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パティとトリシャ、襲来!

ー/ー



「こんにちはー!」
「こんにちは」

 勢い良く扉が開いて、二つの声が店内に響く。
 入ってきたのは二人の少女。
 ダークブラウンの髪をショートに切りそろえた、活発そうな少女パティと、
 そしてブロンドの長髪をポニーテールにまとめた、落ち着いた雰囲気の女性、トリシャである。

『オーガの親子騒動』以来、二人は時々連れ立ってここ、喫茶店『小道』に訪れるようになった。

 あの時、ウォル達冒険者に連れられてやってきたパティが、ユウを見とめて大声で指差したとき、ユウはすぐにはわからなかったのだが、自分が「レッドフォックス」の娘だと明かすと、ユウは「ああ、パティちゃんか」と笑顔で記憶を取り戻したのだった。

 その日は隣村への急ぎの旅の途中で、しかもパティは“お尻が痛い”という理由で店には入らず、そのまま去っていった。
 ところがその話を隣村で合流したトリシャにすると、

「川を渡った意味がなかった」

 と頬をふくらませたという。

 帰り道で二人が『小道』に立ち寄ると、ユウは笑顔で迎えてくれた。
 トリシャのことも覚えていたらしく、歳が近いせいか、一目で気づいたという。
 その話を聞いてパティはちょっと悔しがっていた。

「そうか、このナイスバデーだな。このけしからんバデーで覚えていたんだな!」
「ちょ、やめっ、絶対違うわ!」
「あはは……」

 体を触りまくるパティを引っぺがそうとするトリシャ。
 そんな二人を見てユウは苦笑いを浮かべていた。

「ほら、パティちゃんは見違えたから」
「そうすると、私は見違えてない、と」

 ユウの言葉にパティがぱっと目を輝かせるが、今度はトリシャが半眼になる。

「いや、トリシャちゃんも見違えたけど……昔から美人だからっていうか、もちろんパティちゃんも可愛いんだけど、えっとぉ……」

 二人からジト眼で見つめられて、たじたじになってしまうユウ。

 しばらくそんなやり取りをしていたが、二人は店に入らずに「また来る」と言って帰っていった。

 *

「………」

 そうして再びやってきた二人は、店に入ってすぐ、あるものを無言で凝視していた。
 それはカウンター席に置かれていて、二人にとっては初めて見るものであった。
 その奥でユウは人差し指を唇につけたあと、両手を目の前であわせるジェスチャーを何度も繰り返していた。

 そんなユウとカウンターにおかれたものを交互にみる。
 それは、ウェイトレス服を着せられたちいさな人形で、カウンター席に腰掛けて眼を閉じている。

 ――人形と見間違うほどの美少女が、肩を静かに揺らして、寝息を立てている。
 しかし、その頭には二本の小さな角があるし、耳は少しとんがっている。
 それをみれば、少なくとも人間ではなかったが――

(やばっ、これやばっ、トリシャ姉! これやばい!)
(わかってる、わかってるよ。これは……いいものだ)

 二人はこそこそと囁きながら、夢中で覗き込む。

 そのとき、むにゅ、と少女の口が動き、ゆっくりと目が開いた。

「みゅ?」

 リンが眼を覚ますと、目の前に見知らぬ顔が二つ――

「ふあっ!?」

 びっくりしてユウを探すも、視界が二人の顔で埋まり、ユウは死角にいて見つける事が出来ないでいる。

「かわいい~~~~っ!!」

 目の前の二人は顔を見合わせて、同時にリンに視線を送り、同時に叫んでいた。

「ユウさん、ユウさん、この子抱きしめていいの!?」
「あ、パティちゃん、私もー!」

 ユウの許諾を得ぬまま、パティが勢いのままリンを抱き上げた。反対側からトリシャも二人ごと抱きしめる。

「むぎゅ」

 つぶれたような声が間から聞こえたが、二人はお構いなしだ。

「えっと……あはは……」

 ユウは困ったような笑みを浮かべる。
 助けて、と目で訴えるリンに、ユウは片手で「ごめんね」と小さくジェスチャー。

(たすけてぇぇぇ……)

 声も出せず、リンは二人の抱擁の餌食となった。

*

 ようやく二人から解放されたリンは、むすっとした顔をしてユウの傍にくっついていた。

「あはは……ごめんなさい、つい」
「私も、つい、可愛かったものだから……」

 パティとトリシャはカウンターで、揃ってリンに頭を下げる。

「まぁ、悪気があったわけじゃないし、リンも許してあげてね?」

 ジト目で二人を睨んでいたリンは、ユウの言葉にも、ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。
 それでもしっかりユウのそばからは離れない。

「とりあえずコーヒーだよ、どうぞ。ほら、リンもあれもってきてよ」

 二人にコーヒーを出しながら、ユウがぽむぽむとリンの頭を撫でる。
 リンはしばらく、むすーっと口をとんがらせていたが、やがて店の奥の貯蔵庫からお菓子を載せた皿を二つ持ってきて二人に出す。

「どうぞ」

ちょっと警戒もしつつ、皿を置く。

「うわ~、おいしそう!」
「ほんと、いい香りがするね~」

 二人はリンの表情にバツが悪そうにしていたが、出されたお菓子を前に、目を輝かせた。
 その言葉に、リンがむすっとしながらも、唇がゆるみそうになっているのをユウは見逃さなかった。

「この子が作ったんですよ、ぜひ食べて!」

 いつものニコニコ笑顔で二人に促した。

「凄くちょうど良い甘さ! コーヒーを引き立てて、そしてコーヒーもこのお菓子の味を引き立てて!」
「これは癖になりそう!」

 二人はお菓子を頬張って、目を閉じてぷるぷると体を震わす。

「凄くおいしいよ! リンちゃん!」
「うん、凄い!」

 二人はリンを絶賛している。
 リンは相変わらずむすっとした顔をしている、のだが、口元はぶるぶると震えていて――

「あ、デレた。」

 ユウがそう微笑んだと同時に、リンの口はにへらっとだらしなく笑った。

「か~わ~い~い~!」

 パティがリンの笑みに気づいて思わず声を上げる。
 リンはその声に一瞬びくっとなるが、口元はゆるんだままだ。

 パティがリンを一方的に構って追い掛け回したり、その間ユウとトリシャは談笑したり、リンとパティの様子を見て微笑んだり。

 リンもなんだかんだで、嫌ではなそうだ。

 トリシャもパティと一緒にリンを追いかけ始めて、リン争奪戦が始まろうとしていた。
 ユウはコーヒーを飲みながら、その賑やかさを楽しそうに眺めていた。

*

 争奪戦も終わって、リン、パティ、トリシャの3人は並んでカウンターに座っている。
 もちろん真ん中がリンで、パティとトリシャが挟むように座っている。
 リンは目を薄く開きながら、むすっとした顔だ。
 ただ、本気で嫌がっていないのはユウにはすぐにわかった。
 パティやトリシャもなんとなくわかっているのだろう。多少気は遣っているものの、あれやこれやと世話を焼いている。

「子供じゃないよ!」
「うんうん、そうだね~」

 リンの言葉に耳を貸しているのか貸していないのか、パティとトリシャが順番に頭を撫でる。
 むすっとしたままのリンだがその手を払いのけたりはしない。

「ユ~ウ~?」

 さっきから何故かニコニコ微笑んで助けもしてくれないユウを、リンはジト目で睨む。
 なんだか、ユウに見世物にされてるような、そんな気がしてならないようだった。
 それでもリンは、嫌だとか、悪い気はしていないようではあるが。

 そこからはユウも交えて女性同士の会話が始まって、リンにはわからない話が多くて時々首を傾げていたり、その様子に感極まってパティやトリシャが抱きついたり、リンがそれを引き剥がそうとしていたり。
 しばらくそんなことを繰り返すうちに、空に赤みが差してきた事にトリシャが気づいた。

「そろそろおいとましますー」

「えっ」

 トリシャの言葉に目を見開いたのはリンだった。

「ええー、まだいいじゃん、トリシャ姉」

「こら、夜になる前に帰らないとおじさんに怒られるよ!」

「へ~い」

 トリシャの言葉に素直に従ったパティが「じゃあまたね、リンたん」とリンをぎゅっと抱きしめる。

「もうくるな」
「ええええ」

 むすっとしたままのリンの言葉にあからさまにがっかりするパティ。
 もちろん冗談だとわかっている。
 ユウもトリシャもニコニコとして二人をみていた。

 いざ帰る段になって、玄関のところで、リンがちょっと顔を紅くして二人にラッピングした焼き菓子を渡していた。

「うわぁ、ありがとう! またくるよ!」
「もうくるな」
「もう、そんなこといってぇ、でもありがとう、大事に食べるよ!」
「うん」

 と、また一方的にパティがリンに抱きついていた。
 二人は「それじゃ」と帰っていった。
 見送るリンは少しさびしそうな顔をしていた。

*

「急に静かになったねぇ?」
「せいせいする」

 二人が帰った後、店内にはさっきまでの喧騒の残滓があるようで、それでも二人の姿はなくて、なんだかちょっと物足りないような。
 そんな静けさがゆっくりと広がっていた。

「楽しかったね」
「うるさかった」

 今生の別れではないし、また明日でもいつでも会えるけれど、小さなお別れでもやっぱり別れは別れで、何だか物悲しく感じてしまう。

「またきてくれるといいねぇ」
「来ないでほしい」

 ユウの言葉に悪態をつくリン。それでも、その声に棘はなくて、別れの悲しみをごまかしているようにも感じられた。

「ほら、リン」

 ユウがホットミルクを渡すと、受け取ったリンは少しさびしげに笑った。

「……また来るって言ってた」

「そうだね、じゃあ、新しいお菓子用意しておかないとね」

「パティにはもったいない」

 そういいながらも、新しいお菓子を出した時の、パティの反応を想像したのか、リンはにやっと笑う。

 それから、パティがパティがとリンが言うから、よっぽど気に入ったのだろう。

「今度村までいってみようか」と提案すると、
「わざわざいかなくてもいい、でもユウが行きたいなら行こう?」

 ユウは思わず噴出しそうになってしまった。

「はいはい、そのうち行こうね?」

 ぽんぽんとリンの頭を撫でる。
 そんなユウの表情に気づいたリンは、むっとしてユウを睨むのだった。

*

 日が落ちて、昼間とは打って変わって店は静寂に包まれる。
 カウンターに座ったリンが、ホットミルクに口をつけながら、ほうとため息を吐いた。
 その目は店内をじっと眺めている。
 昼の事を思い出してか、むすっとなったり、にやっとなったり、ころころと表情が変わる。
 でも最後にはさびしげに目を薄くして伏目がちになっていた。

「また来てくれるよ」
「うん」

 ホットミルクをちびりと飲んで、リンが何かを振り払うように頭を横に振って、

「今度来たら目に物みせる」

 ぐっと拳を握り締め、高らかに宣言した。

*

 その日の夜、リンは、昼間の二人が出てきて、怪しげな笑みを浮かべながらリンを執拗に撫で回す夢を見て、うなされていた。

「?」

 うんうんという声で目が覚めたユウは、唸るリンに寝ぼけ眼のまま首を傾げていた。

 夜は更けていく。
 静かに虫が鳴いて、それが静寂を際立たせてしまう。

 虫の声と混じるようにして、リンの唸り声はしばらく続くのであった――



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「こんにちは」
 勢い良く扉が開いて、二つの声が店内に響く。
 入ってきたのは二人の少女。
 ダークブラウンの髪をショートに切りそろえた、活発そうな少女パティと、
 そしてブロンドの長髪をポニーテールにまとめた、落ち着いた雰囲気の女性、トリシャである。
『オーガの親子騒動』以来、二人は時々連れ立ってここ、喫茶店『小道』に訪れるようになった。
 あの時、ウォル達冒険者に連れられてやってきたパティが、ユウを見とめて大声で指差したとき、ユウはすぐにはわからなかったのだが、自分が「レッドフォックス」の娘だと明かすと、ユウは「ああ、パティちゃんか」と笑顔で記憶を取り戻したのだった。
 その日は隣村への急ぎの旅の途中で、しかもパティは“お尻が痛い”という理由で店には入らず、そのまま去っていった。
 ところがその話を隣村で合流したトリシャにすると、
「川を渡った意味がなかった」
 と頬をふくらませたという。
 帰り道で二人が『小道』に立ち寄ると、ユウは笑顔で迎えてくれた。
 トリシャのことも覚えていたらしく、歳が近いせいか、一目で気づいたという。
 その話を聞いてパティはちょっと悔しがっていた。
「そうか、このナイスバデーだな。このけしからんバデーで覚えていたんだな!」
「ちょ、やめっ、絶対違うわ!」
「あはは……」
 体を触りまくるパティを引っぺがそうとするトリシャ。
 そんな二人を見てユウは苦笑いを浮かべていた。
「ほら、パティちゃんは見違えたから」
「そうすると、私は見違えてない、と」
 ユウの言葉にパティがぱっと目を輝かせるが、今度はトリシャが半眼になる。
「いや、トリシャちゃんも見違えたけど……昔から美人だからっていうか、もちろんパティちゃんも可愛いんだけど、えっとぉ……」
 二人からジト眼で見つめられて、たじたじになってしまうユウ。
 しばらくそんなやり取りをしていたが、二人は店に入らずに「また来る」と言って帰っていった。
 *
「………」
 そうして再びやってきた二人は、店に入ってすぐ、あるものを無言で凝視していた。
 それはカウンター席に置かれていて、二人にとっては初めて見るものであった。
 その奥でユウは人差し指を唇につけたあと、両手を目の前であわせるジェスチャーを何度も繰り返していた。
 そんなユウとカウンターにおかれたものを交互にみる。
 それは、ウェイトレス服を着せられたちいさな人形で、カウンター席に腰掛けて眼を閉じている。
 ――人形と見間違うほどの美少女が、肩を静かに揺らして、寝息を立てている。
 しかし、その頭には二本の小さな角があるし、耳は少しとんがっている。
 それをみれば、少なくとも人間ではなかったが――
(やばっ、これやばっ、トリシャ姉! これやばい!)
(わかってる、わかってるよ。これは……いいものだ)
 二人はこそこそと囁きながら、夢中で覗き込む。
 そのとき、むにゅ、と少女の口が動き、ゆっくりと目が開いた。
「みゅ?」
 リンが眼を覚ますと、目の前に見知らぬ顔が二つ――
「ふあっ!?」
 びっくりしてユウを探すも、視界が二人の顔で埋まり、ユウは死角にいて見つける事が出来ないでいる。
「かわいい~~~~っ!!」
 目の前の二人は顔を見合わせて、同時にリンに視線を送り、同時に叫んでいた。
「ユウさん、ユウさん、この子抱きしめていいの!?」
「あ、パティちゃん、私もー!」
 ユウの許諾を得ぬまま、パティが勢いのままリンを抱き上げた。反対側からトリシャも二人ごと抱きしめる。
「むぎゅ」
 つぶれたような声が間から聞こえたが、二人はお構いなしだ。
「えっと……あはは……」
 ユウは困ったような笑みを浮かべる。
 助けて、と目で訴えるリンに、ユウは片手で「ごめんね」と小さくジェスチャー。
(たすけてぇぇぇ……)
 声も出せず、リンは二人の抱擁の餌食となった。
*
 ようやく二人から解放されたリンは、むすっとした顔をしてユウの傍にくっついていた。
「あはは……ごめんなさい、つい」
「私も、つい、可愛かったものだから……」
 パティとトリシャはカウンターで、揃ってリンに頭を下げる。
「まぁ、悪気があったわけじゃないし、リンも許してあげてね?」
 ジト目で二人を睨んでいたリンは、ユウの言葉にも、ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。
 それでもしっかりユウのそばからは離れない。
「とりあえずコーヒーだよ、どうぞ。ほら、リンもあれもってきてよ」
 二人にコーヒーを出しながら、ユウがぽむぽむとリンの頭を撫でる。
 リンはしばらく、むすーっと口をとんがらせていたが、やがて店の奥の貯蔵庫からお菓子を載せた皿を二つ持ってきて二人に出す。
「どうぞ」
ちょっと警戒もしつつ、皿を置く。
「うわ~、おいしそう!」
「ほんと、いい香りがするね~」
 二人はリンの表情にバツが悪そうにしていたが、出されたお菓子を前に、目を輝かせた。
 その言葉に、リンがむすっとしながらも、唇がゆるみそうになっているのをユウは見逃さなかった。
「この子が作ったんですよ、ぜひ食べて!」
 いつものニコニコ笑顔で二人に促した。
「凄くちょうど良い甘さ! コーヒーを引き立てて、そしてコーヒーもこのお菓子の味を引き立てて!」
「これは癖になりそう!」
 二人はお菓子を頬張って、目を閉じてぷるぷると体を震わす。
「凄くおいしいよ! リンちゃん!」
「うん、凄い!」
 二人はリンを絶賛している。
 リンは相変わらずむすっとした顔をしている、のだが、口元はぶるぶると震えていて――
「あ、デレた。」
 ユウがそう微笑んだと同時に、リンの口はにへらっとだらしなく笑った。
「か~わ~い~い~!」
 パティがリンの笑みに気づいて思わず声を上げる。
 リンはその声に一瞬びくっとなるが、口元はゆるんだままだ。
 パティがリンを一方的に構って追い掛け回したり、その間ユウとトリシャは談笑したり、リンとパティの様子を見て微笑んだり。
 リンもなんだかんだで、嫌ではなそうだ。
 トリシャもパティと一緒にリンを追いかけ始めて、リン争奪戦が始まろうとしていた。
 ユウはコーヒーを飲みながら、その賑やかさを楽しそうに眺めていた。
*
 争奪戦も終わって、リン、パティ、トリシャの3人は並んでカウンターに座っている。
 もちろん真ん中がリンで、パティとトリシャが挟むように座っている。
 リンは目を薄く開きながら、むすっとした顔だ。
 ただ、本気で嫌がっていないのはユウにはすぐにわかった。
 パティやトリシャもなんとなくわかっているのだろう。多少気は遣っているものの、あれやこれやと世話を焼いている。
「子供じゃないよ!」
「うんうん、そうだね~」
 リンの言葉に耳を貸しているのか貸していないのか、パティとトリシャが順番に頭を撫でる。
 むすっとしたままのリンだがその手を払いのけたりはしない。
「ユ~ウ~?」
 さっきから何故かニコニコ微笑んで助けもしてくれないユウを、リンはジト目で睨む。
 なんだか、ユウに見世物にされてるような、そんな気がしてならないようだった。
 それでもリンは、嫌だとか、悪い気はしていないようではあるが。
 そこからはユウも交えて女性同士の会話が始まって、リンにはわからない話が多くて時々首を傾げていたり、その様子に感極まってパティやトリシャが抱きついたり、リンがそれを引き剥がそうとしていたり。
 しばらくそんなことを繰り返すうちに、空に赤みが差してきた事にトリシャが気づいた。
「そろそろおいとましますー」
「えっ」
 トリシャの言葉に目を見開いたのはリンだった。
「ええー、まだいいじゃん、トリシャ姉」
「こら、夜になる前に帰らないとおじさんに怒られるよ!」
「へ~い」
 トリシャの言葉に素直に従ったパティが「じゃあまたね、リンたん」とリンをぎゅっと抱きしめる。
「もうくるな」
「ええええ」
 むすっとしたままのリンの言葉にあからさまにがっかりするパティ。
 もちろん冗談だとわかっている。
 ユウもトリシャもニコニコとして二人をみていた。
 いざ帰る段になって、玄関のところで、リンがちょっと顔を紅くして二人にラッピングした焼き菓子を渡していた。
「うわぁ、ありがとう! またくるよ!」
「もうくるな」
「もう、そんなこといってぇ、でもありがとう、大事に食べるよ!」
「うん」
 と、また一方的にパティがリンに抱きついていた。
 二人は「それじゃ」と帰っていった。
 見送るリンは少しさびしそうな顔をしていた。
*
「急に静かになったねぇ?」
「せいせいする」
 二人が帰った後、店内にはさっきまでの喧騒の残滓があるようで、それでも二人の姿はなくて、なんだかちょっと物足りないような。
 そんな静けさがゆっくりと広がっていた。
「楽しかったね」
「うるさかった」
 今生の別れではないし、また明日でもいつでも会えるけれど、小さなお別れでもやっぱり別れは別れで、何だか物悲しく感じてしまう。
「またきてくれるといいねぇ」
「来ないでほしい」
 ユウの言葉に悪態をつくリン。それでも、その声に棘はなくて、別れの悲しみをごまかしているようにも感じられた。
「ほら、リン」
 ユウがホットミルクを渡すと、受け取ったリンは少しさびしげに笑った。
「……また来るって言ってた」
「そうだね、じゃあ、新しいお菓子用意しておかないとね」
「パティにはもったいない」
 そういいながらも、新しいお菓子を出した時の、パティの反応を想像したのか、リンはにやっと笑う。
 それから、パティがパティがとリンが言うから、よっぽど気に入ったのだろう。
「今度村までいってみようか」と提案すると、
「わざわざいかなくてもいい、でもユウが行きたいなら行こう?」
 ユウは思わず噴出しそうになってしまった。
「はいはい、そのうち行こうね?」
 ぽんぽんとリンの頭を撫でる。
 そんなユウの表情に気づいたリンは、むっとしてユウを睨むのだった。
*
 日が落ちて、昼間とは打って変わって店は静寂に包まれる。
 カウンターに座ったリンが、ホットミルクに口をつけながら、ほうとため息を吐いた。
 その目は店内をじっと眺めている。
 昼の事を思い出してか、むすっとなったり、にやっとなったり、ころころと表情が変わる。
 でも最後にはさびしげに目を薄くして伏目がちになっていた。
「また来てくれるよ」
「うん」
 ホットミルクをちびりと飲んで、リンが何かを振り払うように頭を横に振って、
「今度来たら目に物みせる」
 ぐっと拳を握り締め、高らかに宣言した。
*
 その日の夜、リンは、昼間の二人が出てきて、怪しげな笑みを浮かべながらリンを執拗に撫で回す夢を見て、うなされていた。
「?」
 うんうんという声で目が覚めたユウは、唸るリンに寝ぼけ眼のまま首を傾げていた。
 夜は更けていく。
 静かに虫が鳴いて、それが静寂を際立たせてしまう。
 虫の声と混じるようにして、リンの唸り声はしばらく続くのであった――