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【4】

ー/ー



「だいたいさぁ、美保ちゃんが蒼良に僕を『伯父さん』て呼ばせないから」
 早速約束した次の土曜日。沙織と洋介は、美保の自宅マンションを訪れている。
 今日も真斗は実家に預けて来た。まだ三歳の息子には、とりあえず親が顔合わせを済ませた後のほうがいいだろうと判断したのだ。
「だって……。『伯父さん』なんて厚かましいじゃない」
「厚かましいって、むしろその感覚がわからないんだけど。『ようちゃん』の方がよっぽど変じゃないか?」
 呆れたような洋介に、美保が弁解し始めた。
「あたしの母親のせいで洋介さんの両親は離婚したのよ。人の幸せ壊して平気でいられる無神経な女との関わりなんて、洋介さんには何もいいことないでしょ」
「……そうだね。正直、君のお母さんにはいい感情はないよ。ついでに親父にも。でも子どもは別だ。美保ちゃんに責任なんてあるわけない」
「洋介さ──」
 何か言い掛けた美保に洋介が言葉を被せる。
「だから、そこは『兄さん』だろ? こういう言い方は何だけど、名前で呼ばれる方がよっぽど誤解招きそうで困るんだよね」
「あ! そうよね。ごめんなさい。でも」
 それでもまだ言い募ろうとする美保と、おそらくは説得しようと待ち構える洋介。
「蒼良くん、私は伯母さんよ」
 母親と「たまに会う、知ってるおじさん」との応酬を不安そうな顔で見守っている少年に、沙織は笑顔を向けた。
「そう! 僕は伯父さん。よそのおじさんじゃなくて、ママのお兄さんなんだ」
 沙織の自己紹介に、横から夫も続く。
「伯母さんだけど、沙織ちゃんでも──」
「ママより年上で子持ちなのに『ちゃん』はないって! 沙織伯母ちゃんだよ。僕は『ようちゃん』じゃなくて洋介伯父ちゃんだ」
 妻を笑いながら制して、洋介が突っ込んだ。彼の言う通りなので抵抗する気はそもそもない。
「従弟もいるの。真斗って名前で、三歳だから蒼良くんの方がお兄ちゃんね」
「おにいちゃん、……まなとくん、ぼくのおとうと?」
「いや、従弟だって。──蒼良には今まで『従兄弟』っていなかったからわからないか」
 蒼良の弾んだ声に、洋介が訂正を入れながらも困惑している。
「今度は真斗も一緒がいいわね。一人っ子で他に年の近い親戚もいないから、蒼良くんに会えたらきっと喜ぶわ」
 沙織が話すのにも、蒼良は今一つ理解が追い付かないようできょとんとしている。無理もない。
「うん、そうしよう。美保ちゃん、いつならいい? うちは週末なら──」
「ママ、どうしたの? どっかいたい?」
「ちが……」
 洋介の問い掛けに唐突に顔を覆って泣き出した美保に、真っ先に蒼良が反応した。
 心配そうな息子にも、彼女はなかなか声が出ない様子だ。
 新しい親族。
 同じ『秘密』でも最初の絶望とはまったく違う意味を持って、沙織と真斗の人生に加わった二人。
 息子に早く知らせたい。「欲しがってた『お兄ちゃん』じゃないけど、違うお兄ちゃんができたのよ」と──。
 ああ、そうだ。

「ねえ、写真! 写真撮っていいですか? 真斗に見せなきゃ!」
「ええ、もちろんです。……こんな顔ですけど」
 バッグからスマートフォンを取り出して身を乗り出した沙織に、美保は涙を拭いながら遠慮がちに頷いた。
「セルフで撮れる?」
 夫に訊かれて悠然と首を左右に振る。
「今は美保さんと蒼良くんだけ。みんな(・・・)で撮るのは、真斗も揃ってからじゃないと!」
 沙織の台詞に、目を潤ませたままの義妹(いもうと)は嬉しそうな笑みを浮かべた。

 ~END~




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「だいたいさぁ、美保ちゃんが蒼良に僕を『伯父さん』て呼ばせないから」
 早速約束した次の土曜日。沙織と洋介は、美保の自宅マンションを訪れている。
 今日も真斗は実家に預けて来た。まだ三歳の息子には、とりあえず親が顔合わせを済ませた後のほうがいいだろうと判断したのだ。
「だって……。『伯父さん』なんて厚かましいじゃない」
「厚かましいって、むしろその感覚がわからないんだけど。『ようちゃん』の方がよっぽど変じゃないか?」
 呆れたような洋介に、美保が弁解し始めた。
「あたしの母親のせいで洋介さんの両親は離婚したのよ。人の幸せ壊して平気でいられる無神経な女との関わりなんて、洋介さんには何もいいことないでしょ」
「……そうだね。正直、君のお母さんにはいい感情はないよ。ついでに親父にも。でも子どもは別だ。美保ちゃんに責任なんてあるわけない」
「洋介さ──」
 何か言い掛けた美保に洋介が言葉を被せる。
「だから、そこは『兄さん』だろ? こういう言い方は何だけど、名前で呼ばれる方がよっぽど誤解招きそうで困るんだよね」
「あ! そうよね。ごめんなさい。でも」
 それでもまだ言い募ろうとする美保と、おそらくは説得しようと待ち構える洋介。
「蒼良くん、私は伯母さんよ」
 母親と「たまに会う、知ってるおじさん」との応酬を不安そうな顔で見守っている少年に、沙織は笑顔を向けた。
「そう! 僕は伯父さん。よそのおじさんじゃなくて、ママのお兄さんなんだ」
 沙織の自己紹介に、横から夫も続く。
「伯母さんだけど、沙織ちゃんでも──」
「ママより年上で子持ちなのに『ちゃん』はないって! 沙織伯母ちゃんだよ。僕は『ようちゃん』じゃなくて洋介伯父ちゃんだ」
 妻を笑いながら制して、洋介が突っ込んだ。彼の言う通りなので抵抗する気はそもそもない。
「従弟もいるの。真斗って名前で、三歳だから蒼良くんの方がお兄ちゃんね」
「おにいちゃん、……まなとくん、ぼくのおとうと?」
「いや、従弟だって。──蒼良には今まで『従兄弟』っていなかったからわからないか」
 蒼良の弾んだ声に、洋介が訂正を入れながらも困惑している。
「今度は真斗も一緒がいいわね。一人っ子で他に年の近い親戚もいないから、蒼良くんに会えたらきっと喜ぶわ」
 沙織が話すのにも、蒼良は今一つ理解が追い付かないようできょとんとしている。無理もない。
「うん、そうしよう。美保ちゃん、いつならいい? うちは週末なら──」
「ママ、どうしたの? どっかいたい?」
「ちが……」
 洋介の問い掛けに唐突に顔を覆って泣き出した美保に、真っ先に蒼良が反応した。
 心配そうな息子にも、彼女はなかなか声が出ない様子だ。
 新しい親族。
 同じ『秘密』でも最初の絶望とはまったく違う意味を持って、沙織と真斗の人生に加わった二人。
 息子に早く知らせたい。「欲しがってた『お兄ちゃん』じゃないけど、違うお兄ちゃんができたのよ」と──。
 ああ、そうだ。
「ねえ、写真! 写真撮っていいですか? 真斗に見せなきゃ!」
「ええ、もちろんです。……こんな顔ですけど」
 バッグからスマートフォンを取り出して身を乗り出した沙織に、美保は涙を拭いながら遠慮がちに頷いた。
「セルフで撮れる?」
 夫に訊かれて悠然と首を左右に振る。
「今は美保さんと蒼良くんだけ。|みんな《・・・》で撮るのは、真斗も揃ってからじゃないと!」
 沙織の台詞に、目を潤ませたままの|義妹《いもうと》は嬉しそうな笑みを浮かべた。
 ~END~


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