【海とかなづちと大きな船】
ー/ー レオールの目には、鮮やかな青が見えた。
入道雲が浮かぶその景色は、描かれた一枚の絵のように美しい。
洞窟から出られた事は確かだった。
吸い込まれそうな空の色に、レオールは目を細める。
体が落ちていく。
「きゃー!」
レオールにしがみついているサリーが声を上げる。
サリーは数回翼を羽ばたかせたが、レオールの体重に負け、落下した。
途端に三人は落ち、派手な水音とともに海の中へと沈む。
レオールは慌てて水を掻く。
幸い深くは沈まなかったため、レオールはすぐに水面へと顔を出した。
「ぷはぁ! 大丈夫か!? サリー!」
レオールの腕を抱きしめながら、サリーは「は、はいぃ」と情けない返事をする。
そして、レオールの首に腕を回ししがみつくエルキデスがいた。
「魔王、これは狙って海に落ちたのか?」
レオールが聞くと、エルキデスは目を泳がせる。
「……つまらん事を気にするな」
エルキデスが言い、レオールは自分の眉間に手を当てた。
正直、頭痛がしそうな結果だと、レオールは思う。
「とにかく魔王、早くオレから離れてくれ」
エルキデスにそう言うと、エルキデスはムッとした表情になった。
「そこの天使族はよくて何故ワシがダメなのだ?」
不機嫌そうに口をとがらせ、エルキデスはサリーを見る。
「天使族と呼ぶな、彼女はサリーだ」
レオールがエルキデスに伝えると、エルキデスはさらに不機嫌な顔になった。
「で、サリーはよくてワシがダメな理由を述べろ」
これにはレオールも、エルキデスが本当に子どものようだと思う。
とりあえず、へそを曲げているエルキデスを見た。
「サリーは水が苦手だ、翼が濡れると重たくなって泳げなくなる……だが魔王、お前は泳げるだろ?」
と、レオールに言われたエルキデスは、レオールから視線をそらす。
その反応を見たレオールは「まさか」と言葉を漏らした。
「魔王、お前、泳げないのか?」
レオールが言うと、エルキデスは無言で明後日の方向をみている。
「……使いたくないが、仕方ない。 答えろ魔王、これは『命令』だ」
そうレオールが言った瞬間、エルキデスの体が光った。
光は一瞬で消えたが、エルキデスの口は勝手に動き出す。
「泳げ、ない」
エルキデスは言うつもりなど無かった。
かつては魔王として、魔物たちの頂点にいたエルキデスにとって、泳げないという弱点を誰にも知られたくはないと思っていた。
「ほ、本当に主従関係になっているのですね」
サリーが少し驚いた様子で言う。
「そうだな、主人の『命令』は絶対だからな」
レオールが言った直後、エルキデスはレオールを睨み、険しい表情になる。
「次に命令をしたら、レオール、お前を殺す」
エルキデスが眉間にシワを寄せ、牙をむき出しにしながら言う。
しかしレオールは、恐れる様子も無くため息をついた。
「主人であるオレを攻撃することはできない。 そのことは魔王、お前がよく知っているだろう?」
レオールに返され、エルキデスは歯をぎり、と鳴らす。
確かに、主従関係の契約が結ばれている間は主人を攻撃できない。
エルキデスは舌打ちをした。
「とにかく、何とか陸を探さないとな」
レオールはサリーとエルキデスを引きながら泳ぎ出す。
「……レオール、お前は飛べないのか?」
ぼそりとエルキデスが聞くと、レオールは苦笑した。
「オレは飛べない、それこそ魔王、お前は飛べるだろ? 飛んだらどうだ?」
言われたエルキデスはむっとした表情になる。
「魔力が切れた」
ぼそりとエルキデスが言う。
「はぁ?! じゃあ海の上なんて半端な場所に落ちたのは、魔力切れのせいか?!」
驚き声を上げたレオールに、エルキデスは頷き「そうだ」とつまらなそうに返した。
「オレが中途半端な魔力で復活させたせいだな……すまない」
肩を落としそうこぼすと、レオールは眉間にシワを寄せる。
その時だった。
「何か、来る」
エルキデスが言って、振り向く。
レオールとサリーも、エルキデスが見ている方へと視線を向けた。
遠くから、大きな船が近付いて来た。
黒い旗をつけたその船は、真っ直ぐレオールたちのほうへと向かっている。
「まずい、海賊船だ!」
慌てるレオール。
船から逃れようと水を掻くが、サリーとエルキデスの重みで上手く泳げない。
海賊船はすぐ後ろに迫り、船の上から船員らしき影がレオールたちを覗く。
「売れそうな奴ら発見!」
がらがらの声で影は言い、船の上から網を投げた。
レオールたちは逃れられるわけもなく、網に捕らえられる。
「うわぁ!」
「きゃあ!」
レオールとサリーが叫ぶ。
三人は抵抗もできないまま、網で船の上へと引っ張り上げられた。
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