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静時之間

ー/ー




「なるほど……これは、確かな推薦状のようだな」
「これで、解っただろ?武神様の居る中へ、入れてくれ」

「ならん……!」
「何故……!?」

「知れたことよ…………立札に書いておろう「汝一切の望みを捨てよ」……と」
「そ、それが一体……?」



 ぐごごごごっ……!!



「なっ!?せ、石像が!!」


 ざざっ……!!
 

「この門を通れる者は__」
「__強き者のみ!」

「右の鬼門に__」
「__左の鬼門!」

「「門を通りたくば、我等が “試し” を受けてもらおう!!」」
「………………っ!!」





     ◇◇◇


「…………あの人、負けちゃったみたいなのね〜……久々の挑戦者だったのに」


 外から聴こえてくる、鬼門達のやり取りから数分後……目の前に正座するヒャクメが、私を慰めるように呟いてきた。

 彼等の姿を見ただけで、逃げ出す人も居るくらいだからね。今日来た方は、粘った方なのかもしれないわ。
 
 
「仕方ありませんよ。彼等を突破出来ないようでは、中へ入っても無駄に死んでしまうだけですから」


 同じように正座する私はそう言って、ちゃぶ台のお茶を一飲み。

 この妙神山には、いつ修業者が来るか解らない。

 なので、いつ来ても良いように準備こそ整えてるけど、実際はこうしてヒャクメと暇を潰すのが日課となってしまっている(ヒャクメが居ない時は、もっと暇なんだけど……)。


 ここは、人間界で他に強くなる方法が無い人達が来る謂わば “最後の最難関” ……だから、人が来ること自体が珍しいし、来たとしても今日のように追い返される。これが普通なの……


 …………まぁ……ここのところ、その “例外” の人達が一気に来てしまったことで、私の感覚も少し鈍っていたのだけれど……



「ところで最近、あの2人は来ないの?以前は、月イチくらいで来てたのね〜」
  

 彼女の言う、あの2人とは雪之丞さんに横島さんのことだろう。彼等も最近は、ご無沙汰になってしった。

 何かと騒がしい人達だけに、来なくなってしまうとやはり寂しいものがあるわね。
 
 
「『静時之間』に入れる時間を使い切ってしまいましたからね。多分足は遠のくと思います」
「えっ……!?あそこって、時間制限あるの?」
「体感で、約三年間が限度です。それい以上中に居ると、心身共に異常を起たしてしまうんですよ」

 
『静時之間』……一日が一月(ひとつき)になる、時間の流れが緩やかな特殊空間。

 …………まぁ、限度ギリギリまで入る人も、中々に珍しいんだけどね。そういう意味では、彼等は異常中の異常。


「そうなのね〜、でも、使い切っちゃった人なんて、初めて聞いたのね〜」
「普通なら、そこまで入ることはありません。入る “必要が無い” ですから」
 
「どーゆーことなのね?短い時間で、長く修業出来るんでしょ?とても、便利な気がするけど」
「確かに、時間の優位性はあると思います。でも、逆に言えばそれだけ。あそこに入ることで、急激に成長するわけじゃないし、自分の限界を突破出来るわけでもありません」

「そうなの?でも、2人は別人のようになってしまったのね」
「彼等の場合は……特殊なんです…………」
「特殊?」


 ここで、また一口お茶を含み喉を潤す。少し、説明が長くなりそうなので……
 
 
「順を追って説明しますね。まず、あそこに入ることが出来るのは、ここの最難関を突破した者のみ。それは、解りますね?」
「うんうん。確か斉天大聖様の作る空間に馴染んだ者じゃないと、あそこには順応出来ないのね〜」
 
「その通りです。そして、そういう人達の殆どが、既に技を極めてしまった者ばかりです」
「まぁ、確かにね〜。他にやりようがないから、ここに来る訳だし……でも、それがどう繋がってくる訳なのね?」
 
「つまり……悪い言い方をしてしまうと、彼等には殆ど “伸びしろ” が無いんです。だから、新しく得た力を使いこなす為に使うこと(と言うか、それが本来の使い方)があっても、限界まで籠もる必要姓もない。籠ってても成長しないし、それをするくらいなら、実戦の中で見聞を広めた方が余程有意義ですからね」
「なるほどなのね〜。でも、それだと2人の場合は……」


 私は、ヒャクメの言葉にすぐには答えず一拍置く。両手にある、湯呑みの湯面を見つめながら……
  
 
「そう……彼等の場合は違います。技を極め切らないまま、潜在能力だけを解放してしまった。だから『静時之間』に入ったことで強くなったと言うより、前のめりに行き過ぎた部分の “不足分を補った” と言う方が意味合いとしては、正しいですね」
「はぁ〜〜、そういう訳だったのね〜、何かとんでもない話なのね〜」

「ええ……これは凄いことではあるけど、同時に物凄く “チグハグ” な事。順番が完全に逆ですからね。結果的に2人共成功したから良いけれど、失敗すれば貴重な才能を2つも潰してしまうところでした。」
「どうして、順番通りにしなかったのね?」


 …………湯呑みを握る手に、心なしか力が込もる。

 ヒャクメの何気ない……いえ、当然の疑問に私の忸怩たる想いが疼きだす。後悔に似た感情と言っても良いのかもしれない。
 
 
「……彼等の内にある才能に、惹かれてしまったんです。一体どんなものが、眠っているのか?それが、早く見てみたくて…………」

  
 武神として、猛省しなくてはいけない……彼等の将来ではなく、自分の興味を優先してしまったのだから…………


「ふ〜ん……随分、2人に入れ込んでるのね〜」
「かもしれません。何かと危なっかしい2人ですけど、強くなろうとする意志は本物ですから」

「それで、この三年間で2人は、限界まで鍛えられたのね?」
「いえいえ……二人とも、荒削りな部分が目立ちますからね。これからも伸びると思いますよ。「時間を見つけて、また来たい」とも言っていたし、今から楽しみです!」


 話していて、自然と笑みが溢れる。自分の教えを受けた者が成長し、大きく羽ばたく……武神として、これほど稽古冥利につきることはないわね。さっき猛省とか言ってた癖に、現金なものよね…………


 繰り返すけど、ここに来るのは能力者としての基礎を固めてしまった人達ばかり。

 その者達の殻を破り、方向性を示すのが私の役割であり、彼等……特に横島さんのように基礎が未熟な者を長期間稽古するなんて、本来ならあり得ないこと(全くしない訳じゃないけど……)。

 ヒャクメは「入れ込む」と言い言葉を使ってたけど、そう言った事情から私も自然と彼等に思い入れが強くなってしまったのかもしれない。

 勿論、一度でも私の教えを受けたなら、皆等しい弟子であって、関わった時間の長短で贔屓すると言う意味ではない。



「でもさ〜……水を差すようで、悪いんだけど…………」


 そんな物思いにふける私を、ヒャクメが現実に引き戻す。

 目を細めて、何だか言い辛そうね。


「前も言ったけど、あの2人何か最近 “コソコソ” してるのね〜。放っといて大丈夫なの?」


 コソコソしてる……多分、 “彼” のことを言ってるのね。


「別に悪いことをしてるわけじゃ、ないんでしょう?」
「まぁ………やってることは、ただの除霊なのね〜」

「なら、もう少し様子を見ましょう。そのうち彼等の方から、何か言ってくるかもしれません」
「小竜姫がそれでいいなら、いいけど……」


 本来これも、あってはならないこと………でも、かつての仲間の為の行動と言うなら、或いは…………

 まあ、今は止めましょう。それよりも……
 

「話は変わりますが、ヒャクメ。もう、そろそろGS試験が始まる頃ですね。横島さんはどうなると思います?」
「ん〜〜……今の彼なら文珠無しでも、かなり行ける気がするのね〜〜、本当に、初めて会った頃から比べると信じられないのね〜」
 
「フフッ、全力を出さなくてもですか♪でも、今の彼ならある意味当然かもしれませんね」
「嬉しそうなのね〜、私としては、これで調子に乗って以前の彼に戻ったりしないか心配なのね〜」


 そう言いながら、お茶に手を伸ばすヒャクメを見て私は思う。

 やっぱり、たまにしか彼を見ない者には、そう映ってしまうのかもしれないわ。
 

「それは、あり得ませんよ……私としてはそれを糧に、もっと自信を持って貰いたいくらいです」


 三年間、彼を稽古したからよく解る。

 実力では、既に他を圧倒する領域に達していながら、彼の根底には未だに自分への劣等感………いえ、自責(・・)の念が見え隠れするわ。

 何とかしてあげたいと思ったけども、想像以上に根が深くて私には、どうすることも…………いえ、まだ終わったわけじゃないわね。
 

 いずれ雪之丞さんと、2人でここへ来るでだろうから、その時にまたビシバシと鍛えてあげるわ!

 覚悟していて下さい。横島さん♪




    ◇◇◇

《千葉県山奥除霊現場》


「そういや、鴉。試験来月だな。お前が優勝すりゃ、晴れてGSコンビだぜ♪」
「あぁ……」


 面倒くせぇ……正直、出るかどうかまだ迷ってる………今更、取る事に何の意味があるんだ?
 
 


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「なるほど……これは、確かな推薦状のようだな」
「これで、解っただろ?武神様の居る中へ、入れてくれ」
「ならん……!」
「何故……!?」
「知れたことよ…………立札に書いておろう「汝一切の望みを捨てよ」……と」
「そ、それが一体……?」
 ぐごごごごっ……!!
「なっ!?せ、石像が!!」
 ざざっ……!!
「この門を通れる者は__」
「__強き者のみ!」
「右の鬼門に__」
「__左の鬼門!」
「「門を通りたくば、我等が “試し” を受けてもらおう!!」」
「………………っ!!」
     ◇◇◇
「…………あの人、負けちゃったみたいなのね〜……久々の挑戦者だったのに」
 外から聴こえてくる、鬼門達のやり取りから数分後……目の前に正座するヒャクメが、私を慰めるように呟いてきた。
 彼等の姿を見ただけで、逃げ出す人も居るくらいだからね。今日来た方は、粘った方なのかもしれないわ。
「仕方ありませんよ。彼等を突破出来ないようでは、中へ入っても無駄に死んでしまうだけですから」
 同じように正座する私はそう言って、ちゃぶ台のお茶を一飲み。
 この妙神山には、いつ修業者が来るか解らない。
 なので、いつ来ても良いように準備こそ整えてるけど、実際はこうしてヒャクメと暇を潰すのが日課となってしまっている(ヒャクメが居ない時は、もっと暇なんだけど……)。
 ここは、人間界で他に強くなる方法が無い人達が来る謂わば “最後の最難関” ……だから、人が来ること自体が珍しいし、来たとしても今日のように追い返される。これが普通なの……
 …………まぁ……ここのところ、その “例外” の人達が一気に来てしまったことで、私の感覚も少し鈍っていたのだけれど……
「ところで最近、あの2人は来ないの?以前は、月イチくらいで来てたのね〜」
 彼女の言う、あの2人とは雪之丞さんに横島さんのことだろう。彼等も最近は、ご無沙汰になってしった。
 何かと騒がしい人達だけに、来なくなってしまうとやはり寂しいものがあるわね。
「『静時之間』に入れる時間を使い切ってしまいましたからね。多分足は遠のくと思います」
「えっ……!?あそこって、時間制限あるの?」
「体感で、約三年間が限度です。それい以上中に居ると、心身共に異常を起たしてしまうんですよ」
『静時之間』……一日が|一月《ひとつき》になる、時間の流れが緩やかな特殊空間。
 …………まぁ、限度ギリギリまで入る人も、中々に珍しいんだけどね。そういう意味では、彼等は異常中の異常。
「そうなのね〜、でも、使い切っちゃった人なんて、初めて聞いたのね〜」
「普通なら、そこまで入ることはありません。入る “必要が無い” ですから」
「どーゆーことなのね?短い時間で、長く修業出来るんでしょ?とても、便利な気がするけど」
「確かに、時間の優位性はあると思います。でも、逆に言えばそれだけ。あそこに入ることで、急激に成長するわけじゃないし、自分の限界を突破出来るわけでもありません」
「そうなの?でも、2人は別人のようになってしまったのね」
「彼等の場合は……特殊なんです…………」
「特殊?」
 ここで、また一口お茶を含み喉を潤す。少し、説明が長くなりそうなので……
「順を追って説明しますね。まず、あそこに入ることが出来るのは、ここの最難関を突破した者のみ。それは、解りますね?」
「うんうん。確か斉天大聖様の作る空間に馴染んだ者じゃないと、あそこには順応出来ないのね〜」
「その通りです。そして、そういう人達の殆どが、既に技を極めてしまった者ばかりです」
「まぁ、確かにね〜。他にやりようがないから、ここに来る訳だし……でも、それがどう繋がってくる訳なのね?」
「つまり……悪い言い方をしてしまうと、彼等には殆ど “伸びしろ” が無いんです。だから、新しく得た力を使いこなす為に使うこと(と言うか、それが本来の使い方)があっても、限界まで籠もる必要姓もない。籠ってても成長しないし、それをするくらいなら、実戦の中で見聞を広めた方が余程有意義ですからね」
「なるほどなのね〜。でも、それだと2人の場合は……」
 私は、ヒャクメの言葉にすぐには答えず一拍置く。両手にある、湯呑みの湯面を見つめながら……
「そう……彼等の場合は違います。技を極め切らないまま、潜在能力だけを解放してしまった。だから『静時之間』に入ったことで強くなったと言うより、前のめりに行き過ぎた部分の “不足分を補った” と言う方が意味合いとしては、正しいですね」
「はぁ〜〜、そういう訳だったのね〜、何かとんでもない話なのね〜」
「ええ……これは凄いことではあるけど、同時に物凄く “チグハグ” な事。順番が完全に逆ですからね。結果的に2人共成功したから良いけれど、失敗すれば貴重な才能を2つも潰してしまうところでした。」
「どうして、順番通りにしなかったのね?」
 …………湯呑みを握る手に、心なしか力が込もる。
 ヒャクメの何気ない……いえ、当然の疑問に私の忸怩たる想いが疼きだす。後悔に似た感情と言っても良いのかもしれない。
「……彼等の内にある才能に、惹かれてしまったんです。一体どんなものが、眠っているのか?それが、早く見てみたくて…………」
 武神として、猛省しなくてはいけない……彼等の将来ではなく、自分の興味を優先してしまったのだから…………
「ふ〜ん……随分、2人に入れ込んでるのね〜」
「かもしれません。何かと危なっかしい2人ですけど、強くなろうとする意志は本物ですから」
「それで、この三年間で2人は、限界まで鍛えられたのね?」
「いえいえ……二人とも、荒削りな部分が目立ちますからね。これからも伸びると思いますよ。「時間を見つけて、また来たい」とも言っていたし、今から楽しみです!」
 話していて、自然と笑みが溢れる。自分の教えを受けた者が成長し、大きく羽ばたく……武神として、これほど稽古冥利につきることはないわね。さっき猛省とか言ってた癖に、現金なものよね…………
 繰り返すけど、ここに来るのは能力者としての基礎を固めてしまった人達ばかり。
 その者達の殻を破り、方向性を示すのが私の役割であり、彼等……特に横島さんのように基礎が未熟な者を長期間稽古するなんて、本来ならあり得ないこと(全くしない訳じゃないけど……)。
 ヒャクメは「入れ込む」と言い言葉を使ってたけど、そう言った事情から私も自然と彼等に思い入れが強くなってしまったのかもしれない。
 勿論、一度でも私の教えを受けたなら、皆等しい弟子であって、関わった時間の長短で贔屓すると言う意味ではない。
「でもさ〜……水を差すようで、悪いんだけど…………」
 そんな物思いにふける私を、ヒャクメが現実に引き戻す。
 目を細めて、何だか言い辛そうね。
「前も言ったけど、あの2人何か最近 “コソコソ” してるのね〜。放っといて大丈夫なの?」
 コソコソしてる……多分、 “彼” のことを言ってるのね。
「別に悪いことをしてるわけじゃ、ないんでしょう?」
「まぁ………やってることは、ただの除霊なのね〜」
「なら、もう少し様子を見ましょう。そのうち彼等の方から、何か言ってくるかもしれません」
「小竜姫がそれでいいなら、いいけど……」
 本来これも、あってはならないこと………でも、かつての仲間の為の行動と言うなら、或いは…………
 まあ、今は止めましょう。それよりも……
「話は変わりますが、ヒャクメ。もう、そろそろGS試験が始まる頃ですね。横島さんはどうなると思います?」
「ん〜〜……今の彼なら文珠無しでも、かなり行ける気がするのね〜〜、本当に、初めて会った頃から比べると信じられないのね〜」
「フフッ、全力を出さなくてもですか♪でも、今の彼ならある意味当然かもしれませんね」
「嬉しそうなのね〜、私としては、これで調子に乗って以前の彼に戻ったりしないか心配なのね〜」
 そう言いながら、お茶に手を伸ばすヒャクメを見て私は思う。
 やっぱり、たまにしか彼を見ない者には、そう映ってしまうのかもしれないわ。
「それは、あり得ませんよ……私としてはそれを糧に、もっと自信を持って貰いたいくらいです」
 三年間、彼を稽古したからよく解る。
 実力では、既に他を圧倒する領域に達していながら、彼の根底には未だに自分への劣等感………いえ、|自責《・・》の念が見え隠れするわ。
 何とかしてあげたいと思ったけども、想像以上に根が深くて私には、どうすることも…………いえ、まだ終わったわけじゃないわね。
 いずれ雪之丞さんと、2人でここへ来るでだろうから、その時にまたビシバシと鍛えてあげるわ!
 覚悟していて下さい。横島さん♪
    ◇◇◇
《千葉県山奥除霊現場》
「そういや、鴉。試験来月だな。お前が優勝すりゃ、晴れてGSコンビだぜ♪」
「あぁ……」
 面倒くせぇ……正直、出るかどうかまだ迷ってる………今更、取る事に何の意味があるんだ?