第四百十話
ー/ー 教会に入会してから、彼はすぐに英雄学園への内偵行為に駆り出されることとなる。しかし、正直なところ因子を持ち合わせた存在だろうと、そこに偵察目的で入学だなんて、嫌悪感が勝ったのだ。肝心なときに自分を救ってくれなかった偽りの存在ばかりでごった返すその場で、ぼろを出さないよう通常の学生生活を送るだなんて虫唾が走る、と。
しかし、その場で教会の人間に言われたのは、『あの時』を彷彿とさせる言葉の数々。
(――でも、それって自分の『弱さ』をひた隠しにしている証じゃあないか?)
(チーティングドライバーも満足に与えられていない、因子がまだ真なる意味で覚醒もしていない、そんな存在が……あれこれ言える立場だとは思えないな)
それらの言葉の最後には、「これは君を思ってのことなんだ」とつけるだけで、本当の意味合いで彼を気に掛けているとは到底思えない、そんな無関心の人々の言葉が、正人のここを、浅く年相応な自尊心を深く傷つけた。
その言葉のまま、英雄学園に入学することとなる。因子こそ完全に覚醒していなかったものの、本人の学力やら体力やらは並以上にあると判断された結果、何とか英雄科一組に所属することとなる。英雄学園の中でも花形、最も一目置かれ、内偵の中でも警戒されにくい立場であるため、栃木支部の面々から大いに祝福された。
警戒されないよう、教会構成員が一般人を装い、偽りの救護活動を行って、多少機密に踏み入ることが出来るか、と考えたのだが――そうはならなかった。
その最たる理由こそ、礼安たちの様な、『真なる強豪』の存在であった。
まず、入学前の時点で異端も異端、異常なレベルの身体能力と恵まれた覚醒済みの因子、そしてあらゆる人物を引き寄せ好かれる愛嬌、全てにおいて一組の存在としてふさわしかったのだ。
少なくとも、正人よりも、圧倒的に適した存在であった。
自分とは異なる世界の存在、そう思うことにしたものの、彼女の周りには次々に事件が舞い込んでくる。どれほど偽りの事件をでっち上げようと、大抵情報精査された結果虚構と見抜かれるか、そもそも礼安たちの超特大の案件と比べられ、些細な事件だとかき消されるか。
仮に自分自身、あるいは栃木支部の面子で大きな事件を起こそうにも、その場に礼安たちが駆け付けてその大きな事件を解決してしまう。そして礼安たちが邪魔になり消そうにも、そもそもの力が足らないため相手にすらされない。
結果、書道は悪くなかったのにも拘らず、純粋に、そして完全に上を行かれたのだ。目を掛けられる存在として、自分如きでは無理だと悟ったのだ。
それだけなら、まだ良かったのだ。合同演習会では、ある程度他支部と連携を取りながらも、無害な生徒を演じるだけで、学園長からの正規のボーナスを享受できた。
しかし、正人を追い詰める事象がここで発生してしまう。人外じみた功績ばかりを挙げる礼安たちと比べられた結果、元々整っていた進級・及び降格基準が盛大におかしくなり、怪しまれないよう功績をあげていた正人で二組に下がる事態になったのだ。
これにより、教会の構成員からは白い目を向けられることとなる。あれだけ協力してやったのに、とでも言いたげな様子で、正人を詰るのだった。
時は九月一日、何とか状況を打開しようと考えていた時、栃木支部から連絡が入ったのだ。それこそ――『栃木支部を強化できる人員が幹部として成り上がった』とのこと。それら全員は現支部長と同級生、という奇妙なつながりが出来ていたものの、そしてそれぞれが業界やそれに携わる存在に憎しみがあったのだが、戦いや殺しにはあまり向かないような温和な性格を持っていた。
それが、心配で心配でならなかった。自分のような存在をもっと引き入れろとは競争率が高くなるためあまり思わなかったが、それ以前に自分たちの欲望を満たす邪魔をする英雄らを排除するべく、戦いは避けられないだろう。その中で、『戦えない』ということは大きなデメリットになるのだ。
そして、それと時を同じくして――――灰崎が入学してきたのだ。自分自身、大人が高校に入学すること自体に何の抵抗も無かったのだが、問題は彼の『これまで』であったのだ。
そう、他でもない、元暴。しかも、あのグレープ・フルボディにて表の支配権を握っていた、王漣組の元二代目組長であることを知った瞬間に、正人は怒りに打ち震えた。
そんな存在が、のうのうとこの場にいること自体に、憎悪に似た怒りを覚えたのだ。あの嫌がらせを引き起こしたのはどこの組か、と言うものは一般人同然の正人には一切理解の及ばない範疇にある。
しかし、灰崎自身がその嫌がらせを引き起こした犯人であるかどうかの追及はさておいて、元とはいえヤクザであるという事実は彼の心を酷くざわつかせたのだ。
ここまでの物は、あの事件で大した罪に問われなかったあの七光りに対しての怒りと似ている。
だからこそ、正人は灰崎を追及したのだった。
しかし、灰崎の強さは別格であった。自分が殺す殺さない以前に、まず勝負にならない実感があったのだ。
それもそのはず、自分のことで手いっぱいだった状況にて、その情報を知ったこと自体事後であったため、詳しくは把握しきっていなかったのだが、新生山梨支部が落とされたその場に、そしてグレープを真なる意味で統括していた山梨支部が落とされたその場に――灰崎はいたのだ。
つまるところ、『元』の立場を差し置いて、その功績は並の英雄ではそうそう成し遂げることの出来ないものであったのだ。今ここに特例で中途入学を果たしたのも、頷けてしまうほどのものであったのだ。
しかも、後者に関しては因子を目覚めさせていない一般人の段階で、教会の用意した敵に勝利している実績がある。さらに因子を目覚めさせてから、元大規模中華マフィア『流浪の獣』、その猛者筆頭・元総帥たる呉一颯を初変身にて討ち取った。
正人は、灰崎という男を侮っていたのだ。多くの挫折を知りながら、七転八倒の精神で何度も立ち上がり続け、その度に目覚ましい成長を遂げていたのだ。
元ヤクザであることを、一切否定せずに責任を取る、その元組長としての在り方に、正人は怒りと共に感心していたのだ。
他の生徒と違い、明確に年齢を重ねた大人である、と言うのもあるのだろうが、『責任を取る』というその殊勝な姿勢に、ただひたすらに複雑な感情が彼の中で渦巻いていたのだ。
憎むべき対象ではない。でも憎むべき概念ではある。
その中で、正人は板挟みになっていたのだ。心が折れかけたその時に、口にしたのは自分を救ってくれなかった英雄――その代表格である信一郎に対しての悪態であったのだ。「怪しまれないように」、だなんてもう彼の中では意味を成さない言葉であった。自暴自棄になった結果、「こんな見え透いた地雷を受け入れた学園長は大馬鹿者」だなんて言葉を吐いたのだ。
自棄になった結果、誰かのせいにしかできずに生きてきた、そんな一番の大馬鹿者は――自分であるはずなのに。
結果、校則を破ってまで決闘を持ち掛けたのにも拘らず、敗北した。その上、最も冷遇される組である最低組・六組に見限られた結果――英雄の皮を被って活動することに疲れてしまったのだった。
その後、学園には一切帰ることなく、栃木支部にて鍛錬を始めたのだった。
礼安たちにも、信一郎にも、そして灰崎にも、負けたくない。初めて、彼の中で対抗心が芽生えたのだった。
そこから、教会の祖たるカルマと得体のしれない人物、そして幹部連中との顔合わせを経由し、帰ろうとするカルマを引き留めた上で――心の底から懇願したのだった。
(お願いします、私に……力を下さい……!!)
誇りも恥も外聞も捨てて、地面に頭をこすりつけるほどの土下座。ヤクザ相手にだって、これほどの行動はしなかった。
正人の経歴を知っていたカルマは、高笑いながらも正人の頭を撫でる。まるで、その辺にて寝そべる野良猫をあやすような甘い声で、彼を惑わすのだった。
『安心して。君『面白そう』だからさ……今実験中の『人工因子』、君にも授けてあげようね』
どこまでも反社会的勢力を憎みながら、反社会的勢力に縋ることしかできない、哀れな存在こそ――渡部正人であるのだ。
しかし、その場で教会の人間に言われたのは、『あの時』を彷彿とさせる言葉の数々。
(――でも、それって自分の『弱さ』をひた隠しにしている証じゃあないか?)
(チーティングドライバーも満足に与えられていない、因子がまだ真なる意味で覚醒もしていない、そんな存在が……あれこれ言える立場だとは思えないな)
それらの言葉の最後には、「これは君を思ってのことなんだ」とつけるだけで、本当の意味合いで彼を気に掛けているとは到底思えない、そんな無関心の人々の言葉が、正人のここを、浅く年相応な自尊心を深く傷つけた。
その言葉のまま、英雄学園に入学することとなる。因子こそ完全に覚醒していなかったものの、本人の学力やら体力やらは並以上にあると判断された結果、何とか英雄科一組に所属することとなる。英雄学園の中でも花形、最も一目置かれ、内偵の中でも警戒されにくい立場であるため、栃木支部の面々から大いに祝福された。
警戒されないよう、教会構成員が一般人を装い、偽りの救護活動を行って、多少機密に踏み入ることが出来るか、と考えたのだが――そうはならなかった。
その最たる理由こそ、礼安たちの様な、『真なる強豪』の存在であった。
まず、入学前の時点で異端も異端、異常なレベルの身体能力と恵まれた覚醒済みの因子、そしてあらゆる人物を引き寄せ好かれる愛嬌、全てにおいて一組の存在としてふさわしかったのだ。
少なくとも、正人よりも、圧倒的に適した存在であった。
自分とは異なる世界の存在、そう思うことにしたものの、彼女の周りには次々に事件が舞い込んでくる。どれほど偽りの事件をでっち上げようと、大抵情報精査された結果虚構と見抜かれるか、そもそも礼安たちの超特大の案件と比べられ、些細な事件だとかき消されるか。
仮に自分自身、あるいは栃木支部の面子で大きな事件を起こそうにも、その場に礼安たちが駆け付けてその大きな事件を解決してしまう。そして礼安たちが邪魔になり消そうにも、そもそもの力が足らないため相手にすらされない。
結果、書道は悪くなかったのにも拘らず、純粋に、そして完全に上を行かれたのだ。目を掛けられる存在として、自分如きでは無理だと悟ったのだ。
それだけなら、まだ良かったのだ。合同演習会では、ある程度他支部と連携を取りながらも、無害な生徒を演じるだけで、学園長からの正規のボーナスを享受できた。
しかし、正人を追い詰める事象がここで発生してしまう。人外じみた功績ばかりを挙げる礼安たちと比べられた結果、元々整っていた進級・及び降格基準が盛大におかしくなり、怪しまれないよう功績をあげていた正人で二組に下がる事態になったのだ。
これにより、教会の構成員からは白い目を向けられることとなる。あれだけ協力してやったのに、とでも言いたげな様子で、正人を詰るのだった。
時は九月一日、何とか状況を打開しようと考えていた時、栃木支部から連絡が入ったのだ。それこそ――『栃木支部を強化できる人員が幹部として成り上がった』とのこと。それら全員は現支部長と同級生、という奇妙なつながりが出来ていたものの、そしてそれぞれが業界やそれに携わる存在に憎しみがあったのだが、戦いや殺しにはあまり向かないような温和な性格を持っていた。
それが、心配で心配でならなかった。自分のような存在をもっと引き入れろとは競争率が高くなるためあまり思わなかったが、それ以前に自分たちの欲望を満たす邪魔をする英雄らを排除するべく、戦いは避けられないだろう。その中で、『戦えない』ということは大きなデメリットになるのだ。
そして、それと時を同じくして――――灰崎が入学してきたのだ。自分自身、大人が高校に入学すること自体に何の抵抗も無かったのだが、問題は彼の『これまで』であったのだ。
そう、他でもない、元暴。しかも、あのグレープ・フルボディにて表の支配権を握っていた、王漣組の元二代目組長であることを知った瞬間に、正人は怒りに打ち震えた。
そんな存在が、のうのうとこの場にいること自体に、憎悪に似た怒りを覚えたのだ。あの嫌がらせを引き起こしたのはどこの組か、と言うものは一般人同然の正人には一切理解の及ばない範疇にある。
しかし、灰崎自身がその嫌がらせを引き起こした犯人であるかどうかの追及はさておいて、元とはいえヤクザであるという事実は彼の心を酷くざわつかせたのだ。
ここまでの物は、あの事件で大した罪に問われなかったあの七光りに対しての怒りと似ている。
だからこそ、正人は灰崎を追及したのだった。
しかし、灰崎の強さは別格であった。自分が殺す殺さない以前に、まず勝負にならない実感があったのだ。
それもそのはず、自分のことで手いっぱいだった状況にて、その情報を知ったこと自体事後であったため、詳しくは把握しきっていなかったのだが、新生山梨支部が落とされたその場に、そしてグレープを真なる意味で統括していた山梨支部が落とされたその場に――灰崎はいたのだ。
つまるところ、『元』の立場を差し置いて、その功績は並の英雄ではそうそう成し遂げることの出来ないものであったのだ。今ここに特例で中途入学を果たしたのも、頷けてしまうほどのものであったのだ。
しかも、後者に関しては因子を目覚めさせていない一般人の段階で、教会の用意した敵に勝利している実績がある。さらに因子を目覚めさせてから、元大規模中華マフィア『流浪の獣』、その猛者筆頭・元総帥たる呉一颯を初変身にて討ち取った。
正人は、灰崎という男を侮っていたのだ。多くの挫折を知りながら、七転八倒の精神で何度も立ち上がり続け、その度に目覚ましい成長を遂げていたのだ。
元ヤクザであることを、一切否定せずに責任を取る、その元組長としての在り方に、正人は怒りと共に感心していたのだ。
他の生徒と違い、明確に年齢を重ねた大人である、と言うのもあるのだろうが、『責任を取る』というその殊勝な姿勢に、ただひたすらに複雑な感情が彼の中で渦巻いていたのだ。
憎むべき対象ではない。でも憎むべき概念ではある。
その中で、正人は板挟みになっていたのだ。心が折れかけたその時に、口にしたのは自分を救ってくれなかった英雄――その代表格である信一郎に対しての悪態であったのだ。「怪しまれないように」、だなんてもう彼の中では意味を成さない言葉であった。自暴自棄になった結果、「こんな見え透いた地雷を受け入れた学園長は大馬鹿者」だなんて言葉を吐いたのだ。
自棄になった結果、誰かのせいにしかできずに生きてきた、そんな一番の大馬鹿者は――自分であるはずなのに。
結果、校則を破ってまで決闘を持ち掛けたのにも拘らず、敗北した。その上、最も冷遇される組である最低組・六組に見限られた結果――英雄の皮を被って活動することに疲れてしまったのだった。
その後、学園には一切帰ることなく、栃木支部にて鍛錬を始めたのだった。
礼安たちにも、信一郎にも、そして灰崎にも、負けたくない。初めて、彼の中で対抗心が芽生えたのだった。
そこから、教会の祖たるカルマと得体のしれない人物、そして幹部連中との顔合わせを経由し、帰ろうとするカルマを引き留めた上で――心の底から懇願したのだった。
(お願いします、私に……力を下さい……!!)
誇りも恥も外聞も捨てて、地面に頭をこすりつけるほどの土下座。ヤクザ相手にだって、これほどの行動はしなかった。
正人の経歴を知っていたカルマは、高笑いながらも正人の頭を撫でる。まるで、その辺にて寝そべる野良猫をあやすような甘い声で、彼を惑わすのだった。
『安心して。君『面白そう』だからさ……今実験中の『人工因子』、君にも授けてあげようね』
どこまでも反社会的勢力を憎みながら、反社会的勢力に縋ることしかできない、哀れな存在こそ――渡部正人であるのだ。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
作者の他の作品
この作者の他作品はありません。
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。