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【魔王復活】

ー/ー




 空にはとても厚い雲が広がり、太陽の光は遮られていた。
 曇り空の下には、ひとつの山がある。
 ゴツゴツとした岩が集まるその山は、生き物が入って来る事を拒むような雰囲気に包まれていた。

 そんな山の中ほどにある洞窟の中で、一人の男がとある儀式を行おうとしている。
 赤い瞳で、肌は白く、白い髪の先は赤い。
 洞窟の最奥に作った祭壇に、白髪の男は金色の杯を置く。
 そしてその杯の上に手をかざすと、自分の手に短剣を押し当てた。

 杯の中に血が滴る。

 男は手を引き、傷口に布を押し当てた。

「レオール様」

 女の声がして、男、レオールは振り向く。

「サリーか」

 レオールが声を掛けると、サリーと呼ばれた金髪の女は地面に膝をつきレオールを見上げる。
 サリーの背中には白い翼があった。
 その姿はまるで天使のようである。

「とうとう、動くのですね」

 サリーがそう言うと、レオールは頷く。

「サリー、無理に付き合うな……この復讐はオレ個人のものだ、それに、死ぬかもしれない」

 レオールが言うと、サリーは青い瞳でレオールをじっと見つめる。

「レオール様、私は今までも、これから先も、ずっとついて行きますわ」

 サリーに言われ、レオールは苦笑した。
 自分について来るもの好きは、きっとこの世界でサリー一人だけだろうと、レオールは思う。

「わかった、後悔はするなよ」
「はい、後悔なんてしませんわ」

 サリーが微笑み、レオールは袋の中から何かを取り出す。
 それは、硬く捻れた何かの角だった。

 レオールは杯の中に角を落とし、血に濡れた手にはめた指輪に触れる。
 触れられた指輪は、ポゥと光り、レオールは息を吸い込んだ。

「復活せよ、魔王エルキデス、目覚め我が配下となれ!」

 大きな声でレオールが言うと、山が震え出す。
 指輪が強く光を放ち、杯が浮き上がった。

 洞窟が今にも崩れてしまいそうな程に山が揺れ、サリーは両手を地面についた。

 すると祭壇が崩れ、黒い霧が噴き出す。
 その霧に触れたサリーは、言葉にならない圧迫感に襲われ、息をするのも苦しく感じた。

 しかし、レオールは霧に包まれても表情ひとつ変えはしない。

 黒い霧が薄れていくと、壊れた祭壇の所に片方の角しかない影が現れる。

「やったか?」

 レオールが呟くと、影がレオールに近付いて来た。
 その影は小さく、レオールの眉がぴくりと動く。

 霧が晴れると、そこには子どもがいた。

 青白い肌に長い青い髪、角が二本あるが片方の角は折れてしまっている。
 漆黒の瞳をもつ少年は、レオールを見上げるなり、眉間にシワを寄せた。

「何の冗談だ?」

 少年に聞かれ、レオールの体が震える。

「ま、まさか、魔王エルキデスか?」

 安定しない声色でレオールが問い掛けると、少年は「そうだが」と返して来た。
 レオールががくりと膝から崩れ落ちる。

「よくもこんな姿で復活させてくれたな」

 エルキデスは、地面に手をついてがっくりとしているレオールに近付いていく。
 サリーが慌ててレオールの前に立った。

「貴方様がこのような姿で復活してしまったのは、想定外なのです! 決して貴方様を愚弄したいわけではありませんわ!」

 そう言ったサリーをエルキデスは睨む。
 その眼光は鋭く、睨まれたサリーの肌が粟立った。

「ワシを復活させるのに、少ない魔力で儀式を行った……この程度の魔力で、ワシが完全に復活できるとでも? 軽く見られたものだな」

 エルキデスが言うと、レオールは立ち上がり、サリーを自分の後ろにやる。

「魔力が少なかった事は謝る、だが、魔力さえ集まれば大人に戻れるのだろう? お前が完全復活できるよう、オレが魔力を集める」

 エルキデスの圧にも怯まず、レオールが言うと、エルキデスは眉間のシワを無くし、レオールをまじまじと見つめた。

 そしてエルキデスは「ふむ」と呟く。

 全く怯む様子も無く、堂々としたレオールの姿に、エルキデスは少しの興味をもった。
 自分でも体だけでなく、精神まで子どもに戻ってしまったのかと疑うほどに、好奇心が湧き出して来る。

 エルキデスはにっと笑う。

「なるほど、それで、なぜワシを復活させた?」

 エルキデスは腕を組み、レオールの目を見た。

「……復讐を手伝ってもらう」

 返したレオールの言葉に、エルキデスは目を丸くし、そのあと「ククク」と笑う。

「このワシを、魔王を、復讐の道具にするつもりか」

 肩を震わせながらエルキデスが言うと、レオールは自分の服の袖をまくりあげ、エルキデスに見せる。

「選択権はない、オレとお前はすでに主従関係だ」

 レオールの腕には、不思議な模様が刻まれていた。
 それを見たエルキデスは目を見開き、自分の袖をまくる。
 腕には、レオールと同じ模様があった。

 エルキデスはそれを確認すると、レオールの方に視線を向ける。
 そして、微笑んだ。

「……魔王を使役するか、面白い……いいだろう、上手くワシを使えよ?」

 エルキデスはそう言うと、からからと笑う。
 サリーはほっとした様子を見せた後、レオールの隣に立ち、傷ついた手に触れる。
 するとレオールの手にあった深い傷が消えた。

「お疲れ様です、レオール様」

 サリーが言うと、レオールはサリーを見てふっと笑みを見せる。

 その時だった。

 山が大きく揺れ、洞窟の天井が崩れだす。

 岩が出口を塞ぎ、レオール達のいる場所も崩れ始めた。

「これは、まずい!」

 焦るレオールの前でエルキデスはため息をつく。

「ワシが目覚めて山を支えていた結界が無くなり、崩れ始めたのだろう」

 レオールは汗を滲ませながら、冷静なエルキデスを見る。

「このままでは生き埋めだ! 魔王! お前の魔力で外に転移させろ!」

 鬼気迫る表情で言われたエルキデスは「よかろう」と言って指を鳴らした。
 その瞬間、レオール達の姿はその場から消え去り、直後に天井が落ちた。


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 空にはとても厚い雲が広がり、太陽の光は遮られていた。
 曇り空の下には、ひとつの山がある。
 ゴツゴツとした岩が集まるその山は、生き物が入って来る事を拒むような雰囲気に包まれていた。
 そんな山の中ほどにある洞窟の中で、一人の男がとある儀式を行おうとしている。
 赤い瞳で、肌は白く、白い髪の先は赤い。
 洞窟の最奥に作った祭壇に、白髪の男は金色の杯を置く。
 そしてその杯の上に手をかざすと、自分の手に短剣を押し当てた。
 杯の中に血が滴る。
 男は手を引き、傷口に布を押し当てた。
「レオール様」
 女の声がして、男、レオールは振り向く。
「サリーか」
 レオールが声を掛けると、サリーと呼ばれた金髪の女は地面に膝をつきレオールを見上げる。
 サリーの背中には白い翼があった。
 その姿はまるで天使のようである。
「とうとう、動くのですね」
 サリーがそう言うと、レオールは頷く。
「サリー、無理に付き合うな……この復讐はオレ個人のものだ、それに、死ぬかもしれない」
 レオールが言うと、サリーは青い瞳でレオールをじっと見つめる。
「レオール様、私は今までも、これから先も、ずっとついて行きますわ」
 サリーに言われ、レオールは苦笑した。
 自分について来るもの好きは、きっとこの世界でサリー一人だけだろうと、レオールは思う。
「わかった、後悔はするなよ」
「はい、後悔なんてしませんわ」
 サリーが微笑み、レオールは袋の中から何かを取り出す。
 それは、硬く捻れた何かの角だった。
 レオールは杯の中に角を落とし、血に濡れた手にはめた指輪に触れる。
 触れられた指輪は、ポゥと光り、レオールは息を吸い込んだ。
「復活せよ、魔王エルキデス、目覚め我が配下となれ!」
 大きな声でレオールが言うと、山が震え出す。
 指輪が強く光を放ち、杯が浮き上がった。
 洞窟が今にも崩れてしまいそうな程に山が揺れ、サリーは両手を地面についた。
 すると祭壇が崩れ、黒い霧が噴き出す。
 その霧に触れたサリーは、言葉にならない圧迫感に襲われ、息をするのも苦しく感じた。
 しかし、レオールは霧に包まれても表情ひとつ変えはしない。
 黒い霧が薄れていくと、壊れた祭壇の所に片方の角しかない影が現れる。
「やったか?」
 レオールが呟くと、影がレオールに近付いて来た。
 その影は小さく、レオールの眉がぴくりと動く。
 霧が晴れると、そこには子どもがいた。
 青白い肌に長い青い髪、角が二本あるが片方の角は折れてしまっている。
 漆黒の瞳をもつ少年は、レオールを見上げるなり、眉間にシワを寄せた。
「何の冗談だ?」
 少年に聞かれ、レオールの体が震える。
「ま、まさか、魔王エルキデスか?」
 安定しない声色でレオールが問い掛けると、少年は「そうだが」と返して来た。
 レオールががくりと膝から崩れ落ちる。
「よくもこんな姿で復活させてくれたな」
 エルキデスは、地面に手をついてがっくりとしているレオールに近付いていく。
 サリーが慌ててレオールの前に立った。
「貴方様がこのような姿で復活してしまったのは、想定外なのです! 決して貴方様を愚弄したいわけではありませんわ!」
 そう言ったサリーをエルキデスは睨む。
 その眼光は鋭く、睨まれたサリーの肌が粟立った。
「ワシを復活させるのに、少ない魔力で儀式を行った……この程度の魔力で、ワシが完全に復活できるとでも? 軽く見られたものだな」
 エルキデスが言うと、レオールは立ち上がり、サリーを自分の後ろにやる。
「魔力が少なかった事は謝る、だが、魔力さえ集まれば大人に戻れるのだろう? お前が完全復活できるよう、オレが魔力を集める」
 エルキデスの圧にも怯まず、レオールが言うと、エルキデスは眉間のシワを無くし、レオールをまじまじと見つめた。
 そしてエルキデスは「ふむ」と呟く。
 全く怯む様子も無く、堂々としたレオールの姿に、エルキデスは少しの興味をもった。
 自分でも体だけでなく、精神まで子どもに戻ってしまったのかと疑うほどに、好奇心が湧き出して来る。
 エルキデスはにっと笑う。
「なるほど、それで、なぜワシを復活させた?」
 エルキデスは腕を組み、レオールの目を見た。
「……復讐を手伝ってもらう」
 返したレオールの言葉に、エルキデスは目を丸くし、そのあと「ククク」と笑う。
「このワシを、魔王を、復讐の道具にするつもりか」
 肩を震わせながらエルキデスが言うと、レオールは自分の服の袖をまくりあげ、エルキデスに見せる。
「選択権はない、オレとお前はすでに主従関係だ」
 レオールの腕には、不思議な模様が刻まれていた。
 それを見たエルキデスは目を見開き、自分の袖をまくる。
 腕には、レオールと同じ模様があった。
 エルキデスはそれを確認すると、レオールの方に視線を向ける。
 そして、微笑んだ。
「……魔王を使役するか、面白い……いいだろう、上手くワシを使えよ?」
 エルキデスはそう言うと、からからと笑う。
 サリーはほっとした様子を見せた後、レオールの隣に立ち、傷ついた手に触れる。
 するとレオールの手にあった深い傷が消えた。
「お疲れ様です、レオール様」
 サリーが言うと、レオールはサリーを見てふっと笑みを見せる。
 その時だった。
 山が大きく揺れ、洞窟の天井が崩れだす。
 岩が出口を塞ぎ、レオール達のいる場所も崩れ始めた。
「これは、まずい!」
 焦るレオールの前でエルキデスはため息をつく。
「ワシが目覚めて山を支えていた結界が無くなり、崩れ始めたのだろう」
 レオールは汗を滲ませながら、冷静なエルキデスを見る。
「このままでは生き埋めだ! 魔王! お前の魔力で外に転移させろ!」
 鬼気迫る表情で言われたエルキデスは「よかろう」と言って指を鳴らした。
 その瞬間、レオール達の姿はその場から消え去り、直後に天井が落ちた。