえる」
「はぁ!?あなた達が私を巻き込んできたんでしょ!? 」
紅羽は手に火をためて、ウィンドの方に投げつける。
ウィンドが払うように手を動かすと、空気が同じように動き、火の玉の軌道をそらした。ウィンドは手を振り下ろすと、紅羽の周りに下降気流が発生して、紅羽は地面に叩きつけられる。
(まずい......)
四つん這いになった紅羽の額には、汗が垂れる。紅羽は周辺に火をまき散らして、空気を膨張させる。下降気流は上昇気流に変わり、紅羽の体は解放される。
(やっぱり逃げるしか......)
紅羽はウィンドとは逆側に走りだした。ウィンドは手をピストルのようにして、指先で空気を圧縮させる。
ウィンドはピストルを撃つ真似をするように手を跳ね上げる。空気の弾が一気に放たれ、紅羽の背中に追いついた。
―陽炎―
空気の弾が紅羽の右横腹に届いたように見えたその時、紅羽の姿が揺れた。弾が通り過ぎた後の紅羽の姿は、絵の具に歪んでいた。紅羽は周囲の空気を温めることにより、陽炎のように周囲の光を屈折させていたのだ。
紅羽の体は見えていた場所より左にずれていて、弾をよけた。紅羽は左手の狭い路地に入る。
「待て!」
ウィンドは空を飛んで、紅羽を追いかける。先ほど広げた距離もすぐに詰められた。
(普通にやっても逃げ切れないよね。なら!)
―紅い焔壁―
紅羽とウィンドの間に、紅く輝く炎の壁が沸き上がった。とても直視できないほどにまぶしい。ウィンドは思わず目を閉じて空中で止まってしまった。その隙に、紅羽は路地から抜けて大通りに出た。夜間とはいえ、人や車の往来は多少あった。
(あった!ここだ)
紅羽は大通りの交差点に出て、目の前にあった地下横断歩道に入った。階段を全速力でかけ下がり、一番下まで下りきる。
紅羽は外につながる出入口をじっと見つめる。あの技で撒けたなら、追ってこないだろう。仮に撒けてなかったとしても、この地下通路のような狭い場所では紅羽の能力のほうが有利だ。
しばらく見つめても、ウィンドの姿は出てこなかった。
紅羽の体から力が抜ける。制服のブレザーやスカートが汚れることもいとわず、壁に肩をつけて地面に座りこんだ。紅羽は深く息を吐く。
(この下校路まで《《あいつら》》にばれてるの?そろそろマジでやばいかも。いや、逃げてばっかりじゃ......)
―翌朝
日野紅羽は登校中だった。青い空の下、紅羽は住宅街の中を歩いていた。彼女の隣で一緒に歩いているのは、別の中学校に進んだ、小学校のときからの友達である橋本澄玲だ。
「それは大変だったね。怪我してない?」
澄玲は紅羽の手を見つめる。
「うん」
紅羽はそう答えたが、澄玲には、紅羽の歩くの速さがいつもより少し遅いように感じた。澄玲もそのペースに合わせて、いつもよりゆっくり歩く。
「ごめん、澄玲。せっかく《《あの組織》》につながるチャンスだったのに......」
紅羽は目線を下に向ける。
「逃げれただけでも十分だよ。大体《《空を飛べる》》レベルの風系の超能力者なんて、あいつ以外聞いたこともないよ、分が悪すぎるでしょ」
澄玲がその言葉を言い終えた時、ゴロゴロと、雷のような音が鳴り響いた。
「何、この音......今、雷なんて見えなかったよね」
紅羽は空を見上げながらそう言った。
「まさか、超能力!?」
雷のような音は、まだ鳴り続けている。
「この街中でこれだけ出力してたらただじゃすまないよ。ちょっと行ってみよう」
紅羽は足の痛みを我慢して、音のする方に走り出した。澄玲も走り出す。
その音の正体に、紅羽は唖然として立ち止まってしまった。
「どうしたの、ってなにこれ!?」
そこにいた人物を、紅羽は知っていた。紅羽と同じ青色のブレザーの制服を着た、後輩の男子。
「結斗君!」
彼の右腕の周りには、フライパンや包丁など、鉄製の日用品が、磁力で張り付いてる。
結斗の体から漏れ出すように、上空へ雷が走った。彼の隣には、中年の女性が立っていた。
「結斗、落ち着いて!どうしちゃったの」
その女性の声がまるで届いていないかのようで、結斗はまったく口を開かない。
「ちょっとそこのお母さん、何があったんですか」
澄玲が女性に話しかける。
「あなた達、結斗のお友達?突然息子が暴れだして......」
「危ない!」
澄玲が叫んだその瞬間、結斗から放たれた雷が母のほうへと向かう。澄玲はすかさず雷の軌道をそらす。
「澄玲、お母さんのことはお願い。ここは私が!」
澄玲は小さくうなずく。この場にほかに人が通りかかったら、結斗が誰かを傷つけてしまうかもしれない。
(抑えつけて止めないと......息を止めて集中力を奪えば超能力は使えないはず!)
紅羽は結斗に向かって走り出す。あの雷にあたったらひとたまりもないが、雷を見てからではよけられない。ならば―
―活火激発―
紅羽は背後の空気を火で温め膨張させ、その反動で一気に前方に進み、結斗に急接近した。
「ちょっとごめんね!」
紅羽は手で結斗の口を塞いで、結斗との体に覆いかぶさって、抱き着くようにして地面へ押し倒した。
「紅羽!そんなに近づいたら電気が......」
結斗は口をふさがれて、息ができなくなる。結斗の呼吸が乱れた。結斗の右腕に張り付いていた、フライパンや包丁は、磁力を失い一気に剥がれ落ちた。雷も出てこなくなった。
「やっと落ち着いてくれたかな?」
紅羽は結斗の口から手をどかすと、息を荒くしてそう尋ねた。
「先輩...?」
結斗の声は、寝起きの人のようにぼんやりとしていた。
―同日、放課後
学校から帰った紅羽と澄玲、そして結斗は、公園で落ち合っていた。
「ほんとにごめんなさい。先輩達に迷惑をかけてしまって......」
結斗は頭を深く下げた。
「私は別にいいわ。でも紅羽にはちゃんと感謝しなさいよ」
「いいってば澄玲。でも結斗、あれはどういうことなの?暴れるように超能力を使って、意識もなさそうだったし。あなたが磁力系の超能力が多少使えるのは知ってるけど、あんな雷出してるの見たことないよ」
「先輩、実は......」
結斗とは少し口ごもったあと、改めて話し出した。
「実は僕は、今日の朝変な薬を飲んでしまったんですよ。超能力活性薬って言うやつで」
「超能力活性薬?」
「はい、どうやらその薬は脳に何らかの刺激を与えることで、超能力の出力を強化できる薬らしいです。でも今思えば脱法ドラッグみたいなものですね」
澄玲が口をはさむ。
「超能力は出力だけ強ければいいってもんじゃないでしょ。生体電気のコントロールの技術が追い付かないとダメよ」
「その通りですね。おまけにその薬は副作用で脳がかなりもうろうとして、強い超能力に慣れてないと意識が保てないみたいで......」
「なるほど。それでああなっちゃったわけだね。どうしてそんなの飲んだの?」
「幼い頃から、超能力が少し使えるのが自慢だったんです。でも、中学校に入ってから、先輩みたいに、もっとすごい力が普通に使える人が周りにいて......。だから自分がわからなくなってしまって」
聞いてる紅羽も少し胸が痛くなった。同じように超能力がアイデンティティだった彼女もまた、ウィンド相手に逃げるしかできなかったのだ。
「薬一つ飲むだけで、車を磁力で持ち上げられただの、空を飛べるようになっただの都合のいい言葉につられて買ってしまって」
「ちょっと待って、今なんて言った!?」
「《《空を飛べる》》とかいう都合のいい言葉につられてしまって、買ってしまったって話ですか?」
「紅羽、もしかしてこれって......」
紅羽と澄玲は、心当たりがあった。《《空を飛べる》》ほどの域まで達した風系の超能力者に。