#7
ー/ー>>Towa
アイリスたちと別れ、一人で人通りの少ない路地裏を抜けて通信局の裏門へと向かう。距離自体はそんなに遠くないけれど、問題はこのC3のコンテナが嵩張ることだ。重さそのものは大したことはないけど、狭い通路を歩くには少々面倒なサイズ。いっそケースを捨てて中身だけ持っていけば少しは取り回ししやすくなるんだけど。
心の中で愚痴をこぼしつつも、足は止めずに裏門へ急ぐ。アイリスのことだから、きっとあの群衆の中でレイラの母親であるメナと対峙して説得を試みるはずだ。
アイリスが論破されることなんて考えられないけれど、問題はメナが言い負かされたときの群衆の反応だよね。リーダーが論破されたことで、かえって群衆が激昂するかもしれないし。
それを防ぐためにも、この星に「希望」を示すためにも、通信設備を復旧させることがどうしても必要だ。今の私にできるのはアイリスのために全力で最速の再調律をして希望の声を届けること。
そのためなら、レイラちゃんのことも、この星のことも今は少しだけ横に置いておく。何より大事なお姉ちゃんのため。それが私の行動原理だ。
幸運なことに裏門の近くには誰もいなかったし、何年も前に放棄された施設だからか門には鍵もかかっていない。
通信局の内部は暗く、窓から差し込む微かな夕日だけが頼りだ。完全に日が落ちなければこの程度の明るさでも行動するのに問題は無いだろう。
廊下の壁や床には目立った破壊の跡はないけど、足元には書類やガラクタが散乱していた。途中の室内をのぞき込むと机やキャビネットの引き出しが開け放たれていた。誰かが物色した後のようだけど……必要なものだけを持ち去ったのか、それともただ荒らされただけなのか。
静まり返った室内は数年分たまった埃が積もっている。通路を歩くたびに埃が舞い、薄暗がりに漂っている。
なんともホラーな雰囲気だしホロムービーだと怪物が出てくるシーンだよね、これ。でもまあここで私が出くわす可能性のある怪物は、もっと怖い怪物――激高した人間だろうけど。
建物内で少し迷ったけど、目的の通信装置が設置された通信制御室に到着することができた。大音楽堂のホールほどではないけど、ここも広くて神殿のような静かな空気が漂っている。
ペレジスで見せてもらった通信制御室もそうだったけど、恒星間通信を行う設備にはどこか神殿のような荘厳さがある。遠い星から届く声はある意味「神の言葉」を聞くようなものなのかもしれないけど、私にはちょっと作り物めいた不自然さも感じられた。
暴徒に襲撃されたと聞いていたから、通信機材が略奪されているかと思ったけど、どうやら無事なようだ。まあ、フィルターパックと同じで通信機なんて食べられないし、買い手がなければ売る意味もないんだろうね。
ただ通信装置の中心にあるC3通信コアだけは例外で、無残にも破壊されていた。鈍器か何かで殴りつけられたらしくて、中心付近から折れた水晶柱は周囲に破片を散乱させている。
「酷い。どうして、こんなこと」
この子はただ役目を果たしていただけなのに、どうしてこんな仕打ちを受けなければならなかったんだろう。この星の人達のために頑張ってただけなのに。憤りというより、悲しい気持ちが胸を締め付ける。私は折れたC3を慎重に台座から取り外し、床にそっと寝かせる。
そして、そのとき気がついた。
……この子はまだ……?
手にした破損C3からかすかに感じられる残り香のようなもの。今はまず通信機能の回復が優先だけど、これはもしかしたら……。
いや、今は通信用の方が先だ。通常なら先に調律を行ってから設置するのが正しい手順だけど、今回は全力で調律するから特別だ。クリスタルオルガンのC3をケースから取り出し手早く設置準備をすませ、代わりに破損したC3を慎重にケースへしまう。
オルガン用のC3は蒼に調律してあるけど、記憶にあるペレジスとの通信チャンネルに設定するためには碧への再調律が必要だ。
「……アリサ」
ペレジスの事を考えると、自然とアリサの顔が脳裏に浮かぶ。彼女は元気にしているだろうか。私にとってはほんの数日前に別れたばかりだけど、彼女にとってはもう15年近くが過ぎているはず。
通信が回復したら一言連絡を入れよう。そう思いながら、そっとオルガンのC3を台座に設置した。
念のため床に散らばったC3の欠片は端に寄せておく。ジャケットを脱いで「巫女様の服」姿に戻った私は設置したC3を抱きしめて……いや、この絵面はきっと傍目から見ると私がC3に抱きついてるように見えるんだろうな。まぁ、誰も見ていないから、それはどちらでもいいか。
今のところ外からは大声や物音は聞こえてこない。アイリスが上手くやってくれているんだろう。なら、私も上手くやって、アイリスの手助けをしないと。でも暴動が起きてからでは全てが手遅れになる。
だから……ごめんね、アイリス。今回だけは約束、破るね。
心の中で姉にそう謝る。後で叱られるのは仕方ない。ううん、あとでちゃんと叱ってもらうために。私は覚悟を決めて精神を集中して再調律を開始する。
この子に伝えたい。
――もっと歌いたかったであろう、あなたへの謝罪。
――結果的にレイラの夢を奪わせてしまった事への謝罪。
――それでもレイラの未来を守るために手を貸して欲しいという願い。
そんな気持ちを込めて、私は歌を紡ぎ出す。速く、もっと速く!薄暗い室内に圧縮された歌声と淡い白光が急速に満ち始めた。
>>Iris
中央通信局の正門前にはメナスの熱心なシンパが集まっているようだ。群衆を抜ける前にスキャナを周囲に向けてみたけど、さすがにこれだけ多いと個別のデータは取れそうにない。
一応、センサーでは異常は検知されていないけど、この人だかりの中でセンサーの有効範囲がどれぐらいになるのかは判らないし、そもそも全員を検査できているとも思えない。危険な状況だが……トワの事を思えば今は仕方ないだろう。
前方からメナの声が聞こえる。まだ暴徒化はしていないけど少しでも対応を間違うと一瞬で暴動が起きそうな危うさを感じながら、私は人の間を縫って前へ進む。そして人垣の間からようやく正門が見えた。
門の前には一人の女性……レイラに似た面影で、三十歳前後だろうか。前評判とは違って狂信的な空気は感じず、むしろ理知的な人物にも見える。
あれがメナ・クロウリー。そして扇動者、メナスだろう。
「ママ……」
私の後を付いてきたレイラちゃんが小さくつぶやいた。彼女の母が民衆を煽って暴動を引き起こそうとしているところなんて、この子に見せていいものじゃない。できれば彼女もトワと合流させたいと考えていると……メナの演説が再開した。集まった群衆に向け、何度も同じ内容を繰り返しているのだろうか。
「皆、よく聞いてちょうだい!昨日、軌道エレベータが7年ぶりに動いたわ。奴らが疫病の終息を知って、今さら私たちを支配するために戻ってきたのよ!自分達だけ星外逃げて、私達を見捨てた政府の連中が、再びこの星を支配しようとしているの!」
彼女は何を言っているんだ?この星を訪れたのは私たちだし、必要があったから地上に降りただけだ。なのに、彼女はまるで「星外の連中」が悪意をもってやって来たような言い方をしている。
「やつらはきっと、この通信施設を修理して仲間を呼び寄せるつもりよ!私たちは自由を守るために、ここで奴らを阻止しなくちゃいけない!」
軌道エレベータが動いたという事実から始まり、誤解と偏見に満ちた「真実」を語り、そして致命的に間違った結論へと導いている。どうやら理知的に見えたのは外見だけで、彼女は狂気に染まっているのかもしれない。
けど、このまま扇動が続けば暴徒と化した住民たちが通信設備を破壊してしまうかもしれない。もしそんな事態になれば、たとえC3があっても通信機能を回復することはできなくなる。
これ以上メナに演説をさせるのは良くない!
「待って下さい!」
私は群衆をかき分け、メナの前に対峙して声を上げていた。トワの身を危険にさらすこと。そして星の未来が奪われること。私にはそのどちらもが見過ごすことのできない事だから。
「軌道エレベータを使って降りて来たのは私達です!私達は星外からきたモーリオンギルドの人間で、この星の政府とは関係ありません!大音楽堂のクリスタルオルガンの修復依頼を受けてこの星を訪れました!」
多少のフェイクは交えたが、それは仕方がない。偶然降りただけ、たまたまC3を運んでいただけでは、この状況で説得力が足りないからね。
演説を妨げられたメナが私に気付き、険しい目でこちらを見据えてくる。
「ギルド?ギルドですって!?疫病のとき、ギルドの人間は政府と一緒に逃げ出したじゃない!そんな人たちが今さらこの星のためだなんて、聞きたくもない!」
「それは誤解です。ヴェリザン支部の人達は大音楽堂の修復作業に携わる中、病で命を落としたとノヴァーラの人達が証言しています。彼らは逃げたのではなく、ヴェリザンのために尽力して命を落としたんです」
メナの語る誤った認識に、声を荒げず冷静に反論する。ここで私が感情的になると、メナもそれに応じてヒートアップしてしまう。そうなれば群衆の暴徒化は避けられない。
「ふん……秘密主義のギルドが、今さら信用しろと言うの?」
「ギルドの活動が広く周知されていない事は認めます。……ですが、今はギルドを信用して頂けるようにあなた方に訴えかけるつもりはありません。私が訴えたいのはこの星の未来のために通信設備の修復が……星外からの助けが必要なのではないかと言うことです。医療物資や食料、エネルギー供給はこの星に必要なものではないのですか?」
「ギルドなんて星の外からきた連中だし、結局のところ支配者たちとつるんでいたじゃない。星外の助け?食べ物やエネルギーを使って私たちを、この星を支配しようって魂胆でしょう!?」
私はなるべく冷静に客観的な事実を述べるが、メナの偏見は根深く、私の言葉は全く彼女に届いていない。メナにとって、ギルドも政府も、どちらも自分たちを見捨てた「悪」だと思い込んでいるのだろう。
彼女達が政府に裏切られたことは事実である以上、メナの言葉すべてを妄言だと否定することは難しい。だけど、これから差し伸べられる救援すら拒むというのはあまりにも愚かな選択だ。
彼女の誤った考えを指摘して論破する事自体はそう難しくない。だがこれは単なるディベートではないし、周囲の民衆がいつ暴発するかも判らない。正論だけでどうにかできる場面ではない。なら、どう反論するのが良いだろうか?
「ママ!」
私が作戦を考えるために一瞬沈黙したことでレイラちゃんは私が手詰まりになったサインだと思ったのだろうか。群衆の間から進み出た彼女は私の隣に並ぶと、メナに向かって声を張り上げた。
「レイラ……?どうしてあなたがここに?ノヴァーラを離れちゃダメって言ってあったでしょう?」
これまでの険のある扇動者としての顔ではなく、母親の顔に戻ったメナが驚いたような表情でレイラちゃんにそう声を掛けた。周囲のシンパ達は何事かと私とレイラちゃんの方を伺っているが、今のところ動く気配は無い。
想定外の事態だ。つい、スカートの下に隠したブラスターの事を意識してしまう。だけど、それを抜いた時点で私の負けが……いや、この星の未来が失われることが確定してしまう。今は口出しせずに事態の推移を見守るべきか……?私の逡巡をよそに、レイラちゃんが再び声を上げる。
「ママ、お姉ちゃんたちがオルガンを直してくれたんだよ!とてもきれいな音だった……あの音はわたしの夢、未来なの」
娘の訴えにメナがわずかに目を細め、ため息混じりに返す。その表情は母親のそれから再び扇動者のそれに戻りつつある。
「オルガンの音……?そんなもので何が変わるというの?確かにここはかつて芸術の星と呼ばれていたわ……でもね、芸術は私達を救ってくれなかった。今更、綺麗な音を聞いたからといって、この星が救われるわけじゃないわ」
「でもママ、私はあの音を聞いて、みんなにもまだ未来があるんだって感じたよ。きっとこの星も、また良くなるって。だからお姉ちゃん達にたすけてもらって……」
「甘いわよ、レイラ。未来や夢なんて、自然に叶うものじゃないの。政府に見捨てられた私達は、自分たちで自由を勝ちとるために戦わないといけないのよ」
少し視線を落としながらメナはレイラちゃんの言葉を遮る。やはりレイラちゃんの拙い言葉ではメナを説得することは出来ないんだろうか。隣に立つレイラちゃんな目をやった私は彼女の表情が曇っていることに気がついた。母親の言葉が自分の夢を、希望を拒絶しているように感じているのだろう。
だが、それでも彼女は真っ直ぐに母親を見上げた。
「でも……ママ。今、だれかがたすけてくれるかもしれないのに、たよっちゃいけないの?だれかがさしのべてくれる手を信じたっていいじゃない!」
レイラちゃんの真剣な言葉に、メナは一瞬視線をそらす。そして民衆の視線もメナに集中し始める。もはやレイラちゃんの声だけではなく周囲の人々の気持ちも、彼女に疑問を投げかけているようだった。
「今さら星外の助けなんて信じられない。信じる訳にはいかないし、簡単に信じるべきじゃないわ。8年よ?私達は8年も待っていた……それなのに、誰も助けに来てくれなかった」
「それでも、私たちには、たすけが必要だよ!」
レイラちゃんの言葉にメナが言葉を詰まらせると、シンパたちがざわめき始める。メナの動揺が彼らにも伝わっているんだ。そんな中、突然シンパの男達が叫び声を上げた。
「その子……よそ者と組んで、俺たちを裏切るつもりなんじゃないのか!?」
「そうだ、星外の連中の肩を持って……オレたちにまたあのクソ大統領に支配されろってことかよ!」
これは良くない展開だ。危険な空気が漂い始めたことを察した私は背後に控えてくれていたヴァルトさんに目で合図を送り、レイラちゃんを守れるよう、自然な風を装い立ち位置を調整する。
「ふざけんなよ、このガキ!」
自分たちの上げた叫び声にこう、ふんしたのか、まるで熱に浮かされたかの様子で激高した一人の男が怒りに任せてレイラちゃんにつかみかかろうとする。ブラスターを抜くわけにはいかない……!
私はとっさに男とレイラちゃんの間に割って入ることしか出来なかった。
「邪魔だ、どけ!」
男の手が乱暴に私の肩を掴む。体を揺さぶられて体がよろめく。この馬鹿力め……!なんとか振り払おうとするが、肩にかかる圧が強く、一瞬息苦しさを感じた。男の顔が近く息がかすかに肌にかかるのが気持ち悪いが、今は抵抗するので精一杯だ。
レイラちゃんを下がらせたヴァルトさんが駆けつけて男を引き剥がそうとする。だが、その瞬間、メナが声を張り上げた。
「やめて!その子は……私の娘よ!」
彼女の言葉に男は動きを止め、群衆も静まった。メナは疲れたような声でレイラちゃんに向き直る。
「レイラ……。あなたはまだ、何もわかってないの。この世界がどれだけ冷たいかも。未来や希望なんて甘い言葉は騙されるだけのものなのよ」
「ママ、私だってそんなことわかってるよ。でも私は……みんながまた笑ってくらせる未来がほしいの。ママが私のオルガンを聞いて笑って、歌ってくれる未来を作りたいの!」
レイラちゃんは望む未来を自らの言葉として紡ぎ、メナをまっすぐに見つめる。メナはその視線に戸惑い、やや苦しげに眉を寄せた。
「私と……?一緒に?」
「そうだよ。オルガンの音を聞いたとき、ママと一緒に笑える未来がほしいって思ったの。だから……おねがい、ママ!」
メナが沈黙する。長い間、背負ってきた不信や憎しみが娘の言葉に揺らいでいるようにも見えるけど……これは流れが変わったと判断して良いのだろうか……?
だけど、一方で一部のシンパ達は弱気になったメナに不満げな目を向けていて、状況は微妙だ。このまま進めて良いものか……何か決め手になる一手があれば。
――その時。
夕暮れの訪れた正門前に明るい光が差した。
「なんだ……?」
「おい、これ……外灯が……」
「もう何年も外灯なんて付ける余裕が無かったのに……」
周囲の群衆が口々に漏らす言葉を耳にした私は一瞬、彼等が何に動揺し騒いでいるのか理解できなかった。しかし、街灯という言葉に、軌道ステーションで航海長さんが言っていた話が頭の中に浮かぶ。
『この不規則な点灯パターンでは……たぶん外灯の類いは全滅してますね』
そうか、私にとっては当たり前だったけど、この星の人達にとって夜に外灯が点灯する事は当たり前ではなかったんだ。でも、どうして今になって……?
想定外の点灯は事態の好転に役立つ気がする。だけど状況が判らないと安易に利用することもできない。そう思った時だ。
「皆、聞いてくれ!軌道ステーションからフォトンバッテリーが届くようになった!私達はもう、夜の暗がりに怯える必要はない!」
……聞き覚えのあるこの声は……エルドさん!?
そうか、治安当局の人達と船長さん連携がうまくいったのか!おそらくフォトンバッテリーの搬出が始まって……エレベータの再稼働を見たエルドさんが供給されたバッテリーを使って外灯が使えるようにしてくれたんだ。
エルドさんがこの場面を狙って外灯を点灯したのかどうかは判らないけど、これは絶妙なタイミングだ。彼の手配なら信用できる。なら、ここで一気に押す!
「皆さん、フォトンバッテリーの供給に続いてまもなく通信設備も復旧します!そうすれば星外から医療物資や食料も支援され、この星は再び輝きを取り戻すでしょう!」
私は群衆を見回すと、左手にギルド章を掲げ……フォトンフラッグを展開した。外灯の明かりよりもさらに明るく、私の紋章が夜空を照らす。
「私はモーリオンギルドの二等管理官、アイリス・ブースタリアです。私がギルドの管理官として、皆さんに未来が訪れることをお約束します!」
私の言葉に呼応するように、最初は正門前だけに灯っていた外灯の光が、さらに広がり街中を照らし始めた。希望の象徴となる明かりに包まれた群衆のざわめきは徐々に静まっていく。
だが、その場に残ったメナと彼女のシンパたちはまるでその光を避けるかのように視線を伏せている。
「メナさん……これ、どうするんだよ?」
シンパの一人が戸惑いながら、沈黙したメナに問いかけているのが聞こえた。彼女が今までのように強く信念を……彼等の言う自由への戦いを語ることを彼らは待っているのだろうか。だが、メナは明かりを取り戻した街並みを見つめたまま、何も言えずにいる。彼女の目は迷いと不安に揺れているように見えた。
「……これが本当に『未来』だって、誰が証明できるのよ……」
ようやく絞り出したその言葉には、それまでの勢いはない。たぶん、彼女自身も自分の言葉を信じられていないのだろう。
シンパたちはそんなメナを不安そうに見つめている。口では未来を否定してみせても、誰の目にも外灯の光は先ほどレイラが語った未来の象徴に映るだろうし、そのことはメナにもわかっているのだろう。
そんなシンパたちの視線に耐えかねたのか、彼女は光に背を向け一歩身を引いた。
「私は……」
言葉を探すようにして口を開くものの、結局何も言えないままメナは顔をそむけてしまう。そんなメナの様子を見て彼女の支持者たちは困惑し、互いに顔を見合わせていたが……やがて一人、また一人とためらうようにその場を離れていく。彼らの間に広がる不安と失望は街に広がる明かりと正反対のようだった。
やがて群衆も三々五々散ってゆく。どこか楽しそうに、久々に光を取り戻した夜を楽しむように。
最後に、メナが一人呟くように言った。
「……こんな明かりひとつで、何が変わるっていうのよ……」
彼女の言葉は誰に向けられたでもなく、ただ闇に溶けるように消え、メナもまた群衆の去った夜の街に姿を消した。
「ママ……」
レイラはメナの後を追わず、去りゆく母の姿を黙って見つめていた。メナの姿が群衆の中に消えていくのを見届けた私は少し安堵しながらも、どこか冷めた気持ちも感じていた。結局のところ、この星は私にとってただの経由地でしかない。最終的にこの星をどうするかはメナを含めた彼ら自身が決めるべきだ。
ギルドは内政干渉禁止の原則を掲げている。だからたとえヴェリザンが無政府状態であったとしても……本来であれば私がこの星が下す未来への選択に直接介入することは許されないんだ。
ともあれ、どうやらこの場はなんとか収まったようだ。根本的な問題の解決ではないにしても、「扇動者メナス」――おそらくそれはメナ個人ではなく、彼女とシンパ達を示す言葉なのだろう――の勢いを削げたのは上出来だろう。
窮地を救ってくれたエルドさんもすごいけど、反撃の糸口を作ってくれたレイラちゃんはもっとすごい。まったく大した子だ。単に外灯が付いただけじゃ、きっとメナを退かせることは出来なかったろうからね。
少し不安そうに私の方を見つめているレイラちゃんの頭をなでようとしたとき、肩に鈍痛が走った。見ると肩口に擦り傷が出来て少し血がにじんでいた。……あの馬鹿力男のせいか……。乙女の柔肌に傷をつけるなんて、全くもって許しがたい。あとでトワにメディキットを借りないと……って。
そうだ、トワっ!
不覚だった。メナとの対決に意識を傾けすぎていて、施設内へ先行させたトワの事を忘れていた……!
「ヴァルトさん、ごめん!レイラちゃんのこと任せた!」
返事も聞かずに私は通信局の建物の中へと駆けだした。
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