#6
ー/ー>>Towa
アイリスと中尉さんが今後の動きについて詳細を話し合っている。ヴァルトさんもギルドの元保安部大隊長として計画に的確な意見を出していた。でもただのシンガーである私は特にすることもなく暇を持て余している。眠くなったのでどこかで寝たいとアイリスに訴えたけど、車に戻って寝ておけとすげなく言われた。ちょっと扱いひどくない?
まぁ、近くに警備兵の人がいるので、一人で寝てても安全なんだろうけど。
アイリスの指示通り私は車に戻って一眠りすることにした。本当にすることないからね。建物の外へでると心地よい夜風が頬を撫で、私の髪をそよがせる。風に吹かれながら私は物思いにふける。さっきは通信装置が直ると簡単に言ったけど、実際のところは一つ大きな問題があったんだ。
――レイラ。
あんなに輝いた目でオルガンの音色に心を躍らせていたレイラ。彼女にとってあの大音楽堂とクリスタルオルガンは未来の夢であり、希望そのものだはず。それなのにオルガンのC3を外して通信に転用することになれば……レイラからその夢を、未来を奪ってしまうことになる。それで本当にいいのかな。
そんな事を考えながら、車にもたれかかり星空を眺めた。
レイラの表情が涙で曇ることを思うと心が痛む。どうするのがベストか、頭の中で自問自答する。
けど意外と早く答えは出た。星の未来が、彼女の未来を守るために必要なんだって。大好きなオルガンの音色も、星が荒廃したままではいつか完全に失われるかもしれない。それ以前に、レイラが今後生きていくことすら難しくなるかもしれない。それなら彼女の夢を本当に守るためには、今は星を守る道を選ぶことを優先すべきなんだって。
少ししか話してないけど、口調は幼くてもレイラは年の割には頭の良い子に思えた。母親の影響もあるんだろう。納得はしてくれるだろうとは思う。……でも、泣かれるだろうな。それでも、いつか彼女が笑ってくれる未来のためなら、私は喜んで悪役になろう。。
そんなことを考えながら、私は車の中に潜り込み、シートに身を預けて目を閉じた。
「――です、ではよろしくお願いします」
『了解しました、さすが管理官殿ですな』
アイリスの声で目が覚めた。どうやら、いつの間にかうたた寝していたらしい。今のは……無線?
「……あ、起こしちゃった?ごめんね、まだ寝てていいよ」
私が起きたことに気付いたのか、アイリスが振り返って微笑んでくれる。外を見ると、夜明けが近いのか、空が薄紅色に染まりかけていた。
「アイリス、徹夜?」
「あはは……結果的にそうなっちゃったよ。美容に悪いよね」
アイリスはそう言って軽く笑うが、表情に疲れが見える。アイリスの美少女ぶりが低下している。これは全宇宙にとっての損失だ。私に出来ることがあれば手伝わないと。
「なにか出来ること、ある?」
「そうだね……じゃあ私も仮眠するから、子守歌でも歌ってくれる?トワの歌ならよく眠れそうだから」
「わかった」
アイリスは軽くのびをしてから、私の隣のシートに座った。私がそっと歌い始めるとアイリスはすぐに目を閉じた。彼女の肩がゆっくりと落ち着き、浅くなっていく息にあわせて私も目を閉じて歌を続ける。しばらくして、そっと目を開けると、アイリスは静かに眠りについていた。どこか安心したような穏やかな寝顔だ。
……おやすみなさい、お姉ちゃん。
しばらくアイリスの寝顔を見守っていると、建物から何人かの隊員さんが慌ただしく出てくるのが目に入った。2台のビークル――私達のレトロカーとは違う、普通のフォトンドライブのやつ――をガレージから出し、それぞれに分乗している。私が見ていると、一番年かさの人がこちらにやってきた。
「管理官殿――」
「しー」
大きな声を出されるとアイリスが起きちゃう。私は思わず唇に指を当てて、静かにするよう隊員さんに合図した。隊員さんもすぐに気づいて、軽くうなずきながら今度は小さな声で話しかけてきた。
「我々は軌道エレベータの警備に向かいます。管理官殿が起きられたら、予定通り出発したとお伝えください」
「わかった。がんばって」
私がそう言うと隊員さんは微笑みながら敬礼してくれて、そのまま車の方へ戻っていった。
しばらくして目が覚めたアイリスに隊員さん達が出発した伝えた。隊員さんに寝顔を見られた事を知ったアイリスはすごく恥ずかしそうに赤面したけど、その姿がとても可愛いなぁ……なんてと思っていたら「どうして起こさなかったのよ!」とキレられた。
妹の優しさは姉に伝わらなかったか……。いや、これは照れ隠しだな、きっと。
昨日離れたばかりの大音楽堂へ、再び戻ることになった。ヴァルトさんもアイリスも昨日は徹夜だったので、私が運転をしようかと申し出たところ、二人から全力で拒否された。一応、私もフォトン稼働のビークルなら運転できるんだけどな。結局仮眠を取ったアイリスが運転し、ヴァルトさんは車中で仮眠する事になった。
助手席に陣取った私は運転中のアイリスに、少しゆっくりしていったらどうかと提案してみたけど、感染の事があるから出来るだけ早くこの星からは離れたいと返事が返ってきた。確かにそれはそうなんだけど、レイラとかは普通に暮らしてるからそんなに目くじら立てる必要もないと思うんだけどなぁ。
「トワ、こういうときは慎重すぎるぐらいで丁度いいんだよ?」
「解せぬ」
「いや、解してね?」
そう言って笑うアイリスの顔にも、やっぱりまだ少し疲れの色が残っている。心配だ。でも道中は特に何事も起こらず、しばらくして私達の視界にノヴァーラの街並みがまた近づいてきた。
大音楽堂の扉を開いた私たちは、静かに響くクリスタルオルガンの音に出迎えられた。旋律もなく、ただ音を鳴らしているだけ。それなのにとても楽しそうな感情が伝わってくる。レイラだ。そう思いながらホールの扉を開くと、案の定、そこにはレイラがいた。
「あれ?トワ?どうしたの?わすれもの?」
鍵盤を叩いていた手を休め、嬉しそうな表情でそう声をかけてくれる。
「忘れ物と言えば、忘れ物」
「どういうこと?」
「えっとね、レイラちゃん実は……」
「アイリス、私が言う」
「……そう?」
レイラは不思議そうに私とアイリスを見比べている。アイリスが代わりに説明しようとしてくれたけれど、これは通信装置の修理を提案した私が直接伝えなければいけないんだ。だってこれからこの子を泣かせてしまうことになるのはわかっていたから。
「レイラ、ごめん。オルガンを一度止めないといけなくなった」
「……どういう、こと?」
その一言だけで、レイラはすでに涙を浮かべている。たった一日だけ楽しむことが許されたクリスタルオルガンを、夢を取り上げるなんて酷すぎる話だと思う。それでも、この子に嘘をつくわけにはいかない。
「この星を救うために、このC3が必要。通信装置が使えるようになれば、助けが呼べる」
「……ほんとに……来るの?たすけてくれるひと」
レイラが悲しげな目で問いかける。これまでに聞いた話だとと件の扇動者は星外からの助けは来ないと主張していたらしいかけど……。それがもしレイラの母親なら……レイラも母親から常々助けは来ないと言われていたんだろう。
だけど、そんな事はない。だって私が通信を繋ぐ先はペレジス――アリサなんだから。あの子が苦境に陥った人達を見捨てる筈がないから。だから、私は静かにうなずいて、レイラの瞳をまっすぐ見つめる。
「約束する。レイラやみんなの未来を守るため、このオルガンの力を貸して欲しい」
レイラは私の言葉を黙って聞きながら、ぐっと唇を噛みしめて涙をこぼした。
「レイラ、悪いと思ってる。夢を与えて、すぐに奪うのは残酷」
「……」
「でも、私はこの星の人達に未来を与えたい。だめ、かな?」
「……いいよ」
レイラは涙をこぼしつつ、どこか誇らしげに頷いた。やっぱりこの子は賢い子。そして、とても強い子だ。この子のためにも星の未来を繋がないと。
「でも、ひとつお願いがあるの」
「私に出来ることなら」
「……オルガンさんが、みんなの役に立つところを見たい」
彼女が言うオルガンさんとはC3の事だろう。彼女の夢であるオルガンが、星の未来を繋ぐものに代わることを見届けたいという気持ちは良くわかる。
「アイリス、私はレイラの希望を叶えたい」
「……いいと思うよ。いざとなったらお姉ちゃんが二人を守ってあげる」
ここでNoと言うアイリスではないと知っていたけど、それでも笑って賛成してくれるのは嬉しかった。
「レイラ、行こう。星の未来を奏でるために」
「うん!」
レイラの笑顔にはもう涙は無かったけど、あの涙のためにも……私は通信施設の復旧を必ずやり遂げると誓った。
大音楽堂を出ようとしたとき、隣を歩いていたレイラが私のジャケットの袖を引っ張った。
「トワは、みこさまの服、着ないの?」
「巫女様……?」
「うん、オルガンをなおす人のことだよ。みこさまは、みこさまの服を着てるって本に書いてあったの」
この街は芸術の街だと言っていたっけ。なら、式典的なイベントを儀式として演出するための特別な衣装とかだろうか。アイリスに目をやり意見を求める。
「この場所の宗教的な雰囲気からすると、何か儀式的な衣装なんじゃない?でも、トワに衣装は……」
アイリスがそう言って肩をすくめる。失礼な、私だって必要性のある服なら着る。例えばコスモスーツとか、コスモスーツとか、コスモスーツとか。
「レイラちゃん、その服ってここにあるの?」
「うん、あっちの部屋にあるよ」
アイリスに向かってそう言うとレイラは控え室らしい小部屋へ走って行った。彼女のために頑張ると誓った身だ。服ぐらいリクエストに応えてもバチはあたらないだろう。……動きやすい服ならいいんだけど。
部屋にあった衣装の中で一番小さいサイズがなんとかフィットした。かなりゆったりした服だから少しくらいサイズが違っても問題なさそうだけど……胸元はずいぶんとぶかぶかだ。
「巫女様の服」は白い薄手のドレス仕立てで、蒼いC3を模したクリスタルのアクセサリーが各所に配置されている。デザイン的にC3に直接肌が触れる面積を広げることを意識しているようで、特に腕や胸元の布地は少なめになっている。これならC3を抱え込んだときに普段のTシャツよりも肌に触れる部分が多くなるかもしれない。
アイリスは儀式用の服だって言ってたけど、これはきっと調律の効果を最大限に引き出すためのデザインだ。見た目だけじゃなくて、実用性も考慮されてる――というか、むしろ儀式を意識した実用性重視の服なのかもしれない。
この服をデザインしたのはもしかしたらシンガーなのかもしれないな……そんな事を思いながら、「巫女様の服」を着た私がくるくると回りながら全身をじっくり観察していると、アイリスが驚いたような表情で声をかけてきた。
「えっと……もしかしてトワ、その服気に入ったの?」
「かなり」
「そういう布地が多い服は嫌いだと思ってたんだけど……ちょっと意外だね」
「似合ってない?」
「ううん、そんな事ないよ。すごく似合ってる……というか、トワの為にデザインされた服みたい」
「うん、トワはみこさま!」
私のために、というよりシンガーのためにデザインされた服だと思うけど……でも、アイリスもレイラも褒めてくれる。うん、悪い気はしないね。
「ふふふ」
「じゃあこれからはそういうデザインの服を用意したら、着てくれるのね?」
「いや、それはない」
「トワじゃないけど、お姉ちゃんとしては解せないよ……」
調律の際の実用性を重視して着ているだけだから、もちろん普段には着ないよ。だって、こんな裾の長い服着てたら踏んづけてこけたり、ドアに挟んだりするのが目に見えてるから。
でも中央通信局で着替えなおすのも面倒なので、このままの服装で行くことにしようかな。そう思ってそのまま外に出てた私だけど、車にC3を格納したケースを固定していたヴァルトさんが私の巫女っぷりを見て目を丸くしていた。ふふん、どうよ。この私の巫女さまさしら。
「いや、そんな服着て出歩く気か?……って驚いてるだけじゃないかな」
私の心の中を読んだ上に、さらに冷静に突っ込むのはやめて、アイリス。
中央通信局はその名の通り星都アルディナの中心部にあるらしい。ノヴァーラからは少し距離があるため、アイリスとヴァルトさんが交代で運転をしてくれることになった。私とレイラは後部座席に陣取っておしゃべりを楽しむことにした。そう、お待ちかねのガールズトークだ!
レイラは、音楽やノヴァーラの素敵な場所について、たくさん話してくれた。この街は昔から「芸術の都」として有名で、毎年のように開かれていた芸術祭には星中はおろか、星外からも人々が集まって音楽や美術、舞踊、演劇なんかを楽しむ風習があったという。
街は華やかに飾り付けられ、大通りにはさまざまなパフォーマーや職人たちが集まり、昼も夜も音楽と笑い声が絶えなかったそうだ。レイラは夢見るような目をしながらいつか自分もその祭りに参加して、オルガンの音色を人々に聴かせるのが夢だと語ってくれた。
でも、その光景はレイラが直接知っているものじゃない。彼女が物心つく前にパンデミックが発生し、街の様相は一変しているから。すべてのイベントが中止され人々は家に閉じこもり、いつも賑わっていた通りは荒れ果ててしまった。
レイラが語るノヴァーラの姿は彼女がホロや本でしか見たことがない、かつての街の「物語」だ。それでも彼女はまるで本当に見てきたかのように話してくれる。きっといつか、街は物語の中の姿を取り戻すと信じているんだろう。
「私ね、いつかおまつりでオルガンをひきたいの。みんなが私のオルガンで笑って、おどってくれるのが夢なの」
彼女の言う「おまつり」とはヴェリザンの伝統的な音楽コンクールだとヴァルトさんが教えてくれた。元々は年に一回開催され、星で最高の音楽家を決める一大イベントだったのだという。「おまつり」の事を話すレイラの表情はただの夢を見る子供ではなく、街の未来を真剣に願う決意がこもっているように思えた。
……叶えてあげたいな、その夢。
>>Iris
ハンドルを握る私は後部座席でトワとレイラちゃんが話しているのを小耳に挟み、ふとヴァルトさんのことが気になった。彼はノヴァーラの大音楽堂のためにこの星を訪れたと言っていた。レイラの語る芸術祭やコンクールの光景はヴァルトさんにとっては現実の……過去の光景なのだろうか。
「……儂は見ての通り無骨な人間だ。だがな、芸術を楽しむ心は忘れておらんつもりだ」
「無骨どころか、立派なアーティストだと思うけど?」
「……ふん」
「別にからかってる訳じゃないよ?この星のオルガン奏者がどれだけ生き残ってるか判らないけど、ちゃんと弾ける人は少ないんじゃないかな」
「……それは……ありうるな」
私の指摘にヴァルトさんは少し顔をしかめた。この星の伝統が疫病で途絶えてしまうなんて、芸術にあまり興味のない私でさえ納得できる話じゃない。ましてや、命の危険がある冷凍睡眠をしてまでこの星を訪れたヴァルトさんにとっては……。
「レイラちゃん、たぶんこのままだとオルガンの師匠がいない状態で独学しないといけないんじゃないかな」
「……言いたいことはわかる。だが、儂はよそ者に過ぎん」
「いいと思うよ、私は。どこの人であれ、ヴァルトさんの演奏にはノヴァーラの伝統が息づいていたように思えたからね」
「買いかぶりだ、管理官殿」
「ふふふ……私、人を見る目には自信あるよ?だって管理官だからね」
「ふん……」
そう言ってアクセルを踏み込むと、前方に星都アルディナが見えてきた。目的地の中央通信局まであと少し。何事も無く無事に事が運べばいいな。
――まぁ、そう上手くいくはずもなかったけどね。
念のため、星都へ入った時点で車を降りて徒歩移動に切り替えたのは正解だったようだ。アルディナ市街ではまばらだった人影が、中尉さんに教えてもらった中央通信局がある場所に近づくにつれてどんどん増えてゆく。
そして夕暮れを迎えつつある中央通信局の正門前には数百人近い人々が集まっていた。
「――から……政府の……自由……断固とし――」
「おい、あれ……メナスの連中だろ?」
「あいつら、また暴動でも起こす気かよ……」
「いまさら政府もなにもあったもんじゃないだろうに」
人垣でなにが起きているのかは目視することは出来ないけど、集まった群衆を遠巻きに見つめる人々のささやきと、遠くからかすかに聞こえてくる女性の声でおおよその事態が把握できた。
メナス……レイラの話によると、彼女の母親であるメナ・クロウリーとそのシンパによる反政府組織、といってもこの星にはもう政府と呼べるものはないが、まぁそういう位置づけの集まりだろう。
これまでに得た情報を総合すると民衆に「真実」を伝えると称して扇動を行い、破壊工作を繰り返している連中だ。それがよりにもよって中央通信局の前で集会を開いているのは偶然の一致だろうか……?
群衆の後方、私たちの周りにいるのはシンパではなく、事の成り行きを見守る野次馬のようだ。彼らの囁く声を聞く限り、この集会がエスカレートして暴動に発展する可能性があるというのは、非常に良くない状況だ。
「管理官殿、正面からの侵入は難しそうだ。中尉殿に聞いた裏手の職員用通用口を使うべきだ」
「うん、そうだね……でもトワが調律を行っている最中に彼らが施設内になだれ込んできたら、ただでは済まないだろうし……。ねぇトワ、再調律にどれぐらい掛かるかわかる?」
「……オルガン用にするときに想いを込めすぎた。一度C3を落ち着かせないとダメだから、下手すると3時間ぐらい掛かるかも」
「3時間か……思ったより掛かるね。でもトワ、急ぐのはダメだよ?」
「善処する」
「巫女様の服」だとあまりにも目立つので上からいつものジャケットを羽織っているトワの答えに釘を刺しながら、どうするべきか思案する。
「ヴァルトさん。最悪の場合は陽動を仕掛けて、あの連中を別の場所に誘導する必要があるかも」
「……承知」
とはいえ、この人数相手に時間稼ぎをするのは厳しい。トワから白のイグナイトを預かってはいるけど、人混みの中で使用すれば過剰な混乱を引き起こして死人が出てしまう可能性もある。どうにかして時間を稼ぐか、もしくはメナを説得して群衆を解散させるように持って行くか。
時間稼ぎだけだと後で通信装置を破壊される可能性もあるか……なら、やはりメナを説得して集会を解散させるのが最善だろう。だけど、今の私に彼女を説得できるだけの材料があるだろうか?
「トワ、悪いけど先行して施設内で待機しておいてくれる?でも状況が落ち着くまで再調律は待ってほしいの」
「善処する」
「それ、さっきも言ってたけど調律する気満々だよね……始めるのは仕方ないとしても、約束だけはちゃんと守ってね?」
「通信が回復すれば、あの人達も話を聞いてくれるかもしれない。通信は星の未来への希望になる」
トワの言うことにも一理ある。通信の回復は群衆に希望を与え、暴徒化させずに解散させる手段として有効なことは間違いないだろう。時間を稼ぎながらトワの調律が終わるのを待つか……?
とぢらにせよ、まずメナ・クロウリーが何を主張し、何のために民衆を扇動しようとしているかを見極める必要があるだろう。
「そうだ、アイリス」
「なに?」
「これ、預かって欲しい。再調律に反応するといけないから」
そう言って、トワは父親の形見である虹色水晶のペンダントを私に差し出してきた。
SランクC3に対するリセットのプロセスを含む再調律をおこなうのは多分トワも初めてのはず。可能性としては確かに影響を受けるかもしれないけど……でも、これを私に渡してくれた理由はそれだけじゃないだろう。
「わかった、預かっておくよ」
「レンタル料は後で支払って」
「別にレンタルした訳じゃないよね?」
苦笑しながらペンダントを首から掛ける。今の服にはポケットがついていないからね。……たぶん、これはトワなりの気遣いなんだろう。大切な「お守り」を預けてくれたトワの気持ちが、私の背中を押してくれるように感じた。
「じゃあ行ってくる。レイラ、また後で」
「うん!トワ、がんばってね」
トワはレイラにそう声をかけ、C3のケースを持ちにくそうに運びながら、通信局の裏手に向かっていった。あれ、中身のC3も重いけど、ケース自体も重いからね……。
私はヴァルトさんにレイラを託し、群衆の間を縫ってメナの近くまで移動を試みる。さて、どうなるか。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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