【4】
ー/ー
◇ ◇ ◇
「──からさ、中尾が結婚するかどうかは自由だよ。『した方がいい』なんて言うつもりもない。自分があんなに嫌だったこと、立場が変わったからってする気ないよ」
お風呂から上がって、髪を拭きながら部屋に戻る途中。
ドアが半開きになった貴也の部屋から聞こえる声。
電話ね、中尾さんかぁ。大学時代からずっと独身主義仲間だったっていうから。
友達の少ない貴也の、たぶん一番気の置けない相手なんじゃないかな。親友ってやつ?
「でも僕は本当に結婚してよかったんだ~。だってもう、あの『結婚しないの? って訊いちゃいけないんだろーなー』って気持ち悪い空気味わわなくて済むんだよ! すっごい楽! ずばり訊かれるのも気分は良くないけど、まだきっぱり『その気ない』って返せるだけマシだったかもね」
……あー、どうせそうだよね。貴也が「よかった」って喜んでるのは、『結婚』ってカタチなんだから。別にあたしじゃなくても──。
「まあでも、中尾には関係ないだろうけど相手は大事だよ。僕ははるかで大正解! 一緒に居て落ち着く人って人生の財産だよね~。『夫婦は同志で運命共同体』って、こうなって身に沁みてるよ」
貴也、──貴也。
貴也は今でも、『女』としてのあたしには用無しだと思う。
セックスは論外としても、キスもハグさえしたことない。この先もすることないよ、きっと。
全然寂しくないって言ったら嘘になる。
それでも、『人生のパートナー』に据えてくれたんだ。
妻としては名目だけだとしても、あたしが本当に欲しかったのは地位じゃなくて貴也の気持ちだから。
夫婦として、──「ともに歩んで行く同志」として。
男女の愛より家族愛に近い。ううん、そのものかもしれないわ。
だけど、それでもいい。改めて、心からそう感じたんだ。
「あ~、お風呂気持ちよかった。貴也、すぐ入る? あ、リビングにいるの?」
数歩後退って、あたしはわざとらしく声上げる。
「いや、部屋にいるよ。入ろうかな」
電話の向こうに「ごめん」って告げて切ったらしく、貴也がドアから顔を出した。
「はるか、新作アイス出てたから買って来たんだけど。イチゴの果肉入ったのと、キャラメルナッツだって。僕がお風呂から出たら一緒に食べよう。どっちがいい?」
「わ~、嬉しい。迷うなぁ。やっぱこういうのは買って来た人優先で」
あたしの返事に、彼はちょっと考えて答える。
「じゃあ半分こしようか。僕もどっちも美味しそうだな~と思ってたんだ」
「いいね!」
家族でもあるし、ただの友達みたい、かもしれない。
だけどあたしには、こんな些細なことで笑い合える日常が楽しいんだ。
百人居たら百人が「くだらない生き方だ」って鼻で笑うとしても、 あたしが満足してるんだから他人の評価なんてどーでもいい。
あたしは今、この『夫婦』生活が涙が出そうなくらい幸せだよ、貴也。
~END~
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