推してダメなら敲いてみろ
ー/ー ライに設定を付け足してなんとか出来ないか。雷光斬は百パー敵の急所に当たる! みたいな……書いてみたけどダメだった。設定改変、ご都合展開は全部禁止。
『なんで雷は落とせたんだろう?』
『呼ばさせられたんだろうが、お前に』
乱れた字から、ライの舌打ちが聞こえるような気がした。そうか。雷なら。羽根ペンを動かして書き込む。手で書かなくても自動で書いてくれるのが、本当にありがたかった。文は……消えなかった。
『おらああああああ!』
全身の産毛が立つ。黄色と水色の雷撃が僕を中心にして霧の中へ蜘蛛の巣のように這う。範囲攻撃の雷撃だ。当たったか!? と思ったのもつかの間、僕の肩が切り裂かれた。
『効いてない!』
『クソッ、何回か撃つしかないか!?』
何度もライは範囲攻撃の雷撃を繰り出した。しかし敵は怯んですらいないのか、僕は脇腹と右耳を斬られて声にならない声で悶えた。
『こいつ、雷が効かないのかも……』
『お前、自分が何書いたのかも覚えてないのか? 俺の雷は耐性貫通なんだから効かないなんてことないだろ』
そんな設定だったっけ? 羽根ペンにページを捲らせると、確かに、雷耐性の獣をライが電撃で倒していた。丁寧に耐性貫通の話も僕の字で書かれていた。効かないなんてことがないなら、なんで効かないんだ。雷光斬や、自分に落とした雷はちゃんと効果出てたのに。
『相手が硬いのかな』
『いずれにせよこのままじゃジリ貧だ、やり方を考』
ノートが斬り裂かれた。鉄の匂い。気管に血が入ってむせる。むせるたびに顔を剥がされるような激痛がはしる。多分、鼻が斬られた。ライの雷撃が止まる。僕はまた切り刻まれる。
それでも、意志さえ捨てなきゃ、死なないんだろ。三島さんのために、ライのために、つづき、書かなきゃ――!
真っ二つになったノートは輝いて、再び僕の前に滑り込んだ。スーベニアは僕の書きたい気持ちで復活出来るみたいだった。でも、ライの雷撃がまた放たれた、と思った途端にまた斬り裂かれる。くそ。何回でも、付き合ってやる! 僕はまたスーベニアを復活させる。
相手は僕を斬り刻むより、僕のノートを破壊することを優先してるみたいだ。
……それって、つまり、こちらの攻撃を止めるためなんじゃないか?
相手に雷撃が少なからず効いているという事実が、僕を元気づけた。あと、もう一押しなんだ。僕はなにかヒントがないか、斬られ続けるノートに自分が書き込んだ文章を読んだ。
〈ライは範囲攻撃を放った。四方八方に雷撃が飛ぶ。〉
咄嗟に書いた文章だから仕方ないけど、我ながら雑な描写だなと思った。あ、もしかしたら……僕はノートを何度も破壊されながらも、羽根ペンを輝かせて推敲した。
〈ライが剣を振り上げた瞬間、空気がビリビリ震えた。頭の芯が痺れるくらいの轟音と一緒に、雷が全方向に弾けた。床を蹴って跳ねる稲妻が壁にぶつかっても消えないで、何回も何回も反射して、逃げ場なんかないくらいに部屋中を暴れ回った。〉
書き切った瞬間、凄まじい雷霆が走った。何度も何度も霧の中を巡る。ノートは何回も真っ二つにされたけど、裂かれるまでのスパンがどんどん長くなって、やがて――僕もノートも斬撃を受けなくなった。
『どうだ!?』
ライの興奮気味の筆致に、僕は『攻撃されなくなった』と返した。
『油断はするなよ』
ライの台詞が浮かび上がると同時に、パチパチパチ、と拍手が響いた。
「いやあ、見事見事。霧の間はこれで合格だな」
少しざらついた、ウィズの声だ。僕はズキズキと痛む身体のまま、霧を睨む。霧の間ってなんだよ。色々聞きたかったし、一言くらい文句を言いたかったけど、喉からはヒューヒューと息が抜ける音しか出なかった。
「『透き通れ』」
たちまちに霧が晴れて、天井が見える。ウィズや、僕を襲ってたやつは視界にはいない。痛すぎて首が動かせない。
「お前、過去相手した奴らのなかで一番ボロボロ。ここまで来るのも一番遅えし。正直すぐ砂になると思ってたけど……ちょっと面白えじゃん」
ライにウィズの言葉を伝えようとしたら、書ききらないうちに返事が来た。
『奴はどこにいるか分かるか』
『わかんない。さっき書いた内容がどこからか聞こえてくる』
チッ、と舌打ちが聞こえて、ざらついた声が続く。
「喋れねえからってお友達とコソコソ筆談しやがって」
ライは構わずに僕が書き伝えたウィズの台詞に反応した。あ、舌打ちしてたことは書いてないや。
『筆談? こっちはどっかから聞こえてくるお前の声に話しかけてるけど』
『筆談じゃなきゃ今君とやり取りできてないよ』
ライは何度か台詞を書き損じてから、『お前、腕はあるんだな』と書いた。腕なんか……とっくに胴体から外れてるよ。なんて書けやしなかった。ライへの返事を迷っているうちに、ウィズが話し始めた。
「ご歓談中悪いけど……サイトウユウ、お前はまだこの塔から出る資格はない」
何か来る。そんな予感を僕たちは抱いていた。僕は些細なことでもすぐライに状況を伝えられるようにノートに書き続ける。
「……『落とせ』」
ウィズの声が響いた。背中を支えていた床の感触が解けて消えていく。天井が一気に遠ざかる。迷路だった白い壁がどんどん奥へ奥へと遠ざかっていく。各フロアの床が部分的に無くなっているみたいだった。僕は逆さになったまま、とにかく五感に入ってくる情報を羽根ペンに書かせた。
「出来ることなら、もう合格にしてやりたかったさ」
ウィズの声が風の中に混じって聞こえた気がした。途端、ギン! と金属がぶつかる音とともに身体に振動が走る。壁に一筋の傷が縦に刻まれ、落ちる僕に火花が並走していた。ライが壁に剣を突き立ててくれたようだ。ありがたく減速しながら僕は石の床にどさりと落ちた。
『生きてるか』
『もうとっくに死んでるよ』
僕はノート越しにライに軽口を叩きながらバラバラになった体のままで天井を仰いだ。壁にかかっている三島さんの肖像画を、剣の付けた傷が縦に裂いていた。塔に入った時に綺麗だと思って眺めていた、あの絵画だった。どうやら、一階まで僕たちは落下したらしい。
せっかくそこそこの高さまで登ったのに。
「最上階まで這い上がってみろ、サイトウユウ。それでこの塔の役目は終わる――『沈め』」
ウィズの声が響いて、今度はゆっくりと、まるでエレベーターで降りているような感覚がして、少しずつ窓が埋もれていくのが見えた。
『ライ、このままじゃ僕たち、砂に埋もれる……!』
『でもお前……たぶん、ろくに動ける身体じゃないんだろ』
僕は何も書けなかった。
『俺を、フェニックスと戦わせろ』
『フェニックス? なんで、そんな場合じゃ……』
あ、霊薬か。自分の小説の中で、フェニックスを倒した時に得られる、作中で一番効果の強い回復薬だ。これをライに勝ち取らせたとき……三島さん、喜んで読んでくれたな。僕は羽根ペンをフル回転で動かして、作中でライとフェニックスを出会わせた。
『待ってろ。絶対に何とかしてやる』
僕が書くまでもなく、ライとフェニックスの激しい戦闘の様子がノートに浮かび上がっていく。僕はライを信じて、ゆっくりと沈む塔の底で天井をただただ見上げた。
すると、上の階からひらひらと、何かが舞い降りてくるのがわかった。近づくにつれ、それがコウモリであると気がついた。コウモリは手品のように形を変え……見覚えのあるカラフルな燕尾服が目に入った。
「お久しぶりです♡ レオンちゃん参上〜っ☆」
聞き覚えのある軽快な口調とともに、レオンが視界に滑り込み、ステッキを片手にポーズを決めた。
『なんで雷は落とせたんだろう?』
『呼ばさせられたんだろうが、お前に』
乱れた字から、ライの舌打ちが聞こえるような気がした。そうか。雷なら。羽根ペンを動かして書き込む。手で書かなくても自動で書いてくれるのが、本当にありがたかった。文は……消えなかった。
『おらああああああ!』
全身の産毛が立つ。黄色と水色の雷撃が僕を中心にして霧の中へ蜘蛛の巣のように這う。範囲攻撃の雷撃だ。当たったか!? と思ったのもつかの間、僕の肩が切り裂かれた。
『効いてない!』
『クソッ、何回か撃つしかないか!?』
何度もライは範囲攻撃の雷撃を繰り出した。しかし敵は怯んですらいないのか、僕は脇腹と右耳を斬られて声にならない声で悶えた。
『こいつ、雷が効かないのかも……』
『お前、自分が何書いたのかも覚えてないのか? 俺の雷は耐性貫通なんだから効かないなんてことないだろ』
そんな設定だったっけ? 羽根ペンにページを捲らせると、確かに、雷耐性の獣をライが電撃で倒していた。丁寧に耐性貫通の話も僕の字で書かれていた。効かないなんてことがないなら、なんで効かないんだ。雷光斬や、自分に落とした雷はちゃんと効果出てたのに。
『相手が硬いのかな』
『いずれにせよこのままじゃジリ貧だ、やり方を考』
ノートが斬り裂かれた。鉄の匂い。気管に血が入ってむせる。むせるたびに顔を剥がされるような激痛がはしる。多分、鼻が斬られた。ライの雷撃が止まる。僕はまた切り刻まれる。
それでも、意志さえ捨てなきゃ、死なないんだろ。三島さんのために、ライのために、つづき、書かなきゃ――!
真っ二つになったノートは輝いて、再び僕の前に滑り込んだ。スーベニアは僕の書きたい気持ちで復活出来るみたいだった。でも、ライの雷撃がまた放たれた、と思った途端にまた斬り裂かれる。くそ。何回でも、付き合ってやる! 僕はまたスーベニアを復活させる。
相手は僕を斬り刻むより、僕のノートを破壊することを優先してるみたいだ。
……それって、つまり、こちらの攻撃を止めるためなんじゃないか?
相手に雷撃が少なからず効いているという事実が、僕を元気づけた。あと、もう一押しなんだ。僕はなにかヒントがないか、斬られ続けるノートに自分が書き込んだ文章を読んだ。
〈ライは範囲攻撃を放った。四方八方に雷撃が飛ぶ。〉
咄嗟に書いた文章だから仕方ないけど、我ながら雑な描写だなと思った。あ、もしかしたら……僕はノートを何度も破壊されながらも、羽根ペンを輝かせて推敲した。
〈ライが剣を振り上げた瞬間、空気がビリビリ震えた。頭の芯が痺れるくらいの轟音と一緒に、雷が全方向に弾けた。床を蹴って跳ねる稲妻が壁にぶつかっても消えないで、何回も何回も反射して、逃げ場なんかないくらいに部屋中を暴れ回った。〉
書き切った瞬間、凄まじい雷霆が走った。何度も何度も霧の中を巡る。ノートは何回も真っ二つにされたけど、裂かれるまでのスパンがどんどん長くなって、やがて――僕もノートも斬撃を受けなくなった。
『どうだ!?』
ライの興奮気味の筆致に、僕は『攻撃されなくなった』と返した。
『油断はするなよ』
ライの台詞が浮かび上がると同時に、パチパチパチ、と拍手が響いた。
「いやあ、見事見事。霧の間はこれで合格だな」
少しざらついた、ウィズの声だ。僕はズキズキと痛む身体のまま、霧を睨む。霧の間ってなんだよ。色々聞きたかったし、一言くらい文句を言いたかったけど、喉からはヒューヒューと息が抜ける音しか出なかった。
「『透き通れ』」
たちまちに霧が晴れて、天井が見える。ウィズや、僕を襲ってたやつは視界にはいない。痛すぎて首が動かせない。
「お前、過去相手した奴らのなかで一番ボロボロ。ここまで来るのも一番遅えし。正直すぐ砂になると思ってたけど……ちょっと面白えじゃん」
ライにウィズの言葉を伝えようとしたら、書ききらないうちに返事が来た。
『奴はどこにいるか分かるか』
『わかんない。さっき書いた内容がどこからか聞こえてくる』
チッ、と舌打ちが聞こえて、ざらついた声が続く。
「喋れねえからってお友達とコソコソ筆談しやがって」
ライは構わずに僕が書き伝えたウィズの台詞に反応した。あ、舌打ちしてたことは書いてないや。
『筆談? こっちはどっかから聞こえてくるお前の声に話しかけてるけど』
『筆談じゃなきゃ今君とやり取りできてないよ』
ライは何度か台詞を書き損じてから、『お前、腕はあるんだな』と書いた。腕なんか……とっくに胴体から外れてるよ。なんて書けやしなかった。ライへの返事を迷っているうちに、ウィズが話し始めた。
「ご歓談中悪いけど……サイトウユウ、お前はまだこの塔から出る資格はない」
何か来る。そんな予感を僕たちは抱いていた。僕は些細なことでもすぐライに状況を伝えられるようにノートに書き続ける。
「……『落とせ』」
ウィズの声が響いた。背中を支えていた床の感触が解けて消えていく。天井が一気に遠ざかる。迷路だった白い壁がどんどん奥へ奥へと遠ざかっていく。各フロアの床が部分的に無くなっているみたいだった。僕は逆さになったまま、とにかく五感に入ってくる情報を羽根ペンに書かせた。
「出来ることなら、もう合格にしてやりたかったさ」
ウィズの声が風の中に混じって聞こえた気がした。途端、ギン! と金属がぶつかる音とともに身体に振動が走る。壁に一筋の傷が縦に刻まれ、落ちる僕に火花が並走していた。ライが壁に剣を突き立ててくれたようだ。ありがたく減速しながら僕は石の床にどさりと落ちた。
『生きてるか』
『もうとっくに死んでるよ』
僕はノート越しにライに軽口を叩きながらバラバラになった体のままで天井を仰いだ。壁にかかっている三島さんの肖像画を、剣の付けた傷が縦に裂いていた。塔に入った時に綺麗だと思って眺めていた、あの絵画だった。どうやら、一階まで僕たちは落下したらしい。
せっかくそこそこの高さまで登ったのに。
「最上階まで這い上がってみろ、サイトウユウ。それでこの塔の役目は終わる――『沈め』」
ウィズの声が響いて、今度はゆっくりと、まるでエレベーターで降りているような感覚がして、少しずつ窓が埋もれていくのが見えた。
『ライ、このままじゃ僕たち、砂に埋もれる……!』
『でもお前……たぶん、ろくに動ける身体じゃないんだろ』
僕は何も書けなかった。
『俺を、フェニックスと戦わせろ』
『フェニックス? なんで、そんな場合じゃ……』
あ、霊薬か。自分の小説の中で、フェニックスを倒した時に得られる、作中で一番効果の強い回復薬だ。これをライに勝ち取らせたとき……三島さん、喜んで読んでくれたな。僕は羽根ペンをフル回転で動かして、作中でライとフェニックスを出会わせた。
『待ってろ。絶対に何とかしてやる』
僕が書くまでもなく、ライとフェニックスの激しい戦闘の様子がノートに浮かび上がっていく。僕はライを信じて、ゆっくりと沈む塔の底で天井をただただ見上げた。
すると、上の階からひらひらと、何かが舞い降りてくるのがわかった。近づくにつれ、それがコウモリであると気がついた。コウモリは手品のように形を変え……見覚えのあるカラフルな燕尾服が目に入った。
「お久しぶりです♡ レオンちゃん参上〜っ☆」
聞き覚えのある軽快な口調とともに、レオンが視界に滑り込み、ステッキを片手にポーズを決めた。
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