【3】
ー/ー
◇ ◇ ◇
「ただいま! ゴメン、遅くなって」
残業して帰ってきたあたしを、貴也が手料理と共に迎えてくれた。
「おかえり~。今日は僕の当番なんだから、そんな慌てなくていいのに。もしもっと遅くなるなら、連絡くれたら先に食べるなりしとくよ」
穏やかな笑顔で、冷めちゃった料理の皿をレンジで温めてる貴也。
「ありがと! ……実はこれからちょっと忙しくなりそうだから、当番代わってもらわないといけないかも」
悪いけど、と申し出たあたしに、貴也はすんなり頷いてくれる。
「あー、いいよ。あとで当番表作り直そう。僕はまだしばらくは大丈夫だから」
「助かるわ〜。貴也も遠慮なく言ってよね。こういうの、ヘンに気ぃ遣い出したらぎくしゃくしちゃいそうだから」
今日はポークソテーに人参とブロッコリーの温野菜添え。あと、じゃがいもと玉葱のお味噌汁。うーん、いいなあ。
お腹ペコペコだけど、そうじゃなくても貴也の料理はホント美味しい。
ずっとお父さんと二人暮らしだったから、貴也は家事全般得意なんだ。
料理も、手伝い程度だったあたしとは比べるのが失礼なくらい上手だし。
あたしは結婚したばっかの頃、帰ってからご飯作るの慣れてなくてオムレツとレタス千切っただけのサラダと豆腐の味噌汁出したことあった……。
朝じゃないんだからさぁ! って自分でも恥ずかしかったけど、貴也は文句言うどころか一切不満そうな表情も見せなかったな。
「美味しそう! すごく綺麗に焼けてる、オムレツって難しいんだよね」
「……ゴメン。もっとちゃんと料理勉強するから。しばらく我慢して」
気遣ってる風でもなく褒めてくれる貴也に、あたしは顔から火が出そうだったよ。
「はるかはまだ始めたばかりだから仕方ないよ。僕たちも、最初はハムエッグとか塩鮭と乾燥わかめで溢れそうな味噌汁とか、朝でも足りないよ! ってメニューだったなぁ。野菜なかったし。ご飯だけいっぱい炊いて『好きなだけおかわりしよう』っ言ってたな」
──お父さんと二人になった頃の話、だ。貴也が自分からそういうこと口にするの珍しい。どうしたって、お母さんの記憶に繋がるから。
あたしと居て、少しでもリラックスできてるからだとしたら嬉しいんだけど。
「でもさぁ、どっちも大変な時はもう割り切って外食でもいいじゃん? 部屋も散らかってたって死にゃーしないし」
我ながら雑過ぎるあたしの言葉に貴也は笑う。
「そうだよね。……やっぱはるかは話早くていいなぁ。二人とも相手のこといろいろ知ってるから、余計な説明とか全然要らないし」
「ホントだよね。だけど、家事分担てこんなに上手く行くと思ってなかったよ。職場の先輩たちの話でも、結局何もしなくなる旦那さんも多いらしいしさ」
本心から告げたあたしに、貴也は真面目な表情で返して来た。
「僕たちは信頼関係だけで成り立ってる『夫婦』だから。決まり事を守るのは最低限の仁義だよ」
本物の夫婦なら、愛情があるから甘えが生じるのかもしれない。
確かに、あたしたちは互いを信じられなくなったらもう終わりだよね。……ルームシェアでどっちかに負担が偏ったりしたら、それ以上一緒に暮らすのなんて無理だろうし。
あたしたちの『結婚生活』も、あっという間に半年が過ぎた。今のところ、何の問題もない。
職場の人や友達に対して、「夫婦」として貴也を「夫」って呼ぶのも慣れて来たわ。
これが正しいのかはわからないけど、──間違ってはいないと思ってる。ただの同居人でも、貴也の一番傍に居るのは、あたしだから。
これからも。
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「ただいま! ゴメン、遅くなって」
残業して帰ってきたあたしを、貴也が手料理と共に迎えてくれた。
「おかえり~。今日は僕の当番なんだから、そんな慌てなくていいのに。もしもっと遅くなるなら、連絡くれたら先に食べるなりしとくよ」
穏やかな笑顔で、冷めちゃった料理の皿をレンジで温めてる貴也。
「ありがと! ……実はこれからちょっと忙しくなりそうだから、当番代わってもらわないといけないかも」
悪いけど、と申し出たあたしに、貴也はすんなり頷いてくれる。
「あー、いいよ。あとで当番表作り直そう。僕はまだしばらくは大丈夫だから」
「助かるわ〜。貴也も遠慮なく言ってよね。こういうの、ヘンに気ぃ遣い出したらぎくしゃくしちゃいそうだから」
今日はポークソテーに人参とブロッコリーの温野菜添え。あと、じゃがいもと玉葱のお味噌汁。うーん、いいなあ。
お腹ペコペコだけど、そうじゃなくても貴也の料理はホント美味しい。
ずっとお父さんと二人暮らしだったから、貴也は家事全般得意なんだ。
料理も、手伝い程度だったあたしとは比べるのが失礼なくらい上手だし。
あたしは結婚したばっかの頃、帰ってからご飯作るの慣れてなくてオムレツとレタス千切っただけのサラダと豆腐の味噌汁出したことあった……。
朝じゃないんだからさぁ! って自分でも恥ずかしかったけど、貴也は文句言うどころか一切不満そうな表情も見せなかったな。
「美味しそう! すごく綺麗に焼けてる、オムレツって難しいんだよね」
「……ゴメン。もっとちゃんと料理勉強するから。しばらく我慢して」
気遣ってる風でもなく褒めてくれる貴也に、あたしは顔から火が出そうだったよ。
「はるかはまだ始めたばかりだから仕方ないよ。僕たちも、最初はハムエッグとか塩鮭と乾燥わかめで溢れそうな味噌汁とか、朝でも足りないよ! ってメニューだったなぁ。野菜なかったし。ご飯だけいっぱい炊いて『好きなだけおかわりしよう』っ言ってたな」
──お父さんと二人になった頃の話、だ。貴也が自分からそういうこと口にするの珍しい。どうしたって、お母さんの記憶に繋がるから。
あたしと居て、少しでもリラックスできてるからだとしたら嬉しいんだけど。
「でもさぁ、どっちも大変な時はもう割り切って外食でもいいじゃん? 部屋も散らかってたって死にゃーしないし」
我ながら雑過ぎるあたしの言葉に貴也は笑う。
「そうだよね。……やっぱはるかは話早くていいなぁ。二人とも相手のこといろいろ知ってるから、余計な説明とか全然要らないし」
「ホントだよね。だけど、家事分担てこんなに上手く行くと思ってなかったよ。職場の先輩たちの話でも、結局何もしなくなる旦那さんも多いらしいしさ」
本心から告げたあたしに、貴也は真面目な表情で返して来た。
「僕たちは信頼関係だけで成り立ってる『夫婦』だから。決まり事を守るのは最低限の仁義だよ」
本物の夫婦なら、愛情があるから甘えが生じるのかもしれない。
確かに、あたしたちは互いを信じられなくなったらもう終わりだよね。……ルームシェアでどっちかに負担が偏ったりしたら、それ以上一緒に暮らすのなんて無理だろうし。
あたしたちの『結婚生活』も、あっという間に半年が過ぎた。今のところ、何の問題もない。
職場の人や友達に対して、「夫婦」として貴也を「夫」って呼ぶのも慣れて来たわ。
これが正しいのかはわからないけど、──間違ってはいないと思ってる。ただの同居人でも、貴也の一番傍に居るのは、あたしだから。
これからも。