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【閑話休題】閉じられた場所にて

ー/ー



 薄暗い石造りの部屋。窓はひとつも存在せず、石壁に取り付けられたランプが仄かな光で室内を照らす。
 扉の向こうからは強い風が流れる音が響き、ともすれば獣の唸り声のような音を立てている。
 パチパチと音を立てて爆ぜる暖炉の薪。その炎のゆらめきに照らされる人影がひとつ。肩や首周りに毛足の長い獣の毛皮を使った外套を羽織っているが、合わせがぴったりと閉じられているために外套の下の服装までは伺い知れない。ただひとつ、顕わになっている濡羽色の長い髪が外套にいくつもの線を描いていた。
 漆黒の瞳が眺めているのは、ひとつの赤黒い魔石。しかしそれはもう既に真っ二つに割れており、中心から淀んだ黒い靄を微かに漂わせている。


「……とんでもないものを隠していたのね、アルドゥイン王国」


 暖炉の炎に照らされて、形の良い薄い唇に引かれた真っ赤な口紅が妖しく照らされる。


「傲慢な国に傲慢な王……いくら魔女が相手とはいえ使えない手駒ばっかりでうんざりしていたけれど……」


 それまで不機嫌を隠そうともしていなかった声色を発していた形の良い唇が、それまでとは一変して口端を吊り上げて狂気的な笑みを浮かべる。


「ふ……ふふふ……うふふ……!なんて素敵なの……!」


 両手を頬に添えて、恍惚とした表情を浮かべる。頬は上気し、漆黒の瞳は歓喜に歪む。
 まるで、初恋の少女が意中の殿方に好意的な言葉を投げかけられたときのように。それほどまでに抑えきれない喜びが女の全身を支配した。


「素敵、素敵、素敵……!本当だった……!本当にいた……!」


 真っ二つに割れた魔石の側に置かれていた、薄汚れてぼろぼろの薄い本を手に取る。両腕で大切に胸元に抱え込み、ダンスを踊るようにくるくるとステップを踏む。


「何が違うのかしら?どんなマナを持っているのかしら?」


 熱に浮かされたように呟く。腕の中の本にうっとりとした視線を向け、表紙に頬擦りをする。


「ああ……会いたいわ……いえ、欲しいわ。全部、全部……頭の天辺から爪先まで、髪の毛の一筋に至るまで全部……!」


 狂気的な笑みを浮かべたまま、女は虚空へと視線を向ける。


「すぐに迎えに行く準備をしないとね……。待っていてね……イヴリン・オルブライト……」


 熱に浮かされたような声が、石造りの部屋に静かに響いた。


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 扉の向こうからは強い風が流れる音が響き、ともすれば獣の唸り声のような音を立てている。
 パチパチと音を立てて爆ぜる暖炉の薪。その炎のゆらめきに照らされる人影がひとつ。肩や首周りに毛足の長い獣の毛皮を使った外套を羽織っているが、合わせがぴったりと閉じられているために外套の下の服装までは伺い知れない。ただひとつ、顕わになっている濡羽色の長い髪が外套にいくつもの線を描いていた。
 漆黒の瞳が眺めているのは、ひとつの赤黒い魔石。しかしそれはもう既に真っ二つに割れており、中心から淀んだ黒い靄を微かに漂わせている。
「……とんでもないものを隠していたのね、アルドゥイン王国」
 暖炉の炎に照らされて、形の良い薄い唇に引かれた真っ赤な口紅が妖しく照らされる。
「傲慢な国に傲慢な王……いくら魔女が相手とはいえ使えない手駒ばっかりでうんざりしていたけれど……」
 それまで不機嫌を隠そうともしていなかった声色を発していた形の良い唇が、それまでとは一変して口端を吊り上げて狂気的な笑みを浮かべる。
「ふ……ふふふ……うふふ……!なんて素敵なの……!」
 両手を頬に添えて、恍惚とした表情を浮かべる。頬は上気し、漆黒の瞳は歓喜に歪む。
 まるで、初恋の少女が意中の殿方に好意的な言葉を投げかけられたときのように。それほどまでに抑えきれない喜びが女の全身を支配した。
「素敵、素敵、素敵……!本当だった……!本当にいた……!」
 真っ二つに割れた魔石の側に置かれていた、薄汚れてぼろぼろの薄い本を手に取る。両腕で大切に胸元に抱え込み、ダンスを踊るようにくるくるとステップを踏む。
「何が違うのかしら?どんなマナを持っているのかしら?」
 熱に浮かされたように呟く。腕の中の本にうっとりとした視線を向け、表紙に頬擦りをする。
「ああ……会いたいわ……いえ、欲しいわ。全部、全部……頭の天辺から爪先まで、髪の毛の一筋に至るまで全部……!」
 狂気的な笑みを浮かべたまま、女は虚空へと視線を向ける。
「すぐに迎えに行く準備をしないとね……。待っていてね……イヴリン・オルブライト……」
 熱に浮かされたような声が、石造りの部屋に静かに響いた。