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初恋照らしマッチ

ー/ー



「なぁところでお前ら、初恋の相手っているか?」

 修学旅行の夜の部屋、B班の孝はいきなりそんな台詞を切り出した。

「なんだよ急に? お前女子かよ」

 B班の他の3人の仲間たちが孝をからかうように笑う。

「いやだってさ、俺、今日偶然露店のばあさんから買ったんだよ。『初恋照らしマッチ』。そのマッチを目の前でかざしたら、そいつの初恋相手の姿が浮かびあがるって」

「なんだそれ? 少女マンガの見すぎなんじゃねぇの?」

「んなホラ話吹くって、お前恋してる相手でもいんのか?」

「ち、ちげーよ! たまたま面白そうだから買っただけだし」

 孝は顔を真っ赤にして否定する。

「と、とにかくさ、せっかくだしみんなもやってみようぜ。お前らにも初恋相手ぐらいいるだろ?」

「ええ~、どうせ詐欺だろ? そんな魔法みたいなもんあるわけねぇだろ」

「やってみなきゃわかんないだろ!? つべこべ言わずに、まずお前から」

「めんどくせぇ奴だなぁ……」

 孝は仲間の一人の友行にマッチを渡す。
友行はだるそうな顔でマッチを擦ると、ボワッと火がついた。

「なんだよ。やっぱ何も起こらねぇじゃねぇか」

「いやよく見ろ。何か火の形が変わりはじめたぞ」

 B班の4人が炎を見つめていると、その光はどんどん大きくなっていく。
そして光の中に、ウサギの耳を生やしたアニメキャラクターが浮かび上がった。

「うわっ、これペコちゃんじゃねぇか! 女児アニメに出てくる!」

 仲間の一人の海人が驚いて声をあげる。

「うわぁマジかよ……そのマッチ、マジで魔法のアイテムだったのか。てか女児アニメのキャラが初恋とかキモくね?」

「う、うるせーな! いいだろ人が何を好きになろうが!」

 友行は大声で仲間たちに言い返した。

「だってペコちゃん可愛いだろ! いっつも元気に飛び回ってて。友達想いだし、頑張り屋だし。変身衣装だってあれデザインするのに1ヶ月は議論したって言われてる傑作なんだぞ! 映画の動員数だって今年でトップ3に入ってるし。お前らペコちゃんのすごさ全然わかってねぇよ!」

「うわぁ……キモオタ丸出しの早口だな」

「うるせーよ! んなこと言うならお前もマッチつけてみろよ!」

 友行は海人の腕に強引にマッチの箱を押しつける。

「ええ~、俺ぇ? 別に恋してる相手とかいねぇんだけどぉ?」

 海人はぼやきながら、マッチの火をつけて目の前にかざす。
すると火の光がどんどん強くなり、中年の女性の姿がボワンと浮かんだ。

「おい、これお前の母ちゃんじゃねぇか! 母ちゃんに惚れてるとかお前のほうがきめぇよ!」

 友行はここぞとばかりに反撃に出る。
海人は顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。

「が、ガキの頃の話だよ! 俺、幼稚園ぐらいの頃、一人で寝るのが怖くてママと一緒に寝てもらってたんだよ。そしたらなんか、落ち着いてきて、心臓がなんかドキドキしてきて」

「うわぁ……生粋のマザコンかよぉ。話が生々しくてマジで引くわぁ」

 友行は汚らわしいものでも見たかのように、大げさに眉をひそめる。

「女児アニメ好きのお前に言われたくねぇよ! ほら、俺のことはもういいから、大樹! 次はお前やれよ!」

 すると大樹はビクッと肩を震わせた。
そういえば、と孝は気づく。『初恋照らしマッチ』の話をしてから、大樹は一言も会話に参加していない。

「本当に、やるのか?」

「ああそうだよ! 俺と友行だけやるなんて不公平だろ! お前もやれ!」

「……わかったよ」

 大樹はどこか思い悩む表情を浮かべながら、受け取ったマッチの火をつける。
すると火の光はどんどん強くなり、そこには孝の姿が浮かび上がった。

「……えっ?」

 思わず孝は、片眉をひくつかせて声を失ってしまう。
しかし孝を見る大樹の目は熱っぽく、どこかキラキラと輝いていた。

「孝……実は俺、ずっと前からお前のことが好きだったんだ」

 決して冗談ではない真剣な眼差しを大樹は孝にぶつける。

「好きだ! 孝、俺と付き合ってくれ!」

「「「ええぇっ!?」」」

 大樹の他の三人は、驚きの声を上げて絶句する。
まさか、世の中に本当にホモがいたとは……。
そんなことより、孝はいきなりシリアスな窮地に立たされる。

「いや、だって……。俺はそういう趣味ないし」

「今どき恋愛に性別なんて関係ないだろ? 一度付き合えば、孝の考えも変わるはずだ」

「そ、そんなこと言われてもなぁ……」

 本気の目を向ける大樹に孝はほとほと困り果ててしまった。
こんなにマジで迫られたら、からかう空気にもなれない。

「だったら、孝は今好きな人はいるか? もしいるなら、俺も潔く諦めるよ」

 大樹は少し譲歩する姿勢を見せ、乗りだした体を後ろに下げる。
追い詰められた孝は、「もうこうなったら……」という気持ちで渋々と頷く。

「……わかったよ。じゃあ言うよ。俺、好きな人いるから」

「そ、そうなのか孝……さっきは『ちげーよ』って言ってなかったか?」

「あれは反射的に言っちまっただけだよ。んじゃあ、こっちにマッチ渡してくれ」

 半ばショックを受けている大樹から初恋照らしマッチを受け取り、孝は火をつける。
すると火の光がどんどん大きくなり、そして一人の老婆の姿が浮かび上がった。

「「「誰だこのばあさん?」」」

 その姿を見て、三人は一斉にぽかんと口を開ける。
孝は頬をかきながら、そっぽを向いて答えた。

「今日露店でマッチを売ってたばあさんだよ。俺、熟女専なんだ」


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「なぁところでお前ら、初恋の相手っているか?」
 修学旅行の夜の部屋、B班の孝はいきなりそんな台詞を切り出した。
「なんだよ急に? お前女子かよ」
 B班の他の3人の仲間たちが孝をからかうように笑う。
「いやだってさ、俺、今日偶然露店のばあさんから買ったんだよ。『初恋照らしマッチ』。そのマッチを目の前でかざしたら、そいつの初恋相手の姿が浮かびあがるって」
「なんだそれ? 少女マンガの見すぎなんじゃねぇの?」
「んなホラ話吹くって、お前恋してる相手でもいんのか?」
「ち、ちげーよ! たまたま面白そうだから買っただけだし」
 孝は顔を真っ赤にして否定する。
「と、とにかくさ、せっかくだしみんなもやってみようぜ。お前らにも初恋相手ぐらいいるだろ?」
「ええ~、どうせ詐欺だろ? そんな魔法みたいなもんあるわけねぇだろ」
「やってみなきゃわかんないだろ!? つべこべ言わずに、まずお前から」
「めんどくせぇ奴だなぁ……」
 孝は仲間の一人の友行にマッチを渡す。
友行はだるそうな顔でマッチを擦ると、ボワッと火がついた。
「なんだよ。やっぱ何も起こらねぇじゃねぇか」
「いやよく見ろ。何か火の形が変わりはじめたぞ」
 B班の4人が炎を見つめていると、その光はどんどん大きくなっていく。
そして光の中に、ウサギの耳を生やしたアニメキャラクターが浮かび上がった。
「うわっ、これペコちゃんじゃねぇか! 女児アニメに出てくる!」
 仲間の一人の海人が驚いて声をあげる。
「うわぁマジかよ……そのマッチ、マジで魔法のアイテムだったのか。てか女児アニメのキャラが初恋とかキモくね?」
「う、うるせーな! いいだろ人が何を好きになろうが!」
 友行は大声で仲間たちに言い返した。
「だってペコちゃん可愛いだろ! いっつも元気に飛び回ってて。友達想いだし、頑張り屋だし。変身衣装だってあれデザインするのに1ヶ月は議論したって言われてる傑作なんだぞ! 映画の動員数だって今年でトップ3に入ってるし。お前らペコちゃんのすごさ全然わかってねぇよ!」
「うわぁ……キモオタ丸出しの早口だな」
「うるせーよ! んなこと言うならお前もマッチつけてみろよ!」
 友行は海人の腕に強引にマッチの箱を押しつける。
「ええ~、俺ぇ? 別に恋してる相手とかいねぇんだけどぉ?」
 海人はぼやきながら、マッチの火をつけて目の前にかざす。
すると火の光がどんどん強くなり、中年の女性の姿がボワンと浮かんだ。
「おい、これお前の母ちゃんじゃねぇか! 母ちゃんに惚れてるとかお前のほうがきめぇよ!」
 友行はここぞとばかりに反撃に出る。
海人は顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
「が、ガキの頃の話だよ! 俺、幼稚園ぐらいの頃、一人で寝るのが怖くてママと一緒に寝てもらってたんだよ。そしたらなんか、落ち着いてきて、心臓がなんかドキドキしてきて」
「うわぁ……生粋のマザコンかよぉ。話が生々しくてマジで引くわぁ」
 友行は汚らわしいものでも見たかのように、大げさに眉をひそめる。
「女児アニメ好きのお前に言われたくねぇよ! ほら、俺のことはもういいから、大樹! 次はお前やれよ!」
 すると大樹はビクッと肩を震わせた。
そういえば、と孝は気づく。『初恋照らしマッチ』の話をしてから、大樹は一言も会話に参加していない。
「本当に、やるのか?」
「ああそうだよ! 俺と友行だけやるなんて不公平だろ! お前もやれ!」
「……わかったよ」
 大樹はどこか思い悩む表情を浮かべながら、受け取ったマッチの火をつける。
すると火の光はどんどん強くなり、そこには孝の姿が浮かび上がった。
「……えっ?」
 思わず孝は、片眉をひくつかせて声を失ってしまう。
しかし孝を見る大樹の目は熱っぽく、どこかキラキラと輝いていた。
「孝……実は俺、ずっと前からお前のことが好きだったんだ」
 決して冗談ではない真剣な眼差しを大樹は孝にぶつける。
「好きだ! 孝、俺と付き合ってくれ!」
「「「ええぇっ!?」」」
 大樹の他の三人は、驚きの声を上げて絶句する。
まさか、世の中に本当にホモがいたとは……。
そんなことより、孝はいきなりシリアスな窮地に立たされる。
「いや、だって……。俺はそういう趣味ないし」
「今どき恋愛に性別なんて関係ないだろ? 一度付き合えば、孝の考えも変わるはずだ」
「そ、そんなこと言われてもなぁ……」
 本気の目を向ける大樹に孝はほとほと困り果ててしまった。
こんなにマジで迫られたら、からかう空気にもなれない。
「だったら、孝は今好きな人はいるか? もしいるなら、俺も潔く諦めるよ」
 大樹は少し譲歩する姿勢を見せ、乗りだした体を後ろに下げる。
追い詰められた孝は、「もうこうなったら……」という気持ちで渋々と頷く。
「……わかったよ。じゃあ言うよ。俺、好きな人いるから」
「そ、そうなのか孝……さっきは『ちげーよ』って言ってなかったか?」
「あれは反射的に言っちまっただけだよ。んじゃあ、こっちにマッチ渡してくれ」
 半ばショックを受けている大樹から初恋照らしマッチを受け取り、孝は火をつける。
すると火の光がどんどん大きくなり、そして一人の老婆の姿が浮かび上がった。
「「「誰だこのばあさん?」」」
 その姿を見て、三人は一斉にぽかんと口を開ける。
孝は頬をかきながら、そっぽを向いて答えた。
「今日露店でマッチを売ってたばあさんだよ。俺、熟女専なんだ」