EX25 一年生と三年生 その想いは
ー/ー「――という感じ」
私たち三人しかいない教室の真ん中に集まって昼食を食べながら、真弓ちゃんは杉野先輩と何が話したのか簡潔に説明した。
それを聞いてさすが杉野先輩だ、と感心を覚えた。
金子君も同じだったのだろう。
「……杉野先輩はすごいね。田島が言いたくなかったことは聞かずに、それ上で必要なことはしっかりと話をつけるなんて」
「そうだね、口が上手いっていうよりは、なんていうか、気づくと心が近づいている感じ?」
「ふーん。俺にはそんな感じに見えないけどなぁー」
「ヤバいよ。金子も真剣な話をすれば分かる」
真弓ちゃんの言葉に、私は頷いて同意する。
金子君はいまいちピンと来ていない様子だったが、こればっかりは話してみないとわからないだろう。
「で、話を戻すけど田島的には、春大会本気出す予定?」
「ううん。今のところは手を抜く予定」
さらっと言う真弓ちゃん。
そして私たちもそれに驚くことはしない。
昨日、真弓ちゃんの過去を知った私と金子君からすると当然のことだった。
しかし「ただ」と真弓ちゃんは言葉を続ける。
「約束は約束。杉野先輩の言う通りに私の中で変化があったら、その時は本気出す」
「そんなにすごいのかね。春大会」
「さー?」
想像がつかないという感じで、真弓ちゃんは首を傾げた。
確かに高校演劇というものを私たちは知らない。
私の中で真弓ちゃんが変化するとは思えない。けど反面、杉野先輩の言うことが外れることもイメージがつかなかった。
「まぁ、期待三割ってところかなぁ」
そんなことを笑いながら言う。きっと、真弓ちゃん自身も私と同じ考えなのかもしれない。
私は色んな感情が混ざりながらも、たぶん今一番感じていることを素直に口に出した。
「春大会、楽しみだね」
「そうだね。色々あるけど、俺的にもそれが一番かも」
笑顔で金子君は即答した。
初心者である私たちにとって、演劇というものがどういうものかどういう人たちが集まるのか、そして自分たちの劇がどうなるのかなど色んなことを分かる機会だ。
対して真弓ちゃんは落ち着いた様子だった。
「確かに、楽しみだねぇ」
笑顔だったが、その瞳の奥はもっともっと先の未来を見ているように感じた。
それはきっと今の私には分からないことだ。
でもいいんだ。私たち三人は決めたのだから。
私たちの関係も、お互いの志も。
気づくと昼食を食べ終えていた。
片づけをしていると、真弓ちゃんが話を変えた。
「先輩たち、戻ってこないねぇ」
「轟先輩たちは昼飯食べに外行ったけど、二年の先輩たちは購買行ったんだっけ?」
「そう。たぶん私のこと話していると思うけど、そんなに時間かかるかなぁ?」
スマホで時間を確認しながら、真弓ちゃんが金子君の質問に答えた。
言われてみれば、もうすぐ昼休憩が終わる時間だ。
「作戦会議ってことか」
「何を話しているんだろうねぇ」
意味ありげに笑う真弓ちゃん。
どこか余裕があって、不敵な感じだった。
私はそれが少し気に入らなかったのだろう。思わず口に出していた。
「きっと、杉野先輩が説得しているんだと思う」
その言葉に、二人はそろって私の方を見てきた。
特に語尾が強くなったわけでも何でもないのに二人は驚いた様子だった。
一瞬顔を見合わせる二人。
そして、すぐに真弓ちゃんは笑顔になって私の横に来た。
ぽん、と肩に手を置く。
「ごめんごめん、別に杉野先輩の悪口じゃないよぉ」
言葉の意味が分からなかった。
続けて、金子君が少し困ったような笑顔になって弁明する。
「だね。単純に何やっているんだろうって思っただけ」
「まったく。春佳ちゃんは杉野先輩のことになると真面目だねぇ」
そこまで言われて、なんとなく二人が私をどう見ているのか、分かった。
胸の奥が熱くなるのと同時に、顔も熱くなってきた。
「え、ちが、私は純粋にそう思ってだけで……!」
「大丈夫、大丈夫。私たちは応援しているから」
「何を……!?」
「そっかー。薄々思っていたけど、やっぱりそうなんだー」
「金子君も深々と何かを納得しないで!?」
なにやら盛大な誤解を招いたような気がした。
急いで弁明しようとしたときだった。
勢いよく教室の扉が開いて、元気の良い声が響き渡った。
「むむむ! なにやら面白い話をしているのを感じた! もしや恋バナか!?」
「もしやじゃないよ轟ちゃん。これは青春真っ盛りの恋の匂いだ」
「……二人とも、ほどほどにね」
入ってきたのは、三年の先輩たちだった。
そして、私たちが何か反応する前に轟先輩が私と真弓ちゃんの目の前までやってきた。
「田島後輩に池本後輩! 何を話していた!? 恋か!? 愛か!? 誰が誰を好きだって!?」
「ふふふ、タダでは教えませんよ!」
「真弓ちゃん!?」
轟先輩のテンションに瞬時に合わせる真弓ちゃんに驚きを隠せなかった。
視界の端では、金子君が津田先輩と木崎先輩と話していた。
「私と交渉とは面白い! 仕方ない! 糖分補給用に買ってきたこのお菓子たちをやろう!」
そう言って轟先輩持っていたビニール袋を私に渡してきた。
中にはずっしりとお菓子が入っていた。
「わー! ありがとうございます! 実はですね……」
「ちょっと、真弓ちゃん!」
「なるへそなるへそ、池本後輩が杉野んのことを」
「まだ何も言ってないですよぉ!?」
真弓ちゃんが何を言う前に、轟先輩が納得する。
驚愕する私たちに轟先輩は胸を張って自信ありげに言う。
「舐めてもらっては困る! 部長たるもの部活の恋愛事情などすべて把握しているわ!」
はーははは! と高らかに笑いだす。
「うわ、轟ちゃん容赦な」
「……っす。ストレートすぎっす……」
「……ほどほどにって言ったのに」
端で轟先輩に他の先輩と金子君が引いていたことに私は気づいていなかった。
なぜなら――。
「いや、その、あの! ちが、違うんです! その……そう! 尊敬です! 私が杉野先輩を尊敬しているって話をしていただけで! 別にそのす、す、好きとかそういう話じゃなくてですね!」
頭が沸騰していた。
きっと顔を真っ赤にして稚拙な言い訳を並べた私は滑稽だっただろう。
轟先輩が、これ言っちゃダメだった? と周りを見渡し、そして全員が頷いていた。
そのやり取りすら、恥ずかしさを覚えた。
ぽん、と再び真弓ちゃんが私の肩に手を置いた。
「……ごめん、春佳ちゃん」
と、申し訳なさそうに謝罪した。
こうして、私は自分の想いが周知されていることを知った。
私たち三人しかいない教室の真ん中に集まって昼食を食べながら、真弓ちゃんは杉野先輩と何が話したのか簡潔に説明した。
それを聞いてさすが杉野先輩だ、と感心を覚えた。
金子君も同じだったのだろう。
「……杉野先輩はすごいね。田島が言いたくなかったことは聞かずに、それ上で必要なことはしっかりと話をつけるなんて」
「そうだね、口が上手いっていうよりは、なんていうか、気づくと心が近づいている感じ?」
「ふーん。俺にはそんな感じに見えないけどなぁー」
「ヤバいよ。金子も真剣な話をすれば分かる」
真弓ちゃんの言葉に、私は頷いて同意する。
金子君はいまいちピンと来ていない様子だったが、こればっかりは話してみないとわからないだろう。
「で、話を戻すけど田島的には、春大会本気出す予定?」
「ううん。今のところは手を抜く予定」
さらっと言う真弓ちゃん。
そして私たちもそれに驚くことはしない。
昨日、真弓ちゃんの過去を知った私と金子君からすると当然のことだった。
しかし「ただ」と真弓ちゃんは言葉を続ける。
「約束は約束。杉野先輩の言う通りに私の中で変化があったら、その時は本気出す」
「そんなにすごいのかね。春大会」
「さー?」
想像がつかないという感じで、真弓ちゃんは首を傾げた。
確かに高校演劇というものを私たちは知らない。
私の中で真弓ちゃんが変化するとは思えない。けど反面、杉野先輩の言うことが外れることもイメージがつかなかった。
「まぁ、期待三割ってところかなぁ」
そんなことを笑いながら言う。きっと、真弓ちゃん自身も私と同じ考えなのかもしれない。
私は色んな感情が混ざりながらも、たぶん今一番感じていることを素直に口に出した。
「春大会、楽しみだね」
「そうだね。色々あるけど、俺的にもそれが一番かも」
笑顔で金子君は即答した。
初心者である私たちにとって、演劇というものがどういうものかどういう人たちが集まるのか、そして自分たちの劇がどうなるのかなど色んなことを分かる機会だ。
対して真弓ちゃんは落ち着いた様子だった。
「確かに、楽しみだねぇ」
笑顔だったが、その瞳の奥はもっともっと先の未来を見ているように感じた。
それはきっと今の私には分からないことだ。
でもいいんだ。私たち三人は決めたのだから。
私たちの関係も、お互いの志も。
気づくと昼食を食べ終えていた。
片づけをしていると、真弓ちゃんが話を変えた。
「先輩たち、戻ってこないねぇ」
「轟先輩たちは昼飯食べに外行ったけど、二年の先輩たちは購買行ったんだっけ?」
「そう。たぶん私のこと話していると思うけど、そんなに時間かかるかなぁ?」
スマホで時間を確認しながら、真弓ちゃんが金子君の質問に答えた。
言われてみれば、もうすぐ昼休憩が終わる時間だ。
「作戦会議ってことか」
「何を話しているんだろうねぇ」
意味ありげに笑う真弓ちゃん。
どこか余裕があって、不敵な感じだった。
私はそれが少し気に入らなかったのだろう。思わず口に出していた。
「きっと、杉野先輩が説得しているんだと思う」
その言葉に、二人はそろって私の方を見てきた。
特に語尾が強くなったわけでも何でもないのに二人は驚いた様子だった。
一瞬顔を見合わせる二人。
そして、すぐに真弓ちゃんは笑顔になって私の横に来た。
ぽん、と肩に手を置く。
「ごめんごめん、別に杉野先輩の悪口じゃないよぉ」
言葉の意味が分からなかった。
続けて、金子君が少し困ったような笑顔になって弁明する。
「だね。単純に何やっているんだろうって思っただけ」
「まったく。春佳ちゃんは杉野先輩のことになると真面目だねぇ」
そこまで言われて、なんとなく二人が私をどう見ているのか、分かった。
胸の奥が熱くなるのと同時に、顔も熱くなってきた。
「え、ちが、私は純粋にそう思ってだけで……!」
「大丈夫、大丈夫。私たちは応援しているから」
「何を……!?」
「そっかー。薄々思っていたけど、やっぱりそうなんだー」
「金子君も深々と何かを納得しないで!?」
なにやら盛大な誤解を招いたような気がした。
急いで弁明しようとしたときだった。
勢いよく教室の扉が開いて、元気の良い声が響き渡った。
「むむむ! なにやら面白い話をしているのを感じた! もしや恋バナか!?」
「もしやじゃないよ轟ちゃん。これは青春真っ盛りの恋の匂いだ」
「……二人とも、ほどほどにね」
入ってきたのは、三年の先輩たちだった。
そして、私たちが何か反応する前に轟先輩が私と真弓ちゃんの目の前までやってきた。
「田島後輩に池本後輩! 何を話していた!? 恋か!? 愛か!? 誰が誰を好きだって!?」
「ふふふ、タダでは教えませんよ!」
「真弓ちゃん!?」
轟先輩のテンションに瞬時に合わせる真弓ちゃんに驚きを隠せなかった。
視界の端では、金子君が津田先輩と木崎先輩と話していた。
「私と交渉とは面白い! 仕方ない! 糖分補給用に買ってきたこのお菓子たちをやろう!」
そう言って轟先輩持っていたビニール袋を私に渡してきた。
中にはずっしりとお菓子が入っていた。
「わー! ありがとうございます! 実はですね……」
「ちょっと、真弓ちゃん!」
「なるへそなるへそ、池本後輩が杉野んのことを」
「まだ何も言ってないですよぉ!?」
真弓ちゃんが何を言う前に、轟先輩が納得する。
驚愕する私たちに轟先輩は胸を張って自信ありげに言う。
「舐めてもらっては困る! 部長たるもの部活の恋愛事情などすべて把握しているわ!」
はーははは! と高らかに笑いだす。
「うわ、轟ちゃん容赦な」
「……っす。ストレートすぎっす……」
「……ほどほどにって言ったのに」
端で轟先輩に他の先輩と金子君が引いていたことに私は気づいていなかった。
なぜなら――。
「いや、その、あの! ちが、違うんです! その……そう! 尊敬です! 私が杉野先輩を尊敬しているって話をしていただけで! 別にそのす、す、好きとかそういう話じゃなくてですね!」
頭が沸騰していた。
きっと顔を真っ赤にして稚拙な言い訳を並べた私は滑稽だっただろう。
轟先輩が、これ言っちゃダメだった? と周りを見渡し、そして全員が頷いていた。
そのやり取りすら、恥ずかしさを覚えた。
ぽん、と再び真弓ちゃんが私の肩に手を置いた。
「……ごめん、春佳ちゃん」
と、申し訳なさそうに謝罪した。
こうして、私は自分の想いが周知されていることを知った。
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