【3】
ー/ー
「舞! Happy Birthday!」
ぱぁん。
約束の時間を迎え、カメラに向かって小さなクラッカーを鳴らして恋人の誕生日を祝う。
ディスプレイに映る舞は、予想外だったのだろう俺の行動に目を丸くしていた。カットされた赤い果実がきれいに飾られてるケーキを載せた皿を両手に持ってるのは、俺に見せようとしていたんだろうな。
固まったように反応しない彼女。少しずつ正気が戻って来た俺は、無性に恥ずかしくて堪らなくなった。
いい年して何やってるんだよ。ほら、舞だって呆れて──。
「……わたし、クラッカーって火薬のにおいが苦手なんです。だからいい思い出が全然ないんですけど、──においがなければこんなに嬉しいものなんですね」
普段あまり表情を動かさない彼女の、花が咲くような綺麗な笑顔。
「あー。そう、なんだ」
安心して一気に力が抜けた俺に、彼女はいつになく興奮した様子で話し続けた。
「はい、ありがとうございます。今度の彰人さんのお誕生日も、リモートでお祝いしましょうね。あ、知ってます? 今って火薬のないクラッカーがあるらしいんですよ! わたし、探して──」
「いや、それはいいから! ……あ、ケーキ! それ、苺のタルト? 美味そうだな。俺はコンビニのショートケーキだけど」
今年三十四になる男の誕生日にクラッカーはないって……。
話を逸らそうと、ありふれた白いクリームに苺一粒のケーキをカメラに向ける。
「でもこれ、いいアイデアだよな。誕生日気分が盛り上がる」
「じゃあ、彰人さんのときもケーキですね」
久し振りに見た気がする、何の屈託もない舞の嬉しそうな様子に心が満たされる気がした。
そうだ。どれだけ遠距離が二人を隔てても、直接触れ合うことはできなくても。
ネット回線を通してだって、俺たちの心はちゃんと繋がっている。
~END~
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