【2】
ー/ー
『彰人さん、こんばんは』
少し不鮮明な映像の中で、舞が口を開く。
双方の職場でリモートワークが取り入れられるようになった。
俺は完全に在宅勤務にはなっていないが、オンライン会議のために機材を揃えたのだ。
彼女の方は会社からの補助でほぼ賄えたらしい。
舞との日々の連絡もカメラを使って行えるようになったのは、副産物とはいえラッキーだった。
実際、リモートとはいえ一応でも顔を見て話せることが、こんなに安心感を生むとは思わなかった。
仕事ではそうでもないんだけどな。
『WEBカメラ、買いに行ったら品薄で。すぐに要るから仕方なくお店にあるのを買ったんですけど、あまり性能よくないみたいです』
初めてカメラを通して会話した時に、彼女が零していた。
向こうで彼女の目に、俺の姿はどう映ってるんだろう。──少しでも格好よく見えてるといいんだけど。
半年ほど前、俺は三十三歳にして転職した。
縁あってこの仙台の地に職を得て、東京からやって来たんだ。同じ職場の後輩だった恋人と離れて。
もうすぐまた、彼女の誕生日がやって来る。
過去二回は平日で、俺のひとり暮らしの部屋で二人でただゆっくりと過ごした。それが舞の望みだったから。
いくら事情があるとはいえ、誕生日の恋人の小さな願いさえ俺は叶えてやれない。
もちろん、埋め合わせにプレゼントを張り込むことくらいはできる。
……問題は、彼女がそれを喜ぶタイプではないってことだ。
「舞、今年は一緒に過ごせなくてゴメン」
誕生日を覚えていることだけは伝えたくて詫びた俺に、彼女は落胆も見せずに口を開く。
『お祝いして欲しいです』
「お祝い?」
『ええ。今みたいに、リモートで誕生会してください。ケーキ買って来ますから、彰人さんも好きなの買って来て。二人でカメラに向かってそれ食べながら、どうですか?』
「……俺も、ケーキ食べんの? 自分で買って来たヤツ?」
『別になくてもいいんですけど、せっかくだから。小道具ですよ』
正直、彼女らしくない夢見がちな提案だな、と思っていたところにいきなり「小道具」と来た。
でも、舞はこれでいい。こういう現実的なところがいいんだ、きっと。
「お前がそれでいいんなら。バースディケーキなら大きい丸いのだろうけど、一人じゃ食い切れないよな。ショートケーキにしとこう」
冗談めかした俺の台詞に、彼女は真顔で返して来た。
『当たり前じゃないですか。そもそも二人で居る時だって、ホールケーキなんて食べたことないでしょう』
「……そうだな」
この子は別に一切冗談が通じないとかそういうわけじゃない。たぶん、俺がボケるタイミングが悪いんだろう。
……あるいは単に、滑ってるだけなんだろうか。
「なぁ、舞。自分で考えろって言われそうだけど。プレゼント、何か欲しいものある? お前の本当に欲しいもの贈りたいんだ」
今日まで考えに考えて、結局『これ』というものを思いつけなかった俺は、勇気を出して問い掛けてみた。
本来なら彼女は自分から何か欲しいなんて言わない。たとえ訊かれたとしても。
でも、今なら。俺の想いを汲んでくれたなら。
『ありません』
即答する彼女に、少しだけ落胆する。相変わらずだな。
──だけど、残念に思う気持ちは一瞬で消えた。
『今は何も要りません。次に会えた時に、一緒に何か選んでください。……彰人さんが、わたしに合うと思うものを』
「わかった。舞、──早く会いたい」
思わず溢れた弱音、で本音。
『わたしも会いたいです』
実際には遠く離れた場所にいる恋人の言葉に、今更ながらに二人の距離を呪った。
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『彰人さん、こんばんは』
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双方の職場でリモートワークが取り入れられるようになった。
俺は完全に在宅勤務にはなっていないが、オンライン会議のために機材を揃えたのだ。
彼女の方は会社からの補助でほぼ賄えたらしい。
舞との日々の連絡もカメラを使って行えるようになったのは、副産物とはいえラッキーだった。
実際、リモートとはいえ一応でも顔を見て話せることが、こんなに安心感を生むとは思わなかった。
仕事ではそうでもないんだけどな。
『WEBカメラ、買いに行ったら品薄で。すぐに要るから仕方なくお店にあるのを買ったんですけど、あまり性能よくないみたいです』
初めてカメラを通して会話した時に、彼女が零していた。
向こうで彼女の目に、俺の姿はどう映ってるんだろう。──少しでも格好よく見えてるといいんだけど。
半年ほど前、俺は三十三歳にして転職した。
縁あってこの仙台の地に職を得て、東京からやって来たんだ。同じ職場の後輩だった恋人と離れて。
もうすぐまた、彼女の誕生日がやって来る。
過去二回は平日で、俺のひとり暮らしの部屋で二人でただゆっくりと過ごした。それが舞の望みだったから。
いくら事情があるとはいえ、誕生日の恋人の小さな願いさえ俺は叶えてやれない。
もちろん、埋め合わせにプレゼントを張り込むことくらいはできる。
……問題は、彼女がそれを喜ぶタイプではないってことだ。
「舞、今年は一緒に過ごせなくてゴメン」
誕生日を覚えていることだけは伝えたくて詫びた俺に、彼女は落胆も見せずに口を開く。
『お祝いして欲しいです』
「お祝い?」
『ええ。今みたいに、リモートで誕生会してください。ケーキ買って来ますから、彰人さんも好きなの買って来て。二人でカメラに向かってそれ食べながら、どうですか?』
「……俺も、ケーキ食べんの? 自分で買って来たヤツ?」
『別になくてもいいんですけど、せっかくだから。小道具ですよ』
正直、彼女らしくない夢見がちな提案だな、と思っていたところにいきなり「小道具」と来た。
でも、舞はこれでいい。こういう現実的なところがいいんだ、きっと。
「お前がそれでいいんなら。バースディケーキなら大きい丸いのだろうけど、一人じゃ食い切れないよな。ショートケーキにしとこう」
冗談めかした俺の台詞に、彼女は真顔で返して来た。
『当たり前じゃないですか。そもそも二人で居る時だって、ホールケーキなんて食べたことないでしょう』
「……そうだな」
この子は別に一切冗談が通じないとかそういうわけじゃない。たぶん、俺がボケるタイミングが悪いんだろう。
……あるいは単に、滑ってるだけなんだろうか。
「なぁ、舞。自分で考えろって言われそうだけど。プレゼント、何か欲しいものある? お前の本当に欲しいもの贈りたいんだ」
今日まで考えに考えて、結局『これ』というものを思いつけなかった俺は、勇気を出して問い掛けてみた。
本来なら彼女は自分から何か欲しいなんて言わない。たとえ訊かれたとしても。
でも、今なら。俺の想いを汲んでくれたなら。
『ありません』
即答する彼女に、少しだけ落胆する。相変わらずだな。
──だけど、残念に思う気持ちは一瞬で消えた。
『今は何も要りません。次に会えた時に、一緒に何か選んでください。……彰人さんが、わたしに合うと思うものを』
「わかった。舞、──早く会いたい」
思わず溢れた弱音、で本音。
『わたしも会いたいです』
実際には遠く離れた場所にいる恋人の言葉に、今更ながらに二人の距離を呪った。