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強者たち

ー/ー



 闘いの時を待ちわびている。どれほど取り繕っても、この感情だけは押し殺すことはできないようで、旭は待ちきれないこの時間に苛立ちすら覚えて少し伸びた髪を弄る。ただでさえ第一回戦におあずけをくらって、もう耐え忍ぶことは難しいほど飢えてしまった。

 闘争本能。

 騎獅道という呪われた血に刻まれた運命であり業。闘いの血族として忌まわしくも歴史に存在を残した所以である。それを理解していながらも、その本能に逆らうことはできず、旭は闘いを心の底から待ち望んでしまっている。


「顔色が悪いぞ、ウミストラ。体調が優れないか?」

「いや、そういう訳じゃないんだ……ただ緊張してね……」


 ウミストラの視線の先には旭がいた。なるほど、とダモクレスは合点したようで、一度はウミストラの視界から外れるも、すぐにまた隣に姿を現す。差し出されたダモクレスの手の上には、見慣れない飴玉のような菓子が乗せられていた。


「これは?」

「妹の好物でな。いつねだられてもいいように持ち歩いているんだ。多少は気も和らぐだろう」

「いいの? ありがとう、ぜひいただかせてもらうよ」


 そう言ってウミストラは飴玉は口に入れてひと舐めすると、先ほどまでの顔色の悪さとはまた方向性の違うなんとも言えない表情をして顔を歪ませた。


「ぐっ……ごほ……!」


 口に放り込まれた黒いキャンディ。ひし形の可愛らしい特徴的な形とは裏腹に、食べると強烈な塩味とアンモニア臭が口の中に広がる。塩をまぶしたゴムを食べているような酷い味。それでいて甘い後からやってくる後味が味わいに深みとエグ味に加えている。


「……ど、独特な味だね。何味のキャンディなの?」

「さぁ? そのまま食べてみればわかるんじゃないか?」

「うっ……おぇ……なんだこれ……よく分からない味だ……」

「はっはは! 強烈な味だろう。騙して悪かったな。だが、肩の力は抜けたようだ」


 ウミストラはハッとして自分の身体に意識を巡らせる。先ほどまでは氷のように冷たく、小刻みに震えていた指先は平静を保ち、強張っていた全身から余計な力が抜けてリラックスできているようだった。驚いたことに、あのおよそ食べ物とは思えないような飴玉がウミストラの緊張を和らげてしまったらしい。信じられないといった様子でウミストラは大きく目を見開く。


「全力で試験に臨めないのは不本意だろう。胸を張って挑んでくればいい。勝敗がすべてではない」

「……ありがとう、心強いよ。君も頑張ってね、ダモクレス」

「応! 任せておけ!」


 これから始まるのはシード戦。その実力の高さか選ばれたであろう強者たちとの激突。ウミストラの緊張も当然だろう。深く深呼吸をして、一歩を踏み出す。その一歩にどれだけの覚悟と勇気が必要だったか計り知れない。


「旭!」


 結界を前にして名前を呼ぶウミストラの声を聞いて、旭は顔を上げた。目の前に立っていたのは、覚悟を決めた漢の姿だった。少し前とは比べ物にならない、見違えたウミストラの表情を見て、旭はまた気持ちを高揚させる。


「手加減はしないぞ、全力で来い!」


 高々に宣戦布告するウミストラに震えはなかった。


 そして合図が上がり、ついに始まる第二回戦。強者たちの実力が明らかになる。


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 闘いの時を待ちわびている。どれほど取り繕っても、この感情だけは押し殺すことはできないようで、旭は待ちきれないこの時間に苛立ちすら覚えて少し伸びた髪を弄る。ただでさえ第一回戦におあずけをくらって、もう耐え忍ぶことは難しいほど飢えてしまった。
 闘争本能。
 騎獅道という呪われた血に刻まれた運命であり業。闘いの血族として忌まわしくも歴史に存在を残した所以である。それを理解していながらも、その本能に逆らうことはできず、旭は闘いを心の底から待ち望んでしまっている。
「顔色が悪いぞ、ウミストラ。体調が優れないか?」
「いや、そういう訳じゃないんだ……ただ緊張してね……」
 ウミストラの視線の先には旭がいた。なるほど、とダモクレスは合点したようで、一度はウミストラの視界から外れるも、すぐにまた隣に姿を現す。差し出されたダモクレスの手の上には、見慣れない飴玉のような菓子が乗せられていた。
「これは?」
「妹の好物でな。いつねだられてもいいように持ち歩いているんだ。多少は気も和らぐだろう」
「いいの? ありがとう、ぜひいただかせてもらうよ」
 そう言ってウミストラは飴玉は口に入れてひと舐めすると、先ほどまでの顔色の悪さとはまた方向性の違うなんとも言えない表情をして顔を歪ませた。
「ぐっ……ごほ……!」
 口に放り込まれた黒いキャンディ。ひし形の可愛らしい特徴的な形とは裏腹に、食べると強烈な塩味とアンモニア臭が口の中に広がる。塩をまぶしたゴムを食べているような酷い味。それでいて甘い後からやってくる後味が味わいに深みとエグ味に加えている。
「……ど、独特な味だね。何味のキャンディなの?」
「さぁ? そのまま食べてみればわかるんじゃないか?」
「うっ……おぇ……なんだこれ……よく分からない味だ……」
「はっはは! 強烈な味だろう。騙して悪かったな。だが、肩の力は抜けたようだ」
 ウミストラはハッとして自分の身体に意識を巡らせる。先ほどまでは氷のように冷たく、小刻みに震えていた指先は平静を保ち、強張っていた全身から余計な力が抜けてリラックスできているようだった。驚いたことに、あのおよそ食べ物とは思えないような飴玉がウミストラの緊張を和らげてしまったらしい。信じられないといった様子でウミストラは大きく目を見開く。
「全力で試験に臨めないのは不本意だろう。胸を張って挑んでくればいい。勝敗がすべてではない」
「……ありがとう、心強いよ。君も頑張ってね、ダモクレス」
「応! 任せておけ!」
 これから始まるのはシード戦。その実力の高さか選ばれたであろう強者たちとの激突。ウミストラの緊張も当然だろう。深く深呼吸をして、一歩を踏み出す。その一歩にどれだけの覚悟と勇気が必要だったか計り知れない。
「旭!」
 結界を前にして名前を呼ぶウミストラの声を聞いて、旭は顔を上げた。目の前に立っていたのは、覚悟を決めた漢の姿だった。少し前とは比べ物にならない、見違えたウミストラの表情を見て、旭はまた気持ちを高揚させる。
「手加減はしないぞ、全力で来い!」
 高々に宣戦布告するウミストラに震えはなかった。
 そして合図が上がり、ついに始まる第二回戦。強者たちの実力が明らかになる。