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「季節を切り取って」

ー/ー



 季節は移り行くもの、という。

 季節がくっきり別れていたあの場所は、東だったか、西だったか。
 あるいはそのどちらでもあったかもしれない。
 勇者になってから、ついこの間まで駆け抜けてきた時間に思いを馳せる。

 気がつけば、季節を感じる暇もないほど、時間は過ぎ去ってしまった。
 それでも、東の国で見た桜吹雪だけは、今も鮮やかに心に焼きついている。
 春の名物だと教えてくれたのは……あれは、誰だったろうか。


 喫茶店『小道』の周りでは、季節が少し曖昧だ。
 春夏秋冬はあるものの、春の花の横で夏の草が生い茂っていたり、秋の花が咲く頃に突然雪がちらついてみたり、そうかと思えば突然春のような陽気になったり。

 少し節操がないんじゃないか、とすらユウは思う。

 ある日やって来たフーディも「ここは過ごしやすいですよね」と言っていた。
 確かに暑すぎず寒すぎず、快適といえば快適なのだが、
 ユウとしては、もう少し季節らしい彩りがあってもいいのにな、と思う。

 相変わらず客のいない店内で、ユウはカウンターにもたれてほうっとため息をつく。

 リンには色々なものを見せたい――

 四季折々が見せる自然の顔とか、夕焼けや朝焼け、流れ星……挙げればキリがない。
 それを全部見せる頃にはリンも大人になっているだろうし――

「私はおばあちゃんかなぁ」

 思わずつぶやく。

 ここにいても、見せれるものはたくさんある。
 自分が見てきたものをあの魔法でひとっとびして、見せる事ができる。
 それでも、四季の変化や人の流れ、”時間をかけて感じるようなもの”は見せてやれない。

 今、この時しか見れないものや、目の前にあるもの、そういうものを見て、今を見て、それが何かを感じ取って欲しい。

 本や人伝に聞いてわかる事だとしても、自分の目でちゃんと見て欲しい。

 ――あれは、誰の言葉だったか。

「その瞬間を切り取って、心に留める。そしてそれが何だったのか、それは――」

「そのうちわかるさ」

 投げやりにも聞こえるが、その言葉は不思議とユウの心にすっと染み込んできた。

 リンが見たもの、それはきっと自分とは違って見えているのだろう。
 瞬間を感じるものや、時間の流れを感じるもの。
 人や、出来事との邂逅。

 そのどれを取っても、自分とリンが感じる事は違うのだ。
 その一つ一つの事が自分にとって、
 そして、リンにとってどういう意味を持つのか――

「そのうちわかるさ」

 ――小鳥の件以来、ユウはそんな風に考えるようになっていた。

 あれからしばらく、リンは時々空を見上げてため息をつくようになっていた。
 その姿は、なんだかそのまま空に吸い込まれていきそうで、儚くて、寂しげで。

 リンが、あの事をどう受け止めて、これからどうするのか、それはユウにはわからなかったけれど――

 そのうちわかる──

 夢に見るのか、時々寝ながら涙を浮かべているリンの頭を撫でてやる事くらいしか、ユウにできる事は無い。
 すべては、リンが、自分で乗り越えていかなければならないことなのだから。

 冷めかけたコーヒーの、黒い湖面に映る自分の顔は、どんな表情をしているのだろう。

 時は過ぎて、季節は移り行き、人の心はうつろっていく。
 色んな人がいて、色んな場所があって、色んな時間があって。
 ゆっくりと動く人。
 自分の道を突き進む人。
 ずっと走る人、ずっと歩く人。

 誰もが一度は立ち止まって、また歩み始める。

 リンも、今は立ち止まっているようにみえるけれど、いずれまた歩き出す。

 待っていよう、とユウは思う。

 リンが立ち止まったなら、一緒に立ち止まって、今目の前にあるものを切り取って心の中に留めよう。

 リンが歩き始めたら、自分も一緒に歩き始めよう。

 そして、いつか話をしよう。
 自分が切り取った景色の話を、リンと二人で。

 リンの切り取った景色を聞いて、自分の事を話して。

 その時、自分は年老いていて、リンは大人になっていて。

 悲しい事も、楽しい事も、辛い事も、幸せな事も――
 全部愛おしい思い出になっていくに違いない。

 美味しいコーヒーと、美味しいお菓子で、二人で時間を忘れて話したい。

 そんな風に思って、ユウはそっと微笑む。

 隣では、ミルクの入ったカップをぼーっと見つめるリンがいる。
 思わずリンの頭を撫でた。

 一瞬、首をかしげてユウを見るリン。
 けれど、目の前にある優しい微笑みに、リンは――ユウのような優しい笑みを浮かべた。


 季節はめぐり、やがてリンも大人になって、どんな道を歩んでいくのだろう。
 その時、自分は――

 優しくリンの頭を撫でるユウ。

 優しい微笑みを湛えて、それなのに、

 なぜかユウの頬を、一筋の涙が伝った――



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 季節は移り行くもの、という。
 季節がくっきり別れていたあの場所は、東だったか、西だったか。
 あるいはそのどちらでもあったかもしれない。
 勇者になってから、ついこの間まで駆け抜けてきた時間に思いを馳せる。
 気がつけば、季節を感じる暇もないほど、時間は過ぎ去ってしまった。
 それでも、東の国で見た桜吹雪だけは、今も鮮やかに心に焼きついている。
 春の名物だと教えてくれたのは……あれは、誰だったろうか。
 喫茶店『小道』の周りでは、季節が少し曖昧だ。
 春夏秋冬はあるものの、春の花の横で夏の草が生い茂っていたり、秋の花が咲く頃に突然雪がちらついてみたり、そうかと思えば突然春のような陽気になったり。
 少し節操がないんじゃないか、とすらユウは思う。
 ある日やって来たフーディも「ここは過ごしやすいですよね」と言っていた。
 確かに暑すぎず寒すぎず、快適といえば快適なのだが、
 ユウとしては、もう少し季節らしい彩りがあってもいいのにな、と思う。
 相変わらず客のいない店内で、ユウはカウンターにもたれてほうっとため息をつく。
 リンには色々なものを見せたい――
 四季折々が見せる自然の顔とか、夕焼けや朝焼け、流れ星……挙げればキリがない。
 それを全部見せる頃にはリンも大人になっているだろうし――
「私はおばあちゃんかなぁ」
 思わずつぶやく。
 ここにいても、見せれるものはたくさんある。
 自分が見てきたものをあの魔法でひとっとびして、見せる事ができる。
 それでも、四季の変化や人の流れ、”時間をかけて感じるようなもの”は見せてやれない。
 今、この時しか見れないものや、目の前にあるもの、そういうものを見て、今を見て、それが何かを感じ取って欲しい。
 本や人伝に聞いてわかる事だとしても、自分の目でちゃんと見て欲しい。
 ――あれは、誰の言葉だったか。
「その瞬間を切り取って、心に留める。そしてそれが何だったのか、それは――」
「そのうちわかるさ」
 投げやりにも聞こえるが、その言葉は不思議とユウの心にすっと染み込んできた。
 リンが見たもの、それはきっと自分とは違って見えているのだろう。
 瞬間を感じるものや、時間の流れを感じるもの。
 人や、出来事との邂逅。
 そのどれを取っても、自分とリンが感じる事は違うのだ。
 その一つ一つの事が自分にとって、
 そして、リンにとってどういう意味を持つのか――
「そのうちわかるさ」
 ――小鳥の件以来、ユウはそんな風に考えるようになっていた。
 あれからしばらく、リンは時々空を見上げてため息をつくようになっていた。
 その姿は、なんだかそのまま空に吸い込まれていきそうで、儚くて、寂しげで。
 リンが、あの事をどう受け止めて、これからどうするのか、それはユウにはわからなかったけれど――
 そのうちわかる──
 夢に見るのか、時々寝ながら涙を浮かべているリンの頭を撫でてやる事くらいしか、ユウにできる事は無い。
 すべては、リンが、自分で乗り越えていかなければならないことなのだから。
 冷めかけたコーヒーの、黒い湖面に映る自分の顔は、どんな表情をしているのだろう。
 時は過ぎて、季節は移り行き、人の心はうつろっていく。
 色んな人がいて、色んな場所があって、色んな時間があって。
 ゆっくりと動く人。
 自分の道を突き進む人。
 ずっと走る人、ずっと歩く人。
 誰もが一度は立ち止まって、また歩み始める。
 リンも、今は立ち止まっているようにみえるけれど、いずれまた歩き出す。
 待っていよう、とユウは思う。
 リンが立ち止まったなら、一緒に立ち止まって、今目の前にあるものを切り取って心の中に留めよう。
 リンが歩き始めたら、自分も一緒に歩き始めよう。
 そして、いつか話をしよう。
 自分が切り取った景色の話を、リンと二人で。
 リンの切り取った景色を聞いて、自分の事を話して。
 その時、自分は年老いていて、リンは大人になっていて。
 悲しい事も、楽しい事も、辛い事も、幸せな事も――
 全部愛おしい思い出になっていくに違いない。
 美味しいコーヒーと、美味しいお菓子で、二人で時間を忘れて話したい。
 そんな風に思って、ユウはそっと微笑む。
 隣では、ミルクの入ったカップをぼーっと見つめるリンがいる。
 思わずリンの頭を撫でた。
 一瞬、首をかしげてユウを見るリン。
 けれど、目の前にある優しい微笑みに、リンは――ユウのような優しい笑みを浮かべた。
 季節はめぐり、やがてリンも大人になって、どんな道を歩んでいくのだろう。
 その時、自分は――
 優しくリンの頭を撫でるユウ。
 優しい微笑みを湛えて、それなのに、
 なぜかユウの頬を、一筋の涙が伝った――