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 そこにいる誰もが、その光景に釘付けだった。

 空から降りかかる巨大な水の刃。放たれる異質で異常な魔力量が、その魔法の破壊力を悠然と物語った。感じたのは『死』。直感が警告する。だが、それすらも無意味にするほど、ウミストラの魔法は強力すぎた。逃げ場などどこにもない。すべてを諦めた者たちを前に、ただ一人の魔法使いだけは、恐怖をものともせずにその魔法に立ち向かった。

 死の気配が遠ざかり、胸を撫で下ろしたのもつかの間だった。次の瞬間、背筋を伝ったのは恐ろしさでも、死の気配でもなかった。

(ほろ)び』だ――。

 ()()がウミストラの魔法に向けられたものであったことを確認して、一堂はひとまず心を休ませた。
 死など生温くすら感じる、悍ましい気配を放つ焔の魔法は、連鎖するようにバチバチと燃え上がり、ウミストラの魔法に喰らいつく。まるで、獲物を捕食する獣のように、なんの躊躇いもなく、余すことなく糧とするように喰らう。


「……ははっ。なんだそれ、意味わかんない……なんでもありかよ……」


 やがて、ウミストラの放った『雨叫けぶ嵐の禍(トルメンタ・デル・マール)』をすべて喰らい尽くし、風と共に夜に消えていく。残ったのはポツポツと優しく肩を濡らす雨だけだった。


「あぁ――」


 同じ年齢、同じ志しを持った、同じ魔法使い。それなのに、まだこんなにも遠い。背中を追うことすらできず、その差をまざまざと見せつけられる。目を逸らしたくなる現実から、ウミストラは逃げなかった。


「君には敵わないな……」


 限界を超えて、もう倒れてしまいたいと思う。諦めてしまえば、もう痛い思いも、辛い思いもしないだろう。楽だろう。


(でも、()()は要らないんだ)


 だからこそ、ウミストラは最後まで立ち向かうのだ。痛くて、苦しくて、辛くて、険しい道を進むと決めた。


(弱いままの自分は、もう嫌だ!)


 拳を握りしめて、ウミストラは()を見る。ゆっくりと、一歩ずつ、自分がまだ立てていることを確かめるように歩く。笑ってしまうくらい思い通りに動かない脚で一歩ずつ、確実に進んでいく。
 旭はそれをただじっと眺めているだけだった。まるで、ウミストラが自分の元まで辿り着くのを待っているかのように、声も出さず、近づくこともせず、ただじっとウミストラを見つめている。

 そして、長いような、短いような時間が流れ、ウミストラは旭に手が届く距離まで近づいた。

 近づいて、思い切り、最後の力を振り絞って振り抜いた拳は――


「よくやったな、ウミストラ」


 ぱすっと、気の抜けるような音を立てて落ちていく。止められるまでもなく、旭の腹部にわずかな爪痕を立てて、ウミストラの意識は消えかけていった。


「せめて、最後は……君の手で、終わらせてくれよ旭」

「あぁ。歯ぁ食いしばれよ」

「ははっ……耐えてみせるよ……」


 言葉通り、旭は持てる力すべてでウミストラに渾身の一撃を叩き込んだ。腹部よりも少し上、鳩尾を確実に捉えた打撃は、ウミストラの消えかけてきた意識を消し去り、崩れるように倒れていく。

 雨は、もう止んでいた。


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 そこにいる誰もが、その光景に釘付けだった。
 空から降りかかる巨大な水の刃。放たれる異質で異常な魔力量が、その魔法の破壊力を悠然と物語った。感じたのは『死』。直感が警告する。だが、それすらも無意味にするほど、ウミストラの魔法は強力すぎた。逃げ場などどこにもない。すべてを諦めた者たちを前に、ただ一人の魔法使いだけは、恐怖をものともせずにその魔法に立ち向かった。
 死の気配が遠ざかり、胸を撫で下ろしたのもつかの間だった。次の瞬間、背筋を伝ったのは恐ろしさでも、死の気配でもなかった。
『|滅《ほろ》び』だ――。
 |あ《・》|れ《・》がウミストラの魔法に向けられたものであったことを確認して、一堂はひとまず心を休ませた。
 死など生温くすら感じる、悍ましい気配を放つ焔の魔法は、連鎖するようにバチバチと燃え上がり、ウミストラの魔法に喰らいつく。まるで、獲物を捕食する獣のように、なんの躊躇いもなく、余すことなく糧とするように喰らう。
「……ははっ。なんだそれ、意味わかんない……なんでもありかよ……」
 やがて、ウミストラの放った『|雨叫けぶ嵐の禍《トルメンタ・デル・マール》』をすべて喰らい尽くし、風と共に夜に消えていく。残ったのはポツポツと優しく肩を濡らす雨だけだった。
「あぁ――」
 同じ年齢、同じ志しを持った、同じ魔法使い。それなのに、まだこんなにも遠い。背中を追うことすらできず、その差をまざまざと見せつけられる。目を逸らしたくなる現実から、ウミストラは逃げなかった。
「君には敵わないな……」
 限界を超えて、もう倒れてしまいたいと思う。諦めてしまえば、もう痛い思いも、辛い思いもしないだろう。楽だろう。
(でも、|そ《・》|れ《・》は要らないんだ)
 だからこそ、ウミストラは最後まで立ち向かうのだ。痛くて、苦しくて、辛くて、険しい道を進むと決めた。
(弱いままの自分は、もう嫌だ!)
 拳を握りしめて、ウミストラは|敵《・》を見る。ゆっくりと、一歩ずつ、自分がまだ立てていることを確かめるように歩く。笑ってしまうくらい思い通りに動かない脚で一歩ずつ、確実に進んでいく。
 旭はそれをただじっと眺めているだけだった。まるで、ウミストラが自分の元まで辿り着くのを待っているかのように、声も出さず、近づくこともせず、ただじっとウミストラを見つめている。
 そして、長いような、短いような時間が流れ、ウミストラは旭に手が届く距離まで近づいた。
 近づいて、思い切り、最後の力を振り絞って振り抜いた拳は――
「よくやったな、ウミストラ」
 ぱすっと、気の抜けるような音を立てて落ちていく。止められるまでもなく、旭の腹部にわずかな爪痕を立てて、ウミストラの意識は消えかけていった。
「せめて、最後は……君の手で、終わらせてくれよ旭」
「あぁ。歯ぁ食いしばれよ」
「ははっ……耐えてみせるよ……」
 言葉通り、旭は持てる力すべてでウミストラに渾身の一撃を叩き込んだ。腹部よりも少し上、鳩尾を確実に捉えた打撃は、ウミストラの消えかけてきた意識を消し去り、崩れるように倒れていく。
 雨は、もう止んでいた。