第182話 昼休憩 先輩としての心配
ー/ー 昼休憩。俺たち二年生は購買に集まっていた。
「え、結局解決してないじゃない」
俺が田島と何を話したのかを説明して一番に増倉がそう言った。
それはもう、怒り半分呆れ半分みたいな顔をしていた。
他女子二人も、え、それで終わりなの? みたいな顔をしていた。
……え、いや、その、ですね。
思っていたのと違う反応に戸惑う俺。
まるでエサを与えられた魚のように口をパクパクさせる。
「まぁまぁ、条件付きだけどちゃんと本気を出すって言質は取ったんだから」
困った時の樫田。女子たちを宥めるように落ち着いた声で割って入った。
だが増倉は納得していないのだろう。不満げだった。
「樫田は杉野を甘やかしすぎ。言質を取ったって、変わってないなら意味ないじゃん」
「人が早々変わるわけないだろ」
「言いたいことは分かるけど、なら尚更、大丈夫なのかしら」
今度は椎名が心配そうな声を出す。
増倉や夏村も同じなのだろう。三人はじっと俺を見てきた。
ようやく口が回り始めた俺は、はっきりと答える。
「大丈夫だよ、田島は春大会で変わる」
「根拠は?」
「そりゃもう、俺がそう思ったから」
「「「…………」」」
あれ? なぜか女子三人から冷ややかな目で見られている?
しかも樫田たちも呆れたように俺を見ている?
「聞いた私が馬鹿だった」
夏村が頭を抱えて呟いた。
あれれー? おかしいぞー? なんかイタいやつを見るような視線を四方八方から感じるのだが。
「ま、もう信じるしかないんじゃね?」
「だねー、明日は明日の風が吹くってねー」
呆れを通り越したのかそれとも援護してくれたのか、大槻と山路がそんなことを言った。
女子たちは何も言わずに顔を見合わせる。
そして代表するかのように、増倉が口を開いた。
「結論を言えば、そうだけど……やっぱり心配は心配」
「……まぁ、だな」
「それもその通りだねー」
ストレートな心情の言葉に、大槻と山路も同意した。
再び、みんなの視線が俺へと集まった。
徐々に空気が真剣味を帯びていく。
何て言おうか悩んでいると、横にいた樫田に軽く背中を叩かれた。
「俺たちはお前に賭けたんだ。そう悩むな」
樫田の方を向くと笑顔で俺を見ていた。
その言葉の意味を、俺はすぐに理解した。
いけないな。轟先輩にも言われたじゃないか。
自分の意見を押し通すだけの力を持ちなさい! って。
俺は、考えることを止めて話し始めた。
「大丈夫だよ。田島は春大会で変わるし、俺が彼女に本気を出させる……根拠を言葉に出来るほど俺は口達者じゃないけどさ……なんつーか、イメージ出来たんだ。みんなで最高の劇を創れるって、だから!」
「もういいわ杉野……ねぇ栞?」
椎名が優しく俺の言葉を止めた。
そして増倉の方を見て、何かを投げかけた。
「分かってる。信じることも協調性ってことでしょ?」
「……根に持ってる?」
「違う。学んだの」
増倉と夏村が笑顔でそんな掛け合いをしていた。
雰囲気が緩んで穏やかになっていく。
どうやら、みんな理解してくれたようだ。
「田島のことについては決まりだな……じゃあ、池本と金子について何か話しておきたいやつはいるか」
樫田がまとめるようにそう言い、話は次の議題へと移った。
雰囲気はさっきより優しいがみんな真剣な表情になっていた。
始めに口を開いたのは夏村だった。
「池本について。順調に経験は積んでいる。けど、だからこそ本番の雰囲気を知らないことが心配」
サポート役として触れ合っているからこその心配なのだろう。
それ聞いて椎名と増倉が続けざまに意見を述べていく。
「そうね……元々の性格を考えると、少しでも緊張や不安に飲み込まれたら、きっとペースを乱すでしょうね。そこら辺はケアが必要だわ」
「私はリハでどこまで場慣れさせられるか、だと思う」
高校演劇は公演前にホールで一度リハーサルすることが出来る。それは主に音響照明の確認、大道具のバミリや役者の立ち位置確認などを行うためである。ちなみに時間は地区によって違うらしいが、我が地区は入退場含めて一時間である。
女子たちの意見を聞いて、大槻と山路が反論をする。
「分かるけど、リハは裏方優先だろ。池本は稽古で経験積めるけど、音響の金子はホールでしか出来ないことが多いんだから」
「確かにケアはしないとだけど、そこに割く時間がどれだけあるかって話だねー」
そう。二人の言っていることは間違っていない。リハーサルで一番時間をかけないといけないのは裏方だ。実際の音響照明の機材はホールにしかない。それ故裏方はほとんどぶっつけ本番の状態でやっていくようなものだ。
それを考えると、池本のことより金子の方が優先される。
「もちろんそれは分かっているわ。だから、裏方の確認が終わった後の時間を出来るだけ池本のことに時間をかけたいって話よ」
「まぁ、それはそうだな……樫田、演出家的にはリハどうするつもりなん?」
大槻が樫田に疑問を投げかける。
みんなの視線を浴びて樫田は少し考えるしぐさをする。
そして、落ち着いた様子で言い放った。
「今の話は、池本についてが軸だ。だからそれについて言うなら、特別リハで時間を割くことはしない」
その言葉に誰もが驚いた。
そしてすぐに増倉が聞いた。
「どうして?」
「簡単な話だ。リハで少し時間をかけたからって場慣れはしない。もちろんサポートしたりケアしたりするのは大切なことだが、一朝一夕で成長しないのはお前らが一番よく知っているはずだ」
断言する樫田を前に、みんな納得してしまったのだろう。
場が一気に静まり返った。
実際、俺もその通りだと思ってしまった。池本については心配や不安はある。だが、だからといって貴重なリハーサルの時間をそこに費やしても、得られるものは少ないだろう。
要はリスクとリターンの話なのだろう。
樫田は演出家として、しっかりと取捨選択をしていた。
「そして、それは金子にも言えることだ。みんな少し高望みをしていないか? 忘れるな。二人は初心者で右も左も分からないんだ。失敗しないなんてことの方が稀だと思っていいだろうな」
付け加えるようにそう言った樫田の言葉は、我に返った様な気分だった。
そうだ。二人は初心者だ。失敗して当たり前なんだ。
「……そうね。その通りだわ」
「悪い。ちょっと熱くなってた」
反省するように、椎名と大槻が謝った。
他のみんなもどこか申し訳なさそうだった。
それを感じ取ったのだろう、樫田は穏やかに笑う。
「まぁ、みんな先輩としての自覚が出てきたってことだ。良い傾向じゃないか。それにさっきも言ったが、サポート自体は必要だ。何かあれば、またこうやって集まろう」
俺たちは頷いた。
先輩としての自覚があるのかなんて分からない。
けど、それでも俺たちなりの最高の劇を創ろうと必死になっていた。
「え、結局解決してないじゃない」
俺が田島と何を話したのかを説明して一番に増倉がそう言った。
それはもう、怒り半分呆れ半分みたいな顔をしていた。
他女子二人も、え、それで終わりなの? みたいな顔をしていた。
……え、いや、その、ですね。
思っていたのと違う反応に戸惑う俺。
まるでエサを与えられた魚のように口をパクパクさせる。
「まぁまぁ、条件付きだけどちゃんと本気を出すって言質は取ったんだから」
困った時の樫田。女子たちを宥めるように落ち着いた声で割って入った。
だが増倉は納得していないのだろう。不満げだった。
「樫田は杉野を甘やかしすぎ。言質を取ったって、変わってないなら意味ないじゃん」
「人が早々変わるわけないだろ」
「言いたいことは分かるけど、なら尚更、大丈夫なのかしら」
今度は椎名が心配そうな声を出す。
増倉や夏村も同じなのだろう。三人はじっと俺を見てきた。
ようやく口が回り始めた俺は、はっきりと答える。
「大丈夫だよ、田島は春大会で変わる」
「根拠は?」
「そりゃもう、俺がそう思ったから」
「「「…………」」」
あれ? なぜか女子三人から冷ややかな目で見られている?
しかも樫田たちも呆れたように俺を見ている?
「聞いた私が馬鹿だった」
夏村が頭を抱えて呟いた。
あれれー? おかしいぞー? なんかイタいやつを見るような視線を四方八方から感じるのだが。
「ま、もう信じるしかないんじゃね?」
「だねー、明日は明日の風が吹くってねー」
呆れを通り越したのかそれとも援護してくれたのか、大槻と山路がそんなことを言った。
女子たちは何も言わずに顔を見合わせる。
そして代表するかのように、増倉が口を開いた。
「結論を言えば、そうだけど……やっぱり心配は心配」
「……まぁ、だな」
「それもその通りだねー」
ストレートな心情の言葉に、大槻と山路も同意した。
再び、みんなの視線が俺へと集まった。
徐々に空気が真剣味を帯びていく。
何て言おうか悩んでいると、横にいた樫田に軽く背中を叩かれた。
「俺たちはお前に賭けたんだ。そう悩むな」
樫田の方を向くと笑顔で俺を見ていた。
その言葉の意味を、俺はすぐに理解した。
いけないな。轟先輩にも言われたじゃないか。
自分の意見を押し通すだけの力を持ちなさい! って。
俺は、考えることを止めて話し始めた。
「大丈夫だよ。田島は春大会で変わるし、俺が彼女に本気を出させる……根拠を言葉に出来るほど俺は口達者じゃないけどさ……なんつーか、イメージ出来たんだ。みんなで最高の劇を創れるって、だから!」
「もういいわ杉野……ねぇ栞?」
椎名が優しく俺の言葉を止めた。
そして増倉の方を見て、何かを投げかけた。
「分かってる。信じることも協調性ってことでしょ?」
「……根に持ってる?」
「違う。学んだの」
増倉と夏村が笑顔でそんな掛け合いをしていた。
雰囲気が緩んで穏やかになっていく。
どうやら、みんな理解してくれたようだ。
「田島のことについては決まりだな……じゃあ、池本と金子について何か話しておきたいやつはいるか」
樫田がまとめるようにそう言い、話は次の議題へと移った。
雰囲気はさっきより優しいがみんな真剣な表情になっていた。
始めに口を開いたのは夏村だった。
「池本について。順調に経験は積んでいる。けど、だからこそ本番の雰囲気を知らないことが心配」
サポート役として触れ合っているからこその心配なのだろう。
それ聞いて椎名と増倉が続けざまに意見を述べていく。
「そうね……元々の性格を考えると、少しでも緊張や不安に飲み込まれたら、きっとペースを乱すでしょうね。そこら辺はケアが必要だわ」
「私はリハでどこまで場慣れさせられるか、だと思う」
高校演劇は公演前にホールで一度リハーサルすることが出来る。それは主に音響照明の確認、大道具のバミリや役者の立ち位置確認などを行うためである。ちなみに時間は地区によって違うらしいが、我が地区は入退場含めて一時間である。
女子たちの意見を聞いて、大槻と山路が反論をする。
「分かるけど、リハは裏方優先だろ。池本は稽古で経験積めるけど、音響の金子はホールでしか出来ないことが多いんだから」
「確かにケアはしないとだけど、そこに割く時間がどれだけあるかって話だねー」
そう。二人の言っていることは間違っていない。リハーサルで一番時間をかけないといけないのは裏方だ。実際の音響照明の機材はホールにしかない。それ故裏方はほとんどぶっつけ本番の状態でやっていくようなものだ。
それを考えると、池本のことより金子の方が優先される。
「もちろんそれは分かっているわ。だから、裏方の確認が終わった後の時間を出来るだけ池本のことに時間をかけたいって話よ」
「まぁ、それはそうだな……樫田、演出家的にはリハどうするつもりなん?」
大槻が樫田に疑問を投げかける。
みんなの視線を浴びて樫田は少し考えるしぐさをする。
そして、落ち着いた様子で言い放った。
「今の話は、池本についてが軸だ。だからそれについて言うなら、特別リハで時間を割くことはしない」
その言葉に誰もが驚いた。
そしてすぐに増倉が聞いた。
「どうして?」
「簡単な話だ。リハで少し時間をかけたからって場慣れはしない。もちろんサポートしたりケアしたりするのは大切なことだが、一朝一夕で成長しないのはお前らが一番よく知っているはずだ」
断言する樫田を前に、みんな納得してしまったのだろう。
場が一気に静まり返った。
実際、俺もその通りだと思ってしまった。池本については心配や不安はある。だが、だからといって貴重なリハーサルの時間をそこに費やしても、得られるものは少ないだろう。
要はリスクとリターンの話なのだろう。
樫田は演出家として、しっかりと取捨選択をしていた。
「そして、それは金子にも言えることだ。みんな少し高望みをしていないか? 忘れるな。二人は初心者で右も左も分からないんだ。失敗しないなんてことの方が稀だと思っていいだろうな」
付け加えるようにそう言った樫田の言葉は、我に返った様な気分だった。
そうだ。二人は初心者だ。失敗して当たり前なんだ。
「……そうね。その通りだわ」
「悪い。ちょっと熱くなってた」
反省するように、椎名と大槻が謝った。
他のみんなもどこか申し訳なさそうだった。
それを感じ取ったのだろう、樫田は穏やかに笑う。
「まぁ、みんな先輩としての自覚が出てきたってことだ。良い傾向じゃないか。それにさっきも言ったが、サポート自体は必要だ。何かあれば、またこうやって集まろう」
俺たちは頷いた。
先輩としての自覚があるのかなんて分からない。
けど、それでも俺たちなりの最高の劇を創ろうと必死になっていた。
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