預かり物

ー/ー




 「斉藤クン、いったそ〜♡ ボロボロじゃないですかぁ! アハハ! 妙なプライドで砂にはなれなかったんですねえ♡」
 
 満足に言い返すことすら出来ずに痛みに息を漏らしているだけの僕の様子を見て、レオンは心底満足そうだった。目をキラキラさせて僕のノートを指さす。

「あ! レオンちゃんがあげたスーベニア、上手に使ってくれてるみたいですね☆」

 ノートにはライの戦闘の様子がどんどん浮かび上がっている。ライが自主的に行動した結果は書かずともノートに浮かび上がってくるようで、羽根ペンは手持ち無沙汰そうにふわふわと漂っている。

「斉藤クンのスーベニア、ホント面白いですねぇ……レオンちゃん羨ましいです♡」

 レオンは興味深そうに目を細めた。一瞬、獲物を狙うような目つきになった気がした……が、またすぐに胡散臭い笑顔に戻る。

「あ、そうそう。わる〜い魔法使いから斉藤クンを助けに来たんでした☆」

 燕尾服の懐をごそごそと探って、レオンは親指くらいのサイズの何かを取り出した。

「これ、三島サンからの預かり物です♡」

 心臓がドクンと跳ねる。
 ピンクの……花柄の、絆創膏だった。
 僕が、あの日、妙なプライドで受け取れなかった……三島さんが差し出してくれた、絆創膏。
 でも今、どうして……? なんでこんな所に?

「今の斉藤クンにとっても必要なもの♡ レオンちゃん優しいので貼ってあげまーす☆ 三島サンじゃなくてごめんなさーい! アハハ!」

 レオンは絆創膏の裏の白いフィルムを剥がすと、僕の抉れた身体に貼り付けた。あの日の……制汗剤なのかシャンプーなのか分からない甘酸っぱい匂いが鼻を過ぎった気がした。
 暖かいものが駆け巡って、身体の形と感覚を取り戻していく。血の匂いがしなくなった。たぶん鼻が戻った。ズタズタになっていた胴の傷が塞がった。ずっと浅かった呼吸がうんと楽になった。酸素が巡る。斬られていた脚が、腕が、繋がっていく。手に体温が戻って、指の感覚が戻ってくる。

 ――斉藤くん――

 三島さん? 三島さんの声が聞こえた気がする。僕はとっさに辺りを見渡した。三島さんの絵画は変わらず穏やかな笑みを浮かべている。

「どうです? 三島サンのスーベニア♡ 素晴らしいですねぇ! アハハアハハ! 効果バツグン! 馴染んでますねぇ!」
「これが、三島さんの、スーベニア……?」

 絆創膏のスーベニア。カッコつけてたくせに雷にビビってた僕なんかにも……そっと絆創膏を差し出してくれた、三島さんにピッタリだと思った。レオンが胴体あたりに貼ったはずのピンク色の花柄の絆創膏は、あの日切った左手の小指に巻きついていた。僕は、右手でそれを何度もなぞって、感覚を確かめた。三島さん、ありがとう。ごめん。僕はうずくまってしばらくぼろぼろと泣いた。絶対に、絶対に助けに行くから。三島さんの絵画は何も言わずに微笑んで僕を見つめていた。

 しばらく黙って興味深そうに僕を見下ろしていたレオンに、三島さんの声が聞こえたことを言ってみたら、「え〜大丈夫ですかぁ? 疲労で頭おかしくなっちゃったんじゃないですかぁ?☆」と一蹴された。

「ちなみに、今使った絆創膏と合わせて、あと2枚♡ これら全て! なんと! 差し上げます☆」

 三島さんの……黄色と青、2枚の花柄の絆創膏を、僕はレオンから受け取った。三島さんは、どんな気持ちで僕にこれを託してくれたんだろうか。
 それに現状、回復リソースはライが取りに行ってくれている霊薬くらいしか思い当たらないし、またさっきの敵みたいなのと戦うかもしれない。三島さんを助けるためにも、僕は無くさないようにジャージのポケットに入れた。

 「というか〜レオンちゃんにお礼のひとつもないんですね〜悲しいですぅ」

 レオンは手で涙の形を作って、両目の近くで上下させた。あの日の絆創膏を手渡されたこと、突然身体が全快したこと、三島さんの声が聞こえたことで……情報に圧されて、感謝するどころじゃなかった。すみません、ありがとうございました、と僕は頭を下げた。

「あの〜レオンちゃんがこんな風に斉藤くんを助けに来られたのも、レオンちゃんがわる〜い魔法使いを足止めしてるからでしてー……そのー」

 レオンが何かを言いたげに床を指さした。見ると、レオンの足元が透けて石の床が見えていた。

「ゆ、幽霊……?」
「ノンノーン! 分身レオンちゃんです♡ いつもの10%くらいの力しかないので、斉藤クンが塔を登るお手伝いは出来かねます☆」

 指を左右に振ったあと、レオンは僕にポーズをとってみせた。助けてはやったけどあくまで試練は自力でクリアしろってことか。僕は塔の上を睨む。早く、上らないと。
 
「もう本体が限界ぽいので、レオンちゃんここまでですね♡」

 レオンはステッキをどこかから取り出して振りかざしながらターンした。レオンの燕尾服が、体がバラバラと解けて、小さなコウモリ数匹になる。

「実は斉藤クン、レオンちゃん一番の期待星☆ ですのでね、頑張って『涯て』を目指してくださーい!」

 幸運を祈ります♡ と飛び立ったレオンの声が遠ざかる。一番の期待星、って、他の魂にもこうやって回ってるんだろうか。コウモリたちを見送ってから……僕はライがフェニックスと戦っていることを思い出した。
 
 三島さんの絆創膏で全快できたこと、早く伝えなくちゃ。僕が書く気を起こすと、ノートと羽根ペンはすぐに飛んできた。


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 満足に言い返すことすら出来ずに痛みに息を漏らしているだけの僕の様子を見て、レオンは心底満足そうだった。目をキラキラさせて僕のノートを指さす。
「あ! レオンちゃんがあげたスーベニア、上手に使ってくれてるみたいですね☆」
 ノートにはライの戦闘の様子がどんどん浮かび上がっている。ライが自主的に行動した結果は書かずともノートに浮かび上がってくるようで、羽根ペンは手持ち無沙汰そうにふわふわと漂っている。
「斉藤クンのスーベニア、ホント面白いですねぇ……レオンちゃん羨ましいです♡」
 レオンは興味深そうに目を細めた。一瞬、獲物を狙うような目つきになった気がした……が、またすぐに胡散臭い笑顔に戻る。
「あ、そうそう。わる〜い魔法使いから斉藤クンを助けに来たんでした☆」
 燕尾服の懐をごそごそと探って、レオンは親指くらいのサイズの何かを取り出した。
「これ、三島サンからの預かり物です♡」
 心臓がドクンと跳ねる。
 ピンクの……花柄の、絆創膏だった。
 僕が、あの日、妙なプライドで受け取れなかった……三島さんが差し出してくれた、絆創膏。
 でも今、どうして……? なんでこんな所に?
「今の斉藤クンにとっても必要なもの♡ レオンちゃん優しいので貼ってあげまーす☆ 三島サンじゃなくてごめんなさーい! アハハ!」
 レオンは絆創膏の裏の白いフィルムを剥がすと、僕の抉れた身体に貼り付けた。あの日の……制汗剤なのかシャンプーなのか分からない甘酸っぱい匂いが鼻を過ぎった気がした。
 暖かいものが駆け巡って、身体の形と感覚を取り戻していく。血の匂いがしなくなった。たぶん鼻が戻った。ズタズタになっていた胴の傷が塞がった。ずっと浅かった呼吸がうんと楽になった。酸素が巡る。斬られていた脚が、腕が、繋がっていく。手に体温が戻って、指の感覚が戻ってくる。
 ――斉藤くん――
 三島さん? 三島さんの声が聞こえた気がする。僕はとっさに辺りを見渡した。三島さんの絵画は変わらず穏やかな笑みを浮かべている。
「どうです? 三島サンのスーベニア♡ 素晴らしいですねぇ! アハハアハハ! 効果バツグン! 馴染んでますねぇ!」
「これが、三島さんの、スーベニア……?」
 絆創膏のスーベニア。カッコつけてたくせに雷にビビってた僕なんかにも……そっと絆創膏を差し出してくれた、三島さんにピッタリだと思った。レオンが胴体あたりに貼ったはずのピンク色の花柄の絆創膏は、あの日切った左手の小指に巻きついていた。僕は、右手でそれを何度もなぞって、感覚を確かめた。三島さん、ありがとう。ごめん。僕はうずくまってしばらくぼろぼろと泣いた。絶対に、絶対に助けに行くから。三島さんの絵画は何も言わずに微笑んで僕を見つめていた。
 しばらく黙って興味深そうに僕を見下ろしていたレオンに、三島さんの声が聞こえたことを言ってみたら、「え〜大丈夫ですかぁ? 疲労で頭おかしくなっちゃったんじゃないですかぁ?☆」と一蹴された。
「ちなみに、今使った絆創膏と合わせて、あと2枚♡ これら全て! なんと! 差し上げます☆」
 三島さんの……黄色と青、2枚の花柄の絆創膏を、僕はレオンから受け取った。三島さんは、どんな気持ちで僕にこれを託してくれたんだろうか。
 それに現状、回復リソースはライが取りに行ってくれている霊薬くらいしか思い当たらないし、またさっきの敵みたいなのと戦うかもしれない。三島さんを助けるためにも、僕は無くさないようにジャージのポケットに入れた。
 「というか〜レオンちゃんにお礼のひとつもないんですね〜悲しいですぅ」
 レオンは手で涙の形を作って、両目の近くで上下させた。あの日の絆創膏を手渡されたこと、突然身体が全快したこと、三島さんの声が聞こえたことで……情報に圧されて、感謝するどころじゃなかった。すみません、ありがとうございました、と僕は頭を下げた。
「あの〜レオンちゃんがこんな風に斉藤くんを助けに来られたのも、レオンちゃんがわる〜い魔法使いを足止めしてるからでしてー……そのー」
 レオンが何かを言いたげに床を指さした。見ると、レオンの足元が透けて石の床が見えていた。
「ゆ、幽霊……?」
「ノンノーン! 分身レオンちゃんです♡ いつもの10%くらいの力しかないので、斉藤クンが塔を登るお手伝いは出来かねます☆」
 指を左右に振ったあと、レオンは僕にポーズをとってみせた。助けてはやったけどあくまで試練は自力でクリアしろってことか。僕は塔の上を睨む。早く、上らないと。
「もう本体が限界ぽいので、レオンちゃんここまでですね♡」
 レオンはステッキをどこかから取り出して振りかざしながらターンした。レオンの燕尾服が、体がバラバラと解けて、小さなコウモリ数匹になる。
「実は斉藤クン、レオンちゃん一番の期待星☆ ですのでね、頑張って『涯て』を目指してくださーい!」
 幸運を祈ります♡ と飛び立ったレオンの声が遠ざかる。一番の期待星、って、他の魂にもこうやって回ってるんだろうか。コウモリたちを見送ってから……僕はライがフェニックスと戦っていることを思い出した。
 三島さんの絆創膏で全快できたこと、早く伝えなくちゃ。僕が書く気を起こすと、ノートと羽根ペンはすぐに飛んできた。