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(四)

ー/ー



 「ああ? なんだ、てめえ?」
 がらがらと耳障りな声とともに酒臭い息が吹きかかった、と思った刹那、楊志の腕の中から刀が消える。
 「刀売りか……おい、この刀はいくらだ」
 「先祖伝来の業物なんでな。三千貫だ」
 「三千貫ァん?」
 渦巻く黒髪を揺らし、牛二がげらげらと肩をいからせて笑う。
 「ばぁか、こんな襤褸の刀にそんな値をつけて、誰が買うかよ! こないだ俺ァ三十文で刀を買ったが、肉も豆腐もずばずば切れるぜ。こんなくそみてぇな刀に、それほどの値打ちがあるもんか」
 この汚い男に三千貫の金が用意できるとは到底思えなかったが、ここで宝刀の値打ちを見せつければ、野次馬の中から欲しいという声が上がるかもしれない。
 それに、この東京の平穏を乱す男を懲らしめて、せめて最後に己の好漢ぶりを示したくもあった。
 「いいか、これはただの刀じゃない、何にも代えがたい宝刀だ。まず一つには、銅や鉄を斬っても、少しも刃こぼれしない。次に、刃に毛を吹きかけただけですっぱり斬れる。そして、人を斬っても刃に一切血が付かず、曇ることもない」
 「ほぉう、言うじゃねえか。じゃあてめえ、銅銭を斬って見せてみろよ」
 「あんたが出せば、いくらでも斬ってやる」
 「こりゃおもしれえ! よぉし刀売り、ちぃっと待ってな」
 でかい図体に似合わぬ機敏さで踵を返した牛二は、近場の香料屋に目を付け、どすどすと踏み込む。
 しばらく言い争う声が聞こえたが、何かが派手に割れる音が響くとすっかり店先は静まり返り、ほどなくして三銭銅貨を両手に抱えた牛二がにたにたとこちらへ戻ってくる。
 「そら、この銅の銭を、そのなまくらで斬ってみな。てめえが斬ることができりゃ、三千貫払って買い上げてやる」
 取り巻く野次馬たちが、息を詰めてこちらを見ているのがわかる。
 「容易いことだ。欄干の上に、銭を置け」
 二十文ほどあろうかという銭の山を欄干の上に置き、牛二が一歩下がったと同時に、
 「ふっ……!」
 気合一閃、宝刀を振り下ろした楊志の足元に、真っ二つに断ち割れた銅銭が、ばらばらと散った。
 「す、すげえや……!」
 野次馬たちから歓声があがるとともに、牛二の眉間に深い皺が寄る。
 「けっ、やかましいぞてめえら! やい刀売り、まだこのなまくらのことを、なんだか言っていたな? 毛がどうこうとか」
 「ああ、毛を吹きかければ、刀を動かさずとも真っ二つになるほどの切れ味だ」
 「そんなことがあるもんか!」
 腹立ちまぎれに己の髪をむしり取った牛二が、その毛玉を楊志に突き出す。
 「やってみろ。できなかったら、ただじゃすまねえぞ」
 「……ふん」
 息巻く牛二を鼻先で笑うと、楊志は刀を逆しまに構え、左手に乗せた小汚い毛玉を刃めがけて吹き付けた。
 「わあ、こいつぁ、本物の名刀だ!」
 「これはまたとない業物にちがいねえ!」
 短くなった毛の断片がぱらぱらと落ち、銅銭の残骸と混じって雪の上に横たわるのを、牛二が心底悔しそうに睨み付ける。
 「くっ……おい、だが、まだもうひとつ、あっただろう! 人を斬っても……」
 「刃に血が付かず曇らない。つまり、よく斬れるということだ」
 「じゃ、じゃあてめえ、最後はそれを見せてみやがれ!」
 牛二がそう叫んだとたん、色めきたっていた野次馬たちが、再び一気に凍り付く。
 「……馬鹿野郎、陛下のお膝元で、白昼堂々人殺しができるものか。犬でも連れてこい、そうすれば斬ってみせてやる」
 だが、小馬鹿にした楊志の物言いがさらに苛立ちに拍車をかけたか、牛二はまさしく虎のように白い鼻息を吐き出し、地団太を踏んだ。
 「てめえが人を斬っても血が付かねぇと言ったんだぞ、犬を斬ってどうするんだ!」
 「物のたとえというのを知らんのか。まあいい、お前、どうせ買う気がないんだろう。俺はかまわないから、もう絡んでくるな」
 銅の欠片ひとつ、毛の破片ひとつ残っていない澄み切った刃を鞘にしまおうとする楊志を、牛二が太い腕で突き飛ばし、しつこく刀に手を伸ばす。
 「なんだ、その生意気な言い草は! いいから俺に、人を斬るところを見せろと言ってるんだ!」
 「わからないやつだな、いい加減にしないと、お前こそただじゃ済まさんぞ」
 怒りに歪む牛二の顔を、笠の下からぎろりと睨めつける。己の青痣の顔が、目尻の下がった瞳が、どれほど人に恐れを抱かせるか、楊志はよく知っていた。
 「っ……てめえ、俺を殺そうってのか」
 ほんの少し、牛二がたじろぐ。
 「は? 何でそうなる。お前とは元々なんの恨みもない間柄、売り買いの話だってまだ済んでいないうちに、理由もなくお前を殺したりするものか」
 この男が多少なりとも戦い慣れている人間であれば、楊志が言葉とは裏腹に、いつでもこの男を斬れる態勢でいることは十分わかっただろう。
 だが、目の前の刀に執着する牛二には、もはやまともに物が考えられぬようだった。
 「決着ならつけてやる、俺がてめえのその刀をもらってやると言ってるんだ」
 「買うなら三千貫を払え」
 「銭はねえ!」
 「では売れない。金もないのにこれ以上俺に絡んでどうする。恥ずかしい奴だ、さっさと去れ」
 牛二のこめかみに太い青筋が走る。
 「てんめえ……その刀をよこせと言ってんだ! それとも何か、人間をすっぱり斬っても血がつかねえってのは偽りか? それがばれるのが怖くて、渡さねえんだ、え? なぁにが宝刀だ! はは、宝刀なんぞ、誰でも名乗り放題、この世に五万とあるからなあ?」
 「……なんだと?」
 それまでは、この面倒な男をひとつ殴って気絶でもさせ、この場を去ろうとしていた楊志に、牛二の何気ない言葉が突き刺さる。
 『楊家の血を引くものは、この世に五万といるらしい――』
 憎らしい男の顔とともに、屈辱的な言葉までが脳裏によみがえる。
 「貴様……もう一度言ってみろ……」
 「あ? はは、耳も悪いのか、てめえ。宝刀なんざ嘘八百、本物だというなら、俺をその刀で斬ってみやが……グウッ!」
 気が付けば、牛二の巨体が、雪煙をあげて地面に沈んでいる。
 「て、てめえ……やりやがったな!」
 「黙れ」
 しばらく茫然としていた牛二がようやく己の身に何が起きたか理解し、這い上がって殴りかかってきたのを、反対に投げ飛ばす。
 轟音とともに牛二が背中から落ちてきたのに耐え切れず、堅固な橋がいやな音を立てて揺れた。
 「……あんたら、見ただろう」
 声も出せずに成り行きを見守る野次馬たちに聞こえるよう、楊志は地を這うような声をあげた。
 「俺は路銀を作りたくて刀を売ろうとしただけだというのに、このちんぴらは、金も払わずに俺の刀を奪い取ろうとした挙句、先祖伝来の業物を侮辱し、こうして俺に殴りかかってきた」
 「はっ、殴った? 違うね、これからてめえを……殴り殺すんだよ!」
 大音声とともに男が跳ね起き、畜生のようなうめき声をあげながら突進してくる。
 男の馬鹿でかい足に踏まれるたびに橋板が抉れ、木っ端が飛び散る。
 「刀をよこせ、この嘘つき野郎……!」
 巨大な西瓜のような男の右拳が飛んでくるのを交わした楊志の目には、もはや牛二の毛むくじゃらの喉元しか見えていなかった。
 「馬鹿にするな……!」
 ――おそらく野次馬の誰一人として、楊志が何をしたのか、目に留めることはできなかったろう。
 「………あ、ひ……?」
 その間抜けな言葉が、牛二の最期の言葉となった。
喉から血を吹きこぼし仰向けに倒れた巨躯がなお震えているのを見下ろすと、楊志は宝刀を振り上げ、胸元へさらに二度、容赦なく刃を突き立てた。
 白かったはずの地面が、どんどんと鮮やかな赤に染まり、そして赤い雪は薄紅色の水となって流れていく。
 (ああ……殺してしまった)
 だが不思議と、後悔も絶望も、楊志の中にはなかった。
 いっそ、冬の夜の清涼な空のごとく、心は晴れやかだった。
 「俺は……」
 返り血ひとつ浴びていない楊志の姿を見る野次馬たちの目はひどく怯えていたが、責めるものも、叫び出すものも、逃げ出すものも、いなかった。
 「俺は、あんたたちを困らせていたちんぴらを、殺してしまった。もう、こいつは、死んだ。だが、あんたたちに迷惑をかけるつもりはない。今から開封府に出頭するから、あんたたちのうち手の空いてるものは、証人として、一緒に来てくれないか」
 ひどくすらすらと、言葉が浮かんでくる。
 今までになく、頭も心も、冴え渡っている。
 「お……俺がご一緒します!」
 「俺も!」
 何人もの野次馬たちが名乗り出てくるのに頷き返しながら、楊志は宝刀を鞘にしまう。
 その刃に一滴の血も、一片の曇りもないことに、満足しながら。



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 「ああ? なんだ、てめえ?」
 がらがらと耳障りな声とともに酒臭い息が吹きかかった、と思った刹那、楊志の腕の中から刀が消える。
 「刀売りか……おい、この刀はいくらだ」
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 「三千貫ァん?」
 渦巻く黒髪を揺らし、牛二がげらげらと肩をいからせて笑う。
 「ばぁか、こんな襤褸の刀にそんな値をつけて、誰が買うかよ! こないだ俺ァ三十文で刀を買ったが、肉も豆腐もずばずば切れるぜ。こんなくそみてぇな刀に、それほどの値打ちがあるもんか」
 この汚い男に三千貫の金が用意できるとは到底思えなかったが、ここで宝刀の値打ちを見せつければ、野次馬の中から欲しいという声が上がるかもしれない。
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 「いいか、これはただの刀じゃない、何にも代えがたい宝刀だ。まず一つには、銅や鉄を斬っても、少しも刃こぼれしない。次に、刃に毛を吹きかけただけですっぱり斬れる。そして、人を斬っても刃に一切血が付かず、曇ることもない」
 「ほぉう、言うじゃねえか。じゃあてめえ、銅銭を斬って見せてみろよ」
 「あんたが出せば、いくらでも斬ってやる」
 「こりゃおもしれえ! よぉし刀売り、ちぃっと待ってな」
 でかい図体に似合わぬ機敏さで踵を返した牛二は、近場の香料屋に目を付け、どすどすと踏み込む。
 しばらく言い争う声が聞こえたが、何かが派手に割れる音が響くとすっかり店先は静まり返り、ほどなくして三銭銅貨を両手に抱えた牛二がにたにたとこちらへ戻ってくる。
 「そら、この銅の銭を、そのなまくらで斬ってみな。てめえが斬ることができりゃ、三千貫払って買い上げてやる」
 取り巻く野次馬たちが、息を詰めてこちらを見ているのがわかる。
 「容易いことだ。欄干の上に、銭を置け」
 二十文ほどあろうかという銭の山を欄干の上に置き、牛二が一歩下がったと同時に、
 「ふっ……!」
 気合一閃、宝刀を振り下ろした楊志の足元に、真っ二つに断ち割れた銅銭が、ばらばらと散った。
 「す、すげえや……!」
 野次馬たちから歓声があがるとともに、牛二の眉間に深い皺が寄る。
 「けっ、やかましいぞてめえら! やい刀売り、まだこのなまくらのことを、なんだか言っていたな? 毛がどうこうとか」
 「ああ、毛を吹きかければ、刀を動かさずとも真っ二つになるほどの切れ味だ」
 「そんなことがあるもんか!」
 腹立ちまぎれに己の髪をむしり取った牛二が、その毛玉を楊志に突き出す。
 「やってみろ。できなかったら、ただじゃすまねえぞ」
 「……ふん」
 息巻く牛二を鼻先で笑うと、楊志は刀を逆しまに構え、左手に乗せた小汚い毛玉を刃めがけて吹き付けた。
 「わあ、こいつぁ、本物の名刀だ!」
 「これはまたとない業物にちがいねえ!」
 短くなった毛の断片がぱらぱらと落ち、銅銭の残骸と混じって雪の上に横たわるのを、牛二が心底悔しそうに睨み付ける。
 「くっ……おい、だが、まだもうひとつ、あっただろう! 人を斬っても……」
 「刃に血が付かず曇らない。つまり、よく斬れるということだ」
 「じゃ、じゃあてめえ、最後はそれを見せてみやがれ!」
 牛二がそう叫んだとたん、色めきたっていた野次馬たちが、再び一気に凍り付く。
 「……馬鹿野郎、陛下のお膝元で、白昼堂々人殺しができるものか。犬でも連れてこい、そうすれば斬ってみせてやる」
 だが、小馬鹿にした楊志の物言いがさらに苛立ちに拍車をかけたか、牛二はまさしく虎のように白い鼻息を吐き出し、地団太を踏んだ。
 「てめえが人を斬っても血が付かねぇと言ったんだぞ、犬を斬ってどうするんだ!」
 「物のたとえというのを知らんのか。まあいい、お前、どうせ買う気がないんだろう。俺はかまわないから、もう絡んでくるな」
 銅の欠片ひとつ、毛の破片ひとつ残っていない澄み切った刃を鞘にしまおうとする楊志を、牛二が太い腕で突き飛ばし、しつこく刀に手を伸ばす。
 「なんだ、その生意気な言い草は! いいから俺に、人を斬るところを見せろと言ってるんだ!」
 「わからないやつだな、いい加減にしないと、お前こそただじゃ済まさんぞ」
 怒りに歪む牛二の顔を、笠の下からぎろりと睨めつける。己の青痣の顔が、目尻の下がった瞳が、どれほど人に恐れを抱かせるか、楊志はよく知っていた。
 「っ……てめえ、俺を殺そうってのか」
 ほんの少し、牛二がたじろぐ。
 「は? 何でそうなる。お前とは元々なんの恨みもない間柄、売り買いの話だってまだ済んでいないうちに、理由もなくお前を殺したりするものか」
 この男が多少なりとも戦い慣れている人間であれば、楊志が言葉とは裏腹に、いつでもこの男を斬れる態勢でいることは十分わかっただろう。
 だが、目の前の刀に執着する牛二には、もはやまともに物が考えられぬようだった。
 「決着ならつけてやる、俺がてめえのその刀をもらってやると言ってるんだ」
 「買うなら三千貫を払え」
 「銭はねえ!」
 「では売れない。金もないのにこれ以上俺に絡んでどうする。恥ずかしい奴だ、さっさと去れ」
 牛二のこめかみに太い青筋が走る。
 「てんめえ……その刀をよこせと言ってんだ! それとも何か、人間をすっぱり斬っても血がつかねえってのは偽りか? それがばれるのが怖くて、渡さねえんだ、え? なぁにが宝刀だ! はは、宝刀なんぞ、誰でも名乗り放題、この世に五万とあるからなあ?」
 「……なんだと?」
 それまでは、この面倒な男をひとつ殴って気絶でもさせ、この場を去ろうとしていた楊志に、牛二の何気ない言葉が突き刺さる。
 『楊家の血を引くものは、この世に五万といるらしい――』
 憎らしい男の顔とともに、屈辱的な言葉までが脳裏によみがえる。
 「貴様……もう一度言ってみろ……」
 「あ? はは、耳も悪いのか、てめえ。宝刀なんざ嘘八百、本物だというなら、俺をその刀で斬ってみやが……グウッ!」
 気が付けば、牛二の巨体が、雪煙をあげて地面に沈んでいる。
 「て、てめえ……やりやがったな!」
 「黙れ」
 しばらく茫然としていた牛二がようやく己の身に何が起きたか理解し、這い上がって殴りかかってきたのを、反対に投げ飛ばす。
 轟音とともに牛二が背中から落ちてきたのに耐え切れず、堅固な橋がいやな音を立てて揺れた。
 「……あんたら、見ただろう」
 声も出せずに成り行きを見守る野次馬たちに聞こえるよう、楊志は地を這うような声をあげた。
 「俺は路銀を作りたくて刀を売ろうとしただけだというのに、このちんぴらは、金も払わずに俺の刀を奪い取ろうとした挙句、先祖伝来の業物を侮辱し、こうして俺に殴りかかってきた」
 「はっ、殴った? 違うね、これからてめえを……殴り殺すんだよ!」
 大音声とともに男が跳ね起き、畜生のようなうめき声をあげながら突進してくる。
 男の馬鹿でかい足に踏まれるたびに橋板が抉れ、木っ端が飛び散る。
 「刀をよこせ、この嘘つき野郎……!」
 巨大な西瓜のような男の右拳が飛んでくるのを交わした楊志の目には、もはや牛二の毛むくじゃらの喉元しか見えていなかった。
 「馬鹿にするな……!」
 ――おそらく野次馬の誰一人として、楊志が何をしたのか、目に留めることはできなかったろう。
 「………あ、ひ……?」
 その間抜けな言葉が、牛二の最期の言葉となった。
喉から血を吹きこぼし仰向けに倒れた巨躯がなお震えているのを見下ろすと、楊志は宝刀を振り上げ、胸元へさらに二度、容赦なく刃を突き立てた。
 白かったはずの地面が、どんどんと鮮やかな赤に染まり、そして赤い雪は薄紅色の水となって流れていく。
 (ああ……殺してしまった)
 だが不思議と、後悔も絶望も、楊志の中にはなかった。
 いっそ、冬の夜の清涼な空のごとく、心は晴れやかだった。
 「俺は……」
 返り血ひとつ浴びていない楊志の姿を見る野次馬たちの目はひどく怯えていたが、責めるものも、叫び出すものも、逃げ出すものも、いなかった。
 「俺は、あんたたちを困らせていたちんぴらを、殺してしまった。もう、こいつは、死んだ。だが、あんたたちに迷惑をかけるつもりはない。今から開封府に出頭するから、あんたたちのうち手の空いてるものは、証人として、一緒に来てくれないか」
 ひどくすらすらと、言葉が浮かんでくる。
 今までになく、頭も心も、冴え渡っている。
 「お……俺がご一緒します!」
 「俺も!」
 何人もの野次馬たちが名乗り出てくるのに頷き返しながら、楊志は宝刀を鞘にしまう。
 その刃に一滴の血も、一片の曇りもないことに、満足しながら。