【3】
ー/ー
一人暮らしのマンションを引き払っていったん実家に身を寄せた俺は、両親にさえ口汚く罵倒されたんだ。
「息子がこんな人でなしだなんて情けない」とか泣き喚く母親。
「そのお嬢さんが自分の娘だったら、お前を殺してやりたい」なんて大袈裟な父親。
「二度と顔を見せるな」とまで言われてさ。それが実の親の台詞かよ。
実質縁を切られて追い出されたようなもんだ。結局俺は仕方なく地元を離れて、知る人もいない土地で不安定なフリーター生活を送ってる。
あれから一年半が経って、今の職場はもう四つ目。全部違う地方だ。
短期間に転職と転居を繰り返す俺には、社会的な信用なんて欠片も有りはしない。だからまだギリ二十代とはいえ、正規の仕事になんか就ける筈もないんだよな。
……なんかの奇跡で採用されたって、結局駄目になるのはわかりきってるけど。
だけどもしかしたら、今度こそこのまま平和に暮らせる?
だらだらと過去を思い返しながら浮かんだ僅かな希望を噛み締めるようにして、俺は今の住処の安アパートに帰って来た。
錆の浮いた外階段をカンカン音立てて上がると、手前から二つ目の自室の前で立ち止まる。艶のない塗り斑だらけの安っぽいドア。
鞄から取り出したキーケースの鍵をドアノブの鍵穴に差し込もうとしたときに、俺はノブの下の小さな白い文字に気がついた。
一瞬で鳥肌が立つ。目を逸らすこともできずに、読み取ってしまった文字は予想通りだった。
いつもと同じ。
み
つ
け
た
何故だかチョークで書かれた平仮名。
ああ……、ここ、も。
明日には、職場で事実が広まってるはずだ。これまでと同じく。
遠巻きにヒソヒソされて、腫れ物に触るように……。
あいつの執着は憎悪なのか、形を変えた愛なのか。それとも、ただ俺が逃げるから追うだけなのか。
殺されるにしろ、永遠に捕らわれるにしろ、どっちにしても彩子が俺を忘れる日なんか来ないんだろう。ただ、追い掛ける。俺を。
結果は同じだから考えるだけ無駄なんだ。
そんなことより、見つかってしまった。
──また、逃げないと。どこか別の場所を探して。どうせ悪足搔きに終わるってわかってても、ただここで待っているわけにいかないんだ。俺を執拗に追い詰める、彩子を。
~END~
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