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旭日麗水

ー/ー



 疼く、疼く、疼く。
 渇きに渇いた本能が闘いを求める。そして今、その渇きは潤されようとしている。目の前に立ちはだかるのは強者であり無二の友人。手加減など無粋だろう。全力で、本気でぶつかるのが礼儀というものだ。


(だからこそ、これまでの関係はすべて捨てる)


 これから闘う相手を、まだ友だと思っている内は、まだぬるい。今、この瞬間だけは、ウミストラと友であることを忘れなければならない。それは、旭だけの認識ではなかった。
 背筋が震えるような鋭い眼光が旭を捉える。闘いの火蓋は切られた。まるで、どこからでもかかってこいとでも言いたげな殺意が放たれている。その気配に、旭は心から歓喜した。

 言ってしまえば欲求不満だったのだろう。これまで本気でぶつかることができた相手といえば、獄蝶のジョカや八重、終局の鍵くらいなものだ。有象無象の魔獣や悪夢の怪物(ナイトメア)ではもう相手にならなず不満は満たされない。旭は闘いに飢えていた。


「手加減はいらない。君と全力でやり合っても負けないように今まで鍛えてきたんだ」

「正直、未だかつて無いくらい昂ってる。言われなくても手加減なんかできねぇよ」

「そうか、安心したよ。君も、僕と同じなんだね」


 心臓が破裂しそうなほど拍動している。緊張で真っ直ぐ歩くことすらままならない。今どんな顔をしているのか、何を喋っているのかも曖昧だった。二人とも、興奮と高揚で何もかもめちゃくちゃになっていた。たった一つの欲求を除いて。

 満ち足りない。渇いている。

 ただ――


「”水創の円環(アニージョ・クレアクシオン)”!」

「”焔”!」


 この闘いが、楽しみで仕方がない。

 ウミストラの膨大な魔力が空間内を支配するのに時間はかからなかった。背に広がった水の円環から、湧き出るように、際限なく創成される水のすべてがウミストラの支配下だ。一滴も余すことなく、指先を動かすように繊細な操作で手繰る。異次元の集中力は、それ以外のすべてを捨てた末に得られたものだろう。ウミストラの視界には、もう旭しか映っていなかった。

 言葉は不要。語るべきは死中で。

 無尽蔵の攻撃が旭を襲う。隙を見せたのは攻撃を避け続けていた旭だった。四方八方から襲い来る水の槍が旭を捉える。
 二人のぶつかり合いは練習試合のそれではなかった。鍛錬とも違う。試験だから本気で闘っている、という言い訳はしない。ただ本能のままに、その欲に従って、ひたすら、すべてを投げ捨てて――


「殺し合おう! 旭!」


 揺れる。
 視界が。思考が。脳が。ぐらぐらと、揺れて、揺れて、ふらふらと。

 そして、ウミストラの中で、何かが壊れた。


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 疼く、疼く、疼く。
 渇きに渇いた本能が闘いを求める。そして今、その渇きは潤されようとしている。目の前に立ちはだかるのは強者であり無二の友人。手加減など無粋だろう。全力で、本気でぶつかるのが礼儀というものだ。
(だからこそ、これまでの関係はすべて捨てる)
 これから闘う相手を、まだ友だと思っている内は、まだぬるい。今、この瞬間だけは、ウミストラと友であることを忘れなければならない。それは、旭だけの認識ではなかった。
 背筋が震えるような鋭い眼光が旭を捉える。闘いの火蓋は切られた。まるで、どこからでもかかってこいとでも言いたげな殺意が放たれている。その気配に、旭は心から歓喜した。
 言ってしまえば欲求不満だったのだろう。これまで本気でぶつかることができた相手といえば、獄蝶のジョカや八重、終局の鍵くらいなものだ。有象無象の魔獣や|悪夢の怪物《ナイトメア》ではもう相手にならなず不満は満たされない。旭は闘いに飢えていた。
「手加減はいらない。君と全力でやり合っても負けないように今まで鍛えてきたんだ」
「正直、未だかつて無いくらい昂ってる。言われなくても手加減なんかできねぇよ」
「そうか、安心したよ。君も、僕と同じなんだね」
 心臓が破裂しそうなほど拍動している。緊張で真っ直ぐ歩くことすらままならない。今どんな顔をしているのか、何を喋っているのかも曖昧だった。二人とも、興奮と高揚で何もかもめちゃくちゃになっていた。たった一つの欲求を除いて。
 満ち足りない。渇いている。
 ただ――
「”|水創の円環《アニージョ・クレアクシオン》”!」
「”焔”!」
 この闘いが、楽しみで仕方がない。
 ウミストラの膨大な魔力が空間内を支配するのに時間はかからなかった。背に広がった水の円環から、湧き出るように、際限なく創成される水のすべてがウミストラの支配下だ。一滴も余すことなく、指先を動かすように繊細な操作で手繰る。異次元の集中力は、それ以外のすべてを捨てた末に得られたものだろう。ウミストラの視界には、もう旭しか映っていなかった。
 言葉は不要。語るべきは死中で。
 無尽蔵の攻撃が旭を襲う。隙を見せたのは攻撃を避け続けていた旭だった。四方八方から襲い来る水の槍が旭を捉える。
 二人のぶつかり合いは練習試合のそれではなかった。鍛錬とも違う。試験だから本気で闘っている、という言い訳はしない。ただ本能のままに、その欲に従って、ひたすら、すべてを投げ捨てて――
「殺し合おう! 旭!」
 揺れる。
 視界が。思考が。脳が。ぐらぐらと、揺れて、揺れて、ふらふらと。
 そして、ウミストラの中で、何かが壊れた。