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エピローグ

ー/ー



 デス子の四十九が過ぎ九月半ばとなったある日、俺はメメ子と浜松市の隣、磐田市にいた。

 そうデス子の墓参りだ。

 南中の太陽とまだ鳴いてる蝉は晩夏を思わせた。

「んー着いたー」

 タクシーから降りて伸びをするメメ子。俺も降りるとスマホの通知を見る。少し溜まっている。ODコミュの新規参加者だろう。人数は二千人を超えてまだ増え続けている。

「あ、ラブホだー」

 確かに、墓苑の反対側には古めかしいラブホテルがあった。

「幽霊出そうやな」

「たしかにー」

 他愛もない会話をしながら、墓の並ぶ道を俺は桶と柄杓、そして花を手にメメ子に付いていく。肝心の墓の場所がわからないと一苦労だなと考えていたが、どうやらおおよその位置を誰かから聞いているらしい。

 まだ綺麗な花やらが供えられている墓から、忘れられたような墓まで様々だ。

「んーここ。やっほーデス子ー」

 墓に小さく手を振りながらメメ子が足を止めた。特に形容しようのない普通の墓だ。供花は萎れていた。

「とりあえず花とかキレイにしよっか」

「そだねー」

 濁った水を捨て花を替えていく。

「白百合好きだったの?」

「そだよー。売ってて良かった」

 まあ定番ではあるが。花言葉は鎮魂以外に何だったか。良い匂いだが結構強い香りだ。

「んー綺麗ー!」

「水も変えたし、お線香あげようか」

 頷くメメ子に線香の箱を渡し中を取り出してもらうと、俺はライターで火を点ける。

 煙が昇り、百合の香りとともに風にさらわれていく。

 線香も供えて完了だ。

 箱を閉まっている間にメメ子は既に合掌して目を閉じていた。俺もそれに倣う。

 この夏あったことをデス子に話しかけるように祈った。あの世はあるのだろうか。彼女にとってはない方がいいのかもしれない、続きなど。

 それでもメメ子を守ってやってくれと祈る。あの後入院となった七氏も。そしてデス子の鎮魂を。

 一通り終えて横をチラ見するとメメ子はまだ閉眼したままだ。盗み見るようで少し悪いがどうしても気になってしまう。

 ややあって、メメ子はゆっくりと目を開けた。まだ燃えかけの線香を見つめている。

「んー終わりー。青ちゅ~さん、傷見せて」

 あのリスカ痕か。そうだな。デス子に見せないとな。

 オーケーと首を縦に振って、墓に向けて左手首を掲げた。

「絶対……忘れないから! ずっと一緒だから!」

 力強い声での宣言に俺も続く。デス子のご先祖さんはビックリだろう。

 と、メメ子はスマホを取り出すと何やら操作して、俺に見せつけてくる。

『デスメメ子爆誕!』

 そうXのプロフィールに書かれていた。

「デスメメ子デスカ?」

「デスメメ子デス」

「ぷぷ……」

「あははー」

 しばらく笑い合う。

「いいセンスだ」

 にひっっとメメ子がまた破顔した。

「俺も何かしよっかなー」

「おーいいじゃんいいじゃん」

「そうだな……おっさん小説書くわ」

「おー読ませて読ませて!」

「書き終わったらオナシャス」

 えっ? 小説のタイトル? 言わなくてもわかるだろ? 気付けよ。

<インタールード その7>

 本作品は『自殺少女とOD少年』というタイトルで2025年2月頃より、様々な小説投稿サイトで公開したものである。

 小説家になろう、エブリスタ、アルファポリス、Caita、Novel Daysでは、いいねが付かなかった。

 Note、Tales、カクヨムではいいねが付き、カクヨムにおいては読者コメントやレビューもされたが、「公序良俗に違反するまたは違反するおそれのある行為」に当たるとして公開停止となった。

 また純文学の公募はネット公開済みの作品を基本的に受け付けていない。

 そして2026年末月現在、オーバードーズコミュニティは4代目でメンバー数7150人である。

<エピローグ その二>

 翌日。俺はゴミ袋と格闘していた。

『うわぁきったないっ』

『青ちゅ~くんさあ』

 誇らしき我が汚部屋をビデオ通話で見た凜々花とポンちゅ~さんが、悲鳴を上げる。

「ビフォーアフター見とけよー」

『今何袋ぉ?』

「五までは数えてた」

 本当に我ながらよくここまで放置したものだ。なおゴキブリは十年見たことがない。蜘蛛はちょくちょくいるんだが。

 丸めたティッシュの山――花粉症なのだ――をゴミ袋に押し込む。次は食い終わった弁当の箱類だ。

『で、七氏ちゃん元気そうだって?』

『そうそうどうだってぇ?』

「落ち着きはしたらしい。退院は未定」

 それぞれの近況を話しながら片付けていく。袋は数えたら八と半分だ。

 しかしちょくちょくOD中に飲もうとして落としたであろう錠剤が見つかる。まあ界隈のあるあるだ。

「ああーブロン飲みてぇ」

『キンキンに冷えた"アイス"あげよっか?』

「いりません」

 "アイス"は覚醒剤のスラングである。

 格闘すること二時間、ようやくゴミがなくなった(なお袋)部屋を二人にドヤ顔で見せつける。

『おおぉー見違えたぁヨシ』

『お疲れ。ってあとは掃除機があるね』

「まかせろー」

『やっほー』

 ふと画面に新しく少女が映った。メメ子だ。

『やっほぉーメメ子ちゃん』

『お久しぶり』

『やっほー』

「良い所に来たやん。どや」

『んーこの前よりめっちゃキレイになってるー』

「みんな褒めて」

 そんな風にふざけ合いながら掃除機と雑巾がけをした。

 劇的なビフォアアフターした部屋にヨシすると、マットに突っ伏した。

「疲れたー。メジコンする」

『いいなーワイちゃんもしたいー』

「安いコストコメジコン買ってもろて」

 そう言って俺は起き上がると、棚にあるメジコンジェネリックのフデコーを取り出す。残り九十錠だからちょうど良い。

 まずは四十五錠、残りは追い炊きで飲む。上手く呑み込めず口中を苦みが支配した。

 苦い。とてつもなく苦い。

 何とか胃に収めると俺はカーテンの前に立つ。ゴミ袋に占領された部屋を一度振り返ると、俺は決意を新たにする。

 自分を傷付けていいから生き残れ――それがODコミュの第一ルールだ。

 だがそれでも死にゆく君に、俺は、『おやすみ』(シレンシオ)と言うよ。どこまでも無責任に言ってやる。

 だから少し安心してくれたら嬉しい。

 それと一つ。

 クソゲー日本だけど、音楽と漫画は最高なんだぜ?

<エピローグ ――開幕(カーテンライゼズ)>




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 デス子の四十九が過ぎ九月半ばとなったある日、俺はメメ子と浜松市の隣、磐田市にいた。
 そうデス子の墓参りだ。
 南中の太陽とまだ鳴いてる蝉は晩夏を思わせた。
「んー着いたー」
 タクシーから降りて伸びをするメメ子。俺も降りるとスマホの通知を見る。少し溜まっている。ODコミュの新規参加者だろう。人数は二千人を超えてまだ増え続けている。
「あ、ラブホだー」
 確かに、墓苑の反対側には古めかしいラブホテルがあった。
「幽霊出そうやな」
「たしかにー」
 他愛もない会話をしながら、墓の並ぶ道を俺は桶と柄杓、そして花を手にメメ子に付いていく。肝心の墓の場所がわからないと一苦労だなと考えていたが、どうやらおおよその位置を誰かから聞いているらしい。
 まだ綺麗な花やらが供えられている墓から、忘れられたような墓まで様々だ。
「んーここ。やっほーデス子ー」
 墓に小さく手を振りながらメメ子が足を止めた。特に形容しようのない普通の墓だ。供花は萎れていた。
「とりあえず花とかキレイにしよっか」
「そだねー」
 濁った水を捨て花を替えていく。
「白百合好きだったの?」
「そだよー。売ってて良かった」
 まあ定番ではあるが。花言葉は鎮魂以外に何だったか。良い匂いだが結構強い香りだ。
「んー綺麗ー!」
「水も変えたし、お線香あげようか」
 頷くメメ子に線香の箱を渡し中を取り出してもらうと、俺はライターで火を点ける。
 煙が昇り、百合の香りとともに風にさらわれていく。
 線香も供えて完了だ。
 箱を閉まっている間にメメ子は既に合掌して目を閉じていた。俺もそれに倣う。
 この夏あったことをデス子に話しかけるように祈った。あの世はあるのだろうか。彼女にとってはない方がいいのかもしれない、続きなど。
 それでもメメ子を守ってやってくれと祈る。あの後入院となった七氏も。そしてデス子の鎮魂を。
 一通り終えて横をチラ見するとメメ子はまだ閉眼したままだ。盗み見るようで少し悪いがどうしても気になってしまう。
 ややあって、メメ子はゆっくりと目を開けた。まだ燃えかけの線香を見つめている。
「んー終わりー。青ちゅ~さん、傷見せて」
 あのリスカ痕か。そうだな。デス子に見せないとな。
 オーケーと首を縦に振って、墓に向けて左手首を掲げた。
「絶対……忘れないから! ずっと一緒だから!」
 力強い声での宣言に俺も続く。デス子のご先祖さんはビックリだろう。
 と、メメ子はスマホを取り出すと何やら操作して、俺に見せつけてくる。
『デスメメ子爆誕!』
 そうXのプロフィールに書かれていた。
「デスメメ子デスカ?」
「デスメメ子デス」
「ぷぷ……」
「あははー」
 しばらく笑い合う。
「いいセンスだ」
 にひっっとメメ子がまた破顔した。
「俺も何かしよっかなー」
「おーいいじゃんいいじゃん」
「そうだな……おっさん小説書くわ」
「おー読ませて読ませて!」
「書き終わったらオナシャス」
 えっ? 小説のタイトル? 言わなくてもわかるだろ? 気付けよ。
<インタールード その7>
 本作品は『自殺少女とOD少年』というタイトルで2025年2月頃より、様々な小説投稿サイトで公開したものである。
 小説家になろう、エブリスタ、アルファポリス、Caita、Novel Daysでは、いいねが付かなかった。
 Note、Tales、カクヨムではいいねが付き、カクヨムにおいては読者コメントやレビューもされたが、「公序良俗に違反するまたは違反するおそれのある行為」に当たるとして公開停止となった。
 また純文学の公募はネット公開済みの作品を基本的に受け付けていない。
 そして2026年末月現在、オーバードーズコミュニティは4代目でメンバー数7150人である。
<エピローグ その二>
 翌日。俺はゴミ袋と格闘していた。
『うわぁきったないっ』
『青ちゅ~くんさあ』
 誇らしき我が汚部屋をビデオ通話で見た凜々花とポンちゅ~さんが、悲鳴を上げる。
「ビフォーアフター見とけよー」
『今何袋ぉ?』
「五までは数えてた」
 本当に我ながらよくここまで放置したものだ。なおゴキブリは十年見たことがない。蜘蛛はちょくちょくいるんだが。
 丸めたティッシュの山――花粉症なのだ――をゴミ袋に押し込む。次は食い終わった弁当の箱類だ。
『で、七氏ちゃん元気そうだって?』
『そうそうどうだってぇ?』
「落ち着きはしたらしい。退院は未定」
 それぞれの近況を話しながら片付けていく。袋は数えたら八と半分だ。
 しかしちょくちょくOD中に飲もうとして落としたであろう錠剤が見つかる。まあ界隈のあるあるだ。
「ああーブロン飲みてぇ」
『キンキンに冷えた"アイス"あげよっか?』
「いりません」
 "アイス"は覚醒剤のスラングである。
 格闘すること二時間、ようやくゴミがなくなった(なお袋)部屋を二人にドヤ顔で見せつける。
『おおぉー見違えたぁヨシ』
『お疲れ。ってあとは掃除機があるね』
「まかせろー」
『やっほー』
 ふと画面に新しく少女が映った。メメ子だ。
『やっほぉーメメ子ちゃん』
『お久しぶり』
『やっほー』
「良い所に来たやん。どや」
『んーこの前よりめっちゃキレイになってるー』
「みんな褒めて」
 そんな風にふざけ合いながら掃除機と雑巾がけをした。
 劇的なビフォアアフターした部屋にヨシすると、マットに突っ伏した。
「疲れたー。メジコンする」
『いいなーワイちゃんもしたいー』
「安いコストコメジコン買ってもろて」
 そう言って俺は起き上がると、棚にあるメジコンジェネリックのフデコーを取り出す。残り九十錠だからちょうど良い。
 まずは四十五錠、残りは追い炊きで飲む。上手く呑み込めず口中を苦みが支配した。
 苦い。とてつもなく苦い。
 何とか胃に収めると俺はカーテンの前に立つ。ゴミ袋に占領された部屋を一度振り返ると、俺は決意を新たにする。
 自分を傷付けていいから生き残れ――それがODコミュの第一ルールだ。
 だがそれでも死にゆく君に、俺は、『おやすみ』(シレンシオ)と言うよ。どこまでも無責任に言ってやる。
 だから少し安心してくれたら嬉しい。
 それと一つ。
 クソゲー日本だけど、音楽と漫画は最高なんだぜ?
<エピローグ ――開幕(カーテンライゼズ)>