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ep.97 人形惨歌2

ー/ー



「鏡見る? 人殺しそうな顔してるで、自分」

「結構よ」

「そうピリピリしなさんなや。俺は別にお前さんと喧嘩しに来たんちゃうし。ただ、しょうみ非情に振り切れるんか思うてな。あの肉玩ちゃんに情でも移うてしもたんか心配なだけやねん。お前さんのアレ、模倣品やろ? 足元、掬われるで」

 模倣品。理外の壁(アドベントフィールド)のことだろう。あたしは異能(アクト) 人形祭典『La marionette festival』の他にももう一つ武器を持っている。
 それがこの世の事象とは別の理に踏み込み干渉することの出来る第二事象(セカンドオーダー)という力だ。呼び方は第二事象(だいにじしょう)でも第二事象(セカンドオーダー)でもどちらでも好きに呼べばいい。

 ここで第二事象について簡単に解説する。
 この世で起きる森羅万象全てを含め、この世のあらゆる事柄を総称して事象(オーダー)と呼ぶ。
 例えば歩くという行為も、地に足をつけて体を動かすという行為の上で成り立つ事象だ。お腹を殴られれば痛いし、より強い力で殴られれば嘔吐、さらに強い力で殴られれば気絶してしまうだろう。
 つまり、当たり前の行為の上に成り立つ結果を事象と呼ぶ。枝分かれした先にどういった結果が待っているか、箱を開けてみなければ誰にも分からないが、予測という形で観測も出来る。

 これまで様々な学者が法則というものを生み出してきた。世界はこれらに則って存在している。これが正しい在り方。事象であり、秩序(オーダー)というわけだ。
 しかし、この世界はその秩序とは別に、もう一つの秩序が存在している。それが今この世界で多くの人間が何の気もなしに行使している異能(アクト)だ。この世の理では図ることの出来ない異質の秩序。そう、異能(アクト)とは第二事象のことなのだ。
 元は第二事象の力だとしても異能(アクト)はこの世界の理、つまり第一事象(ファーストオーダー)の秩序の下行使される。だから異能(アクト)を扱うときに顕現と呼ばれるわけだ。

 炎を扱う異能(アクト)であれば現代における法則と同じで、酸素が必要だから真空状態では燃えることはないし、(さんそ)が吹き付けられればよりその姿を大きくする。これは水でも氷でも雷でも同じことだ。
 そもそも顕現していないのであれば、そこに在ったとしても目視も出来ないし、触れることもできないだろう。あたしたちにも観ることが出来ないから真偽は定かじゃないけど。

 互いは不可侵。普通に過ごしていれば絶対に干渉することなどなく、生まれて死を迎えるだけだった。それがあの英雄変革(アドベントシフト)で繋がったのだ。
 もし仮にこの第一事象でもあるこの世界に、第二事象の理を持ち込むことが出来るのであれば、それらは交わることなく重なるという矛盾した結果が生まれ、絶対不可侵領域として顕現する。それは何人も通さず拒絶する不可侵の壁。
 あたしがあの狐の子に披露して見せたのはその真似事。
 あたしの理外の壁(アドベントフィールド)第二事象(セカンドオーダー)を引っ張ってくるのではなく、限りなく近い物を創り出す力である。この世界(ファーストオーダー)に第二事象という空間を無理やり創り出す。だから時矢は模倣品と言ったわけだ。癪に障るが的を射ている。

「情が移るなんて素敵な事じゃない? すっごく人間っぽくて。それに人が人を愛でるのに理由なんていらないでしょ? 容姿が好きとか、声が好きとか、そんな理由付けってあたしはすごく浅く思えちゃうのよね」

「浅いか深いかは知らんけど。まあ心配いらんゆうことなら別にええわ。せや、リベルレギオンのロニーっちゅう奴には気を付けたほうがええで。あいつら秘密集団かなんか知らんけどあんま情報は回っとらんし、俺もちゃんとした忠告は出来ひんけどな」

「ご忠告どうも。けどあたしには可愛い人形たちがいる。心配はご無用よ」

 そう言ってあたしは両小指と親指を動かす。

「っ!」

「ええ。手え出すなや」

 あたしの小さすぎる所作に反応して、カナが何かしようとしたらしいけど、時矢がそれを制止した。なるほど、よく視ている。
 糸で映し出された風景が世界ごと罅割れるように歪み。その正体を露にさせる。あたしは予め景色と同じ色の糸で繭をいくつも作っておいたのだ。
 余談だが張り巡らしていた糸も、透明度を少し落として注意をそちらに向けるためのブラフである。仮にあのまま踏み込んできていたのなら、そのまま細切れにしていたところだ。あのカナという女はそこまで気が付いていなかったようだがこの男。とことんに食えない奴だ。

「ほお、目の錯覚ちゅーやつかいな。まるでマジシャンやな」

「マジシャンなんて似非紛いと一緒にしないでくれる? あたしのは()()()()よ?」

 仕込んでいた人形は四体。そのうちの二体の囲んでいた糸を解いた。人形といっても操り人形みたいなカクカク動く出来損ないじゃない。
 フランス人形から着想を得た、自立して動き、所作は人間らしく、状況判断を行うことが出来る、剣と槍を携えた頼もしい人形兵だ。

「けど、ええんか? ここでやるっちゅー事は死人が出るっちゅーことやで?」

「ええ、今確信した。アナタはいつかあたしの寝首を掻く。不安の種は花を咲かせる前に摘み取るに限る」


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「鏡見る? 人殺しそうな顔してるで、自分」
「結構よ」
「そうピリピリしなさんなや。俺は別にお前さんと喧嘩しに来たんちゃうし。ただ、しょうみ非情に振り切れるんか思うてな。あの肉玩ちゃんに情でも移うてしもたんか心配なだけやねん。お前さんのアレ、模倣品やろ? 足元、掬われるで」
 模倣品。|理外の壁《アドベントフィールド》のことだろう。あたしは|異能《アクト》 人形祭典『La marionette festival』の他にももう一つ武器を持っている。
 それがこの世の事象とは別の理に踏み込み干渉することの出来る|第二事象《セカンドオーダー》という力だ。呼び方は|第二事象《だいにじしょう》でも|第二事象《セカンドオーダー》でもどちらでも好きに呼べばいい。
 ここで第二事象について簡単に解説する。
 この世で起きる森羅万象全てを含め、この世のあらゆる事柄を総称して|事象《オーダー》と呼ぶ。
 例えば歩くという行為も、地に足をつけて体を動かすという行為の上で成り立つ事象だ。お腹を殴られれば痛いし、より強い力で殴られれば嘔吐、さらに強い力で殴られれば気絶してしまうだろう。
 つまり、当たり前の行為の上に成り立つ結果を事象と呼ぶ。枝分かれした先にどういった結果が待っているか、箱を開けてみなければ誰にも分からないが、予測という形で観測も出来る。
 これまで様々な学者が法則というものを生み出してきた。世界はこれらに則って存在している。これが正しい在り方。事象であり、|秩序《オーダー》というわけだ。
 しかし、この世界はその秩序とは別に、もう一つの秩序が存在している。それが今この世界で多くの人間が何の気もなしに行使している|異能《アクト》だ。この世の理では図ることの出来ない異質の秩序。そう、|異能《アクト》とは第二事象のことなのだ。
 元は第二事象の力だとしても|異能《アクト》はこの世界の理、つまり|第一事象《ファーストオーダー》の秩序の下行使される。だから|異能《アクト》を扱うときに顕現と呼ばれるわけだ。
 炎を扱う|異能《アクト》であれば現代における法則と同じで、酸素が必要だから真空状態では燃えることはないし、|風《さんそ》が吹き付けられればよりその姿を大きくする。これは水でも氷でも雷でも同じことだ。
 そもそも顕現していないのであれば、そこに在ったとしても目視も出来ないし、触れることもできないだろう。あたしたちにも観ることが出来ないから真偽は定かじゃないけど。
 互いは不可侵。普通に過ごしていれば絶対に干渉することなどなく、生まれて死を迎えるだけだった。それがあの|英雄変革《アドベントシフト》で繋がったのだ。
 もし仮にこの第一事象でもあるこの世界に、第二事象の理を持ち込むことが出来るのであれば、それらは交わることなく重なるという矛盾した結果が生まれ、絶対不可侵領域として顕現する。それは何人も通さず拒絶する不可侵の壁。
 あたしがあの狐の子に披露して見せたのはその真似事。
 あたしの|理外の壁《アドベントフィールド》は|第二事象《セカンドオーダー》を引っ張ってくるのではなく、限りなく近い物を創り出す力である。|この世界《ファーストオーダー》に第二事象という空間を無理やり創り出す。だから時矢は模倣品と言ったわけだ。癪に障るが的を射ている。
「情が移るなんて素敵な事じゃない? すっごく人間っぽくて。それに人が人を愛でるのに理由なんていらないでしょ? 容姿が好きとか、声が好きとか、そんな理由付けってあたしはすごく浅く思えちゃうのよね」
「浅いか深いかは知らんけど。まあ心配いらんゆうことなら別にええわ。せや、リベルレギオンのロニーっちゅう奴には気を付けたほうがええで。あいつら秘密集団かなんか知らんけどあんま情報は回っとらんし、俺もちゃんとした忠告は出来ひんけどな」
「ご忠告どうも。けどあたしには可愛い人形たちがいる。心配はご無用よ」
 そう言ってあたしは両小指と親指を動かす。
「っ!」
「ええ。手え出すなや」
 あたしの小さすぎる所作に反応して、カナが何かしようとしたらしいけど、時矢がそれを制止した。なるほど、よく視ている。
 糸で映し出された風景が世界ごと罅割れるように歪み。その正体を露にさせる。あたしは予め景色と同じ色の糸で繭をいくつも作っておいたのだ。
 余談だが張り巡らしていた糸も、透明度を少し落として注意をそちらに向けるためのブラフである。仮にあのまま踏み込んできていたのなら、そのまま細切れにしていたところだ。あのカナという女はそこまで気が付いていなかったようだがこの男。とことんに食えない奴だ。
「ほお、目の錯覚ちゅーやつかいな。まるでマジシャンやな」
「マジシャンなんて似非紛いと一緒にしないでくれる? あたしのは|ホ《・》|ン《・》|モ《・》|ノ《・》よ?」
 仕込んでいた人形は四体。そのうちの二体の囲んでいた糸を解いた。人形といっても操り人形みたいなカクカク動く出来損ないじゃない。
 フランス人形から着想を得た、自立して動き、所作は人間らしく、状況判断を行うことが出来る、剣と槍を携えた頼もしい人形兵だ。
「けど、ええんか? ここでやるっちゅー事は死人が出るっちゅーことやで?」
「ええ、今確信した。アナタはいつかあたしの寝首を掻く。不安の種は花を咲かせる前に摘み取るに限る」