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旭日麗血

ー/ー



 本来のウミストラの戦闘スタイルは、『水創の円環(アニージョ・クレアクシオン)』で魔力の尽きる限り創成される水を操り相手を追い詰める型である。それは、無尽蔵とも言えるほど莫大なウミストラのま力と、その精密な魔力操作精度によって成り立っているものだ。


(くそ……純水じゃないせいで上手く操れない……)


 ウミストラの扱う『水の魔法』は子どもでも努力すれば使える程度の基礎的な魔法だ。多少の拡張性はあれど、水の魔法の基本は()()()()()()である。
 咄嗟に機転を利かせ、旭の左肩を穿ったまでは良かったものの、血の棘は数秒と持たずに自壊した。それも当然、水の魔法は血を操ることを想定されていないからだ。それを一瞬でカバーできるほどの能力もウミストラは持ち合わせていなかった。

 まだズキズキと警鐘を鳴らすように痛む腹部を押さえつけ、ウミストラは必死に立ち上がる。痛みで得意の魔力操作も不安定で定まらない。視界が歪み、立っているのもやっとだった。


(痛い……苦しい……終わりにしたい……)


 そんな泣き言ばかりが思考を妨げる。朦朧とする意識を必死に保つも、限界が来たらしく、ウミストラは無抵抗に地面へと倒れていく。片膝をついて完全には倒れ込んでいないものの、それも時間の問題だろう。
 思考と反して、まだ立ち上がろうとする身体が理解できなかった。よくやったはずだ。出し切ったはずだ。もうここが限界だ。


 本当に?

 ウミストラの心の奥で本能が囁く。

 これが全力か?

 まだ闘えると昂り猛る。

 これが全部か?

 まだ終われないと叫んでいる。


(あぁ……そうだ、そういえば――)


 朦朧する意識を掴もうとして研ぎ澄まされた全神経と、失血と昂りで明瞭になった思考。目の前が真っ白になって、走馬燈のように記憶が過ぎる。

 追憶する。

 それは、ヴェーノス・ウミストラの原点。その物語が始まった瞬間の記憶。なぜウミストラが、魔法使いを目指したのか、その夢の背景。過去の追想。
 挫折と後悔。そして、復讐を宿した少年の物語。

 ウミストラ家は魔法使いの間では名の知れた家系だった。とある理由から、その名を聞けば全幅の信頼と信用を置かれるほど、ウミストラの名は大きかった。それは、魔法使いにとっては珍しく、そして、ウミストラの名を持つ魔法使いに例外なくその特徴があったからであった。

 ウミストラの魔法使いは精霊魔法使い。

 それが、ほとんどの魔法使いたちの共通認識だった。ウミストラの魔法使いはみな、一柱、あるいは複数の精霊と契約し、精霊魔法を用いて戦うスタイルであると、誰もが認識していた。ある者は火の下位精霊を従え、またある者は風の上位精霊を従えて戦う。
 普通の魔法使いにとっては、精霊との契約は趣味に近い。自身に充てる魔力だけではなく、精霊にもパスを繋げて魔力を供給することは、ほとんどの魔法使いにとってはマイナスにしかならない。そのマイナスをかき消すほどの精霊と契約することも、一般的には不可能に近い。
 だが、ウミストラ家はそれを可能にさせた。受け継がれてきた遺伝によって並以上の桁外れた魔力を有する子どもを産み、契約の更新によって上位精霊を先祖代々繋いでいくことによって、ウミストラ家は精霊魔法使いの家系として歴史を紡いできた。


 ただ、一人の例外を除いて――


 そんな中生まれたヴェーノス・ウミストラは大きく、重すぎる期待を背負って成長した。ウミストラ家の精霊魔法使いとして、強く、その名を高く響かせよと、何度も言われて育ってきた。

 だが、ヴェーノス・ウミストラに従う精霊は誰もいなかった。


(だから僕は見捨てられた……ウミストラとしての責務を果たせない者に、ここにいる価値はないと……)


 それからのウミストラの人生は、言ってしまえば復讐に近いものだった。自分を見捨てた家族たちを見返すため、精霊魔法使いではなくとも、誰よりも強くなると心に誓い、日々鍛錬を続けてきた。幸い、血筋だけは受け継がれていたのか、誰にも負けない魔力量だけはあった。
 そうして、ウミストラは目的も意志も決意も見失って、ただ闘いの愉悦だけに浸っていた。何もかもから目を逸らして、やりたいようにやるのが心地よかったから。

 ゆっくりと、震える身体を動かして、ウミストラは立ち上がる。


(それなのに、君たちが僕を『ウミストラ』と呼んでくれること、それがどれだけ嬉しかったか)


 アリシアやウミストラ、ダモクレスのような名家の生まれである者は、その強さと歴史に敬意を表し、名ではなくラストネームで呼ぶことがマナーとして知られている。特に仲のいい友人同士や、家族内ではない限り、名前で呼ばれることは少ない。
 ウミストラもまた、そのマナーに則って旭たちからはラストネームで呼ばれている。ウミストラ本人は、その誇りと名誉を持たざる者として拒否したが、当然のように旭たちに断られてしまった。


(あぁ、嬉しかったんだよなぁ!……)


 だから、その期待を裏切ることはできない。

 ウミストラは再び立ち上がる。一度は捨てた誇りと、今手に入れた勇気を手にして。


(トルリーンは魔力切れになるまで闘った……彼女は本当にすべてを出し尽くして闘い抜いたんだ……)


 もうやりたいこと、やるべきことははっきりしていた。必要なのは覚悟だけだった。


「いくぞ、旭……! これが、僕の全力だ!」


 蒼き決意が今、覚醒する――


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 本来のウミストラの戦闘スタイルは、『|水創の円環《アニージョ・クレアクシオン》』で魔力の尽きる限り創成される水を操り相手を追い詰める型である。それは、無尽蔵とも言えるほど莫大なウミストラのま力と、その精密な魔力操作精度によって成り立っているものだ。
(くそ……純水じゃないせいで上手く操れない……)
 ウミストラの扱う『水の魔法』は子どもでも努力すれば使える程度の基礎的な魔法だ。多少の拡張性はあれど、水の魔法の基本は|水《・》|を《・》|操《・》|る《・》|こ《・》|と《・》である。
 咄嗟に機転を利かせ、旭の左肩を穿ったまでは良かったものの、血の棘は数秒と持たずに自壊した。それも当然、水の魔法は血を操ることを想定されていないからだ。それを一瞬でカバーできるほどの能力もウミストラは持ち合わせていなかった。
 まだズキズキと警鐘を鳴らすように痛む腹部を押さえつけ、ウミストラは必死に立ち上がる。痛みで得意の魔力操作も不安定で定まらない。視界が歪み、立っているのもやっとだった。
(痛い……苦しい……終わりにしたい……)
 そんな泣き言ばかりが思考を妨げる。朦朧とする意識を必死に保つも、限界が来たらしく、ウミストラは無抵抗に地面へと倒れていく。片膝をついて完全には倒れ込んでいないものの、それも時間の問題だろう。
 思考と反して、まだ立ち上がろうとする身体が理解できなかった。よくやったはずだ。出し切ったはずだ。もうここが限界だ。
 本当に?
 ウミストラの心の奥で本能が囁く。
 これが全力か?
 まだ闘えると昂り猛る。
 これが全部か?
 まだ終われないと叫んでいる。
(あぁ……そうだ、そういえば――)
 朦朧する意識を掴もうとして研ぎ澄まされた全神経と、失血と昂りで明瞭になった思考。目の前が真っ白になって、走馬燈のように記憶が過ぎる。
 追憶する。
 それは、ヴェーノス・ウミストラの原点。その物語が始まった瞬間の記憶。なぜウミストラが、魔法使いを目指したのか、その夢の背景。過去の追想。
 挫折と後悔。そして、復讐を宿した少年の物語。
 ウミストラ家は魔法使いの間では名の知れた家系だった。とある理由から、その名を聞けば全幅の信頼と信用を置かれるほど、ウミストラの名は大きかった。それは、魔法使いにとっては珍しく、そして、ウミストラの名を持つ魔法使いに例外なくその特徴があったからであった。
 ウミストラの魔法使いは精霊魔法使い。
 それが、ほとんどの魔法使いたちの共通認識だった。ウミストラの魔法使いはみな、一柱、あるいは複数の精霊と契約し、精霊魔法を用いて戦うスタイルであると、誰もが認識していた。ある者は火の下位精霊を従え、またある者は風の上位精霊を従えて戦う。
 普通の魔法使いにとっては、精霊との契約は趣味に近い。自身に充てる魔力だけではなく、精霊にもパスを繋げて魔力を供給することは、ほとんどの魔法使いにとってはマイナスにしかならない。そのマイナスをかき消すほどの精霊と契約することも、一般的には不可能に近い。
 だが、ウミストラ家はそれを可能にさせた。受け継がれてきた遺伝によって並以上の桁外れた魔力を有する子どもを産み、契約の更新によって上位精霊を先祖代々繋いでいくことによって、ウミストラ家は精霊魔法使いの家系として歴史を紡いできた。
 ただ、一人の例外を除いて――
 そんな中生まれたヴェーノス・ウミストラは大きく、重すぎる期待を背負って成長した。ウミストラ家の精霊魔法使いとして、強く、その名を高く響かせよと、何度も言われて育ってきた。
 だが、ヴェーノス・ウミストラに従う精霊は誰もいなかった。
(だから僕は見捨てられた……ウミストラとしての責務を果たせない者に、ここにいる価値はないと……)
 それからのウミストラの人生は、言ってしまえば復讐に近いものだった。自分を見捨てた家族たちを見返すため、精霊魔法使いではなくとも、誰よりも強くなると心に誓い、日々鍛錬を続けてきた。幸い、血筋だけは受け継がれていたのか、誰にも負けない魔力量だけはあった。
 そうして、ウミストラは目的も意志も決意も見失って、ただ闘いの愉悦だけに浸っていた。何もかもから目を逸らして、やりたいようにやるのが心地よかったから。
 ゆっくりと、震える身体を動かして、ウミストラは立ち上がる。
(それなのに、君たちが僕を『ウミストラ』と呼んでくれること、それがどれだけ嬉しかったか)
 アリシアやウミストラ、ダモクレスのような名家の生まれである者は、その強さと歴史に敬意を表し、名ではなくラストネームで呼ぶことがマナーとして知られている。特に仲のいい友人同士や、家族内ではない限り、名前で呼ばれることは少ない。
 ウミストラもまた、そのマナーに則って旭たちからはラストネームで呼ばれている。ウミストラ本人は、その誇りと名誉を持たざる者として拒否したが、当然のように旭たちに断られてしまった。
(あぁ、嬉しかったんだよなぁ!……)
 だから、その期待を裏切ることはできない。
 ウミストラは再び立ち上がる。一度は捨てた誇りと、今手に入れた勇気を手にして。
(トルリーンは魔力切れになるまで闘った……彼女は本当にすべてを出し尽くして闘い抜いたんだ……)
 もうやりたいこと、やるべきことははっきりしていた。必要なのは覚悟だけだった。
「いくぞ、旭……! これが、僕の全力だ!」
 蒼き決意が今、覚醒する――