表示設定
表示設定
目次 目次




インターミッション 『銀腕の花嫁』CM41F3C-銃誓の惑星

ー/ー



 「銀腕の花嫁」はこの辺境の星で語り継がれている開拓初期の伝説の一つだ。この星では今も、新郎新婦は撃ち尽くしたブラスターのカートリッジを互いに交換し、(ブラスター)を打ち合わせて愛を誓い合う。過酷な環境を生き抜きながら、互いを支え合う象徴として。



 辺境の惑星、CM41F3Cにモーリオンギルドの開拓団が入植して数十年。まだ歴史の浅いこの惑星には伝統的な由来を持つ独自の祝祭日は存在しない。そのかわり、年に数回訪れる「結婚式の日」が開拓団の全住民を巻き込む特別な祝日として扱われている。
 この惑星での結婚式は単なる二人の門出を祝う日ではなく、共同体全員にとっての祝日となる。結婚式が執り行われる日には通常業務はすべて休みとなるため、住民総出で式場の準備や飾り付けに取りかかり、料理も皆で持ち寄って用意するのが習慣だ。結婚とはこの地で共に生きる仲間たちの新たな門出を祝う日。つまりこの惑星の「祝日」は特定の日ではなく、仲間の未来を祝う日そのものなのだ。

 そして今日、新しく一組の夫婦が誕生しようとしていた。

 新郎の名はジョッシュ・ホルムス。
 新婦の名はヘルミナ・ルーベンス。

 若くして結婚するカップルが多いこの星では珍しい、共に三十路になって初婚を迎える晩婚の二人だ。

 辺境の居留地には小洒落たセレモニーホールなどは存在しないため、式はいつも居留地の隣にあるHLV発着場──広々とした降着用の広場――で執り行われる。普段はがらんとしたこの広場も今日だけは住民の手で飾りつけられ、ちょっとした祝祭のような彩りが添えられたささやかな手作りの装飾が周囲に温かな雰囲気を漂わせている。

 開けた空間に張り巡らされた旗や花飾りはどれも質素ながら心を込めて作られたものばかりだ。リボンや小さな花束が結ばれた柱が、特設のアーチとして二人を迎えるように設置されている。地面に敷き詰められた砂利は掃き清められ、降着用のランプは赤い布を巻かれてランタン代わりとなって周囲を柔らかく照らしている。
 いくつも並べられた長テーブルの上には家庭ごとの料理自慢が一品ずつ持ち寄られ、テーブルを彩っている。大皿に盛られた「四つ脚」のロースト、焼きたてのパン、色とりどりの野菜の煮込み料理、甘いデザート──どの料理にも居留地の仲間たちの心が込められている。
 大人も子供も、老人たちも、結婚という門出を心から祝う気持ちを込めていることが式場全体から伝わってくる。

 ギルドにおける結婚式は人前式であり、参加者全員の前で二人が誓いを交わす形式がとられている。式を執り行うのは開拓団の長、ハロルド・ブースタリア三等管理官。老齢の域に達してなお精力的に開拓団を指導する彼は、厳しくも柔和な笑みを浮かべながらフォトンフラッグを掲げ集まった人々の前で二人の結婚を宣言する。

 ジョッシュとヘルミナは集まった大勢の人々の間を通り抜け、式場の中心に立った。住民たちが笑顔で手を振り、祝福の声が空に響く。二人は晴れやかな表情で見つめ合い、今まさに誓いの言葉を交わそうとしていた。
 向かい合った二人の脳裏には未来への希望と共に、過去の記憶がよぎっていた。十数年前──まだ若く、無鉄砲だった頃の記憶。あの、命を賭けた戦いと、その後の挫折の日々の記憶が。



 当時、ヘルミナとジョッシュはどこか無鉄砲で未熟な若者だった。

 ヘルミナはスクールに在籍していた頃から筋金入りのガンマニアであるだけでなく、銃の改造や撃つことそのものが好きなトリガーハッピーな問題児として知られていた。ギルドの規則にこそ従ってはいたがギルドメンバーとしての使命感や武器を手に誰かを守る意識とは無縁で、ただ自分の興味のままに銃をいじり、射撃に夢中なる。そんな変わり者の少女だった。
 周囲はそんな彼女を奇異の目ではなく、むしろ同情の眼差しで見守っていた。
 なぜなら幼い頃、彼女は原生生物の襲撃で両親を失っていたからだ。居留地の外で原生生物の群れに遭遇し、武器を持たなかった両親は幼い彼女を逃がすのが精一杯だった。結果として娘を逃がすことには成功したものの、二人はともに命を落とす事になった。
 そんな過去がヘルミナを銃に執着させていると周囲は感じており、それ故に彼女の行動に口を出す者はいなかったのだ。

 しかし、最初は力を得るために渇望していたブラスターがいつしか趣味となり、単なる娯楽へと変わっていったことに彼女自身も気づいていなかった。やがて彼女は軍用パーツを使った違法寸前の改造にまで手を出し……いつしかヘルミナは限度を超えていると、周囲から白い目で見られるようになっていた。

 一方ジョッシュは開拓団の中では平均的な家庭に生まれ、何不自由なく育ったごく普通の子供だった。保安部員だった父に憧れ、将来は保安部に入ることを夢見ていたこともあり、ある程度の正義感は持っていた。しかしその信念は深く考えられたものではなく、どこか軽薄で衝動的な面があった。
 それ故に当時のジョッシュは「カッコいいことをしたい」「他人に頼られたい」という見栄や思いつきで行動することが多く、物事を冷静に分析することもないまま、ただ気ままに過ごしていた。ようするに、彼は普通の子供だったのだ。

 スクールの同級生の中ではジョッシュは比較的優秀な方だった。しかし、彼にとって不幸だったのは……同学年に、飛び抜けた天才がいたこと。アイリスという名の、開拓団長の長女は文武両道で容姿にも恵まれ、まさに天性のリーダーだった。
 普通の男子であったジョッシュはことある毎にアイリスに勝負を挑み、完膚なきまでに叩き潰された。それでもアイリスを恨まなかったのは、なんだかんだと言っても彼が善良な人間だったからだろう。
 やがて学年が進む毎に落ち着きを得たジョッシュは、アイリスと友人関係となった。

 ヘルミナと同じくジョッシュもまたブラスターには興味を持っていたが、それは同世代の少年たちの多くと同じで初めて支給された銃――子供向けと言われるXthキャリバーに惹かれる程度のものだった。ただし、将来保安部に入ると決めていた彼は、アイリスとの勝負に勝つためにも友人たちよりも熱心にブラスターの練習を重ねていたが。

 そんなヘルミナとジョッシュはスクールの先輩後輩として出会った。ジョッシュは、風変わりな先輩であるヘルミナに何故か惹かれ、やがて二人は気の合う遊び仲間となった。
 友人たちからは二人は交際していると思われており、実際に互いに惹かれ合う部分があったのも事実だ。だがそれは恋愛と言うよりも、気楽な趣味友達に近いものだった。恋人関係と呼べるかどうかは二人にも分からない、そんな未熟さゆえに軽やかで自由な関係で、周囲もそんな二人をある意味お似合いのカップルと見なしていた。

 そんなある日、居留地の近くで正体不明の怪物(メタルビースト)と遭遇したことで、二人は望むと望まざるとにかかわらず自分たちの限界を突きつけられることとなった。

 ヘルミナは戦闘中、再び自分の命が本当に危険にさらされる状況に陥り、絶望と恐怖の感情を強く思い起こされることになった。得意だったはずの銃も通用せず、冷静さを失った彼女は怪物の攻撃を受け愛銃と共に左腕を失った。痛みに打ちひしがれながら彼女は自分が思いのほか無力であったこと、そして忘れかけていた力への渇望を思い出していた。
 ジョッシュもまた、ヘルミナが危機に陥る中で自分が彼女を守り切れなかったという事実に苦しむこととなった。既に念願の保安部に所属していたものの、結果として二人の少女たち──友人であるアイリスと、彼女の妹であるトワ──が怪物を倒し、自分たちを救ってくれたことは彼に深い無力感と罪悪感を残した。
 「自分は何のために保安部を目指していたのか」「自分は本当に彼女を守れる男だったのか」と問いかける日々が始まった。ジョッシュは無責任だった過去の自分を初めて見つめ直すことになったのだ。

 この戦いは二人にとって、忘れがたい挫折の経験となった。それまで自分の楽しみや見栄のためだけに生きてきた二人が、自分の無力さを痛感し誰かのために戦う意味を再認識するきっかけとなったのだ。


 怪物との戦闘からしばらくして二人の間には微妙な距離が生まれてしまっていた。ジョッシュは自分の無責任さを反省し、ヘルミナを守れなかったことに苦しみながら彼女に対して申し訳なさを抱くようになっていた。そして左腕を失った彼女を支える資格が自分には無いと思い込むと、自然とヘルミナとの接触を避けるようになってしまった。

 一方ヘルミナも左腕と愛銃を失ったことで、自分はいくらブラスターを振り回していたとしても十分な力がないのだと思い知った。
 さらに、自分を守れなかったことを詫びるジョッシュに納得のいかない思いを抱き、かつての関係には戻れないと感じるようになっていた。彼女もまた距離を置くことを選んだことで、周囲の目には二人が破局したように映っていた。

 今までの「趣味」としてのブラスターとは違い、ヘルミナは自分を守るための「武器」としてブラスターを求めるようになった。そしてブラスターを自身の力とするため、義手にブラスターを内蔵するという奇行に出た。
 周囲の人々はジョッシュと破局したことが原因で彼女が精神的に異常を来したのではないかと心配したが、そんな視線をよそにヘルミナは義手を改造し続ける。彼女は他人に頼らず、自らの力と共に生きる道を選んだのだった。

 そして十年ほどの歳月が過ぎ、二人はそれぞれギルドの仕事に従事する中で少しずつ自分自身を見つめ直す機会を得た。
 ジョッシュは無力感と罪悪感を糧に、他人のために行動することの本当の意味を考え始めた。
 過去の失敗を繰り返さないために保安部員として真剣に訓練に励み、誰かを守るための覚悟と責任感を育てるべく努力を重ねたのだ。かつての軽薄さは次第に消え、ジョッシュは無理をせず冷静に判断できる一人前の男へと成長していった。
 そしてジョッシュは、居留地を襲う原生生物との戦いの中で幾度も住民を救うことに成功した。やがて彼は周囲から頼りがいのある男として認められ、小隊を、そしてやがては中隊を任される立場となっていった。

 ヘルミナもまたガンスミスとして仕事をこなすうちに、自分の力だけでなく仲間と協力することを学び、次第に「誰かのために力を使う」という考えが芽生えるようになっていた。
 相変わらずトリガーハッピーな性格で義手の改造にも精を出してはいたが、戦う意味や力の使い方について少しずつ考えを改めるようになっていった。


 ともに三十路に手が届くようになったころ、長い年月をかけて責任ある大人として成長した二人は互いの変化を遠くから見守りつつ、以前とは違う新しい関係が築けるのではないかと考えるようになっていた。
 自立し成長した二人はもはや軽い恋人同士ではなく、責任を持って共に歩む「パートナー」として少しずつ関係を取り戻していった。

 変わり者のヘルミナはともかく、保安部で頭角を現していたジョッシュに憧れる女性たちは彼がヘルミナとよりを戻したことに驚き、嫉妬した。しかしジョッシュもヘルミナもそんな周囲の視線を気にせず、互いの絆を深めていった。

 ジョッシュは今度こそ彼女を支えられる自分になれたと感じており、ヘルミナもまた、ただ自分の力を求めるだけでなく、互いに頼り、守り合う存在でありたいと考えるようになっていた。
 こうして二人は十数年前の苦い経験を乗り越え、ようやく心から信じ合える関係に辿り着いたことで、結婚を決意するに至ったのだった。



 居留地の人々が見守る中、ジョッシュとヘルミナは式場の中心に並び立つ。互いに手を握り穏やかな笑みを浮かべる二人の視線は過去を乗り越えた自信に満ち、まっすぐに交わっている。
 開拓団長のハロルドが厳かに誓いの言葉を促すと、ジョッシュが一歩前に出て、誓いの第一声を口にした。

「私達は、黒水晶と共にあるギルドの仲間として、この地に生きる皆のために力を尽くします」

 ジョッシュの力強い声が式場に響き渡る。彼の眼差しは未来を見据え琉かのように真っ直ぐで、その表情には今までの成長と覚悟が表れていた。次にヘルミナがジョッシュを見つめ、しっかりとした声で誓いの言葉を続ける。

「どんな荒波が押し寄せても互いに支え合い、共に歩むことでこの星に希望を刻みます」

 二人の言葉には過酷な星でともに生き抜く覚悟が込められ、二人は互いの手をさらに強く握り締めた。そして、二人は声を合わせて結びの言葉を誓う。

「あなたと共に、揺るぎない絆を築くことを誓います」

 二人は見つめ合い穏やかな笑みを交わし、ジョッシュはゆっくりとヘルミナに顔を近づける。二人の誓いを祝福するかのように式場の全員は静まり返り、ただ二人を見守っていた。

 だか、その時──


 結婚式場に不意に警報音が鳴り響いた。鋭く耳をつんざくような音が式場の穏やかな空気を一瞬でかき消す。静かだった場がざわめきに包まれ、参列者たちは何が起こったのかと周囲を見渡し始めた。

暴走(スタンピード)発生! 居留地の南方から原生生物が多数接近中!』

 スピーカー越しの声が式場に響く。ジョッシュはそれが自分の部下である若手隊員の緊張した声だとすぐに気がついた。式への参加を賭けたくじ引きに負け、本部で待機しているはずの若い隊員が、遠隔で警報を発令しているのだ。

 場にいた子どもたちは怯えて母親にしがみつき、参列者のざわめきが一層大きくなる。ジョッシュの周りに集まっていた保安部員たちは即座に気を引き締め、緊急事態に備えるように動き出していたが……彼らも式に出席しているため武器を携行していなかった。居留地に居残っている一小隊を除いて大半の保安部員がこの場にいたが、当然のことながら武装などなく、完全に無防備な状態だ。

「……このタイミングで!」

 ジョッシュは歯を食いしばり、目の前の状況を把握する。迎撃のためには居留地から武装を届けてもらう必要があるが、スタンピードの速度を考えると到底間に合うとも思えない。
 式場に残っている逃げ場のない足の遅い子どもや老人の姿が目に入るが、彼らを居留地まで避難させるだけの時間は無いだろう。彼らを無事に守るためにはここで立ち向かうしかない。危機的な状況の中、ジョッシュは気持ちを切り替え、指示を飛ばし始めた。

「ヘルミナ、子供達を一所に集めるよう、誘導を頼めるか?」
「もちろん。内助の功ってヤツでしょ?任せて!」

 そう軽く答えると言うとヘルミナはウェディングベールを投げ捨て、朱い髪をなびかせて子供達の元へと走っていった。ジョッシュは次いで近くにいた部下である若手の保安部員に鋭く声をかけた。

「お前、居留地に走れ!急いで武器を運んでくるんだ。行け!」

 若手隊員は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにジョッシュに敬礼し、全速力で居留地へと向かって走り出した。戦闘が始まった後でも、ジョッシュ達が持ちこたえていればきっとブラスターは役に立つと信じて。

 次にジョッシュは周囲にいた他の隊員たちに冷静に指示を出す。

「子供と老人をテーブルの後ろに!机や椅子を防壁代わりに使え!」

 複数の保安部員がすぐに反応し、開拓団長率いる管理スタッフや居合わせた住民たちと手分けして会場のテーブルや椅子を横倒しにし、即席のバリケードを組み立て始める。用意された料理の事は残念だが、命には代えられない。参列者たちもジョッシュの指示に従い、戦闘力のない者は子どもや老人をバリケードの後方に誘導し、C3鉱山で働く男達は保安部員の築いた防衛線に加わった。

「お前たちは手近なものを武器にして準備にかかれ!柱、椅子、何でもいい、すぐ使えるものを持て!だがなるべく距離を取れるものにしろよ!」

 指示を受けた隊員たちは、近くのキャンドルスタンドやウェディングアーチの支柱を引き抜き、即席の武器を手にする。手に入るものは限られていたが、それでも自分たちができる範囲で戦える武器を手に取り式場の入り口付近に防衛ラインを作り始めた。

「奴らが来るぞ……!」

 荒々しい足音と共に、原生生物の群れが視界に入ってきた。まだ姿ははっきりとは見えないが、衝撃音と振動は次第に強まり、広範囲に土埃が立ち上っている。ジョッシュは即席の武器を構えた隊員たちに冷静な声で告げた。

「焦るな、ここで奴らを抑える。各自、持ち場を守れ!絶対にバリケードを突破させるな!だが、自分の命は粗末にするなよ!」

 指示を受け即席の武器をしっかりと握り締める保安部員達。足音が近づき、ついに原生生物の群れが式場の外縁に到達した。前方に並ぶ防衛ラインの緊張は極限に達し――。

 そして、ついにスタンピードが会場に突入した。

 最前列の保安部員や力自慢の鉱夫たちは手に持つ椅子やキャンドルスタンドを振りかざし、迫り来る原生生物をなんとか押しとどめようと奮闘する。しかし応急的な武器では攻撃力が足りず、次々と生物の反撃を受けて後退を余儀なくされる。
 幾度も押し寄せる原生生物の群に、負傷した隊員たちの顔に疲労の色が浮かび始める。

「このままでは……!」

 ジョッシュは歯がみし、周囲の状況を再び確認するが、応急の武器で彼らを押し返すには限界が見え始めていた。だがそれでも彼は部下たちに声を張り上げる。

「踏ん張れ!絶対に後ろに押し戻されるな!持ち堪えれば、武器が届く!」

 しかし、次々と押し寄せる原生生物に、バリケードが揺れ始める。居留地からの武器が到着するまで耐えきれるかどうか……ジョッシュは険しい表情を浮かべながら即席の武器を振るう。参列者たちはバリケードの内側で恐怖に怯えつつも、彼らの防衛ラインが突破されないことを祈るように息を詰めていた。

 戦場に響く足音と咆哮、悲鳴と衝撃音の中、ジョッシュは必死で防衛ラインを保ち少しでも居留地の仲間たちを守るべく、限界まで踏ん張っていた。絶え間なく押し寄せる原生生物に押されながら。

──そして、その時。

 不意に、彼の隣に誰かが並び立った。風にたなびく鮮やかな赤い髪と、純白のウェディングドレス。荒れ狂う戦場の中に現れた、場違いな花嫁。

 彼女は手早くドレスの裾を大胆にたくし上げると、太ももに固定されたサイホルスターからブラスターを引き抜き、茶目っ気たっぷりに微笑みながらジョッシュにそれを投げ渡した。

「そう言えばまだだったよね、結納返し。それで勘弁しておいてくれる?」

 彼女の言葉に、ジョッシュは思わず吹き出しそうになる。ジョッシュは冗談めかして返した。

「おうっ、これで十分だ!ありがたく受け取らせて頂くよ、物騒な花嫁さん!」

 ジョッシュは手の中にすっぽりと収まった小振りなブラスターに目をやる。少しくたびれ、傷ついたそのブラスターの懐かしい感触に一瞬驚いた表情を浮かべ、呟く。

「……この銃、まさか?」
「ええ、あなたのXth。リストアするのに手間がかかったんだから、ちゃんと使いなさいよ?」

 ヘルミナがよこしたブラスターは彼のかつての愛銃、スクールで配布されたXthキャリバーだった。機械の獣(メタルビースト)と戦った際の、未熟だった頃の彼の愛銃。保安部での勤務ではサブウェポンとして使っていたものだったが、小隊長就任時に新しく新型のブラスターを支給された後に無くしてしまってそのままになっていた代物。偶然それを手に入れたヘルミナは己の持てる限りの技術でリストアし、まるでこの瞬間を予知していたかのように式場へ持ち込んでいたのだ。
 ジョッシュはXthをを手に仲間たちを助けに駆け出そうとするが、ヘルミナは彼を引き止める。

「あら『どんな荒波が押し寄せても互いに支え合い、共に歩む』んじゃなかったっけ?」

 彼女はそう言うと左手の手袋を脱ぎ、銀色に輝く義手のブラスターを起動させた。義手に内蔵されたC3が彼女の決意を示すかのように碧く輝き始める。

「そうだな、お前と『共に、揺るぎない絆』ってやつを、築きに行こうか!」

 二人は互いに一瞬だけ目を合わせ、そして手を取り合って前線へと駆け出した。保安部員たちが追い詰められ、敵に囲まれた防衛ラインに突撃するように飛び込んでいく。


 戦場の中心でヘルミナは銀の義手に内蔵されたブラスターで連射を加え、原生生物たちを制圧する。かつて鋼の獣(メタルビースト)と戦った際の愛銃よりも格段に強化され、「彼女の力」そのものとなったブラスターは、素早く正確に敵の群れを撃破してゆく。
 ヘルミナの猛攻に怯んだ原生生物の隙を見逃さず、ジョッシュもまたかつての愛銃であるXthを駆使して大物の個体を確実に一体ずつ仕留めていった。ジョッシュの撃つ一発一発は正確無比で、朱の光弾が原生生物を打ち倒す度に、場の空気が変わっていくのがわかる。

 ヘルミナは一瞬で間合いを詰め、周囲の敵に連射を浴びせる。その動きは流れるようで、接敵する度にきらめく碧の輝きが確実に敵を葬ってゆく。
 碧の光と白いドレスを煌めかせながら踊るように敵を圧倒する花嫁姿のヘルミナに、周囲の保安部員たちは息を呑んだ。

 ジョッシュもまた、ヘルミナの隙をカバーしながら大物の原生生物を狙い撃ち、次々と確実に仕留めていく。息の合ったコンビネーションで二人は背中合わせに立ち、まるで長年の戦友のように戦場を切り開いていった。

 そんな二人の前の大型の原生生物が立ちはだかる。オーガと呼ばれる、時折居留地を襲撃してくる凶暴な個体。たいていの場合、スタンピードの原因となっているボス格の原生生物だ。

「ヘルミナ、いけるな?」
「誰に言ってるの?ジョッシュこそビビらないでよ?」
「それこそ、誰に言ってるってやつだ!」

 大物相手でも二人の闘志は揺るがない。なぜなら二人は最高の相棒と共に戦っているのだから。ヘルミナの銃撃はオーガをひるませ、その隙にジョッシュはXthのチャージを始める。そして――

[MAXIMUM CHARGE]

 まるで子供の玩具の様な、安っぽい電子音がチャージの終了を告げる。ジョッシュはこの子供っぽい電子音が好きではなかったが、それでも今はそれがとても頼もしく聞こえた。

「式の邪魔をしてくれた礼は、たっぷりとさせて貰うぜ!」

 そう言ってジョッシュが放ったチャージショットは、狙い過たずオーガの頭部を打ち砕いた。

「中隊長、おまたせしました!」

 オーガの巨体がが崩れ落ちたその時、駐屯地に走らせた部下が留守番をしていた保安部員を引き連れて戻ってきた。
 両手にいっぱいの希望──ブラスターを構えて。


 そこから後の戦いについては記すまでも無いだろう。ブラスターを手にした百戦錬磨の保安部員達にとって、原生生物の群れなど単なる獲物にすぎなかったのだから。


 最後の原生生物が倒れ、戦場となった式場は静寂を取り戻した。ヘルミナは軽く息を吐くと静かにブラスターの起動を解除し、ジョッシュに微笑んだ。ジョッシュも彼女に微笑み返し、肩を並べながら義手にそっと手を添えた。
 それの仕草にヘルミナは少し眉をひそめて言った。

「……廃熱処理がまだイマイチなのよ。熱くない?」
「むしろ、熱々の愛の証ってとこだろ?」
「そういう軽口、昔みたいね。でも嫌いじゃないわよ、そういうあなたも」
「なんだ、惚れ直したのか?」
「何を今更」

 二人は顔を見合わせると楽しそうに笑い合った。戦いを終えた今、互いの手のぬくもりがこの上なく心強く感じられた。……ただし、ジョッシュにとっては「ぬくもり」を超えた少々熱々すぎる手のぬくもりではあったが。


 スタンピードは鎮圧されたが、式場は無残にも荒れ果ててしまった。幸いにも死人や重傷者こそでなかったものの、前線に立っていた保安部員や鉱夫の中には負傷者も決して少なくはない。
 状況を踏まえ、ハロルド開拓団長は後日改めて式をやり直すことをジョッシュとヘルミナに提案したが、二人はそれを断った。こんな「激しい」結婚式の後に普通の式を挙げてもきっと誰の――もちろん自分たちの――記憶にも残らないだろうから、と言って。

 居留地へ避難していた人々も再び式場へ戻り、皆で手早く片付けを済ませた後、二人はなんとか体面を整えた式場で改めて向かい合った。二人は戦闘の最中に結婚指輪を無くしてしまっていて、それは結局見つからなかったのだが……それでも、二人は少しも動じる様子を見せない。

 ヘルミナは微笑みながら自分の腕部ブラスターから空になったカートリッジ排出し、それをジョッシュに差し出した。それを見たジョッシュもまた、自分のブラスターから全弾撃ち尽くしたカートリッジ取り外すとヘルミナに手渡す。

「これ、私の腕には合わないよね」
「ああ、俺に銃にも合わないな」

 ヘルミナが小さく笑い、ジョッシュも同じように頷く。二人は指輪代わりに交換したそれぞれのカートリッジを手のひらに大事に包み込んだ。

 撃ち尽くし、空になったカートリッジは「共に戦い力を尽くした証」。チャージすれば再び使えるかもしれないが、互いのブラスターには互換性がないため、それを自分のために役立てることは出来ない。だからこそ二人は「自分には使えないものを互いに託し合う」ことで、互いに補完し合い、支え合う関係であることを誓ったのだ。

 ジョッシュはヘルミナの右手を握り、深い愛情と尊敬を込めて彼女に微笑む。

「これからも、隣に立つ君を守り続けるよ。そして……君が隣にいる限り、俺も強くなれる」

 ヘルミナもまた、誇らしげに義手を掲げて微笑む。

「互いに相手のために力を尽くし合える関係、それが私たちが望んだ姿よね」

 二人は目を合わせ、静かに銃と義手を打ち合わせた。静寂に包まれた会場に金属が触れ合う音がまるで鐘の音のように響きわたった。そして微笑み合った二人は、深い愛情を確かめ合うように静かに口づけを交わした。

 ――こうして二人は、仲間たちの温かい拍手と歓声に包まれ、新たな未来への一歩を踏み出した。




「ホルムス団長、よろしいですか?」

 執務の合間に過去の思い出に浸っていたジョッシは、部下の声に現実に引き戻された。前任者であるブースタリア団長からこの地位を引き継いで既に37年。すでに前団長は亡く、自身も老境と呼ばれる年代になって久しい。

 最近では壁に飾られたXthキャリバーとヘルミナの義手を眺めながら、物思いにふける時間も多くなってきた。そろそろ後継者を選ぶ時期だと思い始めていたが、心残りがあることもあってなかなか決心が付かないでいたが……いや、今は仕事の話だ。

「どうした」
「軌道ステーションから報告がありまして……。当惑星所属のシンガーが居留地への航宙船着陸許可を求めていると」
「着陸?ここにか?」
「はい、大気圏離着陸が可能な航宙船だそうですが……。いかが致しますか?」

 大気圏離着陸が可能な航宙船?科学考証も禄にされていない三流ホロムービーの物語ではあるまいし、そんな船があってたまるものか。
 だが、不思議とそんなありえない船に乗っている、少女の姿が脳裏に浮かんだ。

「そんな破天荒な事を言い出すうちのシンガーなど……一人しかおらんな。そうか、ようやく帰ってきたのだな」
「は……?」
「いや、なんでもない。着陸を許可すると伝えてくれ」
「はあ……。団長がそう言われるのなら……。上にはそう伝えておきます」

 遠い昔に自分達を救ってくれた二人の少女。星の彼方へ旅立った彼女が帰ってきたのだ。
 ヘルミナにも知らせてやらんとな……。

 3人の孫達を引き連れ、4代目となるブラスター内蔵義手の試射に出かけている妻のことを思いながら、再会への期待と一抹の哀惜を胸に、ジョッシュは席を立った。




スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む #1


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 「銀腕の花嫁」はこの辺境の星で語り継がれている開拓初期の伝説の一つだ。この星では今も、新郎新婦は撃ち尽くしたブラスターのカートリッジを互いに交換し、|銃《ブラスター》を打ち合わせて愛を誓い合う。過酷な環境を生き抜きながら、互いを支え合う象徴として。
 辺境の惑星、CM41F3Cにモーリオンギルドの開拓団が入植して数十年。まだ歴史の浅いこの惑星には伝統的な由来を持つ独自の祝祭日は存在しない。そのかわり、年に数回訪れる「結婚式の日」が開拓団の全住民を巻き込む特別な祝日として扱われている。
 この惑星での結婚式は単なる二人の門出を祝う日ではなく、共同体全員にとっての祝日となる。結婚式が執り行われる日には通常業務はすべて休みとなるため、住民総出で式場の準備や飾り付けに取りかかり、料理も皆で持ち寄って用意するのが習慣だ。結婚とはこの地で共に生きる仲間たちの新たな門出を祝う日。つまりこの惑星の「祝日」は特定の日ではなく、仲間の未来を祝う日そのものなのだ。
 そして今日、新しく一組の夫婦が誕生しようとしていた。
 新郎の名はジョッシュ・ホルムス。
 新婦の名はヘルミナ・ルーベンス。
 若くして結婚するカップルが多いこの星では珍しい、共に三十路になって初婚を迎える晩婚の二人だ。
 辺境の居留地には小洒落たセレモニーホールなどは存在しないため、式はいつも居留地の隣にあるHLV発着場──広々とした降着用の広場――で執り行われる。普段はがらんとしたこの広場も今日だけは住民の手で飾りつけられ、ちょっとした祝祭のような彩りが添えられたささやかな手作りの装飾が周囲に温かな雰囲気を漂わせている。
 開けた空間に張り巡らされた旗や花飾りはどれも質素ながら心を込めて作られたものばかりだ。リボンや小さな花束が結ばれた柱が、特設のアーチとして二人を迎えるように設置されている。地面に敷き詰められた砂利は掃き清められ、降着用のランプは赤い布を巻かれてランタン代わりとなって周囲を柔らかく照らしている。
 いくつも並べられた長テーブルの上には家庭ごとの料理自慢が一品ずつ持ち寄られ、テーブルを彩っている。大皿に盛られた「四つ脚」のロースト、焼きたてのパン、色とりどりの野菜の煮込み料理、甘いデザート──どの料理にも居留地の仲間たちの心が込められている。
 大人も子供も、老人たちも、結婚という門出を心から祝う気持ちを込めていることが式場全体から伝わってくる。
 ギルドにおける結婚式は人前式であり、参加者全員の前で二人が誓いを交わす形式がとられている。式を執り行うのは開拓団の長、ハロルド・ブースタリア三等管理官。老齢の域に達してなお精力的に開拓団を指導する彼は、厳しくも柔和な笑みを浮かべながらフォトンフラッグを掲げ集まった人々の前で二人の結婚を宣言する。
 ジョッシュとヘルミナは集まった大勢の人々の間を通り抜け、式場の中心に立った。住民たちが笑顔で手を振り、祝福の声が空に響く。二人は晴れやかな表情で見つめ合い、今まさに誓いの言葉を交わそうとしていた。
 向かい合った二人の脳裏には未来への希望と共に、過去の記憶がよぎっていた。十数年前──まだ若く、無鉄砲だった頃の記憶。あの、命を賭けた戦いと、その後の挫折の日々の記憶が。
 当時、ヘルミナとジョッシュはどこか無鉄砲で未熟な若者だった。
 ヘルミナはスクールに在籍していた頃から筋金入りのガンマニアであるだけでなく、銃の改造や撃つことそのものが好きなトリガーハッピーな問題児として知られていた。ギルドの規則にこそ従ってはいたがギルドメンバーとしての使命感や武器を手に誰かを守る意識とは無縁で、ただ自分の興味のままに銃をいじり、射撃に夢中なる。そんな変わり者の少女だった。
 周囲はそんな彼女を奇異の目ではなく、むしろ同情の眼差しで見守っていた。
 なぜなら幼い頃、彼女は原生生物の襲撃で両親を失っていたからだ。居留地の外で原生生物の群れに遭遇し、武器を持たなかった両親は幼い彼女を逃がすのが精一杯だった。結果として娘を逃がすことには成功したものの、二人はともに命を落とす事になった。
 そんな過去がヘルミナを銃に執着させていると周囲は感じており、それ故に彼女の行動に口を出す者はいなかったのだ。
 しかし、最初は力を得るために渇望していたブラスターがいつしか趣味となり、単なる娯楽へと変わっていったことに彼女自身も気づいていなかった。やがて彼女は軍用パーツを使った違法寸前の改造にまで手を出し……いつしかヘルミナは限度を超えていると、周囲から白い目で見られるようになっていた。
 一方ジョッシュは開拓団の中では平均的な家庭に生まれ、何不自由なく育ったごく普通の子供だった。保安部員だった父に憧れ、将来は保安部に入ることを夢見ていたこともあり、ある程度の正義感は持っていた。しかしその信念は深く考えられたものではなく、どこか軽薄で衝動的な面があった。
 それ故に当時のジョッシュは「カッコいいことをしたい」「他人に頼られたい」という見栄や思いつきで行動することが多く、物事を冷静に分析することもないまま、ただ気ままに過ごしていた。ようするに、彼は普通の子供だったのだ。
 スクールの同級生の中ではジョッシュは比較的優秀な方だった。しかし、彼にとって不幸だったのは……同学年に、飛び抜けた天才がいたこと。アイリスという名の、開拓団長の長女は文武両道で容姿にも恵まれ、まさに天性のリーダーだった。
 普通の男子であったジョッシュはことある毎にアイリスに勝負を挑み、完膚なきまでに叩き潰された。それでもアイリスを恨まなかったのは、なんだかんだと言っても彼が善良な人間だったからだろう。
 やがて学年が進む毎に落ち着きを得たジョッシュは、アイリスと友人関係となった。
 ヘルミナと同じくジョッシュもまたブラスターには興味を持っていたが、それは同世代の少年たちの多くと同じで初めて支給された銃――子供向けと言われるXthキャリバーに惹かれる程度のものだった。ただし、将来保安部に入ると決めていた彼は、アイリスとの勝負に勝つためにも友人たちよりも熱心にブラスターの練習を重ねていたが。
 そんなヘルミナとジョッシュはスクールの先輩後輩として出会った。ジョッシュは、風変わりな先輩であるヘルミナに何故か惹かれ、やがて二人は気の合う遊び仲間となった。
 友人たちからは二人は交際していると思われており、実際に互いに惹かれ合う部分があったのも事実だ。だがそれは恋愛と言うよりも、気楽な趣味友達に近いものだった。恋人関係と呼べるかどうかは二人にも分からない、そんな未熟さゆえに軽やかで自由な関係で、周囲もそんな二人をある意味お似合いのカップルと見なしていた。
 そんなある日、居留地の近くで|正体不明の怪物《メタルビースト》と遭遇したことで、二人は望むと望まざるとにかかわらず自分たちの限界を突きつけられることとなった。
 ヘルミナは戦闘中、再び自分の命が本当に危険にさらされる状況に陥り、絶望と恐怖の感情を強く思い起こされることになった。得意だったはずの銃も通用せず、冷静さを失った彼女は怪物の攻撃を受け愛銃と共に左腕を失った。痛みに打ちひしがれながら彼女は自分が思いのほか無力であったこと、そして忘れかけていた力への渇望を思い出していた。
 ジョッシュもまた、ヘルミナが危機に陥る中で自分が彼女を守り切れなかったという事実に苦しむこととなった。既に念願の保安部に所属していたものの、結果として二人の少女たち──友人であるアイリスと、彼女の妹であるトワ──が怪物を倒し、自分たちを救ってくれたことは彼に深い無力感と罪悪感を残した。
 「自分は何のために保安部を目指していたのか」「自分は本当に彼女を守れる男だったのか」と問いかける日々が始まった。ジョッシュは無責任だった過去の自分を初めて見つめ直すことになったのだ。
 この戦いは二人にとって、忘れがたい挫折の経験となった。それまで自分の楽しみや見栄のためだけに生きてきた二人が、自分の無力さを痛感し誰かのために戦う意味を再認識するきっかけとなったのだ。
 怪物との戦闘からしばらくして二人の間には微妙な距離が生まれてしまっていた。ジョッシュは自分の無責任さを反省し、ヘルミナを守れなかったことに苦しみながら彼女に対して申し訳なさを抱くようになっていた。そして左腕を失った彼女を支える資格が自分には無いと思い込むと、自然とヘルミナとの接触を避けるようになってしまった。
 一方ヘルミナも左腕と愛銃を失ったことで、自分はいくらブラスターを振り回していたとしても十分な力がないのだと思い知った。
 さらに、自分を守れなかったことを詫びるジョッシュに納得のいかない思いを抱き、かつての関係には戻れないと感じるようになっていた。彼女もまた距離を置くことを選んだことで、周囲の目には二人が破局したように映っていた。
 今までの「趣味」としてのブラスターとは違い、ヘルミナは自分を守るための「武器」としてブラスターを求めるようになった。そしてブラスターを自身の力とするため、義手にブラスターを内蔵するという奇行に出た。
 周囲の人々はジョッシュと破局したことが原因で彼女が精神的に異常を来したのではないかと心配したが、そんな視線をよそにヘルミナは義手を改造し続ける。彼女は他人に頼らず、自らの力と共に生きる道を選んだのだった。
 そして十年ほどの歳月が過ぎ、二人はそれぞれギルドの仕事に従事する中で少しずつ自分自身を見つめ直す機会を得た。
 ジョッシュは無力感と罪悪感を糧に、他人のために行動することの本当の意味を考え始めた。
 過去の失敗を繰り返さないために保安部員として真剣に訓練に励み、誰かを守るための覚悟と責任感を育てるべく努力を重ねたのだ。かつての軽薄さは次第に消え、ジョッシュは無理をせず冷静に判断できる一人前の男へと成長していった。
 そしてジョッシュは、居留地を襲う原生生物との戦いの中で幾度も住民を救うことに成功した。やがて彼は周囲から頼りがいのある男として認められ、小隊を、そしてやがては中隊を任される立場となっていった。
 ヘルミナもまたガンスミスとして仕事をこなすうちに、自分の力だけでなく仲間と協力することを学び、次第に「誰かのために力を使う」という考えが芽生えるようになっていた。
 相変わらずトリガーハッピーな性格で義手の改造にも精を出してはいたが、戦う意味や力の使い方について少しずつ考えを改めるようになっていった。
 ともに三十路に手が届くようになったころ、長い年月をかけて責任ある大人として成長した二人は互いの変化を遠くから見守りつつ、以前とは違う新しい関係が築けるのではないかと考えるようになっていた。
 自立し成長した二人はもはや軽い恋人同士ではなく、責任を持って共に歩む「パートナー」として少しずつ関係を取り戻していった。
 変わり者のヘルミナはともかく、保安部で頭角を現していたジョッシュに憧れる女性たちは彼がヘルミナとよりを戻したことに驚き、嫉妬した。しかしジョッシュもヘルミナもそんな周囲の視線を気にせず、互いの絆を深めていった。
 ジョッシュは今度こそ彼女を支えられる自分になれたと感じており、ヘルミナもまた、ただ自分の力を求めるだけでなく、互いに頼り、守り合う存在でありたいと考えるようになっていた。
 こうして二人は十数年前の苦い経験を乗り越え、ようやく心から信じ合える関係に辿り着いたことで、結婚を決意するに至ったのだった。
 居留地の人々が見守る中、ジョッシュとヘルミナは式場の中心に並び立つ。互いに手を握り穏やかな笑みを浮かべる二人の視線は過去を乗り越えた自信に満ち、まっすぐに交わっている。
 開拓団長のハロルドが厳かに誓いの言葉を促すと、ジョッシュが一歩前に出て、誓いの第一声を口にした。
「私達は、黒水晶と共にあるギルドの仲間として、この地に生きる皆のために力を尽くします」
 ジョッシュの力強い声が式場に響き渡る。彼の眼差しは未来を見据え琉かのように真っ直ぐで、その表情には今までの成長と覚悟が表れていた。次にヘルミナがジョッシュを見つめ、しっかりとした声で誓いの言葉を続ける。
「どんな荒波が押し寄せても互いに支え合い、共に歩むことでこの星に希望を刻みます」
 二人の言葉には過酷な星でともに生き抜く覚悟が込められ、二人は互いの手をさらに強く握り締めた。そして、二人は声を合わせて結びの言葉を誓う。
「あなたと共に、揺るぎない絆を築くことを誓います」
 二人は見つめ合い穏やかな笑みを交わし、ジョッシュはゆっくりとヘルミナに顔を近づける。二人の誓いを祝福するかのように式場の全員は静まり返り、ただ二人を見守っていた。
 だか、その時──
 結婚式場に不意に警報音が鳴り響いた。鋭く耳をつんざくような音が式場の穏やかな空気を一瞬でかき消す。静かだった場がざわめきに包まれ、参列者たちは何が起こったのかと周囲を見渡し始めた。
『|暴走《スタンピード》発生! 居留地の南方から原生生物が多数接近中!』
 スピーカー越しの声が式場に響く。ジョッシュはそれが自分の部下である若手隊員の緊張した声だとすぐに気がついた。式への参加を賭けたくじ引きに負け、本部で待機しているはずの若い隊員が、遠隔で警報を発令しているのだ。
 場にいた子どもたちは怯えて母親にしがみつき、参列者のざわめきが一層大きくなる。ジョッシュの周りに集まっていた保安部員たちは即座に気を引き締め、緊急事態に備えるように動き出していたが……彼らも式に出席しているため武器を携行していなかった。居留地に居残っている一小隊を除いて大半の保安部員がこの場にいたが、当然のことながら武装などなく、完全に無防備な状態だ。
「……このタイミングで!」
 ジョッシュは歯を食いしばり、目の前の状況を把握する。迎撃のためには居留地から武装を届けてもらう必要があるが、スタンピードの速度を考えると到底間に合うとも思えない。
 式場に残っている逃げ場のない足の遅い子どもや老人の姿が目に入るが、彼らを居留地まで避難させるだけの時間は無いだろう。彼らを無事に守るためにはここで立ち向かうしかない。危機的な状況の中、ジョッシュは気持ちを切り替え、指示を飛ばし始めた。
「ヘルミナ、子供達を一所に集めるよう、誘導を頼めるか?」
「もちろん。内助の功ってヤツでしょ?任せて!」
 そう軽く答えると言うとヘルミナはウェディングベールを投げ捨て、朱い髪をなびかせて子供達の元へと走っていった。ジョッシュは次いで近くにいた部下である若手の保安部員に鋭く声をかけた。
「お前、居留地に走れ!急いで武器を運んでくるんだ。行け!」
 若手隊員は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにジョッシュに敬礼し、全速力で居留地へと向かって走り出した。戦闘が始まった後でも、ジョッシュ達が持ちこたえていればきっとブラスターは役に立つと信じて。
 次にジョッシュは周囲にいた他の隊員たちに冷静に指示を出す。
「子供と老人をテーブルの後ろに!机や椅子を防壁代わりに使え!」
 複数の保安部員がすぐに反応し、開拓団長率いる管理スタッフや居合わせた住民たちと手分けして会場のテーブルや椅子を横倒しにし、即席のバリケードを組み立て始める。用意された料理の事は残念だが、命には代えられない。参列者たちもジョッシュの指示に従い、戦闘力のない者は子どもや老人をバリケードの後方に誘導し、C3鉱山で働く男達は保安部員の築いた防衛線に加わった。
「お前たちは手近なものを武器にして準備にかかれ!柱、椅子、何でもいい、すぐ使えるものを持て!だがなるべく距離を取れるものにしろよ!」
 指示を受けた隊員たちは、近くのキャンドルスタンドやウェディングアーチの支柱を引き抜き、即席の武器を手にする。手に入るものは限られていたが、それでも自分たちができる範囲で戦える武器を手に取り式場の入り口付近に防衛ラインを作り始めた。
「奴らが来るぞ……!」
 荒々しい足音と共に、原生生物の群れが視界に入ってきた。まだ姿ははっきりとは見えないが、衝撃音と振動は次第に強まり、広範囲に土埃が立ち上っている。ジョッシュは即席の武器を構えた隊員たちに冷静な声で告げた。
「焦るな、ここで奴らを抑える。各自、持ち場を守れ!絶対にバリケードを突破させるな!だが、自分の命は粗末にするなよ!」
 指示を受け即席の武器をしっかりと握り締める保安部員達。足音が近づき、ついに原生生物の群れが式場の外縁に到達した。前方に並ぶ防衛ラインの緊張は極限に達し――。
 そして、ついにスタンピードが会場に突入した。
 最前列の保安部員や力自慢の鉱夫たちは手に持つ椅子やキャンドルスタンドを振りかざし、迫り来る原生生物をなんとか押しとどめようと奮闘する。しかし応急的な武器では攻撃力が足りず、次々と生物の反撃を受けて後退を余儀なくされる。
 幾度も押し寄せる原生生物の群に、負傷した隊員たちの顔に疲労の色が浮かび始める。
「このままでは……!」
 ジョッシュは歯がみし、周囲の状況を再び確認するが、応急の武器で彼らを押し返すには限界が見え始めていた。だがそれでも彼は部下たちに声を張り上げる。
「踏ん張れ!絶対に後ろに押し戻されるな!持ち堪えれば、武器が届く!」
 しかし、次々と押し寄せる原生生物に、バリケードが揺れ始める。居留地からの武器が到着するまで耐えきれるかどうか……ジョッシュは険しい表情を浮かべながら即席の武器を振るう。参列者たちはバリケードの内側で恐怖に怯えつつも、彼らの防衛ラインが突破されないことを祈るように息を詰めていた。
 戦場に響く足音と咆哮、悲鳴と衝撃音の中、ジョッシュは必死で防衛ラインを保ち少しでも居留地の仲間たちを守るべく、限界まで踏ん張っていた。絶え間なく押し寄せる原生生物に押されながら。
──そして、その時。
 不意に、彼の隣に誰かが並び立った。風にたなびく鮮やかな赤い髪と、純白のウェディングドレス。荒れ狂う戦場の中に現れた、場違いな花嫁。
 彼女は手早くドレスの裾を大胆にたくし上げると、太ももに固定されたサイホルスターからブラスターを引き抜き、茶目っ気たっぷりに微笑みながらジョッシュにそれを投げ渡した。
「そう言えばまだだったよね、結納返し。それで勘弁しておいてくれる?」
 彼女の言葉に、ジョッシュは思わず吹き出しそうになる。ジョッシュは冗談めかして返した。
「おうっ、これで十分だ!ありがたく受け取らせて頂くよ、物騒な花嫁さん!」
 ジョッシュは手の中にすっぽりと収まった小振りなブラスターに目をやる。少しくたびれ、傷ついたそのブラスターの懐かしい感触に一瞬驚いた表情を浮かべ、呟く。
「……この銃、まさか?」
「ええ、あなたのXth。リストアするのに手間がかかったんだから、ちゃんと使いなさいよ?」
 ヘルミナがよこしたブラスターは彼のかつての愛銃、スクールで配布されたXthキャリバーだった。|機械の獣《メタルビースト》と戦った際の、未熟だった頃の彼の愛銃。保安部での勤務ではサブウェポンとして使っていたものだったが、小隊長就任時に新しく新型のブラスターを支給された後に無くしてしまってそのままになっていた代物。偶然それを手に入れたヘルミナは己の持てる限りの技術でリストアし、まるでこの瞬間を予知していたかのように式場へ持ち込んでいたのだ。
 ジョッシュはXthをを手に仲間たちを助けに駆け出そうとするが、ヘルミナは彼を引き止める。
「あら『どんな荒波が押し寄せても互いに支え合い、共に歩む』んじゃなかったっけ?」
 彼女はそう言うと左手の手袋を脱ぎ、銀色に輝く義手のブラスターを起動させた。義手に内蔵されたC3が彼女の決意を示すかのように碧く輝き始める。
「そうだな、お前と『共に、揺るぎない絆』ってやつを、築きに行こうか!」
 二人は互いに一瞬だけ目を合わせ、そして手を取り合って前線へと駆け出した。保安部員たちが追い詰められ、敵に囲まれた防衛ラインに突撃するように飛び込んでいく。
 戦場の中心でヘルミナは銀の義手に内蔵されたブラスターで連射を加え、原生生物たちを制圧する。かつて|鋼の獣《メタルビースト》と戦った際の愛銃よりも格段に強化され、「彼女の力」そのものとなったブラスターは、素早く正確に敵の群れを撃破してゆく。
 ヘルミナの猛攻に怯んだ原生生物の隙を見逃さず、ジョッシュもまたかつての愛銃であるXthを駆使して大物の個体を確実に一体ずつ仕留めていった。ジョッシュの撃つ一発一発は正確無比で、朱の光弾が原生生物を打ち倒す度に、場の空気が変わっていくのがわかる。
 ヘルミナは一瞬で間合いを詰め、周囲の敵に連射を浴びせる。その動きは流れるようで、接敵する度にきらめく碧の輝きが確実に敵を葬ってゆく。
 碧の光と白いドレスを煌めかせながら踊るように敵を圧倒する花嫁姿のヘルミナに、周囲の保安部員たちは息を呑んだ。
 ジョッシュもまた、ヘルミナの隙をカバーしながら大物の原生生物を狙い撃ち、次々と確実に仕留めていく。息の合ったコンビネーションで二人は背中合わせに立ち、まるで長年の戦友のように戦場を切り開いていった。
 そんな二人の前の大型の原生生物が立ちはだかる。オーガと呼ばれる、時折居留地を襲撃してくる凶暴な個体。たいていの場合、スタンピードの原因となっているボス格の原生生物だ。
「ヘルミナ、いけるな?」
「誰に言ってるの?ジョッシュこそビビらないでよ?」
「それこそ、誰に言ってるってやつだ!」
 大物相手でも二人の闘志は揺るがない。なぜなら二人は最高の相棒と共に戦っているのだから。ヘルミナの銃撃はオーガをひるませ、その隙にジョッシュはXthのチャージを始める。そして――
[MAXIMUM CHARGE]
 まるで子供の玩具の様な、安っぽい電子音がチャージの終了を告げる。ジョッシュはこの子供っぽい電子音が好きではなかったが、それでも今はそれがとても頼もしく聞こえた。
「式の邪魔をしてくれた礼は、たっぷりとさせて貰うぜ!」
 そう言ってジョッシュが放ったチャージショットは、狙い過たずオーガの頭部を打ち砕いた。
「中隊長、おまたせしました!」
 オーガの巨体がが崩れ落ちたその時、駐屯地に走らせた部下が留守番をしていた保安部員を引き連れて戻ってきた。
 両手にいっぱいの希望──ブラスターを構えて。
 そこから後の戦いについては記すまでも無いだろう。ブラスターを手にした百戦錬磨の保安部員達にとって、原生生物の群れなど単なる獲物にすぎなかったのだから。
 最後の原生生物が倒れ、戦場となった式場は静寂を取り戻した。ヘルミナは軽く息を吐くと静かにブラスターの起動を解除し、ジョッシュに微笑んだ。ジョッシュも彼女に微笑み返し、肩を並べながら義手にそっと手を添えた。
 それの仕草にヘルミナは少し眉をひそめて言った。
「……廃熱処理がまだイマイチなのよ。熱くない?」
「むしろ、熱々の愛の証ってとこだろ?」
「そういう軽口、昔みたいね。でも嫌いじゃないわよ、そういうあなたも」
「なんだ、惚れ直したのか?」
「何を今更」
 二人は顔を見合わせると楽しそうに笑い合った。戦いを終えた今、互いの手のぬくもりがこの上なく心強く感じられた。……ただし、ジョッシュにとっては「ぬくもり」を超えた少々熱々すぎる手のぬくもりではあったが。
 スタンピードは鎮圧されたが、式場は無残にも荒れ果ててしまった。幸いにも死人や重傷者こそでなかったものの、前線に立っていた保安部員や鉱夫の中には負傷者も決して少なくはない。
 状況を踏まえ、ハロルド開拓団長は後日改めて式をやり直すことをジョッシュとヘルミナに提案したが、二人はそれを断った。こんな「激しい」結婚式の後に普通の式を挙げてもきっと誰の――もちろん自分たちの――記憶にも残らないだろうから、と言って。
 居留地へ避難していた人々も再び式場へ戻り、皆で手早く片付けを済ませた後、二人はなんとか体面を整えた式場で改めて向かい合った。二人は戦闘の最中に結婚指輪を無くしてしまっていて、それは結局見つからなかったのだが……それでも、二人は少しも動じる様子を見せない。
 ヘルミナは微笑みながら自分の腕部ブラスターから空になったカートリッジ排出し、それをジョッシュに差し出した。それを見たジョッシュもまた、自分のブラスターから全弾撃ち尽くしたカートリッジ取り外すとヘルミナに手渡す。
「これ、私の腕には合わないよね」
「ああ、俺に銃にも合わないな」
 ヘルミナが小さく笑い、ジョッシュも同じように頷く。二人は指輪代わりに交換したそれぞれのカートリッジを手のひらに大事に包み込んだ。
 撃ち尽くし、空になったカートリッジは「共に戦い力を尽くした証」。チャージすれば再び使えるかもしれないが、互いのブラスターには互換性がないため、それを自分のために役立てることは出来ない。だからこそ二人は「自分には使えないものを互いに託し合う」ことで、互いに補完し合い、支え合う関係であることを誓ったのだ。
 ジョッシュはヘルミナの右手を握り、深い愛情と尊敬を込めて彼女に微笑む。
「これからも、隣に立つ君を守り続けるよ。そして……君が隣にいる限り、俺も強くなれる」
 ヘルミナもまた、誇らしげに義手を掲げて微笑む。
「互いに相手のために力を尽くし合える関係、それが私たちが望んだ姿よね」
 二人は目を合わせ、静かに銃と義手を打ち合わせた。静寂に包まれた会場に金属が触れ合う音がまるで鐘の音のように響きわたった。そして微笑み合った二人は、深い愛情を確かめ合うように静かに口づけを交わした。
 ――こうして二人は、仲間たちの温かい拍手と歓声に包まれ、新たな未来への一歩を踏み出した。
「ホルムス団長、よろしいですか?」
 執務の合間に過去の思い出に浸っていたジョッシは、部下の声に現実に引き戻された。前任者であるブースタリア団長からこの地位を引き継いで既に37年。すでに前団長は亡く、自身も老境と呼ばれる年代になって久しい。
 最近では壁に飾られたXthキャリバーとヘルミナの義手を眺めながら、物思いにふける時間も多くなってきた。そろそろ後継者を選ぶ時期だと思い始めていたが、心残りがあることもあってなかなか決心が付かないでいたが……いや、今は仕事の話だ。
「どうした」
「軌道ステーションから報告がありまして……。当惑星所属のシンガーが居留地への航宙船着陸許可を求めていると」
「着陸?ここにか?」
「はい、大気圏離着陸が可能な航宙船だそうですが……。いかが致しますか?」
 大気圏離着陸が可能な航宙船?科学考証も禄にされていない三流ホロムービーの物語ではあるまいし、そんな船があってたまるものか。
 だが、不思議とそんなありえない船に乗っている、少女の姿が脳裏に浮かんだ。
「そんな破天荒な事を言い出すうちのシンガーなど……一人しかおらんな。そうか、ようやく帰ってきたのだな」
「は……?」
「いや、なんでもない。着陸を許可すると伝えてくれ」
「はあ……。団長がそう言われるのなら……。上にはそう伝えておきます」
 遠い昔に自分達を救ってくれた二人の少女。星の彼方へ旅立った彼女が帰ってきたのだ。
 ヘルミナにも知らせてやらんとな……。
 3人の孫達を引き連れ、4代目となるブラスター内蔵義手の試射に出かけている妻のことを思いながら、再会への期待と一抹の哀惜を胸に、ジョッシュは席を立った。