EX.お母さんとのやり取りと桜のプレゼント
ー/ー「もー家帰ってきてすぐにプリプリしなくてもいいでしょ」
「だってぇー」
私はとりあえずお母さんに怒った。理由は当然、チョコを渡すことを玲華にバラしていたからだ。
「お母さんは、玲華ちゃんのためにチョコを作ってるとしか言ってない。生チョコを作ってその時に告白するよとは一言も言ってないよ?」
お母さんの言う通りでしかなく、何も言い返せない。それをわかっててお母さんはのんびりとソファーでくつろぎながら、隣に座る私の頭をそっと何度も撫でてくる。
「あやちゃんが怒っているのは、サプライズ感を無くされたってことよね?」
「んー。多分、そう」
「じゃあ、あやちゃんから今度はこれをお願いしたら?」
何を言うかわからないけど、耳を貸した。
終業式が終わって一週間ほど。三月の末日で桜は満開。隣町の桜が綺麗だと評判の公園は、平日の昼間なのに人がいっぱいで、ピクニックをする家族やカップルどころか、夜の花見の為の場所取りまでもが行われている。そのせいで、私達の場所を探すのが相当大変だった。なんとか見つけられて、やっとお昼ご飯を食べられる。
「お腹すいちゃったー」
玲華は頭上の桜見上げながら呟く。
「そうよねー。朝十時から来たのにこれだけ人いたら、時間かかるのも当然よね」
疲れが押し寄せてきたので、大きく息を吐いてごまかした。この天城公園が人気なのは知っていたから、早め早めと思って計画を建てた。私が初デートは天城公園と言ったから、事前に色々調べてこの時間なら混まないはずと思って計画を組んだ。けど、行きのバスに乗った時点で想像以上におしくらまんじゅうだったし、聞いていないレベルで人が多かった。着いてから、この人だかりが最近有名なインフルエンサーにこぞって紹介されていたと言うのを知った。
知ったところでできることは何もないけど。そのお陰で玲華が屋台のご飯に釣られることがなかった。人が多過ぎて屋台にたどり着くことすら困難だったからだ。空腹と言うスパイスがあるから、あとは私の腕次第だ。
ごちゃごちゃ考えている私を他所に、玲華は頭上と付近の桜に目をやっているようだ。
「人混みから離れたところに、よくこんな穴場があったもんだねー」
玲華は背伸びをした。同じように疲れているみたいだ。
「そうね。私たちの為だけに用意されたって感じがするわね。離れているから、目玉の池の噴水はちょっと見えにくいのよねぇ。後ろは駐車場だし」
私がちょこっと愚痴を言うと、玲華は私の方に寄ってきた。
「けど。二人きりの世界って思ったら、むしろいい場所だなぁって感じる。彩乃ちゃんはどう?」
そんなキラキラした目と顔で見つめてくるのは反則すぎる。顔が熱くなって答えが出て来ないし、目を合わせられない。そんな私を見て、玲華はクスクスと笑い出した。
「付き合って一ヶ月経つのに変わらないねー」
「な、なによっ。別に悪くないでしょっ。ゆっくりでもいつかはちゃんと目を見てあげるんだから!」
「うーん、そうだね。ゆっくりでいいや」
玲華は正面の方向に見える桜並木の方を向き直した。その直後に玲華からぐぅぅぅと大きなお腹の声が聞こえた。
「あ、ごめーん。もうちょっと限界っぽい」
「わかったわ。お弁当を出すね」
大きいバックから、二つのカラフルな使い捨ての弁当箱を取り出した。玲華用が青で私が赤色。中身はどっちも一緒だけど。
「わー! 美味しそう!」
玲華の声は明るい。素直な子だから、見た目は本当にいいんだろうと思う。朝四時に起きて、二、三時間頑張ったんだから見た目くらいは完璧なはず。あとは、味だけ。玲華はいただきますと元気よく言って弁当を開けて卵焼きに手をつけた。私は目を閉じて祈る。
「うん! 甘いけど、深みのある味がして美味しい!」
咀嚼を終えた玲華の評価は、美味しいだった。他のミニハンバーグやきんぴらごぼうにも手をつけるがどれも美味しいと言ってくれる。この為に、バレンタインデーの後から一ヶ月お母さんに料理を徹底的に教えてもらった。最初はうまく割れなかった卵も片手で割れるし、二つの作業を並行してできるようになった。頑張った甲斐があったと初めて思えた。
「彩乃ちゃんありがとう! 本当に美味しいよ!」
目がキラキラしているし、箸も進んでいて美味しいってのが一瞬でわかる。あの日から喜怒哀楽――特に喜と楽を――をより強く出してくれるから、見ていて楽しくなってくる。
「玲華がそんなに喜んでくれるのが、満開の桜を見れたことより嬉しいかも」
私み思ったことを呟いてみる。一気には変えられないけど、少しずつはちゃんと好きを出せているはず。そう信じている。そう考えながら、桜を眺めている時だった。
「こんなに美味しいご飯を作ってくれたから、ちょっとだけお返ししたいな」
そう言って、私に近寄ってくる。私は予想外過ぎて動けない。動けない私の腰と肩に手をやってそして、唇を奪ってくれた。
「キス、してなかったししたくなっちゃったから」
「ちゃ、ちょ、その、嬉しいけど、いきなりされるとびっくりしてちょっと動けなくなっちゃうから、もう少しの間はワンクッション置いて」
「ごめん。次から気をつけるねぇ」
イタズラがバレた少年みたいな顔をしている。顔は女の子なのに、こう言う言動がたまにあるから、頭がバグってしまう。これは慣れていこう。慣れれば簡単に幸せな感覚を浴びれるはずだから。私は精神面でもちゃんと成長しようと決めた。今後頑張ることを決めている間に、玲華小さく縦長の箱を取り出していた。
「それは、なに?」
「これは渡せなかったホワイトデーのなんだけど……目を瞑ってて。キスとかはしないから」
玲華に言われた通りに目を瞑る。ホワイトデーのお返しで目を瞑ってて。キスでもない。何を渡すんだろうか。と考えていたら手h首に何か細い線がかけられたのを感じた。
「目、開けて」
目を開いて、その細い線を確認する。それはハートとハートで繋がったピンクのブレスレットだった。
「え、えっと。そのブレスレットを贈る意味は束縛って意味もあるらしいけど、そうじゃなくて、そのあなたのそばに一緒に居たいって方の意味だから。だから、そう言うことっ」
照れて目を逸らす玲華に、私は急にキュンとときめいてしまった。そのまま玲華を抱き寄せる。玲華は少し息を荒くして私を見ている。私も玲華と目を合わせて、口を合わせる。二回目のキスは桜のそよ風の匂いと、卵焼きの味を確かに感じた。
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