#3
ー/ー>>Iris
船に積まれていたのは小型の四輪駆動ビークルだった。なんとフォトンエネルギーではなく化石燃料を使う、いわゆるクラシックなビンテージ車――自動車というものだそうだ。もともとはヴェリザンの収集家が家宝として代々所有していたもので、ペレジスの工房で修復された後に運ばれてきたらしい。持ち主の方、生きていらしたら後で返却します。もし亡くなられていたら……そのコレクションは有効に活用させていただきます。
船の機関士さんいわく、この車はフォトンドライブ車とは違い静音性には欠けるけれど、パワーがかなり強力で愛好家にはたまらない性能だとか。幸いカートリッジ状になった燃料も補充済らしく2~3日程度の走行には十分だそうだけど……途中で燃料切れになったら補充のアテが無いから乗り捨てるしかないよね、これ。乗り捨てるにしても、できれば人里近くで燃料切れになって欲しいものだ。
エレベータの貨物デッキに停車したオフロード仕様の車に必要な物資を積み込むことにした。扉に挟まっていたカートはすでに取り除かれ、エレベータは稼働可能な状態になっているけど念のため積み込み作業中は緊急停止モードのままにしてもらった。
積む物は主に消耗品だ。食料と水については現地で調達するのはリスクが大きいため、ステーションで手に入れたものをできる限り載せた。通信機、いくつかのフォトンバッテリー、そしてブラスター用のカートリッジも万全を期して多めに持ち込む。地上が荒れている状況では、いざという時に備えるべきだからね。
そして地上へ降りる主目的であるC3。航宙船の推進ドライブに使われているものよりもかなり大型で、トワの見立てではSランクの貴重な品らしい。ベルンハルトの横領対象になっていた理由が理解できた気がする。楽器として使用される予定のC3としては破格のものだが、ヴェリザンの人達はそれだけ大音楽堂のクリスタルオルガンには思い入れがあるんだろう。ただこれは車内に積むには大きすぎるため、専用ケースごと車のルーフにしっかり固定することにした。
あとは手回り荷物を用意するだけ。地上に降りる際にはコスモスーツを着ておくつもりだけど、住民と接触するなら服も替える必要があるだろう。コスモスーツだといかにも余所から来ました的だからね。なので、軽い着替えも持っていく。あとはハンドスキャナーを準備して……と思っていると、トワが声をかけてきた。
「アイリス、それ何?」
「ああこれ?ヘルスモニタの端末だよ」
「スキャン……私の秘密を?」
「トワのことならスキャンしなくても大体わかってるけど一応、違うと言っておくよ」
実際にスキャンするのは会う人がこの星を襲ったであろう病に感染しているかどうかだ。ステーションのヘルスモニタに残されていたデータをもとに、船医さんと正体不明なの疫病感染判定法を検討した結果、感染状況は2種類の方法でチェックできることがわかったんだ。
ひとつ目は「抗体検知」でこれは精度は低いけれどウイルス接触の経歴がわかる。二つ目は「変異タンパク質の検知」。これは発症前に検知できることがわかっていて、こちらの精度が高いらしい。
どちらの検査もフォトンとC3を介したレゾナンススキャン方式で十数メートル程度離れていても検知は可能だ。だから「変異タンパク」をメインに抗体の検知を併用して、遭遇する人が感染者かどうかを判定していくのがベターというのが船医さんの見立てだ。ギルドネットに接続できればさらに確実なデータが得られるだろうけど、この星は今、恒星間通信が途絶えている。地上に降りたら現地の医師のレポートが手に入るかもしれないし、船医さんにはその都度情報を提供する予定だ。
途中で会話に参加してきたヴァルトさんを交え、そんな話をしている最中、ふと見るとトワが椅子の端でうとうと船を漕いでいることに気が付いた。自分から話を振ってきた割にはこういう会話は好きじゃないんだよね、この子は。髪をそっとなでていると、ヴァルトさんがこちらに視線を向けて、優しげに微笑んだ。
「仲が良いのですな。確か、ご姉妹でしたかな?」
「ええ、血は繋がってませんけど」
「それは意外ですな。見た目は似ておられませぬが、本当の姉妹かと」
「それ、私達にとって一番の褒め言葉です」
そんな事を言っている間に降下準備が整った。さあ、行こうか。
軌道エレベータで降下している最中に夜がゆっくりと明け始めた。昇る朝日とともに、地上の景色が少しずつはっきり見えてくる。眼下に広がるのは、廃墟と化した街並みや、陥没した荒れた道路の数々。それはただのパンデミックで起きる光景ではない。ここで何が起きたんだろうか……。その光景に思わず心が重くなる。
そのとき、目を細めて地上を見つめていたトワが小さく声を上げた。
。
「アイリス、下に誰かいるかも」
「えっ?」
「よく見えないけど、動いてる影がある」
彼女の指差す方向を目を凝らしてみるが、私には特に不審なものは見当たらない。けれど、ヴァルトさんは目を細め、確認するようにうなずいた。
「……確かに。二人、ですな」
トワの視力がすごいのは知ってるけど、ヴァルトさんもかなりのものだ。さすが元保安部の大隊長……というところだろうか。二人、ということは相手は人間だろうか?安全を最優先にして、着地後の行動を決めておく必要がある。
「地上に着いたらまず船に連絡して、エレベータは停止したままにしてもらいましょう。その後で相手の出方を見て、必要なら接触を考えます」
「ブラスターは?どうするの?」
「まだ敵かどうかもわからないからね。こちらからは出さないように。ヴァルトさん、それで大丈夫ですか?」
「承知した」
こちらには乗り物があるから強行突破も考えなくは無かったけど、それは最終手段だ。地上に降りた途端に取り囲まれたりしないで済むよう祈りながら、地表を見つめる。さっきの影は地上駅の影に隠れたのか、もう見えなくなったとトワが言っている。エレベータの速度が徐々に落ち……やがて着地の振動が体に伝わってくる。
降下が完了しエレベータの扉が開くと同時に、私は少し声を張って無線で船に連絡した。誰かが隠れていたなら、これでこちらが人間であること、そして軌道上に仲間がいる事が伝わるだろう。
「船長さん、こちらアイリス。降下完了、こちらの合図があるまでエレベータを停止しておいてください」
『了解、どうか無事で』
船長の応答が途絶えると、周囲は静寂に包まれた。さっきの人影は姿を消したままだ。どこかで様子をうかがっているのかもしれない。
……この静けさは、あまりいい予感がしない。その時、正面ゲートの近くから誰かの声が聞こえた。はっきりとした、低めの男性の声。
「ずいぶんと久しぶりにエレベータが動いたと思ったら……星外からのお客さんか?何者だ?何をしに来た?」
そう話しながら、年配の男性が姿を現した。……大きな荷物を背負っているが、丸腰のようだ。服は少し古ぼけてた作業着のような……いや、あれはエンジニアスーツだろうか?そして男性の隣には隣には、警戒を隠さない目つきの壮年女性が立ち、私たちをじっと見ている。
私は目立たないようにスキャナーを二人に向ける。……抗体反応無し、タンパク変異無し。健康そうな見た目通り、感染はしていないようだ。そのことを確認すると一歩前に出て、なるべく感情を殺した冷静な声で声に応じる。
「あなたたちこそ、ここで何を?それに、人に何かを聞くときは自分から名乗るべきでは?」
年配の男が少し口元を歪めて笑った。その笑みは決して不快なものではなく、自分たちの非礼に気付いて苦笑しているようにも見えた。
「それもそうだな、失礼した。私達は使える物資を漁っているところでね、エレベータが降りてくるが見えたので確認しに来たんだ。なにせ、こいつが動くのは……もう7年ぶりか?よく動いたものだ。ああ、自己紹介がまだだったな。私の名はエルド、この星のインフラ技術者……をやっていた」
その名乗りに、私は軽く頷く。彼の隣の女性が、わずかに肩をすくめて口を開いた。
「ナタリア。元トレーダーだけど、今はただのスカベンジャーってとこ?で、あんたたちはどんな目的で来たの?今さらこんな星に用なんてあるとは思えないけど」
話は通じる相手のようだし、相手は礼儀を守って名乗ってくれた。私を守るように横に控えてくれていたヴァルトさんが少しだけ警戒を緩めた気配を感じる。なら、次はこちらの番だが……。
「私はアイリス、こちらは妹のトワ。一緒にいるのは護衛のヴァルトさん。私達はギルドの人間で、任務のためにこの星に来ました」
「任務?ここで?このいつ終わるかもわからない星で?」
少し馬鹿にしたような表情でナタリアさんはそういう。確かに、この惨状の前に、任務も何もないだろう。私は大げさに肩をすくめて見せてから、彼女に合わせて少し言葉のトーンを変え言葉を紡ぐ。
「私達がペレジスを出たのは15年前だよ?少なくとも、そのときは何も問題は無かったと思うけど」
「……ナタリア」
「……ちっ、悪かったわよ」
どうやらエルドさんが主導権を握っているらしい。ナタリアさんは私達にあまり好意的では無いみたいだけど、エルドさんは私達と対話する意思があるようだ。私達はあまりにもこの星の状況を知らなすぎる。情報収集のためにも少し話をしておくべきだろう。
「それで、上の状況はどうなっていた?」
「軌道ステーションですか?無人で放置されていました。一部機能は停止しているところはありましたけど、船のスタッフが可能な限り復旧を行ってくれています」
「フォトンバッテリーの充填設備はどうだ?まだ稼働してそうか?」
「ええ、過充電で停止していたので再起動させました」
「おお、それは……この数年で初めて聞く朗報だ」
……今が状況を聞き出すチャンスと見た。
「一体何があったんですか?星外に向けて緊急警報が発令されていた事は知ってるんですが」
私の言葉にエルドさんは深いため息をつくとこの星に起きたことを語ってくれた。
>>Towa
エルドさんと名乗ったこの星の住民と、アイリスの情報交換でわかったことはこうだ。
今から8年前、突如「クレナシス症候群」と呼ばれる疫病が発生し、瞬く間に感染が広がった。その病は極めて高い致死率を持ち、発症すればほぼ確実に死に至る恐ろしい病だったそうだ。
最初に感染が確認されたのは私たちがこれから向かう予定の芸術都市ノヴァーラ。
丁度年に一度の芸術際の最中に急激な感染爆発が起こり、都市は大混乱に陥った。そして、病はそこから星都アルディナへと広がり、最終的に惑星人口の約6割が犠牲になったらしい。
ノヴァーラで感染が拡大するなか既存の治療方法では対処できず、あまりの混乱でワクチンの開発もままならない状態でアルディナでの感染が発覚し、その時点で星外への救援要請が行われたそうだ。
……でも、最寄りの恒星系からの救援には最速でも片道7年以上かかるため、もはや手遅れという絶望的な状況に陥ったらしい。そしてそんな最中に、この星の崩壊を決定づける致命的な出来事が起きたんだ。
「――じゃあ、この星の大統領と政府高官たちが……?」
「ああ、奴らはアルディナへの感染拡大が確認されたとたん、星外へ逃げ出したんだ」
信じがたい話だった。防疫対策の指揮を執るべき政府上層部が惑星を見捨て、避難……いや、逃げ出した?自分たちが真っ先に?一体どういうことなんだろう。私にはその行動が全く理解できなかった。
だけど私はふと、軌道エレベータの扉に挟まっていたカートの事を思い出した。そうか、あれは逃亡する大統領達が追っ手が掛からないようにわざと……。ベルンハルトといい、この星の大統領といい……宇宙にはまともな指導者はいないんだろうか。立派な指導者だったお義父さんの爪の垢を煎じて飲ませたいよ……。
私がお義父さんの事を懐かしんでいる間にも話は進んでいた。
「ギルドはどうしたんですか?この星にもギルド支部はあったはずですけど……」
「ああ、そうだ。だが、間の悪いことにギルドの幹部連中はちょうど大音楽堂の改修準備でノヴァーラに滞在してたんだよ。それで、対策も整わない初期の感染拡大に巻き込まれてな……結局みな病に倒れた」
「……そうだったんですね。……魂の輝きが、永遠に水晶に宿りますように」
アイリスが哀悼の言葉を口にする。ギルドの一員として、病に倒れた仲間のために私とヴァルトさんも同じ言葉を繰り返した。美しい響きの言葉ではあるけど、この言葉を使う時はいつも悲しい時だから、私はこの言葉が好きじゃない。
ヴァルトさんも沈痛な表情だ。彼が大切に思っている大音楽堂にまつわる話でギルドの仲間が犠牲になったと聞くと、やはり思うところはあるんだろうね。
「では大統領達の逃亡が、この状況の原因か」
「結果としてはそうだ。だが、直接的ではない」
ヴァルトさんの指摘にエルドさんが苦虫を噛み潰したような表情で話し始めたのは、さらに衝撃的な話だった。
大統領達の逃亡後、残された政府で現場担当をしていた役人達は混乱を少しでも押さえるために上層部が逃亡した事実を隠しながら事態の収拾に努めようとしていたらしい。だけどあるジャーナリストによってそのスキャンダルは暴露され、その報道に住民は強い怒りを抱いたという。
そして……何故かその噂には、ギルド幹部も大統領と一緒に逃亡したという誤った情報も含まれていたんだそうだ。
実際にはギルド幹部はすでに病に倒れていたのだけど、住民達の目から見ればギルドの人間が表立って何の活動していない事は事実で、そのことがギルドも政府と同じく惑星を見捨てたように見えたそうだ。
そこから事態は一気に崩壊していった。
政府は情報を隠蔽している。
疫病はギルドの秘密実験によって起こったものだ。
治安当局は住民を支配しようとしている。
……さらには「C3が疫病の原因」という荒唐無稽なデマまで飛び交い、怒りと恐怖に駆られた住民たちは暴徒と化した。
その結果、行政府やギルドの施設、さらにはC3通信設備が襲撃され、星外との唯一の連絡手段だった超光速通信装置も破壊されてしまった。エルドさんによれば、暴徒の背後で扇動を行ったのも、最初に告発を行ったジャーナリストだったという。しかし今となっては、もはや誰が原因かを追及しても意味のないことだと彼は言った。
「でもさ、もうみんな過去の話さ」
話が一段落したとみたナタリアが淡々とした様子で口を挟んできた。荒廃した街を前にした彼女の言葉には悲壮感や怒りはなく、むしろあきらめにも似た響きがあった。
「みんな、最初は怯えてたけどね。けど、もう誰も感染なんかしない。感染したやつは皆死んじまったし、感染者だってほとんど残っちゃいないからね」
「でも、それだけで感染が収束したって言えるんですか?」
アイリスが控えめに質問する。ナタリアは肩をすくめ、答えた。
「私らを含め、生き残った人たちはみんな免疫を持ってるんじゃないかって話だよ?実際、ここ一年くらいは病気の話なんてまるで聞かないし、医者ももう心配ないってさ」
彼女の言葉は自身の言葉を信じて疑わないようだけど、本当にそうなんだろうか?内心疑問に思っていると、エルドさんが補足説明を行ってくれた。
「治療法……とは言うには乱暴だが、治療できる可能性が発見されている。私はそれも感染拡大が止まった理由の一つだと思う」
「治療できる『可能性』ですか?」
「ああ。クレナシス症候群の原因となる病原体が低温に極端に弱いことがわかったのだ。感染がわかった人間を冷凍睡眠にかければ、体内の病原体を駆逐できる」
それ、無茶な方法だよね?普通の状態でも冷凍睡眠は100%の蘇生を保証するものではないのに、疫病に掛かって体力を消耗した状態で冷凍睡眠を行うなんて……自殺行為以外の何物でもないんじゃない?
「座して死を待つより……ですか?」
「そういうことだ。しかし、この方法でクレナシス症候群の致死率は劇的に……54%に低下した」
つまり、冷凍睡眠での荒療治で半数以上の人が命を落とす。それでも致死率100%よりはまし。……この星は、そういう世界なんだ。
あまりの状況に声が出なかった。アイリスも私と同じなのか、黙って何かを考えている。思い沈黙を破ったのはナタリアだった。
「ところであんた達、何か使えるモノをもってないかい?これだけ情報提供したんだ、見返りがあってもいいだろ?」
「……ナタリア」
エルドさんは止めてくれるが、彼女が主張する事ももっともだ。奉仕には対価を。それはギルドの掟だってアイリスも言ってたしね。とはいえ私達も任務で降りてきただけなので、必要最低限の物資しか持ってきていない。どうしたものかとアイリスに目をやった。
「アイリス?」
「……そうたね。ナタリアさん、エルドさん。フォトンバッテリーなら予備があるので提供可能ですが、いかがですか?」
「あたしは文句ないよ」
「それは願ってもない申し出だ。今こちらではフォトンエネルギーが慢性的に不足してるんだ。軌道ステーションの充填施設が使えればずいぶんと事態が改善するんだがな……」
エルドさんは意味ありげに言葉を切り、アイリスを見る。アイリスはその言葉と視線の意味に気付いているのか、頷くと続けた。
「軌道ステーションは元々この星のものですから、私達が占有するつもりはありません。ただ、先ほどのお話では暴徒がいると言うことなので……現状で軌道エレベータを無制限に解放するのは難しいと思います。治安部隊か自警団の管理の元でなら問題無いとは思いますが……」
「自警団なんて気の利いたモノはないな。ただ、部隊と言うほどの規模でもないが、治安当局の連中なら郊外の農業プラントに陣取っていろいろと活動しているようだが」
「農業プラントというのはノヴァーラへの街道脇にある……?」
「そうだが……あんた、詳しいな?この星に来たことがあるのか?いや、でもあのあたりは観光者が近づく場所でもないが……」
ヴァルトさんの言葉に少し驚いた表情を浮かべるエルドさん。だがヴァルトさんは彼の言葉には応えず、アイリスに向かって話しかけた。
「目的地への道中に大規模な農業プラントとその管理のための小集落があるはずだ。任務が終わった帰りに立ち寄ってはいかがか」
「そうですね、ではそうしましょう。治安当局と連携がとれ次第、軌道ステーションを解放する方向で調整します」
ヴァルトさんの言葉にアイリスが頷き決定を下すのをナタリアが不思議そうに見ていた。
「そっちの嬢ちゃんがボスなのかい?ステーションの開放なんて勝手に決めちまっていいのかい?」
「そうだ。彼女は……」
ヴァルトさんはそこまで言いかけて言葉を切った。身分を明かすかどうかはアイリスの判断に任せるべきだと思ったのだろう。うん、それは正しいと私も思う。
「私は、モーリオンギルドの管理官です。この星の支部とは直接の関係はありませんが、失われたギルドの信頼を回復できるよう、ベストは尽くします」
「管理官……?それ、支部長クラスじゃない……」
……うん、知ってた。アイリスはそういう人だ。そしてナタリアはアイリスが支部長クラスの人間だと思って目を丸くしていた。本当はもっと偉いんだけど。どうだ、私のお姉ちゃんはすごいだろう。
私が何を考えているのか察したらしいアイリスに呆れた表情で軽く睨まれた。解せない。内心で姉を褒め称えていただけなのに。
話がまとまり私たちはエルドさんとナタリアに別れを告げ、目的地であるノヴァーラへと向かうことにした。軌道エレベータについて、何かあればどう連絡するか尋ねると、ナタリアは「エレベータが動き出したら、どこにいてもすぐわかるさ」と笑った。そうか、彼らがここにいたのもエレベータの動きで気づいたからだっけ。
別れ際、ナタリアが私達に声をかけてきた。
「メナスには気をつけな」
「メナス?誰かのこと?それとも何かのこと?」
「メナスは脅威さ。この星にとっても、多分あんたたちにとってもね」
それ以上話す気は無いのか、エルドさんに合図をしてナタリアは去って行った。
知ってる。これ、ホロムービーでよくあるフラグっていうやつだ。私はこの後、メナスなる脅威と確実に遭遇することを覚悟した。
――なお、出発前に軌道エレベータの地上駅を軽く探索してみたところ、倉庫エリアであっさりとフィルターパックを発見することができた。他の物資はほとんど略奪されていたのに、打ち捨てられ、倉庫の床に転がっていたフィルターパック君の姿に私は哀愁を禁じ得なかった。
まぁ地上だとまるで使い道がないらしいからね、航宙船用のフィルターパックって。アイリスが無線でパックを発見した事を船長さんに伝えていたので、タイミングを見て回収しておいてくれるだろう。メナスとやらの件もあるし、仮に私達に何かあってもこれで船長さん達はこの星を離れることが出来だろう。さぁ、これで私達はC3の設置に専念できる。
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